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第九幕

Twitterでマリアちゃんのイラストを描いてくれた友人が居るのですが、神すぎて泣きました。ありがとうございます。


本編入ります。

ギラギラと肌を照らしつける太陽が眩しくて、空を見上げるのも躊躇ってしまう夏。

涼しい生地のドレスを着て、なるべく屋敷の外に出ずに一日を過ごす。


5歳の誕生日も過ぎたこの年、私の元へやってきたのは1人の可愛らしい少女だった。



▽▽▽▽▽



「家庭教師…?」


本を読んでいたら、思わぬことを言い出したお父様を見上げて、眉を下げた。

度々アーベックやお父様がいる書斎を訪れては、このように本を読み漁ったり、2人の仕事ぶりやその内容を見て一日を潰している。


そんな私に、お父様はいきなり家庭教師をつけるだなんて言い出した。


(家庭教師なんて、一回、二回、三回目の時だっていなかったわね)


困惑を隠して無表情で本を閉じると、それを机の上に置いて表紙を撫でた。


「お前の成長が著しいのを見て、更に知識を伸ばそうと思ってだな」

「………伸ばす…」

「…嫌なら断ってくれても構わないが――」

「いいえ!!お父様、私気になる事がございますので是非とも家庭教師をつけてくださると嬉しいですわ!!」


すごんだ私に半ば驚き顔のお父様は「そ、そうか…」と押され気味に言葉をこぼすと、ぽすっとその手を私の頭に置いた。



それから書斎を出て、廊下の真ん中で一人立ち止まると、頭の中を整理するように考えた。


私が気になるのは、魔力や魔法、呪術と歴史についてのこと。

そして、この世界にはびこる魔物や獣人族、その他の亜種たち。


書物だけでは知ることのできない知識があるので、家庭教師がつくのは悪くない。

むしろ好都合だと、そう思っているのは本当なのだが…。


(ただ、ジュエリやフィアズとは違う人に勉強を教わるのは、少し気が引けるのよね…)


元々人と関わることが苦手な性格であったため、今回も初対面の人と話をするのに、気が引けてしまう。


一つ前の人生でマナーレッスンを受けた時も、私の担当をしてくれたレディを睨みつけたりしてたわね…。


はぁ、とため息がこぼれる。


「この性格を直さなくちゃ…」

「マリア様はそのままで充分可愛らしいですよ」

「わあっ!?びっくりしたっ、いつの間に居たの!?」


私の後ろから顔を覗かせて出てきたアーベックに声を上げてしまう。

私に心臓が9つあれば、その内の2つが破裂したわよ。今ので。


「申し訳ありません。ですが、書斎から出た途端、マリア様のあらぬ独り言を聞いてしまったのでつい」

「あらぬってなによ、あらぬって…」


前を向いてもう一度ため息をこぼした。


「…私、人見知りみたいなのよね。だから家庭教師が来るって、なんだか少し…不安なの」


アーベックを前にぽろりと出てきた本音。

俯いた私の頬に、彼の優しく温かい手が触れた。


彼を見上げると、にこりと頬笑みを浮かべていて、温かい手は長く私の頬に留まることなく、すぐに離れていった。


「大丈夫ですよ。マリア様ならどんな方が来ようとも、その愛らしさで魅了できますから」


クスクスと笑うアーベックの腕を軽く叩いて「もうっ」と顔をしかめる。

でもその後おかしくなってしまって、私たちがいた廊下には2人分の笑い声が響いた。



▽▽▽▽▽



「緊張するわ…」


家庭教師が来る日の正午、自分が身につけている赤色のドレスのシワを整えたり、髪を弄り回したり、靴で床に円を描いたりと、客間を行ったり来たりして落ち着けずにいた。


「ねぇ、マリア様見て」

「えぇ。いつもは落ち着いてるのに珍しい」

「可愛いわよねぇほんと…」


客間の隅で待機しているメイドたちの話し声が耳に入ってきたが、今は心に余裕が無いので彼女たちの声は聞いていないふり。



しばらくして、年配の執事が客間へやってきた。


「家庭教師のケイドム様がお見えになられました」

「!」


ソファに腰掛けていた私は、ぴょんっと跳ねるように立ち上がって、胸に手を置いた。


(心臓が痛いわ)


緊張でドキドキと早鐘を打つ胸は、爆発でもするのではないかと思うくらいうるさい。


「こちらです」


アーベックが入ってきた後、お父様も続いて客間に入ってくる。


2人の後ろから、お父様より頭2つ分ほど背の小さい、桃色の髪をした女の子がやってきた。


「ケイドム殿。彼女が私の娘のマリアです」

「…は、初めまして。マリアンルー・シャナ・ラモスです」


膝を折り曲げてお辞儀をする。

彼女はわっと嬉しそうな表情を見せたあと、私の手をぎゅっと握って柔らかな笑みを浮かべて挨拶を返してくれた。


「お嬢様、初めましてです〜!今日からお嬢様の家庭教師になる、ミマッツェ・ケイドムです!」


「髪の毛、真っ白ふわふわで素敵ですね〜!」と私の髪を褒めてくれた彼女の髪も、ふわりと少しカールが掛かっていて、とても素敵だ。


「ありがとうございます」


彼女の柔らかい笑みやちょっとした小さな仕草に、好感を覚える。

私も彼女の手を握り返すと、にこりと微笑みを向けた。


「ちなみに、お嬢様はおいくつなんですか?まだまだ幼いように見えますが…」

「あ、ご…5歳です」

「まぁ!5歳!とってもお若いのに、もうお勉強をなさってるのですね〜?凄いです〜!」


ぱちぱちと子供のように手を叩いたミマッツェは、くりくりとした藍色の瞳をお父様に向けたかと思うと、キリッとした表情に切り替わった。


「公爵様、お嬢様とのお勉強はどちらで致しましょう?」

「あ、あぁ…そうだな…」


それまで完全に空気と化していたお父様やジュエリたちが、はっと我に返る。


「マリアの部屋で頼もう」

「わかりました」


真面目な表情でこちらに向き直ると、彼女はふっと再び柔らかく笑って「道案内ってお願いできますか〜!」と、私の手をもう一度握った。



「大きな部屋ですねぇ〜…」


自室について、扉を閉める。

デスクの横にある椅子をふたつ引いて、それぞれの椅子に座ると、彼女がカバンから取り出した書物をデスクの上に置いた。


「始めますよ〜っ」


可愛らしい先生がついた今日この頃。


彼女の授業は面白おかしくて、楽しい時間が過ごせて、嫌いじゃない。…かも。




▽▽▽▽▽


3週間後


▽▽▽▽▽




「今日はここまで〜!」


パタンと本を閉じた彼女は、頭を勢いよく撫でてきて私の髪をボサボサにする。


「もうっ!髪の毛をボサボサに爆発させないで!」

「あっはは、可愛いなぁ〜」


この3週間でミマッツェとはそれなりに仲良くなり、私と2人で話をする時はこのように砕けた口調でいる事が多い。


「そういえば、ミマッツェ先生って見た目によらず手がゴツゴツしてるわよね」


彼女の腕をがっちり掴んで頭からその手を離すと、目に入ってきたその骨ばった手の甲に、視線が釘付けになる。


「なんていうか…」


うーんと考えながら、何に例えようか首をひねった。


「…少年の手、みたいな」


手から視線を外して、彼女の顔を見上げると…


「…え、ミマッツェ先生?」


真っ青な顔をしたミマッツェ先生が、唇を震わせながら「ごめんなさい…」と呟いた声は、いつも聞き慣れているような可愛らしい声ではなく、少し低い少年のような声だった。


「……わたし…騙すつもりじゃなかったっていうか…っていうか性別は聞かれてないし…あの…っ…」

「待って待って待って。待って。……待って……???」


行き場の無い手が宙を行ったり来たりする。頭の中では沢山のハテナが行き来して、衝突し合う。

まさか、とごくりと息を呑んで、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「…ミマッツェ先生…あなた性別ってどっち…?」

「……えーと……」


彼女は目を泳がせながら、落ち着きの無い様子で、手にしていた資料までもをぐしゃっと握ってくしゃくしゃにしてしまって。

それに気づいて、「ひゃっ」と声を上げた彼女は「う〜…」と小さく唸ると、一息ついて、


「……男ですぅ……」


と、涙を浮かべた。




……なんてことかしら。



お父様にバレてしまったらひき肉にされてしまうわよ、先生…。



第二章始まりの回でした!

今回から毎日更新ではなく、不定期更新となります!

週に数回、お昼の12時更新なのでどうぞお楽しみに…。

ちなみに、めんどくさいので章わけせずに居ますが、フィーリングで第一章、第○○章と分かれます(どゆこと)


そして新しく出てきたミマッツェ先生は、男の娘キャラです。次回は彼の言い訳回ですよ!!!(言い方よ)どんなお話になるのかなぁ、作者ちょっと不安だなぁ。。。

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