フライドポテト
ストローをくわえているその口を見たいが、見ちゃいけない
ポテトを掴む指を見たいが、見ちゃいけない
五月二十九日
皆が外に出始めてたまってしまった鬱憤を晴らしている中、いつまでもうっぷんしてい女がここに一人
「何」
「いえ、なんでもありません」
しくったー!せっかく青井さんのお言葉を頂戴したのにまるで小鹿のようにすくみっぱなしの小心男がここに一人
目的は違うものの二人は同じくして出来たばかりの観察部に入り、ようやく宣言が解除されて今日が初めての部活動なのです。
そう、なのにこの空気
観察部っていうのは、俺はてっきりは星を観察するのかなーって思ってたけどふたを開けてみたばびっくりお茶をしながら永遠に通行人を見るだけ
かれこれ10分。頼んだハンバーガーも時間つぶしのためにちまちま食べていたがそろそろ食べ終わってしまいそうなところ
流石にトマトを皮と種とで分解して食べるのは諦めるが、ピクルスを四口くらいで食べるのはまぁいいでしょう
「川瀬部長遅いね」
「ンッ、そうだね」
あーまさか又話しかけてくるとは思わなかったので急な対応で変な声を出してしまった
あーあ、確実に変な目で見られたな今終わったー
そもそもさっきから青井さんの顔を全くと言っていいほど見れていない
彼女のことは知っている。去年の夏休み明けで何かの文学賞とってた人じゃないですか
だったらきっとネタ探し目的で入部してきたんでしょう。お星さまルンルン♪なんてアホみたいな思考した僕とは格が違うわけだへー
彼女も全くこちらを見ていないだろう
いや実際に見ているわけではないが俺には分かるそう分かるのだ
これでも人の視線には敏感なほうで見られていたらすぐにわかってしまう いやまず見られることが少ないが
しかしこのままではピクルスをちまちま食べるまま数時間が経ってしまう
ここは、こちらから一つ勝負に出るしかない
下を見ながら、勇気を出して会話を試みることにした
「何か、急用ができちゃったのかもね、」
まさかの無視!!
へーそうくるんですかそーですかはーん
そっちがそれならいいですよこっちだって沈黙は得意ですから
沈黙は金。証明してやろうじゃないか
幸いまだポテトもコーラも残っている
これは勝ち確では?
と、考えていたそのとき事件は起きた!!
俺は見逃さなかった。あぁもちろん疑ってみたさ目もこすった
でも俺は見てしまったんだよ
青井が俺のポテトを食べるのを!!
食べれるポテトの量が減る。これがいったい何を意味するか皆さんお分かりだろうか。
ワンポテトにつき最大で一分の時間稼ぎが可能となる
そう、食べている間はしゃべらなくていい口実が出来るのだ
この場で大切なことは沈黙という暗黙のルールを守ることただ一つ
この場での会話は成立しえない。それは先ほどの俺の勇気ある行動で証明されている。
しかし、もし!彼女が又話しかけてきたら?
私はそれが恐ろしくてたまらない。確実に気まずい雰囲気になってしまう
本来ならスマホを見る、読書をする、寝るなど王道的な策がありもちろん準備はしてきたが、部活動の最中であるためそれは使えない
ならば方法は一つ、食べるしかない
飲食店で食事をするという行為は、唯一合理的に口を閉ざすことのできる行動なのである
話を戻そう。
今現在青井さんは俺のポテトに手をかけている
ペースは遅いが、これによって二つの問題が生じてしまう
一つ、俺が口を閉ざす手段が無くなってしまうこと
二つ、気づいてしまったときに会計でモメる
今ただでさえ沈黙と緊張の渦の中で踊らされているにもかかわらず彼女は新しく二つの問題を指しでしてきたのである
この女、やりおる
正直言ってこの問題は早急に解決しなくてはならない。しかし彼女に気づかせてしまうと二番目の問題が露呈する
ああ、どうすれば!!
心配とは裏腹に彼女の手はポテトへと伸びていく。
あぁ、また一本
このままでは全ての俺のポテトが食べきられてしまう、、、
なんで自分の分を食べないんだ!まだいっぱいその赤い容器に入っているじゃないか!俺の分はもうほとんどに無いぞ!
最早言い出すことも辛くなってきたその時、
奇跡が起きた
彼女が本来の自分のポテトを見つけたのだ
さぁ、どうする魔女よ
俺は彼女に気づかれないように横目で観察することにした
これは合法だ。観察部の活動をしていることに何ら変わりはない
彼女は若干戸惑った後、自分のポテトと俺のポテトをこっそりと交換した。
彼女の頬は熱くなっていた。
その瞬間、俺は彼女を好きだと思ってしまった