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濡らさないように

作者: あした私は

 「俺、遥のこと結構好きだよ」

ドライブで訪れた海でそう言われた。

タバコを吸いながらこちらを一度も見ようとしない誠の横顔は、整っている。

 「それ、どういう意味?」

冗談を受け流すように、軽く笑いながら聞いた。

「そのまんまの意味。」

誠の好きな銘柄はラッキーストライク。匂いがとても濃い。誠は甘い味がするしタバコ感があるって言ってたけど、私はどうも好きになれなかった。元々タバコ吸わないし。

 直後にキスをされた。口の中が急に苦くなってつい顔が歪む。

 「ねぇ、付き合おうよ」

誠は私のことなんてなにも見てないのだろうか。いや、最初から見ていなかったか。

 誠はバイト先の先輩だ。チェーン店のカフェで二人ともホールをしている。最初こそシフトが被らずに話す機会もなかったのだが、ここ最近はほぼ毎日一緒にいる。

 車を持っているから、上がりが一緒の日はよく家まで送ってくれる。今日は二人の休みが被ったから海に来た。比較的簡単に来れる浜辺。歩いているのは、犬を散歩してるおばさんくらいで周りにはほとんど誰もいない。

 それでも外で平気でキスをしてくるような男だ、少しちゃらんぽらんなところがある。自分の欲求に素直で、無自覚に相手を傷つけるようなこともあるのだろう。

 薄紫のロングスカートが風でたなびく。

 今日の波は少し高い。あまり海に近づくと濡れてしまいそうだ。

 「誠、先週は真希ちゃんとドライブしてなかった?」

真希ちゃんは同じバイト先の女の子。

「その前は……ともちゃんと」

ともちゃんも同じバイト先の女の子。

 「えっ……、いや来たけど……それとこれは……」

誠が吸っていたタバコを足で消しながら答える。

 「二人にもおんなじこと言ったんでしょ?誠、女癖が悪いって噂だよ?」

「そんなこと……ないよ。」

驚いているのか、悲しんでいるのか誠は足元しか見ない。

「それでも俺は、遥のことが好きだよ!」

少し真剣な眼差しでこちらへ一歩寄ってきた。海に近かった私はさっと避ける。

「裾濡れるから。」

それを言い訳に誠からさらに距離を取った。

 「誠のことは嫌いじゃないけど、その好きは信用できないな」

しばらくの沈黙。

「ふふっそんな顔しないでよ。とりあえずもう帰ろ?」

 ポケットからまた一本タバコを取り出して、吸い出した。

 「誠と付き合って、泣いて服を濡らしたくないからね」

「そっか。」

明らかに低いテンション。それでも明日になれば他の女の子にまた声をかけるのだろう。何にせよ女の子が多いバイト先だ、一人くらいは誠のことを好きになる人もいるだろう。それが私じゃなかっただけで。

 あと私は、タバコをその辺に捨てる人嫌いなんだ。ごめんね。

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