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第四幕

(さすがに四度目ともなると悟りが開いちゃいそう)


ミルクを飲みながらじっと母様の顔を見つめる。

病弱な母様は、私に母乳を与えることが出来ないので、代わりに乳母を雇ってその乳母が私にミルクを飲ませてくれている。


そして、その乳母はなんと、生前私を毒殺したミゼスの母であって、私が昔からずっといじめてきていたメイド長のジュエリだった。

今はまだメイドだけれども。


父様や他の人からはジュエリが私の乳母だったなんて聞かなかったし、ジュエリだって私にそんなことは一切言って来なかったので、これは意外である。

てことは娘にいじめられていたみたいなものなの??私ってつくづく最低じゃない…ごめんなさいジュエリ…。


「ふふ、可愛らしい…」


私の額を撫でながら、ジュエリはクスリと微笑んだ。


「シアリア様。マリア様は将来、貴方様のようにきっと優しく、美しい女性に成長致しますよ!私、信じてます」

「私の天使だもの…きっと、素晴らしい子に育ってくれるわ」


二人の会話を聞いてて罪悪感を感じてしまう。

ごめんなさい、私生前は人…しかも一国の王子を毒殺しそうになった悪党です。周りの令嬢を蹴落としてまで国一のレディになったりと、天使なんて言葉は私には似合わないくらいかけ離れています…。


あ、ダメ。気を抜いたら泣いてしまうわ。

過去の自分があまりにも子供過ぎてわがまま過ぎて、苛立ちで泣いてしまうわ。


ジュエリの横で私の顔を覗いてくる母様は、今にも萎れてしまいそうな、儚い華のよう。


私はあなたと過ごした記憶が一切無い。


お父様はあなたのことを多くは語らなかったけど、肖像画を一緒に見た時は『とても綺麗で、優しい人だった』と、愛しそうに言っていたわ。



ラモス家は少々複雑で、私が覚えてる限りでは母様はお父様の正式な妻だったが、2人が結婚をする前にお父様は別の女性と一夜を共にした…。

そして、その事を知ることなく、母様は私を産んで死んでしまった。

それから時が経ち、お父様は自分にもう1人の娘がいることを知って、彼女とその母を邸に迎え入れた。


(私に姉様が居るのは、そういう理由だったのよね…)


別に嫌とまでは思わなかったが、こんなに綺麗な人が居て他の女性に浮気をするなんて、お父様って最低なんじゃないかしら。


だんだん父様への怒りが込み上げてきて、気がつけば私はしかめっ面をしていたようだ。


私の顔を見たジュエリと母様が「あらあら」と呟いて、笑ってしまう。


「ふっふふ、こんなに可愛らしい仏頂面は見たことがない」

「マリア様、可愛いです」


お願い、見ないで。とても恥ずかしいから。


ぷいっとそっぽを向くと、2人はさらに笑ってしまった。


母様って、結構明るい人なのね。


とても、優しくて一緒にいて安心する。


…今思えば、私が欲しかったものはエメラルドの宝石が散りばめられた手鏡でも、かっこいい婚約者でも、可愛く素敵なドレスでも無くて、純粋な愛情だったのかもしれない。


だから、私は真っ直ぐに愛してくれた姉様に、執着してしまったのかも。


こんなことを思ってしまってはいけない。だって未来を知ってる私は、ただ傷つくだけだから。


だけど、それでも。



……母様を、失いたくない…。



▽▽▽▽▽



「うっ…ぁ、シアリア様ぁ…っ」


しくしくと、嗚咽の混じった泣き声が広い部屋の中で悲しく木霊する。


あぁ、やっぱりね。


私が一歳になる前日の夜、母様はとうとうこの世を去ってしまった。


あと数時間で私一歳なのよ?誕生日なのよ?なのに、母様、居なくなってしまうの?


「……まっ、ま…」


上手く言葉は発せない。

だけど、これだけでも…これだけでも、伝わって欲しい。


「…あいういよ(大好きよ)…」


精一杯の私の気持ちを呟くと、その場にいた全員がこちらを見て目を見開く。伝わったようだ。

私を抱えていた父様は、数回瞬きを繰り返したあと、糸が切れたように泣き出した。


ずっと母様を見つめたまま無表情だった父様が、今このタイミングで泣き出した。


母様と私の元にはたまにしか足を運ばずに、母様にもほんの数回しか愛を囁かなかった私のこの父様が、膝から崩れ落ちて泣いている。

しわしわな顔を崩して泣いていた、母様と仲の良かったメイド長のフィアズが私を急いで抱きかかえると、父様は母様の元へ近づき、その亡骸を抱きしめた。


「ごめん、ごめんシアリア…私は最低な男だ。本当にごめん……」


なんの事で謝罪をしているのか、それに気づいているのは父の秘書をしているアーベックと、私くらいだろうか。


「シアリア…っ」


……ダメな人ね。

さすが、私のお父様ね。



▽▽▽▽▽



母様が亡くなって、葬式も終わってずっとジュエリに抱きかかえられたままの私は、今もまだ涙を流している彼女を見上げる。


(…ジュエリ…)


そっと彼女の頬に手を伸ばす。

こんなに私の手って小さいのね。


彼女は泣き顔をこちらに向けると、くしゃっと痛々しい笑顔を浮かべた。


「マリア様…愛しい愛しい、マリア様…」


そうしてふにふにと私の頬に自分の頬を擦り寄せた彼女は、悲しく笑った。


「貴女様は…シアリア様の分まで、生きてください…」

「……」


今度は、絶対に死ねないわ。


生前、彼女にしてきた数々の嫌がらせ。その償いのためにも、お母様のように優しく美しいレディになるのよ。


頑張らなくちゃね。



▽▽▽▽▽



私の1歳の誕生日も過ぎ、涼しい季節がやってきた。


「マリア様、御自分のお名前を言ってみましょう」

「うー!」


あら!いいわよ!


私を膝の上に乗せて、ジュエリは私が落ちないように自分の腕で体を支えると、にこりと笑った。

首が座るようになってからは、よくこうやって膝の上に座らせてもらっているのだ。


「ジュエリ、マリア様にはまだ早いんじゃないかしら?」

「いいえフィアズさん!マリア様なら少しの時間で会得できます!」

「どこからそんな自信が出てくるのやら…」

「マリア様は天才的で可愛いからです!」


ちょっとジュエリ、最後。あなた最後のは関係ないんじゃないかしら?


とまぁ、そんなこんなで、フィアズとジュエリに見守られて、私は発音練習を始めたのであった。



*****


数日がして。


*****



「まりあんるー、しゃな、らもしゅ!」


す、だけは言えないけれど、なんとか自分の名前を言えるようになった。

ふふ、生前の記憶があるのは本当に便利ね。


「まぁ…!!フィアズさーん!!マリア様が自分の名前を言えるようになりましたぁ!!」


慌ただしく扉の外に出ようとしたジュエリは、次の瞬間石のようにカチコチに固まってしまう。


「う?」


ベッドの上にいた私はどうしたのかと首を傾げた。


「じゅえりー?」


ジュエリの名前も密かに練習していたので、この際だから呼んでみることにした。固まったジュエリに何回か呼びかけると、ハッとしたように彼女はこちらを振り向く。


「あれ、いま私の名前…」


信じられない、と言った様子のジュエリ。

ふふ、と自慢げな笑みを浮かべたあと、もう一度「じゅえり」と呼ぶと、彼女は嬉しそうに口元を手で覆った。


「ほう、私の娘はもう喋れるのか」


そして彼女の横からひょっこりと顔を出したのは、色素が抜かれたような薄い茶色い髪をした、薄桃色の瞳が印象的な、私のお父様。


「おとしゃま!」


母の死以来、よく父はこうやって私のところに顔を出すようになった。それはもう仕事で休みの時間が入ったら直ぐに私のところに来てしまうほど、お父様は私を気にかけてくれるようになって、嬉しいのは確かだ。だけど出張先にも私を連れて行くのはやめて欲しいわ。色んなところで私注目されちゃうんだもの。


「おとしゃま、だっこ!」

「おぉ、ここまで喋れるのか!さすがはマリア、頭がいいなぁお前は」


優しい手つきで私を抱き上げたお父様は、誇らしげに私を見つめたあとわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。


「うぅ…旦那様、はしゃいでしまって申し訳ございません…」


横に並んだジュエリは俯き気味だ。


「う?」


なるほどね?だからあなた固まってたのね。

お父様にはしゃいだところを見られたからって、気にしなくてもいいのに。


「いや、気にしないでくれ。マリアが言葉を発せるようになったんだ、喜ばしいことなのは確かだ」


その通りだわ!

父の胸にグリグリと頭を擦りつけると、にっこりと笑みを浮かべ「ぎゅあしゅ」と呼んでみた。

父の名前はギュアス・ミド・ラモスなのだが、やはり、す、だけは言えないようだ。

もっと練習しなきゃと考えを巡らせていると、父の私を抱きしめる力が強くなった。


「……」

「おとしゃま…?」


苦しくなってきましたよ??

困惑した様子でジュエリを見ると、ジュエリも俯いたまま肩を震わせている。


「……可愛い……」

「う?」

「あ〜〜…マリア……可愛い可愛い私のマリア…」

「……」


これは、もしかして…



…親バカフラグ…立っちゃった…?






ギュアスはクールなはずなんだけど、娘相手にはデレまくりなようです。


最近調子に乗って毎日更新してますが、この作品は不定期更新なんですよ……不定期なはずなんだよな……(小声)←

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