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任命されました

「マクシム兄上!何で僕なの!他に適任者はいるでしょ!」


 あまりに衝撃的な内容だったから、つい声を荒げてしまったけど仕方ないと思う。それぐらい兄上の言ったことがおかしいんだもん。


 膨大な書類を捌きながら目線すら僕に寄こさない兄上に詰め寄る。同時に室内に控えていた護衛達が動き出したけど関係ない。これは一大事なのだよ。


「何で、僕が、他国の姫の接待をせねばならないんですか!皇太子である兄上の命令でも従えないものもあるよっ!!」


 マクシム兄上の目の前に立ち両手を振る。ついでに首も振る。


「黙れ、愚弟。先ほど説明しただろう。私の即位に際し、我が国の星詠みの交代を行うことが決まった。そのために来月より次代の星詠みの選考を行う。候補は三人。それぞれの候補者に世話係として、お前、ミハイル、ダニールが付くことになった。以上」

「以上、じゃないよ。ミハイル、ダニールは分かるけど、どうしてそこに僕の名前が挙がるの……」


 同じように兄上に集められた弟達を見つめる。二人とも優秀だし、気遣いもできるし、顔も整っているから世話係としては十分すぎると思う。けど何で僕なのさ。僕なんか特に優秀でもなければ、人付き合いは不得意だし、癖が強い黒い髪だし、根暗眼鏡だし……。


「アレク兄上、星詠み選考を行うときはそれぞれの候補者に一人、その国の皇族が世話係として付くというのは常識ではないですか。アレク兄上も皇族である以上、選ばれるのは当然でしょう」

「ミハイル兄上の言う通りです。どこに問題があるのですか、アレク兄上」


 クールビューティー系の美形と大型わんこ系イケメンに見つめられてたじろぐ。

 でも負けない。だって、これには僕の平穏がかかっているのだから。多分。


「いや、皇族って言ってもさ、他にもいるじゃない。何で僕なのかというのが問題で……」


 ほかにも人当たりがいいイケメンとか、ちょっと腹黒だけどかわいい系のヤツとかいるじゃないか。本当に何で僕なの?


「ええい、うるさい。エリアヴェータ帝国皇太子マクシムの名において命ずる。第四皇子アレクサンドル、第六皇子ミハイル、第七皇子ダニール、お前達を星詠み候補者の世話係及び鍵役に任ずる。全力をもって、候補者の補佐をせよっ」


「はいっっ、承知しましたっ!」


 くっ、つい条件反射で承諾してしまった。昔から兄上の名前で命じられると必ず従うように教育されていたことが仇になった。



 忙しい兄上の時間をこれ以上割くこともできないので、僕の抗議も空しく執務室を追い出されてしまった。




 兄上の執務室を出てため息をつく。

 皇太子の名前で命じられたからには仕方ない、適当に相手することにしよう。


 そう思っているとミハイルがこちらを見ていることに気が付いた。


「はい、兄上の担当はヴィンガール王国ですよ。これ詳しい資料ですから、必ず目を通しておいてくださいね」


 ミハイルから受け取った分厚い資料をパラパラとめくって目を通していく。


「そういえば、二人はどこの国担当なの?」

 資料から目を離さずに尋ねる。


「私はエグランティ王国ですね」

「自分はゲオルゴス皇国です」


 エグランティとゲオルゴスかぁ。また面倒な国から候補が選出されたな。エグランティは貿易国で他国との太いパイプをいくつも持っている。ゲオルゴスは星詠みの聖地を多数抱えている神聖国家だし。いくら星詠みが他国からしか選出できないようになっているとはいえ、そこ以外にもあっただろうに。


「どっちも機嫌を損ねてはダメな国だね。二人とも頑張って。僕も適当にやることにする」

 そう言って、ミハイルに資料を返す。


「相変わらずミハイルの資料は分かりやすいね。要点をまとめてくれてありがとう。さすが学院主席様だね」

「もうよいのですか?」

「うん。ヴィンガールについては大体把握していたし。細かいところはこの資料で確認できたしね」


 なんかダニールがキラキラした目でこっちを見ているけど、君だってこれくらいすぐに覚えられるでしょうに。


 じゃあね~、と二人に手を振って自分の部屋に戻る。



 自分の執務室に戻って、クッションを抱え込みながらソファにうつ伏せに寝転ぶ。


「誰も見てないからって、そんな恰好しないでください。俺がやる気をなくします」

 しばらく寝転がっていたら護衛騎士のカークスに怒られた。


「だってさー、来月からお姫様の接待しなくちゃいけないんだもん」

「二十四にもなる男がもんとか言わないでください。気持ち悪い」

「カークスがひどい……。ルンちゃんなぐさめて~」


 そう言って持っていた自分と同じくらいの大きさのクッションに顔うずめる。


 ちょうど自分の顔がクッションに描かれた幼い女の子の胸に当たるように抱きしめた僕に冷たい目を向けるカークス。やめて、そんな目で見ないで。これは癒しなの。



 今日の分の仕事は終わっていたので、ヒマつぶしにを兼ねて兄上に命じられた内容と星詠み交代についてカークスに話す。


「星詠みは交代するときに特殊な術で自分の後継者になりえる素質を持った人物に使いを送るんだ。で、その使いを受け取ったのが今回は三人もいるんだって。その三人のうちの一人の面倒を僕が見ることになってさ~。ねー、カークス。その子と何をどう話したらいいの?」


「皇子として失礼のない範囲で接したらいいんじゃないですかね」


 投げやりな態度をとるカークス。ねぇ、僕一応皇子だよ。君が命に代えても守るって誓った主だよ。


「皇子の担当はヴィンガール王国ですよね。でしたら、あの方もいらっしゃるのではないですか?」


 僕が執務室に帰ってきても無視してずっと机に向かってペンを走らせていたイグニス補佐官が声をかけてきた。


「んー、どうだろうね。今は新しく見つかった遺物の解析をしてるって言ってたし。来てくれたら面白いけど」

「……皇子。ここ最近はヴィンガール王国からの手紙の類は何もなかったと思うのですが。なぜ近況をご存じなのですか?」

「へへへ、ヒ・ミ・ツ~」

「何がヒミツですか。成人男性がしたって可愛くとも何ともありません。仕事をしないのであればさっさとご自分の部屋にお戻りください。邪魔です」


 イグニス冷たい。何で僕の傍には冷たい人しかいないんだろう。


 イグニスに追い出されるように執務室を出る僕。

 おとなしく部屋に帰って書物でも読もう。確か人気冒険小説の新作が届いていたはず。あれハーレム展開になりつつあるから微妙なんだけど、可愛い幼女がいるからついつい読んじゃうんだよね。




 兄上から星詠み選考についての話を聞かされてから一週間が経った。


 昨日は遅くまで小説を読んでいたから、今日は夜更かしはやめておこう。そう思っているのに読書仲間オススメの新作がおもしろくてまた夜更かしして読んでしまう。

 毎日今日は早く寝ようと思っているのに、ついつい読んでしまう。これは僕を寝かさないための陰謀なのだろうか。

 寝不足の頭でそんなしょうもないこと真剣に考えていた僕はイグニスから伝えられた言葉を聞き逃しそうになった。


「ヴィンガール王国から使者が来る?えっ?来週?何で?」

「ヴィンガールだけではありません。エグランティとゲオルゴスからも使者が来ます。今回の帝国付き星詠みの選考にあたっての諸々の打ち合わせでしょう。今回、ヴィンガールのみ候補者の方もお連れになるそうです」


 星詠みの選考の打ち合わせか。それって僕も出席しなきゃいけないの?


 思っていたことが声に出ていたようでイグニスに睨まれた。

 はい。すみません。ちゃんと使者に会います。



 今日もクッションを抱いてはカークスに冷たい目で見られ、独り言を言えばイグニスにお小言をもらいながら、仕事を終わらせた。

 僕、一応二人の主なんだけどなぁ。



 やっと一人になれる時間だ。寝台に横たわって新しい小説を読む。もちろん、昨日とは違う話だ。こちらは最近人気がでてきた小説だが、僕はこの作者が初めて書いた小説から読んでいる。


 こいつは絶対人気になると思ったんだと妙な優越感を持ちながら話を読んでいると、部屋の窓がコンコンコンコココッコと独特のリズムで叩かれた。


 窓の外の人物に合図する前に部屋に音遮結界を張る。これで結界内の声は外には聞こえない。


 窓に向かい、同じ様にコンコンコンコココッコと叩く。すると部屋の中央、さっきまで僕がいた寝台の側に人影が現れた。


「おー、久しぶり。アレクがまだ起きててくれてよかった」


 豊かに波打つ銀の髪に瑠璃色の瞳。好奇心旺盛な猫を思わせるしなやかな体に愛嬌のある可愛い顔。そして、心地いい軽やかな声と反対に重そうな胸を包むのは武骨な軍服。


「久しぶり、ラグ。相変わらず変態的な技術だね。毎回思うんだけど、よくこの王宮に忍び込めるね」


 変態って言うなと言いながら僕の目の前に歩いてきた、学生時代からの友人。

 ヴィンガール王国ラグランジュ第二王妹殿下に僕は笑いながら挨拶を返した。 

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