第8話 1人のドワーフとの出会いと新たなスライム登場
「レミア、それは俺の荷物だから持たなくても大丈夫だから」
「いいえ!これ位の荷物でしたら私が代わりにお持ちします。御身に何か有れば死んでも死に切れません」
行き倒れになりかけていた所を救ったり、村を助けたりした縁でレミアというシスターの娘が護を現人神として崇めて後を追ってきてから数日が経とうとしていた。レミアにこの国の大臣を倒しに行くので危険だからツオレに戻る様に言うと
「戦う事は出来なくても背後から人が来た時に知らせる事位は出来ますから、このまま傍に置いてください」
と拒否される、出会った際に着ていた修道服やローブは既に遺棄したそうで理由を尋ねると
「これまではこの世界の神々に祈りを捧げてきましたが実際に救ってくださったのは現人神である護様です。ですから、あなたに祈りと私の全てを捧げ御仕えするのです」
結局、修道服を捨てた理由はさっぱり分からないが汚い格好で居ると主(護)の恥になるから普段着で今後は生活するそうだ。
「そういえば、まだお礼を言ってなかったな。レミア、ありがとう」
「急にお礼だなんて、私が何かしましたか護様?」
「ほら、この国と首都の名前を教えてもらっただろ?」
「ああ、国名のスルファムと首都のアセスですか。この程度でお礼を言われるなんて恐縮します」
「あとは大臣を倒すと言いながら反対方向に向かっていた事に気付かせてくれたのが1番大きいかもな。首都のアセスが山脈を越えた先だったとはね・・・」
レミアから教えてもらったのだが、この国の名前はスルファムといって首都のアセスは最初に立ち寄ったフェスの村の北に在る山脈の反対側の町を更に北上した場所に在るそうだ。フェスの村人が最北端の村と言っていたのは誤りだが、これ以上北に進む事が出来ないのでわざとそう言って南下させたのではないかと話していた。
少しずつレミアと打ち解けながら進んでいると道の脇で物凄い勢いで飯を食べている背の低い男の姿が有った。確かこの辺りはレミアと出会う前に賊に絡まれた場所の近くだよな?
「こんにちわ、この付近では賊が出てくるので目立つ場所で食事をしていると見つかっちゃいますよ?」
「ほう、それは良い事を聞いた。いやな、この少し先で大量の穀物が捨てられていたのを見たら腹の虫が鳴り出してな。我慢出来ず、それを使って腹を満たしていた所だったんだがマズかったか?」
「いえ問題無いですよ、その穀物の山の下で人が埋もれていませんでしたか?」
「地獄に落ちているであろう賊共の死体なら確かに有ったが、なんじゃお前達が倒した連中だったのか?」
「実はそうなんです、もし運良く生き延びていたらその穀物でも食べて飢えを凌ぐ様に言っておいたのですが声は既に届いてなかったみたいですね」
返り討ちにして命を結果的に奪っておきながら、飄々とした態度で話す護を見て男は大声で笑い始める。
「ガハハハハハ!相手が賊とはいえ人を殺しておきながら、何事も無かったかの様に話せる者はそうはおらん。面白い奴だ気に入ったぞ、わしの名はマルト。ドワーフで防具専門の鍛冶をしておる。お前の名は?」
「俺は神守 護、まあ色々と有ってこの世界を混乱させる者を退治する様に言われて旅をしている異世界人だ。そして、この隣に居るのは俺のパートナーで元の世界の神が憑依したスライムでアマテラスっていうんだ」
「ほほ~異世界人とな?この国の住人とは違う服装をしていたのはそれが理由か」
「見ている所は見ているんだな」
「無論だ、そんな貧弱な軽装で旅をするのは頭のイカれた奴らばかりだからな。じゃあ、お前がわざと残した穀物を食べてしまった謝罪の代わりに何か簡単な防具でも作ってやろう」
マルトはそう言うと、横に置いていたリュックから鋼板1枚と動物の皮を取り出した。そして護達の目の前であっという間に1つの胸当てが作られる。
「ほれ、せめて心臓だけでも守っておけ。目検討でサイズを合わせたがきつかったり緩かったりしたら自分で調整しておけよ」
渡された胸当てを身に付けると、サイズ調整の必要は全く無かった。
「凄い、サイズ調整の必要なんて無い。良い目を持っているんだな」
「なあに、それだけの数をこなしてきただけだ。褒められる様な事じゃない」
「そういえば、マルトさんはどうしてこんな所に居るのかな?」
初めて会ったドワーフの目的に護は興味津々だ。
「なあに、この先の山脈にな良い鉱石が有ると聞いて鍛冶屋の血が騒いでな。鉱脈の近くに山小屋でも建てて住もうと思ってきたんだよ」
すると、アマテラスが護に話しかけてきた。
「あの護さん、製鉄と鍛冶の神である天目一箇神が手伝いたいと言ってきたので出しても良いですか?」
「ドワーフのマルトさんと気が合いそうだな、別に構わないよ出すといい」
「ありがとうございます」
そう言うと、アマテラスは新たなスライムを生み出した。
エントリーナンバー7番
天目一箇スライム(製鉄の神・鍛冶の神)
製鉄・鍛冶の神である天目一箇神が宿ったスライム、岩戸隠れの際に刀斧・鉄鐸を造った逸話を残している。自らの身体を熱して高温での体当たり攻撃を得意とする。
(自分から高温になるとは体当たりする前に自爆するのがオチだな)
説明を見る限り、自爆しか出来ない様に見えた。しかし天目一箇スライムは自爆すると大量の鋼や鉄鉱石を周囲に降らせる事がこの後で判明する。
「我が名は天目一箇、鉱脈を探す手伝いを我もしたいと思う。護、すまないが山脈を迂回せずにこのまま進んでもらっても良いか?」
「それで鉱脈を見つけてあげたら、引き返せば良いのか?」
「山を越える方が早いのだろう?だったら、越えられる様に山の一部を我々の力で砕き道を作ればいい」
スライム達の自爆による道の造成・・・護はその作業内容に不安を覚えた。