文学少女は恋を語る
公式ラジオ企画の応募作品です
放課後の静かな空き教室、僕は本を読みふけっていた。
開かれた窓から風が入ると頬を優しく撫で、外では運動部の掛け声。そして本をめくる音が耳に入る。
視線をそちらに向けると、同じく本を読みふけっている女子生徒がいた。
学年が一つ上の先輩。風で黒髪がふわりとなびき、彼女は指でかきあげる。
彼女との出会いは唐突だった。
本を読もうと空き教室を見つけ、そこで読んでいたら、彼女も入ってきて本を読み始めたのだ。そして僕達は自然と放課後にこの空き教室に集まり本を読む事にしていた。
ただ読むのもあれだしって事で、たまに題材として今読んでいる本を取り上げて話し合う事もある。
「好きってなんだろ」
何の前触れもなく彼女は突如そう言った。
僕は思わず「えっ」と聞き返す。
「今読んでる本は主人公がとある男子生徒に一目惚れをして恋をする物語なんだけど、女はアピールしてるのに男は気づかないの」
「あー、よくあるパターンですね。物語の都合上、主人公が難聴になったりタイミング悪くしたりとか」
僕はまた題材の事だろうと思った。
「だけど、最後にはヒロインが告白してOKを貰うハッピーエンドになるまでの過程の一つですから」
「そうそれ」
彼女は僕に指をさす。
「読者から見たら明らか告白してるのも当然ってのに、早く気づいてって思うんだ」
「それは多分心理的なものなんでしょうね」
「心理的?」
「すきって言葉は好き以外にも隙ってのもありますし、隙を突くみたいな言葉もありますよね」
「あるね」
「相手の隙をうかがい、タイミングを見計らう。つまりは相手に気づかせる方法を色々と出す事で読者の目を釘付けにするって事だと思いますよ」
「そうなんだ」と言い、彼女は本を閉じた。
「もしきみがその立場になったらどうする?」
「僕ですか? そうですね、言葉だと伝わらなかった時点であれなので、古典的ですが文字にして直接渡したりとか」
僕は照れならがも頬をかいた。
彼女はそっぽを向き「ふーん」と興味なさそう言う。
「きみは書き物が好きなのかな?」
書き物と言えば小説と想像した僕は「好きですね」と答えた。
聞いた途端、彼女は振り向き嬉し気に微笑んだ。
「途中まで書いて悩んでたんだけど。きみの言葉で最後まで書こうと決心したよ。明日、読んでみて感想を聞かせほしい」
「わかりました」
次の日の放課後、僕はいつもの空き教室の前にいた。
どんなものを読ませてくれるのだろうかという楽しみにしながら扉を開けた。
青春の一ページって感じで書かせていただきました。