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裏後編

 精霊の試練。それは、名目上は『試練』とされているものの、その実態は、不誠実な王族を裁くための『呪い』であるとされている。

 試練の内容や達成方法は、その王族ごとに異なるものの、ただ一つ、確かなことは、一年以内に試練を達成できなかった王族は、悲惨な末路を辿るということ。



「せ、精霊!? い、いや、そうだとしても、なぜだっ! ティファニアがリィンを虐げたのだから、試練はティファニアに行くべきだろう!!」


『……真実も分からぬ小僧が、何を喚いても意味なぞない。さぁ、試練を与えようではないか。とてもとても、楽しい試練を、な』



 実を言うと、会場の貴族達が聞けたのはここまでだった。その先を聞けたのは、ライグ、ティファニア、リィン、ユミル、そして、すでに会場前に到着し、入場直前であった国王夫妻と王太子のみ。



『まずは、この先の内容を他に話すことは禁じる』



 その瞬間、彼らは全員、この先の話を他の貴族に話せなくなった。だから、貴族達は、ライグに課せられる試練を知ることができない。



『ライグと言ったのぉ。お前には、再び婚約者を宛てがおうではないか。お前に最も想いを寄せているこのご令嬢。ユミル・マーシャルを婚約者に。そして、試練の内容は、一年以内にユミルとの婚約を破棄しなければ、ユミルの奴隷となることにしてみようかのぉ。ふむ、ユミルの命令を聞くことしかできぬ人形、と言った方が良いか?』



 その内容に、その場に居た誰もが絶句する。しかし、話を円滑に進めるためか、誰もがその場で口を開くことはできない。



『ライグは、ユミルを害することを禁じる。そして、婚約破棄を宣言し、失敗した場合は、その数に応じてユミルの命令を聞かなければならない。また、ユミルが命じた内容を話すことは禁じる』



 つまりは、ユミルを害することなく、婚約破棄をする。それが、ライグの試練の達成条件のようだ。

 そんな、試練かどうかよく分からないものを呟く精霊は、そのまま国王夫妻へも説明を行う。



『国王や王妃、王太子は、このライグの身分をそのままにしなければならない。また、一年の時が経って、婚約破棄に至っていた場合、ライグの処罰を行うことは構わないが、婚約破棄に至らなかった場合はユミルの所有物としてライグに対して不干渉を貫かなければならない』



 国王達にとっては、何が起こっているのか全く分からないであろう事態だったが、それでも精霊の言葉は止まらない。



『ユミルは、ライグから不利益を受けそうになった場合、新たにライグへの命令権を得られるとしようかのぉ。あぁ、命令は、死ななければ何でもして良いぞ』



 その時になって、ライグは自分の命運が、今まで公爵令嬢の一人、くらいにしか認識していなかったユミルに握られたと気づき、青ざめる。



『そして、リィンは、一年後の今日以外、ライグが近づけなくなるように、危害を加えられないようにしてやろう。あぁ、ティファニアも同様にな』



 そんな言葉に安堵するのはリィンもティファニアも同じ。しかし、誰もが目を閉じているため、その表情が誰かにバレることはない。



『さて、最後に、婚約破棄の条件は、ユミルが受け入れるか、ユミルの好感度を完全に落とし切るかでしか達成できぬということにしよう。では、せいぜい、自分を貶めて、懸命に嫌われるようにするのじゃな』



 ユミルに危害を加えられないということは、ライグが自分を貶めて、嫌われるようにしなければならない。そして、自分の価値が落ちるというのは、社交界で致命的なことでもある。その本質に、ライグが気づいたのかどうかは定かではないが、人形にされたくないのならば、婚約破棄に踏み切らなければならない。そして、失敗すれば、その度ごとに命令に従わなければならない。しかも、それは絶対に外部に漏れることがないのだ。

 ライグは、一年という時をかけて、その試練の恐ろしさを……いや、ユミルという女の恐ろしさを知ることとなる。



『さぁ、それでは元に戻してやろうぞ。他の貴族どもには、何も分からぬからのぉ』



 クククッと笑う精霊の声は、ライグにとっては悪魔のようだっただろう。しかし、どんなに後悔しても、時が戻ることはない。ライグは一年という時の中で、心を折られ続け、最終的に人形として、生き続けることになるのだった。

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