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30. 私は決して愛される努力を怠りません


 そして集落の一番奥の家の前まで来たところで、はたと気づいた様子のジュリエットがパチンと両手を合わせてからキリアンに問う。


「そういえばジャンはどうなさったの?」

「ああ、あいつは今日仕事で遅くなる。それに俺とジャンだってずっと一緒にいる訳じゃないぞ」

「まあ、そうですのね。初めからジャンはずっと一緒でしたから、いないとおかしな感じですわ」


 話しつつ扉前の木でできたアプローチ階段を登りながらジュリエットは考え込む様子であった。

 先を行くキリアンが家の扉を開けて待ち、ジュリエットも中に入れると厚みのあるしっかりとした扉はバタンと閉められた。


「ジャンは人懐っこい奴だからな。人と話すのも上手いし。他人を警戒させないところがあるからあんたも話しやすかっただろ。俺はあんな風にはとても話せねぇな」


 珍しく何故か少しいじけた様子に見えたキリアンに、ジュリエットはまた胸に手をやり何かに堪える様子を見せる。


「恐ろしく目の毒ですわ。はあー……胸が苦しい」

「何だよ、目の毒って」

「キリアン様は私にとって眼福(がんぷく)の極みなのです。極めて素敵な容姿、弱きを守る優しさ、そして時折見せる差異(ギャップ)が堪りませんのよ」


 胸の前で両手を組んで、紫水晶のような瞳をキラキラと煌めかせながらジュリエットはキリアンを熱っぽく見つめた。


「あんたも飽きねぇな。自分で言うのは憚られるが、そんなに俺のことが好きなのか?」

「至極当然でございます! 私がキリアン様といささか強引な婚姻を結んだのも、妻の座に収まることでより意識していただいていつかは私のことを愛していただこうという(よこしま)魂胆(こんたん)からですもの! 呪いを解くことは私にとっては副産物(ふくさんぶつ)のようなものですわ!」


 ここは譲れないとばかりに大きな声で主張するジュリエットに、始めは笑いながら冗談混じりで聞いたつもりのキリアンだったが、徐々にジュリエットからの圧でたじろいで距離を置き壁側へと後退する。

 そんなキリアンの方へとまた一歩近づいたジュリエットは、その黒曜石のような瞳にじっと視線を合わせて言葉を紡ぐ。


「キリアン様、どうしたら私のことを好きになっていただけるのですか?」


 その真っ直ぐな視線が堪えられないように、キリアンはスッと視線を逸らして床へと向けた。

 そしてボソボソと呟くようにジュリエットへと答える。


「今まで女を抱いても恋愛感情を持ったことはないからな。あんたのことも婚姻を結んだからといって好きになるとは限らねぇぞ」

「それでも! 私は頑張りますから、努力することはさせてくださいませね!」


 ハアーッと大きく息を吐くキリアンは、眉を下げて困ったような表情を見せた。


「あんたには何を言ってもやりたけりゃやるんだろ? それなら勝手にすればいいさ。どうせ人の都合なんでお構いなしに突っ走るのがあんたなんだからな」

「はいっ! その通りでしたわね。ふふっ……では少し早めですが着替えてから夕食を作りますわね」


 可笑しそうにそう言ってジュリエットは自室へと着替えに向かった。

 キリアンはそんなジュリエットの背中を見つめながら、どうしてかつられるようにフッと笑いが零れるのであった。


「よくもまああんなに一生懸命になれるもんだな」


 呆れたようにそう呟いてから、食材を保管している納屋へ向かったキリアンは今晩の食卓に上がる塩漬けの肉や野菜を選んだ。

 

 

 




 




 






 




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