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33. 呪いの真実に気づきましたの


「何よ! あんたみたいなお嬢様にキリアンみたいな男は似合わないわ! どうせキリアンの仕事のことも知らないんでしょ⁉︎ 教えて貰っていないってことはその程度の関係ってことじゃない!」


 確かにジュリエットはキリアンの仕事のことについては聞いていなかった。

 それでも、この集落に来てまだ二日なのだ。

 例え何か話してくれていないことがあろうとも、これから先の長い夫婦生活で話してくれればそれで良いのだとジュリエットは考えていた。


「その程度の関係なんていうことは重々理解しております。それでも、私がキリアン様の妻であることは変えようのない事実ですから。誰に何を言われようともそれは変わりませんわ。例えアリーナさんがキリアン様と深い関係があったとしても、妻は私一人なのですから。これから先の長い夫婦生活でキリアン様にゆっくりとお話をして頂くことにいたします」


 生まれ持った貴族としての矜持(きょうじ)か、はたまたジュリエット本来の性格もあったのだろうか。

 アリーナの言葉に対して、ジュリエットは決して負けまいと自分の気持ちをぶつけたのであった。


「はっ! やっぱりお嬢様は気取ってるわね! そんなんじゃすぐにキリアンに愛想をつかされちゃうわよ? お子様体型の可愛らしいお嬢ちゃん」


 こめかみに青筋を立てたアリーナはザバンと泉から出ると、口の端をいやらしく上げながら捨て台詞を吐いて去っていく。


 暫く呆然と月明かりに照らされた水面を見つめていた。

 確かに豊満な体型のアリーナは女性から見ても美しく、ジュリエットだって羨む気持ちが湧かないでもない。


「私だって……」


 そう呟いて自らの胸のあたりを見下ろすが、まだ十七歳のジュリエットはアリーナのように成熟した体型でないことは確かであった。

 そのままザブッと頭の先まで潜って、しばらく沈んだあとにザバァッと水面から飛び出した。


「キリアン様を愛する気持ちは誰にも負けませんもの! お胸の大きさが何ですか! 私には私の魅力がありますわ!」


 泉から上がったジュリエットの四肢に付いた水滴が、月の光と松明に照らされてキラキラと光る。


「……あら? これは……」


 ふと、普段は目につかないような右脇腹三センチほどの範囲に煌めくものを見つけた。

 硬くて光沢のある虹色の……


「鱗……?」


 虹色の鱗のようなものはしっかりと皮膚に密着していて、少し触った程度では剥がれそうにない。

 小さな鱗が(いびつ)な楕円形の範囲に広がっている。


――『お前のその腹の中の子が十八になるまでに真実の愛を見つけ婚姻を結ぶ事ができなければ、その子は人魚病となりやがてその苦痛から息絶えるだろう』


 あの切ない人魚の話を思い出す。

 思えば、いつ人魚病になるのかははっきりと示されていなかった。

 ただ、分かっているのは『十八になるまでに……できなければ』ということだけで。

 別にそれより以前から身体の変化が起こらないとは言われていなかったのだ。 


 それに『真実の愛を見つけ』は、きっと一方的な愛では駄目だったのだろう。

 ただ契約のように婚姻結ぶだけではなく、同じようにキリアンからも愛を返されないといけないのだ。


 邸でいた頃にはこのような鱗はなかったように思う。

 果たしていつ変化したのかは分からなかった。


 呪いの真実に気づいたのは……今はジュリエットだけ。


「間に合うかしら……。あと十ヶ月……」


 月明かりに照らされて美しく虹色に光る脇腹の鱗は、悲恋を嘆いた人魚の呪い。

 あと十ヵ月でキリアンに愛を返されなければならない。

 それまでにどんどん身体は人魚病の呪いに蝕まれていくのだ。

 そして十ヵ月後に間に合わなければいずれはその苦痛によってジュリエットは死に至る。


「やれるだけのことをするしかありませんわね。例えそれで駄目だったとしても、私はいっときでも最愛の人の妻であることが出来たのですから幸せ者ですわ」


 アメジストのような瞳の端に知らず涙が滲んだ。

 ゴシゴシと手の甲で拭ってからジュリエットは今日の水浴びを終えた。





 






 

 


 




 


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