前編
短いお話、たまーに書きたくなるんですよね……。
と、いうわけで、一応予定としては全六話!
それでは、どうぞ!
「ユミル・マーシャル! お前の悪行にはほとほと愛想が尽きた! ゆえに、お前との婚約を破棄するっ!!」
そう、告げた第二王子へと、ユミルは返す。
「はい? 婚約破棄ですか? 無理ですわね」
それはそれは、美しい笑顔で。
ここは、貴族が集う貴族のための学園。そして、その卒業式として開かれた盛大なパーティの中で、この宣言は行われていた。
金髪にピンクの瞳を持つトトッコ王国の第二王子、ライグ・ド・トトッコ。幼い頃、その瞳の色のせいで可愛いと言われることが多かった彼は、必死に男らしくあろうと自分の外見を気にかけてきた。結果、学園の卒業式という現在は中性的な見た目の男性、くらいに見れるようになっている。
対するユミル・マーシャルは、銀髪に青い瞳のスタイル抜群の美女だ。顔立ちはもちろん女神かと思えるほどに整っており、ともすればその冷たい美貌のままに罵ってほしいとか、踏みつけてほしいという変・態も現れるほどだと言われているが……一応、ユミルの前にそんなモノが湧いたという正式な記録はない。そう、『一応』は。家格も公爵家の長女であり、何もかも、王族の婚約者として上等な条件を整えているユミル。そんなユミルは、プルプルと震えながらも必死に声を上げ、ユミルへ指を指すライグへと笑顔を向けている。
はっきり言って、カオス空間だ。ただ、それに対する周囲の視線はというと……。
「殿下、またやってるよ」
「懲りないな……」
「ユミル様もお可哀想に……」
「いえ、むしろここまで来たら応援すべきでは……?」
いきなりの宣言で、多少驚いた様子を見せた貴族達も居たが、それでもその正体が第二王子だと知るや否や、一様に『またか』といった表情を浮かべる。
そう、ライグがユミルへ婚約破棄を宣言するのは今に始まったことではない。と、いうより、もはや学園で顔を合わせる度に色々と文言を変えて宣言していた。
「ぐっ、と、とにかく、早く婚約破棄しろ! 証拠は揃っているんだ!!」
「さようでございますか。では、どうぞ、その証拠の提示をお願いいたしますわ」
もはや見世物扱いとなっているにもかかわらず、ライグは止まらない。
「まずは証言だ! おい、早く連れてこい!」
「はぁ、承知しました」
ライグが指示を出したのは、哀れにもこのライグの側近候補としてかつて仕えていた少年、デリク・リーフェルだ。ライグは身分が第二王子であるゆえに、ただの伯爵子息であるデリクには反抗することなどできない。例え、すでにデリク自身はライグの側近候補ではなくなっていたのだとしても、だ。
ため息を吐きながらも了承したデリクは、ほどなくして、執事服を身に纏った男を連れてくる。彼は、マーシャル家の執事であり、ライグの側に連れて来られると、とても申し訳なさそうにユミルへ視線を向ける。
「おい、お前っ、前に話していたことをこの場で伝えろ!」
「……承知しました。では、話させていただきます。『ユミルお嬢様は父上であらせられるロイド様ととても親しいのです』。これで宜しかったでしょうか?」
「そうだ。おいっ! 聞いただろう! お前は、俺という婚約者がありながら、実の親と不貞を働くふしだらな女だったんだ! だから、俺はお前と婚約破棄するぅっ!!」
その宣言に誰もが呆れたのは言うまでもない。なんせ、どこからどう聞いても、執事の言葉に問題があるとは思えないのだから。
王族というだけあって、顔は極上だが、その頭の中身はアホとしか言いようがない。この瞬間、ユミルが貴族達に憐れみの視線を受けたのは仕方のないことだろう。
「あら、お父様と親子仲が良いというだけの発言のはずですが……ライグ様はそのように仰るのですね?」
「当然だ! さぁ、早く婚約破棄に同意しろ!」
「嫌です」
間髪を入れずに返すユミルへ、ライグはグッと唸る。
「もう、あの日から一年となりますし、殿下も諦めてはいかがでしょうか?」
しかし、ライグはそんなユミルの言葉にブンブンと首を横に振った。