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第二幕

「ん……」


カーテンの隙間から漏れた光が、私を照らして瞼をくすぐる。

パチリと開いた目からは涙が流れて、悪い夢を見ていたことを思い出……


「って、ん!?」


ガバッと勢いよく飛び起き、ベッドから身を起こした。


「なに、なにこれ、どういうこと…?」


自分の頬や髪、手、腕、足。全部を触って、ちゃんと感覚が残っているか確認する。


「…生きてる…」


私は確かにあの時首をはねられて、処刑されたはず。


自分の首が地面に落ちるその瞬間まで鮮明に覚えているもの。


ならなぜ私は今ここにいる?


見慣れたふかふかのベッドに、少し厚めのピンクのカーテン。

薄紫色の壁紙に、白の大理石でできた床。


何もかも見覚えのある物で、自分がずっと育ってきた部屋で…。寝起きで上手く起動しない頭はさらに混乱してしまう。


「私…死んだのよね…?」


私の問いを答える人は、今ここにはいない。

仕方なく鏡の前に立って自分の姿を見ると、はっ!?と思わず下品な声が出てきてしまった。


どうりで視点が低いなと思えば、子どもの姿になっているではないか。


「なに、どういうこと…?」


ぐるぐると疑問が渦巻く中、トントンと部屋の扉をノックする音がして我に返される。


「入りなさい」


不機嫌がみてとれる声色で返事をしたあと、恐る恐る開かれた扉から執事のバージが入ってきた。


「おはようございます、マリア様」

「えぇ。…で、なんの用?」

「旦那様からの伝言をお伝えに参りました」

「伝言?」

「はい。本日はいつもより可愛らしい服を着て庭で待っていてくれ、とのことです」


「あらそう」と声を出しかけ、ハッと固まる。


私この場面知ってるわ。


前にも一度見てたじゃない。


バージの腕を掴んで彼を見上げると、いつも無表情な執事は驚きの表情を浮かべ、困惑した様子で私を見下ろす。


「ねぇバージ、お父様からほかに何か聞かなかった!?たとえばなんか…家族のこととか!!」


なんのことかと首をかしげられ「その伝言以外は何もお聞きしておりません」と引き気味に返事をした執事は、とても不思議そうな様子でこちらの顔を覗き見る。


「………」


もし私の予想が正しかったら…


今日は姉様と初めて会う日…であって…。

でも私姉様とはもう会ってるし…あ、あれ??


またもや混乱してきた頭をフルフルと小さく振って、ぎゅっと唇を噛んだ。


じわりと鉄の味が口の中に広がって、私の心の中では不安がどんどん広がっていく。


有り得ない。


頭がはっきりしてきて、今起きているこの状況をだんだんと理解する。


「……」


バージの腕をそっと離し、もう一度ベッドの中に潜り込んで寝ようとする。


「ちょ、お嬢様!?」

「夢よ、これは絶対夢」

「なんのことを仰っているのか分かりません…メイドたちを呼びますので、早く支度をしてください。ただでさえ貴女様は…」

「支度が長い。知ってるわよ、そんなの」


ベッドから頭を出してバージを睨みつけると、はぁ…とため息をこぼした彼は、しゃがれた声で「失礼します」と言うと、一度部屋を出て行った。


「……はぁ……」


頭を抱える。


死んだはずなのに、目が覚めたらなぜか私は子どもの姿に戻ってて、生きている。


これは、過去に戻ったということなのだろうか。


分からない。


「分からなすぎるわ…」


もう一度こぼれた大きなため息と共に出た言葉は、部屋の中で寂しく響いたのであった。



▽▽▽▽▽



「……」


庭で、ではなく玄関ホールがよく見渡せる2階で、メイドや執事の言いつけを無視して姉様を待つ。


数分して馬車の泊まる音が聞こえると、中から薄汚い服を着た…女の子が出てきた。


キョロキョロ、ソワソワ。落ち着かない様子で周りを見た彼女は、バージの兄のシェイダに付き添われて玄関前までやってくる。


ようこそ、と父様が笑顔で彼女を迎え入れ、照れたような困ったような、可愛らしい表情を浮かべた姉様とバチリと目が合った。


ふわりと優しい笑顔を向けられて、あぁ、やっぱり敵わないなと…潤みそうになる目を閉じて俯いた。



▽▽▽▽▽



「お姉様!みて、このドレス!可愛いでしょう?」

「ふふ、えぇとても素敵よ。可愛いマリアはどんなドレスも似合ってしまうわ」

「えっへへ…」


今私はメイドたちを巻き込み着せ替えごっこをしている最中で、クローゼットの中からドレスを引っ張り出して、姉様も呼んで審査をしてもらっているところなのだ。


「ほんとにマリア様はルシエラ様が大好きなのですね」


そう言ってきたのは、長くこの屋敷で働いているおべっか使いのメイド。

たしか私昔はこの人をクビにしたことがあったような…。


「当たり前でしょ、姉様は私のたった1人の姉様なんだもの」


少しトゲの含んだ言い方をすると、彼女は気まずそうに俯いた。


「あらあら、マリアったら」


ふふ、と控えめに笑った姉様は、本当に天使みたい。

また仲良しなこの時に戻れてよかった。


……ただ、問題なのは……



ーーーーーーーーーーーー



コイツよ!!


私の目の前でニコニコと感情の見えない笑顔を浮かべて、優雅に紅茶を口に含むミルフォス第三王子。


コイツは一度目、私に一目惚れをしたとかで縁談をもちかけてきたのだ。私もその時はミルフォス殿下のカッコ良さに目がくらんで、婚約を承ったのだが…いつしか彼は姉様の優しさに惹かれて、そちらに寝返ったという最低なことをやらかしてくれた。


(今回は絶対姉様を守り通すわ……)


貼り付けたような笑顔でミルフォス殿下の対応をするも、今回も私の作戦は虚しく失敗してしまうのである。




「マリア…ねぇ、嘘でしょ……?」


姉と密会をするようになったミルフォス殿下。浮気とか私の気持ちとか、そういうのは別にもうどうでもいいわ。


私の友人であるキアが口を滑らせて「ルシエラたちに人を送った」と言われた時は肝が凍りつくかと思った。


彼女から姉様たちの居場所を聞き出すと、公爵令嬢にも関わらず部屋を飛び出して、バラ園を目指して走った。


そして今は、姉様に飛んできた毒矢を体に受けたところである。


「姉様…無事、よね…?」


朦朧とする意識の中、口から出てきたのはその一言。


「マリアぁ…っ…ごめんなさいっ、こんな、こんなことして、ごめんなさいっ…」

「…わたくし、のほうこそ…ごめんな、さい…」


二度目は姉様の幸せを願っていたのに。

なぜこうなってしまったのかしらね。


「マリア嬢、気をしっかりもってくれ…」

「ミル、フォス…様」

「……なんだ」


「姉様をよろしくお願いしますね」と言い終えることは出来ずに、私の意識は真っ暗闇の中に落ちてしまった。



これが二度目の死だった。



▽▽▽▽▽



のに!!


鳥の囀る声、カーテンの隙間から差し込む日差し。むくりと身を起こして考える。


「……………またですの………?」



わがまま令嬢の三度目の人生が始まった、朝である。





本編スタートは四度目からですので、流れ〜るように二回目と三回目が終了していきますよっ


次回はプロローグ編終了です。つまり三回目の死が待ち構えてるというわけです。


お楽しみに(*^^*)

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