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第7話 神獣、大気都姫スライム?

「そんなボロボロの格好で礼拝に向かうのは無理だよ、行くのはまた後日にしておくべきだ」


「それは出来ません!ツオレの村はここ数年作物があまり取れず徐々に村人も飢え始めようとしています、このままでは餓死する者も出るかもしれません。ですから私は村の為に神に祈りを捧げに行こうとしていたのです」


「だけど、実際君は俺達が出くわさなければ栄養失調で死んでいたかもしれない。最初に餓死していたのは君かもしれなかった事を理解するべきだ」


「ですが・・・神に祈りを捧げる事位しか出来ない私が村の為に何が出来るのでしょう?」


「俺達を連れていく事かな?」


護の言葉にレミアは最初意味が分からないといった表情を浮かべた。


「あの、おっしゃっている意味が分からないのですが?」


「俺達をそのツオレの村まで連れていってくれないか?そうすれば、誰も飢えずに済むからさ」


「嘘や冗談で言っているのならば、今の内に謝れば許してあげますよ」


「大丈夫だから、俺達を信用して欲しい」


レミアは疑いの眼差しで護を見た、しかし自信満々の護はその事を気にする様子も無くレミアに村まで案内させた。村に入ると、村人達がレミアの顔を見ると集まってきた。


「レミア!急に村から居なくなって心配していたんだぞ!?」


「家のテーブルに麦などの種をたくさん入れた袋を置いて『これを来年植えて下さい』なんて置手紙を残すなんてお前は自分を犠牲にし過ぎだ!」


「ところでレミアの後ろに居るあんた方は一体何者だ?」


「俺はスライム使いの冒険者で神守 護。そしてこれが俺のパートナーのスライムで名はアマテラスだ」


「初めまして、アマテラスと言います。どうぞお見知りおきを」


「ス、スライムが喋った!?」


アマテラスが話す事に驚いた住人達は肝心の事を聞くのをすっかり忘れていた。


「俺達はさっき偶然だけど彼女が倒れている現場に居合わせたんだ、軽い栄養失調を起こしかけていて俺達が来るのが遅れていたら死んでいたかもしれない。そしてこの村の為にロレッツまで礼拝に向かうと言い張るから俺達が何とかしようと思い、こうして連れてきてもらった訳だ」


「レミア!」


住人の女性の1人がレミアに詰め寄ると平手打ちを放った。


「あなたがこの村を誰よりも愛している事は住人全てが知っています、だけどこの村の為にあなたが全てを犠牲にする必要は無いのよ!あなたの命はあなただけの物なの、これからは絶対に命を粗末にしないって約束して!」


「ごめんなさい・・・ごめんなさい」


打たれた頬に触れながらレミアは涙を流して心配を掛けた村人全員に謝罪した、それを見て本当に助けて良かったと思う。




「ところでレミアから聞いたのだけど、この村の畑の作物が徐々に取れなくなっていると聞いたのですがそれは本当ですか?」


「ああ、本当だ。麦は実が徐々に細くなり実がならないのも最近では出てきている。神への感謝の気持ちが足りないからだとこの村に立ち寄られた神父様は言っていた」


「畑を見せてもらってもいいですか?」


「ああ、構わないが何をするつもりだ?」


「それは実際に見てから決めます」


畑を見せてもらうと予想していた通り土が痩せていた、連作を繰り返してきたのが原因だろう。


「これは神への感謝の気持ちが足りなかったのでは無く、同じ作物を作り続けた結果土地が痩せてしまったのが原因です。同じ作物を繰り返し植えない様にする事で改善する事が出来ます」


「何だって!?一体何をすればこれまで通りの収穫に戻せるのだ?」


「まず麦などの作物を収穫したら、翌年は畑を耕して1年間土地を休ませておきます。更に翌年に備えて牧草などを植えておくと尚良いです」


村人達が耳を傾けているので続きを話す。


「そして収穫して2年目に家畜をその畑で放し飼いにします、家畜は草を食べて糞をしますがその糞が畑の肥料となるのです。そして3年目で再び作物を植えて収穫したら、土地を1年間休める事の繰り返しです。たったこれだけで畑は痩せ衰えずに済むようになります」


「そんな気の長い事を待っていられるか!俺達はもう既に飢えようとしているんだぞ!?」


「ですよね、だからこれから十分な量の穀物を出すのでそれを食べて来年以降に備えてください」


「出す?どこから!?」


「皆さんの目の前に出しますから、少し離れてください。爆風に巻き込まれますよ」


護は土地が痩せて使われていない畑の真ん中で大気都姫を自爆させると穀物の山が出来上がった。使われていない畑がもう2ヶ所在ったので更に2ヶ所で同様に自爆させ大量の穀物支援を行う。


「これだけの量が有れば飢える事も無いですし、籾殻を畑に撒いて肥料にする事も出来ます。あとはもう少しだけ畑の面積を広げておけば、さっき言った畑のローテーションもやれると思うので大変かもしれませんがお願いします」


「お前達、いえあなた様方はどうしてここまでしてくださるのですか?」


「自分が飢えて死ぬ事も気にせずに村の為に何かしようとするレミアを放っておけなかったのと、自分が居た世界では『困った時はお互い様』って言葉がありますので」


「どんな意味があるのですか?」


「困っている人を助けておけば、後日自分が困った時にその人が手を差し伸べてくれる。因果応報じゃないですが、何かをすると必ず同じだけの報いが返ってくるという意味に近いかもしれませんね」


『困った時はお互い様』、この言葉を村人達は気に入った様でその後行き倒れそうな旅人等を見つけるとこの言葉を掛けてから十分な食事と休息を与え送り出し始めた。その後、救われた旅人達の口伝てで多くの人にツオレ村の存在が広く知れ渡ると移住してくる者や人の往来も徐々に増え村も栄える様になった。




穀物を来年以降の為にある程度の量を残していくか、全てを食い潰すかは村人に任せよう。護はこの村での役目は果たしたと判断してアマテラスと立ち去ろうとした、すると村人達が大慌てで護達を呼び止める。


「お待ちください!これほどの事を成し遂げてくださった方に何のお礼もせずに去られては我々の立つ瀬がありません。ささやかな酒宴ですが用意をさせますので、感謝の気持ちとしてお受け取りください」


「そこまで言われて断るのは失礼だから、ありがたく受け取らせて頂きます。あと一晩の宿をもし借りれるならお願いしてもいいですか?」


その日は遅くまで護は村人達から酒を振舞われ、感謝の言葉を掛けられた。またレミアからアマテラス達が異世界の神が憑依した姿だと分かると村人の間で何故かスライムをモンスターから神を宿す事が出来る獣、神獣として祭り上げられる事となった。大気都姫スライムは村を救った神としてその名を残し、後日石像まで建てられて恥ずかしがるのは余談である。




翌朝、目が覚めた護は教会の中に居た。レミアが普段生活していた教会で寝させてもらった事をぼんやりと思い出していると、私服姿のレミアが護に気付き慌てて近寄ると仰々しく跪いてこう言ってきた。


「昨日は私だけでなく村を救って頂き、真に有難うございました。先日アマテラス様方は神の憑依した姿と言われましたが護様ご自身も私が捧げていた祈りに応え、天から贈られてきた現人神様に違いありません。これより身も心も全て捧げ生涯仕える所存、傍に置いてくださいますようお願い致します」


護はどうやらレミアの目に神そのものとして映ってしまった様だ。レミアは教会を引き払うと村人達と別れを済ませ護達の後を追って行動を共にする事となった。

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