ニードル・アンド・シールド・アンド・ポイズン#1
深夜、草木も眠る丑三つ時。
割られた窓から重金属酸性雨が吹き込むオフィスに、フードを目深に被ったパーカーの少女が一人立つ。少女の脚はサイバネティクスに置換されていた。
周囲に転がっているのは、そのオフィスで今日のアガリを計算していたヤクザの死体。いずれの死体にも急所に、ナイフほどの大きさのタタミ針が突き立っている。
少女は机の上から血に濡れた紙幣を無造作に掴み取ると、それをパーカーのポケットへ入れた。
室内を素早く見回す。扉が二つ。近付いて来る足音は五つ。
他に盗れそうな金目の物は無い。
少女は両手の中にタタミ針を生成し、扉の片方をじっと睨みつける。
扉が開け放たれると同時、タタミ針を投擲。先頭に居たヤクザの眼球を貫通、そのまま頭蓋骨を貫き即死せしめる。
そのまま後ろから続いて来るヤクザにもタタミ針を投擲、今度は喉を貫き頸椎を破壊。即死せしめた。
しかしその更に後方のヤクザが発砲、少女はサイバネ脚の脚力でそれを辛くも回避。
そこにもう一つの扉が開け放たれて更にヤクザがなだれ込んで来る。
ヤクザが少女を視認、即座に発砲。
ギリギリ身を屈めてこれを回避するも、フードを掠めて顔が露になってしまう。
屈めた身体のバネを使って少女がバク転を決めながら窓から飛び降りて行く。
その顔は、ひび割れたのっぺらぼうのような仮面に隠されていた。
サイバネ脚の脚力で何とか追跡を振り切った少女は、別のビルの屋上、貯水タンクの下で雨宿りをしながら先程手に入れた金を数えていた。
「いち、にい、さん、しい……えへへ、やっぱりきちんと狙えば襲撃だけでもそれなりに稼げるなぁ……♪」
上機嫌に紙幣をポケットへ捻じり込みつつ、穴の開いたフードに手を触れる。
すると、穴は見る間に小さくなり、少女が手を離した頃にはすっかり塞がっていた。
少女が立ち上がろうとして貯水タンクに頭をぶつけて数秒蹲ってから這い出すと、その目前に何者かが立ち塞がる。
「ドーモ、ピィピィ=サン。デビルフィッシュです。」
立ち塞がった細身の男がピィピィと呼ばれた少女にお辞儀を決める。
少女もそれに応え、お辞儀を返す。
「ドーモ、デビルフィッシュ=サン。ピィピィです。」
挨拶終了後1秒足らずの間にピィピィがしゃがむと、その数瞬前に頭部があった場所をデビルフィッシュの足が通過、貯水タンクに巨大な穴を穿つ。
ピィピィはそのままクラウチングスタートの要領でデビルフィッシュの懐に潜り込むようにギリギリの位置を通過し、ビルの淵から強靭なサイバネ脚の脚力を用いて大きく跳躍、通りの向こうのビルへ飛び込まんとする。
貯水タンクを破壊したデビルフィッシュが振り向き、懐から巨大なマグナムリボルバーを取り出して、空中のピィピィに向けて発砲。
ピィピィは辛くもそれに反応、しかし出来た事はサイバネ脚でその破壊的威力の弾丸を受け止める事のみであった。
「いっだあああぁぁぁぁぁぁ…………」
空中でバランスを崩し、軌道が逸れたピィピィはそのまま通りの向こうの裏路地へ落下して行く。
それを見届けたデビルフィッシュは小さく舌打ちをすると、ピィピィが落ちたであろう場所へ向かう為にビルの内階段を駆け下りるべく建屋の中へと消えて行った。
名鑑№5
ピィピィ:ひび割れたのっぺらぼうのような仮面と黒いパーカーとサイバネティクス置換された両脚が特徴の少女カロン。物質生成系統のアビリティによって毒針を生成して投げ付けて攻撃するが、カモにしている敵MOBは基本的に針を急所に撃ち込まれれば即死する為、毒の意味はあまり無い。