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ニードル・アンド・シールド・アンド・ポイズン#7

「ここが私たちの家です。お布団は余分が無いので、寝る時は二枚をピッタリくっ付けて三人で寝れるようにしましょうか。」


 ピィピィがサングラスのカロンから聞き出した情報を基に、とりあえず一旦住まいへとローラを案内する事にした。一晩で終わらないのであれば、幾日かはローラを匿う必要があると考えた為である。

 それと、


「それでは私は食事をご用意しますので、ピィピィさんはローラさんをお風呂に入れてあげてください。」


 ローラの格好がやや目立つと感じたのも理由の一つである。

 衣服がところどころ破けているのもそうだが、血と泥の汚れがよく見ると酷かったのだ。

 ピィピィが頷き、ローラを風呂場へと案内して行く。ローラの服を脱がし、ついでに自分も入るべく服を脱いで籠に放り込み、風呂場へと入ってから、ふと、吸血鬼に流水はどうなのだろうかとピィピィが考えたが、しかしピィピィの身体は脳で考え至るよりも先に動いてしまうタチであった。

 しかし心配は杞憂に終わり、ローラは特段気にする事も無くシャワーを気持ちよさそうに浴びる。

 髪や肌に付いた泥や血を落とし終えると、ローラの容貌はいよいよもって人間離れした美しさを持つ事がピィピィにも分かって来た。

 当のローラはと言えば、ピィピィの脚に興味津々と言った様子で、洗われながら積極的に触ったり観察したりしていた。


「義足、珍しいですか?」


「え、義足なのですか? ピィピィさんの思うようにきちんと動いているように見えますけれど。」


「神経が繋がっていますからね。」


「それは…とても、すごい技術なのではなくて? 触った感じも人の素肌と変わりありませんし。」


「実際スゴイ技術です。きっとこのステージではおいそれと手に入れられない代物でしょう。」


「貴重な物、なんですね。」


「とは言え、私の本来持っている脚はもっとスゴイ脚なんですが。これはスペアです。本当はもっとカッコ良くて強いんです。」


「これよりもっとですか?」


「ええ、これよりももーっと、です。」


 とは言えそれは壊されてしまい、今は修理する為の資金集めに来たという話は、すべきかすまいか。

 そう考えている間もローラは興味深そうにピィピィの脚を撫でる。

 思い立ち、ピィピィはジョイントを解除して右脚を外した。


「どうぞ、じっくりとご覧ください。」


 そう言って差し出された右脚を、目を丸くしながらローラが受け取る。


「ええと、どうして……?」


「着けたままでは撫でられるとくすぐったいので。予備はもう無いので、満足頂けたら返して貰えると助かります。」


「はぁ……その、接合部は濡らしても良いんですの?」


「後で乾いた布で、まぁバスタオルで拭けば良いので特に問題ありません。」


 目を丸くしたままで、しかしローラは手元の脚をまじまじと観察しながら、撫でまわしていた。













 すっかり綺麗になって出て来た二人を見て、リエはほっと胸を撫で下ろした。

 どうやら、リエも吸血鬼に流水はどうなのだろうかという思いに至っていたらしい。

 リエがミートソーススパゲッティをちゃぶ台の上に並べた際にフォークが足りない事に気付いたが、しかしその時には既にピィピィは自前の箸を手に持っていた。

 全員が食卓に着くと、ローラとリエはそれぞれ恐らくは別々の神に祈りを捧げ、ピィピィは頂きますの挨拶をてんでばらばらに行う。

 それに気づき、全員が吹き出すように笑った。


「どうでしょうか、お味のほどは?」


 食べ始めてすぐ、リエが心配そうに二人に問う。


「とても美味しいですよ。」


 ローラはそう言ってすぐにまた食べるのに戻る。ピィピィの方を見れば、右手の親指を上に向けながら左手に持った箸を止める事無く食べ続けていた。


 食べ終えた後、三人は今後の行動について話し合う事とした。

 先ずは標的の居所への経路を探し出さねばならない。ピィピィはあえてサングラスのカロンから伝えられた情報を一切包み隠さず話す事にした。

 ピィピィから見て、リエは装備やステータス、身のこなしこそ一流であるが、しかし本当にこういった物とは無縁で今まで過ごして来たのだろうと思えた。

 一応、そういったプレイスタイルも存在する。初心者の頃からある程度の実力を持った人たちのグループに入り、大会をハシゴし続ける、といった具合である。

 つまりこの場のカロンは二人ともに、こういったイベントに関して全く造詣が無いのである。

 であれば、クリアの為には何をしても全く構わないだろう。いっその事、経験者を誘うというのも手ではあったが、しかしピィピィにはその心当たりが、あるにはあったがこれ以上の迷惑を掛けたくない相手だった。

 対してリエもまた、ピィピィの睨んだ通りにこういったイベントへの参加はほとんど初めてであった。ほとんど、と言うのは彼女が以前に所属していたグループで参加した際にはリエは戦う事だけに集中していた為である。彼女のグループメンバー達もリエを話しに混ぜようと色々とアプローチはしていたのだが、襲撃頻度が余りにも高く、リエの防御力を頼る場面が多かった為に断念せざるを得なかった。

 その為、ピィピィが半ばネタバレのような内容を聞いて来た事に関してはやや思う所はあった物の、それを共有するに当たっては特に反論は無かった。リエ自身、己の経験不足は身に染みて分かっている所なのである。


 と、情報の共有を終えた所で、ピィピィとリエの二人の会話が途切れて、リエは鎧を着装し、ピィピィはひび割れたのっぺらぼうのような仮面を身に着ける。

 何事かと声を出そうとしたローラの口元をリエが片手で押さえ、そのまま静かにするようハンドサインをすると、ローラも二人に倣って息を殺して気配を探り始めた。


「……三人、でしょうか?」


「恐らくは。窓も扉も見張られています。」


 ピィピィの仮面の割れ目から緑色の電子光が走る。ピィピィの仮面はオカルティックな外観をしているが、その実はそれなりに高性能なサイバーゴーグルの一種になっており、それによって周囲をX線走査によって壁越しに見る事が出来るのである。

 リエもフルフェイス型のヘルメットを展開装着しつつ、ローラを脇に抱き寄せる。


「敵が動くのを待ちますか?」


「いいえ。迎撃の為の機能はこの家にはありません。何よりそうなると、家が荒らされてしまいます。」


「であれば、討って出ますか。どちらが手薄か、分かりますか?」


「分かりません。ですが勘ですが、窓側の方が多いかと。扉側は狭い廊下になっていますから。」


「欄干下や対面の建物屋上は……なるほど、確かここの欄干は鉄筋コンクリートの分厚い物でしたね。屋根も張っていますし。」


「そう言えばそうでしたね。すいません、半ば以上本当に勘で喋ってました。」


「え、ああ……それで、どうしますか?」


「まず、窓の鍵を開けます。次にリエさんはローラさんを連れて玄関から外へ。私は窓側の敵に対して攻撃を加えます。」


「大丈夫ですか? その……」


「ちょっと突いたらすぐに逃げます。相手のアビリティが集団移動系であればちょっとした絶望感を味わうだけです。それに、恐らくは移動系では無いでしょう。」


「その根拠は……まぁ、そうですね。もし集団移動系であれば。」


「そう。」


「「既に攻撃を掛けて来ている。」」


 二人の声が完全にユニゾンする。二人はお互い、表情の見えない仮面の奥で微笑み、頷きあった。

用語解説:エリア

クロスタイドには無数の世界が存在する。それらを指してエリアと呼ぶ。我々にとっての現代風のエリアや、剣と魔法と魔物のファンタジー風のエリア、核戦争で滅びたポストアポカリプス風のエリアや、永遠の冬を熱蒸気機関技術の力で生きるスチームパンク風のエリア、星々を繋ぐハイウェイに暮らすスペースオペラ風のエリア等、多種多様なエリアが無数に存在する。

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