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19. ぶっきらぼうですけれど、実はお優しいのです


「それにしても、やっぱお嬢の出身を隠すのは無理があったかー」

「私が、はじめからきちんとお話するべきでしたわ。生まれは決して変えることができないことですもの。それでも、これからの生き方はいくらでも変えることができますものね」


 キリアンの家に向かう道中で、横を歩くジャンの言葉にジュリエットはスッキリとした表情で答えた。


 二人の前を歩くキリアンはそんな二人の会話に何も言わない。


「ジュリエット・ド・メノーシェはもういませんから、ただのジュリエットとしてこの集落に馴染める様に頑張りますわね。キリアン様」


 ジュリエットが先を行くキリアンに話しかければ、キリアンはチラリと後ろを振り向いて答えた。


「そこまであんたが頑張る意欲があるのは本当に尊敬するよ。俺にそんな価値があるとは思えねえけどな。だがそう言ったところで、結局運命だとか理想だとか言うんだろ? あんたの場合は」

「その通りですわ。まだキリアン様に聞きたいこともたくさんありますの。お家に帰ったら教えてくださいませね」


 その言葉を聞いてキリアンは前を向き、フッと息を吐いて笑ったようだった。

 後ろの二人にその表情は見えなかったが、ジュリエットに合わせたゆったりとした歩調からキリアンの心の変化が読み取れた。




 キリアンの家に到着すると、リビングとダイニングが兼用となった一室で早速ジュリエットは疑問をぶつけた。


「キリアン様、『とうりょう』とは何ですの?」

「頭領ってぇのは、この集落のまとめ役みたいなもんだ」

「キリアン様がその頭領なのですわね」

「そうだな」


 成る程と納得した様子のジュリエットだったが、続けて疑問をぶつける。


「私はこれからどのようにここで過ごして行けばよろしいのでしょうか? 頭領の妻として、しなければならないことなどあるのでしょうか?」

「頭領の妻として求められるのは、とにかくこの集落の人間と上手くやることだな。ここは皆で助け合って生きてる集落だ。皆で協力して仕事をする。困っている家があれば、その時余裕のある奴らが助けると決まってんだ」

「まあ、とても素敵なお考えですこと。それに、頭領の妻というのは領主の妻の役割と似ているところがありますのね」

「そうなのか? まあその辺はあんたのいいように捉えてくれればいいがな」


 キリアンとジャンはまだジュリエットにこの集落や、自分たちの全てを話す気はなかった。


「この集落は俺の爺さんが若い頃に仕事の仲間同士が集まって住み始めたのが始まりらしい。その時は爺さんが頭領だった。それから親父、俺と頭領の役目を受け継いでるだけだ」

「そうでしたのね。代々お役目を受け継ぐなんて大変なことですわ。私も早く馴染めるようにいたしますから、ご心配なさらずに」


 真剣な眼差しをキリアンとジャンに向けながら決意を新たにする様子のジュリエットに、なんとも言えない表情で目を合わせる男たちであった。


 この集落の人々は表向きは林業をメインに他にも木材加工や手工業を生業(なりわい)にしている。

 しかしそれだけでは収入などたかが知れている。

 この森奥深くの集落では設備や運搬に課題があり、不便さは否めない為どうしても副業が必要であった。


 しかし、訳ありで隠れ住むように生きる彼等にとっては街に出て真っ当な仕事を探すということは困難なことであった。


 その為、キリアンの祖父やその仲間たちの稼業が集落には欠かせないものだった。

 それが『盗賊(シーフ)』である。

 

 この集落の男たちのほとんどのものが表向きは林業に携わり、裏稼業は盗賊という顔を持っていた。


「お嬢なら大丈夫そうだよね。すぐ皆と打ち解けられるよ」

「そうかしら? そうであれば嬉しいですわ」


 ジャンの言葉にふわりと表情を綻ばせたジュリエットに、キリアンもチラリと目を向けている。


「そうだ! 今日は僕も早く帰らないとね! 何てったって初夜なんだから!」

「おい! ジャン!」

「じゃあ、また明日! お嬢、頑張れ!」


 そう言って親指を立ててグッと前に突き出したジャンは、キリアンの制止も聞かずにさっさと自分の家へと帰って行った。


 ジャンが出て行ってからパタンと閉まった扉を暫く二人で見つめていたが、キリアンの方が咳払いをしてから言葉を切り出した。


「あんた、今日たくさん歩いたから足が痛ぇんじゃないのか? 見せてみろよ」

「いいえ、この程度、大丈夫ですわ」


 ジュリエットは確かに足にかなりの疲労を感じていたが、ここで疲れただの痛いだの言ってキリアンに呆れられるのが怖かったのだ。

 これから庶民として頑張ると決めたのだから。


「いいから、見せてみろって」

「大丈夫です……」


 そう言ってソファーから立ち上がり、椅子に腰掛けるジュリエットの足元にしゃがみ込んだキリアンが、ジュリエットの靴と靴下を脱がせてから目を(みは)った。


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