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ニードル・アンド・シールド・アンド・ポイズン#9

 扉を開ける時、背後に人が出現した事、そして扉の向こう側に何かが着地した事を感じたリエであったが、ともあれこの場を離れなければならない状況に何も変わりはなかった。

 読みが外れた以上、出来る事は対象を保護出来るリエによる包囲網の突破以外に選択肢はない。

 ピィピィの実力如何に関して、彼女は疑問を持っていたが、しかしリエにはピィピィを信じる事しか出来なかった。この場で戦えるのは自分とピィピィのみであり、そして自分で無ければローラを守りながら戦う事は出来ないのだから。

 かくして扉を開けてローラを連れ出すと共に、目の前に相対した相手を見上げた。

 頭頂高およそ2m超、アパートの欄干廊下を丸ごと塞いでなお窮屈そうな、屈強極まる赤い肌の筋肉の塊。

 ベージュ色の上着は今にもはち切れんばかりであり、右腕からは金属が擦れる音が聞こえていた。

 リエはローラを背に庇いながら前に大盾を構える。盾による打撃攻撃、それ以外にリエの攻撃手段は無い。

 対する悪魔の巨漢は凶悪に笑いながら、右腕を欄干から外へ向けて伸ばす。すると上着を突き破りながら内側に仕込まれた外骨格が動き、巨大かつ長大なチェーンソーが形を成した。

 それがけたたましいエンジンともモーターともつかぬ駆動音を鳴らしながら回転を始める。トップスピードになった辺りで仕上げと言わんばかりに口から炎を吹き、それをチェーンソーへと吹き付けると、その炎はチェーンソーへと燃え移り、炎その物を巨大な剣の形に押し込めたかのような得物が仕上がった。

 対するリエは大盾を構えて背後にローラを庇いつつ、廊下の端にある階段へ向かってじりじりと後退していた。

 ブラッドレーは燃え盛るチェーンソーを右腕ごと欄干から外側に放り出すようにしながら細かく振り回して牽制しつつ、振り抜く際に邪魔になりそうな細い柱や雨どいを切り払いながら、徐々に距離を詰めて行く。断面は赤熱しており、それがチェーンソー本体が触れるよりも熱によって溶断される方が早かった事を如実に物語っていた。

 リエはフルフェイスヘルメットの中で焼却炉を前にしたような熱を感じながらも、目の前に立つ悪魔の巨漢の眼を静かに、そして冷ややかに見据えていた。

 前へ前へと迫り来るブラッドレーと間合いを保つようにしてリエがローラを庇いつつ後退して行く。ブラッドレーを挟んで向こう側を白熱光線が一瞬、過ぎ去ったのを視界に捉えた頃、廊下の端の階段へとたどり着いた。

 そこへローラが足を掛けようとしたその時、ブラッドレーが動いた。

 欄干から外へとはみ出させていたチェーンソーをおもむろに射出、それが階段を斜めに溶断したのだ。

 チェーンソーは鎖でつながれており、地面のアスファルトを溶かし歪めながら円を描いてブラッドレーの手元へと戻って行く。

 ローラが余りの出来事に身を引くのと同時、それまで間合いを保つようにして後退していたリエが前へと飛び出す。

 リエの体重、装備重量、パワーアーマーによる筋力補助、全てを加えたシールドバッシュを、ブラッドレーは左手で受けようと試みる。

 しかし電線に触れたかのような衝撃がブラッドレーの手を弾き飛ばすと、次いで胴体から顔面に掛けて、シールドに触れた部分が同じように痺れ、後方へと弾き飛ばされた!

 状態不十分なせいで火炎チェーンソーは戻り場を失い、炎上した刀身はそのまま屋根へと飛び込み突き刺さった。

 ブレッドレーは素早く右腕のチェーンソーに繋がるガントレットを外して体勢を整えるが、しかしリエの無遠慮な追撃のシールドバッシュが更に襲い掛かる!

 それに触れないようにと素早くバク転をするが、しかしなおもリエのシールドは止まらない。

 2mを超える巨漢であるはずのブラッドレーは今、自身より遥かに巨大な壁と対峙しているかのような錯覚に陥っていた。

 距離を取ろうと後ろへ後ろへ下がるが、しかしすぐに廊下のどん詰まり、欄干が背中に当たる。

 欄干から飛び降りようとするが一瞬早くリエのシールドが到達、欄干を掴む為に向けていた背に、焼けるような痛みと強烈な痺れが走り、欄干との間で身体が挟まる!

 目を剥くような衝撃と痛みが走るのと共に欄干が破壊され、ブラッドレーは急速に地面が顔面に近付いて行くのを知覚、しかし反応が遅い!

 顔面から体勢不十分で地面に激突したブラッドレーはそのまま気を失い、ぐったりと倒れ込んだ。

 リエは落下した巨漢の悪魔が動かない事を視認すると、すぐさまローラの元へと走って行く。しかし直後、ローラの高性能ヘルメットは右側から巨大な熱量を検知、一瞬止まるのと同時に、目の前を極めて太い火炎レーザーが、扉を消失させがら水平方向に発射され、そのまま建物を真上に向けて溶断した!


 溶断消滅した扉の部屋は、間違いようがない、彼女たちの住処だ。


 リエがそちらに気を取られている内にローラの傍に音も無く黒い影が着地、ローラの口を塞ぎ、脇に抱え上げると、欄干に足を掛けて大きく跳躍!

 一瞬の出来事であったが、リエはそれを察知して走り出し、追走を試みるが、しかし相手はまるで夜の闇に溶け込むかのように姿を消してしまった。

人物名鑑:ブラッドレー

悪カルマを多く獲得した状態で悪魔の儀式を用いて上位転生する事にって悪魔の肉体を手に入れたカロン。パイロとハイパーストレングス、左腕に装着したパワーアーマーとチェーンソーを武器にした力押しのスタイルで戦う。本来であれば悪魔の耐久力とハイパーストレングスの膂力とが合わさって凄まじいタフネスと破壊力とスピードを発揮するが、狭い通路と聖盾の前にはそれらを発揮する事もままならなかった。

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