第7話 痴漢とピザ
今日も昼休みはパミュと一緒にランチを食べる。
久々《ひさびさ》の小春日和なので、校庭にあるベンチに座って食べる。
わたしはいつものように、母親から作ってもらった手持ち弁当を広げる。
パミュは学食で、いつものピザを買って来た。
「わたし、ショック」
わたしが話し始める。
「どげんしたと、琴音?」
パミュはさりげなく聞いた。
パミュは琴音のことを、「ウサギ」と呼ぶのをやめた。
何故かと言うと、「琴音」の方が京都っぽくていいと思ったからだ。
一般にロリータは何故か京都が大好きだ。パミュもその一人だった。
「あんね、今朝痴漢にあった!」
「えっ、どこで?」
「博多駅で列車から降りようとした時、誰かから尻を鷲掴みされた」
「鷲掴み?」
パミュは片手で鷲の足の形をして見せる。
「そおっ」
「片手やった? それとも両手?」
パミュは両手を鷲の足にして見せた。
「両手で、鷲掴みされるわけないやろ、か・た・て! もうパミュ、からかわんで!」
「出る瞬間で、みんなから押されとったけ、誰が痴漢やったかもわからんかった!」
「その手口、常習犯やね! ちゃーんと、そのタイミング狙っとったんやね」
「その点、ロリータはお尻を触られることはなかばい。
私たちスカートの下はパニエでパンパンやけん、手もお尻に届かんもんね。
でも狙われるとは、このオッパイ」
パミュは大きなバストを突き出した。
「お尻には自信なかけど、オッパイなら琴音に負けんよ!」
「ばってん狙われるのは、ほとんど中年のおっさんやけどね」
「やっぱり、サラリーマンのおっさんかなあ?」
「その可能性大やね。
ばってん逆に考えたら、鷲掴みしたくなるほど、琴音のお尻が可愛く見えたってこと。
そう思わん?」
「そういう解釈もありか?」
「うちが見ても、琴音のお尻は桃のごつしとるけん、触りたくなるもん。
ねえ、ちょっと触らせてー」
わたしのお尻に手を伸ばす。
「やめて、パミュ、やめて……」
パミュの手から逃れようとして、ベンチから落ちた。
「ドスン」
「痛〜っ!」
「もうちょっとで、お弁当落とすとこやったやん」
わたしは弁当を片手に立ち上がる。
「そげんかこつ気にせんで食〜べよっ!」
パミュは一口ピザを口に入れた後、何度か噛んで一気に飲み込んだ。
「パミュ、今、何度噛んだ?」
「えっ、なん?」
「あんた、飲み込む前に、何度ピザを噛んだ?」
「そげんかと数えたことなか」
「もう一度、一口食べてみて」
パミュはもう一口ピザを頬張って食べ始めると、わたしはパミュが噛む回数を数え始めた。
「一、二、三、四、五、六、七、八」
パミュはピザを飲み込んだ。
「パミュ、あんた八回しか噛んどらんよ!」
「それ、なんか問題あると?」
「若返り効果を期待すれば、最低三十回噛まんとダメ。
免疫力アップなら、五十回から七十回噛まんとね!
ニキビや肌荒れにも効果万全らしいよ」
「わたし、ニキビ多いの三十回噛んどらんけん?」
「琴音、わたし、もう一度数えてみる」
パミュはピザをもう一度口に頬張った。
「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一、十二、十三、十四、十五、ゴックン」
「わたし十五回しか噛めんかった。どげんしよう?」
「一口に五十回から七十回噛むと、ダイエットにも良いっちよ。
七十パーセントの顔の筋肉は口まわりにあるけん、
顔を引き締めるけ、小顔効果にもなるち言っとったよ」
「誰が言っとったと?」
「うちのかあちゃん」
「琴音のかあちゃん、小顔?」
「そう、あの年にしては若々しいし」
「うち、太っとるし、顔も大きかもんね!
小さい頃から早食いやったけんかも。琴音、どげんしたら良か?
うち、七十回も噛めん〜!」
パミュは今にも泣きそうな気配だ。
これが毎日交わされる、ティーンエイジャーの重大な話題の一つだった。