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第五幕

ある時。


「見てくださいませ、お父様!綺麗な白い花が庭に咲いていたので、摘んで参りましたの!」

「あぁ、マリア。そうだね、綺麗な花だね。でも確かにその花は綺麗だが、お前の方がどんな花よりも何倍美しいよ」

「…あ、ありがとう、ございます…」


またある時。


「お父様、たくさんプレゼントを下さるのは嬉しいけれど、こんなにドレスは要りませんよ…?」

「そうか?全部お前に似合うと思って手当り次第買ってみたんだが…」

「そのお金を領地のために使ってくださいませ…こんなには着きれないですし、勿体ないですわ」

「マリア…お前はまだこんなにも幼いのにもう領地の事を考えているのかい?ああ、なんて優しい子なんだ。お前は天使だ」

「……」


…また、ある時は。


「あら?ねぇジュエリ、この花瓶って確かちょっと前まで小さいヒビが入ってたわよね?」

「あ、はい!マリア様が一番気に入っている花瓶だと知った旦那様が、すぐに新しいものと交換したんですよ」

「……この花瓶…結構高いって聞いたんだけど……」

「そこはお気になさらなくても良いのですよ、マリア様!本当にマリア様は優しい御方です…ジュエリ、感激のあまり失神してしまいそう…」

「え、やだ!ジュエリが失神はいやだ!」


本当に今この場で倒れそうで怖いわ。

ジュエリは「まぁ!」と嬉しそうに手を叩くと、ぎゅっと私を抱きしめた。



さて、時は遡ること2年前。



父から「可愛い」と連呼されるようになったのは、私が彼の名前を呼ぶようになってからで、その日以来お父様はちょっと……色々とすごい。


「う!」


私の希望で屋敷の庭に連れ出してもらい、広すぎるくらいの庭に、ぽつんと寂しく立っている背の低い木の葉っぱに手を伸ばす。

ジュエリはそれを見ると、ちょっと背伸びをして、私の手が葉に届くようにしてくれた。


手に冷たい感触がやってきて、ふっと笑みがこぼれる。


(この木、私が17歳になる頃にはすっごく大きく育ってるのよね〜)


樹木というのは人間よりも長く生き、その美しい姿を幾年もの間、私たち人間に魅せてくれる。


一際、木には自然な魔力が他の植物よりもこもっていて、魔術師たちが魔力補充をするときは山をのぼると聞いたことがある。


私には魔力は無いが、この木に触れる度に暖かなものが木から手へと、流れ込むように感じることがよくあった。


その暖かいものが多分魔力なのだろうけど、私に流れ込んできても魔法が使えるわけでもないのよね。



しばらくジュエリと庭を散歩していると、私たちの背後から「いたいた」と声がして、振り返る。


「マリア」

「おとしゃま!」


うーっ!と伸びをしたあと、父に向かって手を伸ばした。

ジュエリは私をお父様に預けると、ぺこりと頭を下げて、そのまま私に微笑みかけた。


「悪いなジュエリ。ここはもういい」

「かしこまりました。マリア様、またあとで」

「あい!ばいばーい!」

「………」


ジュエリに向かって手を振ると、お父様はサッと私の手を握って、無表情でこちらを見つめてくる。


「…ジュエリに懐いてるんだな」

「う!じゅえり、やしゃし!まりあ、しゅき!」

「………」


耳元の近くでぶつぶつと何か呟く父。

あら?あららら?

お父様、それは嫉妬でございますの?


屋敷の中に入ろうとするジュエリの後ろ姿を恨めしそうにじっとりと睨むお父様。

もう、しょうがないわね。


「でも、おとしゃまのほうがしゅきよ」

「……!!」

「やしゃしくて、あんしんしゅるの」


えへへ、と笑いかけると唐突に首を絞められる。

いえ、正しくはぎゅっと抱きしめられて首が絞まっただけなのだけど。


「マリア……うぅ…可愛い…なぜお前はそんなに可愛いんだ…」


ぐりぐりと頭をお腹の辺りに擦り付けられ、お父様のふわふわな髪が私をくすぐった。


「そういえば、ここで何をしてたんだ?」

「おしゃんぽ!おっきなきみてた!」

「ほう…」


お父様は考え込むように後ろにある木を見つめた。


「マリアは植物が好きなのか?」

「う?」


さすがに1歳児が植物という単語を知っていたら怪しすぎるので、こてんと首を傾げてみた。


「あぁ、可愛い…ではなくて、花。花や木が好きなのかと聞いている」

「はな!おはな、しゅき!」

「……そうか」


…私のこの発言が一週間後の庭の姿を激変させることを、この時はまだ知らない。



▽▽▽▽▽



「まぁ………」

「これは……」


父と散歩をしてから一週間が経ったある日。

ずっと私に付きっきりなメイドたちに気分転換に庭に出たいと言って、外に出た瞬間目に入ってきた光景に思わず目を何度か瞬かせる。


「これ……!!おはな…!!」


そこ一面に色とりどりの花や、並木が植えられており、庭は何故か前よりも広くなっていて、並木道の先はバラ園になっていた。


「綺麗ですねぇ…フィアズさん、私今ちゃんと御屋敷にいます?」

「何言ってんだい、ちゃんと居るよ。だけどこれには私もビックリだねぇ」


フィアズはハッハッハと面白そうに笑うと、私を見て目を細めた。


「マリア様、お花はお好きですか?」

「うん、しゅき」

「その事を旦那様には言いました?」

「……うん」

「なら、決まりですね」


なるほど、これはお父様の仕業なのね。


でも、一週間でこんなにお花って咲かないわよね?少なくとも数年、数ヶ月はかかるわよね…?


綺麗な花を眺めながら、うーん?と考える。


「ねね、おはな、なんでいっぱいしゃいた?」

「あぁ、それは――」

「それは、大地属性の魔法で植物を急成長させたからですよ、マリア様」


言葉を遮られたジュエリは「えっ」と声を漏らしたあと、急いで振り返る。


「どうも」


そう言ってぺこっと頭を下げたのは、お父様の秘書をしているアーベックだった。

濃い茶色の髪が目元を覆い、チラリと覗かせる彼の目は、閉じているのか開いているのか分からないくらい細い目をしていて、昔から不思議な人だなと思っていた。

エルフだからか何年経っても歳をとることがなく、未だに顔がいい。


「アーベックさん!」

「おやおや、アーベック殿。休憩ですか?」

「はい。ギュアス様から休んでいいと言われたので、植物の確認に来ました」


そういえばアーベックって、大地属性の魔法が使えるんだったわ。

なら、このお花たちはアーベックが咲かせたのね。


「ねぇね!」


ひょいひょいっ!と手を前に出して、手招きをする。数歩近づいてきた彼は、自分の膝に手を当てて私と視線を合わせると、口角を上げた。


「はい、なんでしょう?」

「これ、あなたがしゃかせたの?」

「あぁ、はい…そうですが…」


小さく開かれた彼の緑色の瞳は、庭の方に向けられると、寂しそうに笑った。


「…気に入りませんでしたか?」

「ましゃか!とってもきれい!まりあ、あーべっくのおはな、しゅき!」

「!…はは…」


口元を覆うようにして笑みを零した彼は、膝から手を離し立ち上がると、こちらを見て呟いた。


「…ありがとうございます、マイレディ」

「……まぁ」


その言葉を聞いたジュエリとフィアズは、小さく声をひねり出すと、意味ありげに視線を交わしにこりと微笑んだ。


「そ…それでは、僕はこれで」

「あい!またおはなみしぇてね!」

「もちろんです」


ひらひらと手を振って、彼の後ろ姿を見送った。

さて、今度は庭の探検よ。

ジュエリとフィアズに庭の向こうに行こうと声をかけて、私たちは満開の花が美しく踊る庭に足を踏み入れた。



▽▽▽▽▽



これが1歳の時にお父様から貰った大きなプレゼント。

でもね、2歳の時なんかはもっと凄いのよ…。



▽▽▽▽▽







次回はこの回の続きで、ギュアスのさらなる親バカっぷりが拝めます。

(作者もオリキャラ大好きな親バカだからか)書いてて楽しい。

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