少年冒険者にアフレコしてみました〜異世界風景を動画投稿する私
動画サイトの話を見ていて作ってしまいました。ありがちな話ですが宜しければお読み下さい。
「あ〜今日の仕事もきつかったなぁ。事務だと聞いて入ったのに、やる事は結局お茶汲みとお客の相手ばかりだもんな〜」
古アパートに帰り、台所で水でうがいをしてから冷蔵庫の中からビールを取り出す。
昔はちゃんとコップに入れていたけれど、今では直飲み上等です。
取り敢えず服にシワがつかないように壁に掛けたハンガーに通すと、上はTシャツ、下は短パンという人様には見せられない格好でビールとおつまみで夜食を食べ始める。
「う〜ん、やっぱり普通の投稿じゃ再生回数は上がらないわね。ここは一つ冒険して見るか?」
昨日投稿した動画は今の所やっと二桁という有様だ。
現在OLという名の実際は会社のヘルパーさん状態にストレスを溜めてしまい、投稿サイトでデビューしてみたものの、只の女性でしかない私の『歌ってみました』動画程度では皆さんのハートは掴めないようだ。
「でも流石に顔出しはしたくないしな〜」
おつまみのイカを齧りながらビールを飲んでる私に人様を魅了する程の美貌も無ければ声が良いわけでもない。
「巷で好評なバーチャルキャラに声当てでもしてみようかな?」
おっさんがバーチャルキャラの声当てであれほど受けるのだ、自分も何か声当て出来るキャラでもいれば面白く出来る…はずだ !
「んーいい感じの素材は無いかな?」
ネットで色々探して見るが、やはり目立つものは大体人が既に使った後だ。
「大体、社長も私の事を適当に使い過ぎるのよ ! こちとら三年間も色々な部署に回された挙句、何で忙しい所の部署ばかりヘルプする羽目になるのよ ! 」
大分お酒の回ってきた私にもはや怖いものなど何も無い。
「こうなったら、社長に直談判でもして給料を上げて貰うんだから ! 目指せ、脱ブラック現場 ! 」
後で考えたらどうしてそんな事をしたのかは分からないが、その時の自分にはそれが正しい事だと思っていたのだろう…
「こうなりゃヤケだ ! パソコンのカメラで何か写して『吹き替え』してやる ! 」
かくして私はノートパソコンのカメラ機能をオンにして、外に動画の素材を撮りに行こうとした。
「あれ ? 何で画面に子供が写っているの ? 私何処かの動画でも見るようにしちゃったかな? 」
パソコンの画面には何故か自宅が映らずに一人の少年が暗い石で出来た通路を歩く姿が、写っていた。
少年はまだ十代前半ぐらいか?ボサボサな金髪に、ソバカスの残る鼻元…目は青くて、それだけなら外人さんで済むのだが鎧や剣を装備して片手に松明のような物を持ち歩いている。
指が勝手に録画ボタンを押した事にも気付かず、その画面をずっと眺めていた私だが変な事に気付いてしまう。
「このカメラの人どうやってこの子を取っているのかしら ? 」
勝手にフレームが大きくなったり、場所場所でカメラの場所が変わったりと、一人では到底出来ない動きが行われている。
「まるで映画みたいだな…いや映画なのか ? 」
そう考えると納得出来てしまい、私は気軽にこの少年の冒険を楽しむ事にした。
「駄目だって ! そんな弱腰じゃやられちゃうわよ ! 」
石の通路を慎重に歩いていた少年だが、通路の前から『何か』が少年に襲い掛かってきたのだ !
1mにも満たない背丈なのに、更に身を屈める生き物は棍棒を持って少年に襲い掛かる。
腰の引けた少年は顔を強張らせながらも右手に持った剣でその棍棒を打ち払う。
少年の間近まで来た生き物にカメラは焦点を合わせる、髪のないつるりとした頭、目は大きいのだが白い部分しか見当たらない、おまけに乱杭歯で肌の色が緑ときたもんだ。
「これゴブリンって奴なの ⁈ 」
予想以上に醜い姿に私の思考は止まってしまう…それでも画面の中では少年とゴブリンが剣を振るい、棍棒を振り回し、必死になって戦っている。
「うわぁ…この映画リアル過ぎて戦い方が生々しいよぉ…」
蹴りや噛みつきなどまで飛び交って来た戦闘は、最後に少年の剣がゴブリンの首にたまたま当たり、終わる事になる。
「あれ ? 血は出ないんだ…それどころか死体が消えていく ⁈ 」
少年の一撃で戦闘が終わるとゴブリンは光の粒子となって消えてしまう…後に残った黒い石と、棍棒を少年は背中に背負った袋の中に入れ、代わりにこ 腰に付けた袋から水を飲んでいた。
「なるほど〜やっぱり戦った後は疲れるわよね。こういう所はリアル志向なんだ」
映画にしては細かい所まで描写するなと思いながら少年を応援する私。
そして少年は闇に包まれた石の通路をまた一人で歩き始めたのであった。
あの後、少年は二度ほどゴブリンに襲われたが前より動きがよくなっているのか楽々と倒す事が出来た。
「この辺はやっぱり映画よね。一回戦った相手には時間なんてかけられないもんね」
イカが切れたのでビーフジャーキーでビールを飲みながら戦闘を見終わる私。
大分石の通路を進んで来たのに未だに少年は帰ろうとはしない。
「ゲームとかだとボス戦があるんだけど映画だとどうなるのかな?」
二本目のビールも半分程飲み干しながら単調な石の迷宮を眺めていた私だが少年の動きに変化が出て来たのを見て画面に意識を戻す。
「あれ ? 石の色が変わった ? って事はそろそろボス戦ってやつなの ⁈ 」
少年の動きが更に慎重になり、辺りを警戒しながら先を進む画面の先に大きな扉がズームされていく。
「おおお ! 遂にボス戦キター ! 少年頑張れよ ! 」
実況動画でも中々無い緊張感が漂い出し私の興奮もうなぎ上がりだ。
少年は慎重に扉を開け、中を松明で照らす。
その瞬間、扉の中の部屋が光り出し部屋の奥から今までとは違う生き物が少年へと迫って来た !
「ふわー ! 本当にボス戦だ〜…って大きい ? かなり大きいよ ? 」
少年の前にまで来た生き物にカメラはズームされるが明らかに少年より大きい背丈に分厚い筋肉、身体こそゴブリンだがそのサイズはあまりに違い過ぎる !
「うわー ! ボスゴブ大き過ぎ。これ少年本当に勝てるの ? 」
少年が剣を構えると同時にボスゴブも両手に穴を構える。
少年はボスゴブの手足を狙っているが、ボスゴブの振るう斧が辺りを薙ぎ払う勢いで振り回される為に、中々間合いに入らない。
「汚いぞーもっと優しく相手しろー ! 少年が半泣きじゃないか ! 」
少年の目尻りには確かに涙が見え、振り回す斧を避けながら隙を伺っているが無尽蔵な体力でもあるのかボスゴブは遂に少年を壁にと追いやってしまう。
「う…少年にはまだ早かったのかな ? 今回は負けイベントってやつか…残念だったな…」
ニヤリと笑うボスゴブの上段からの斧を見ながら私は諦めて三本目のビールを口に運ぶ。
斧が少年に振り下ろされた時、少年は松明をボスゴブの顔にと投げる ! ボスゴブも予想外だったのか顔に松明の火を喰らい悲鳴をあげて両手で顔を覆う。
その時をずっと待っていたのだろう…少年は剣を蹲る相手の首に振り下ろし、その刀身が半分程ボスゴブの首にめり込んだ時にボスゴブは光りの粒子となって消えていった…
「マジかー ⁈ あそこから逆転するのか ! …最後まであの子は諦めていなかったんだな…」
ボスゴブの残した大きめな黒い石と斧を背中袋に括り付けていると部屋の奥に光る紋章のような物が現れる。
少年は躊躇なくその紋章よ上に乗り、少年の体は幻のように消えていってしまった…
「はぁ………見応えのある映画だけど心臓に悪いよ。まぁ…楽しめたけどさ」
私はビール缶や食べ物の袋を纏めてゴミを分別し部屋を掃除する。
何も映らなくなったパソコンの録画ボタンを停止して、用意してあったお風呂に入り、温まった体で布団に入り気分良くその日を終える事にする…
「マジで録画出来てるよ…しかも少年の声以外、音まで入ってるし」
呆然としながらパソコンに録画された画像を見ている私。
朝起きて、夢だったと思っていた風景が現実にパソコンのデータとして残っている現状…しかも私が望んだ吹き替えが出来る素材…
「これはやるしかないでしょう ! 」
良く『歌って見た」を取る為に訪れるカラオケボックスにパソコンと外付けハードディスクを持って入店する。
「おや ? いらっしゃい。今日も一人で歌うのかい ? 」
一人でよく来る為に覚えてられてしまった店の主人に頭を下げると、半日ほど
使うようにお願いする。
「今日も頑張るんだねぇ…喉を壊さないようにね」
優しい店主に見送られながら部屋の中に入る。
ここの防音はかなりレベルが高く、全く他の音が入らない為選んだお店だ。
飲み物と摘む物を頼んだら、楽しい『声当て』の始まりだ !
何回もやり直し、納得出来る声当てが終わったのは夕暮れ時だった…
「今日はありがとうございました」
ニコニコ顔の私に、店主も頰を緩めて別れの挨拶をしてくれる。
家に帰るとこれからは動画の編集だ。
最大でも30分程度にしたいので、洞窟を歩くだけの場面は極力削っていく。
声も多少は変調させ、タイミングを取りながら何回も見直して一番良いタイミングを見つけていく。
こうして私の土日の休日は終わっていった。
私は投稿のボタンを押す所でずっと固まったままだ。
これを投稿すれば今よりは間違いなく再生数は稼げるはずだ。
だが、これは私は声を当てただけの仕事しかしておらず、たまたま手に入れた素材の力が大きい動画だ。
私の力で作った動画とは到底言えないこの動画を本当にあげてもいいものか…
「でも、少年の勇姿をみんなにも見てもらいたいのよね…」
一息ついたから私は動画を投稿する。
題名は『少年冒険者をアフレコしてみました』だ…
最初の一日目は対して再生回数は上がらなかった。
そのせいで安心して動画をあげた事をすっかり忘れて、日々のブラックヘルパーとして忙しい毎日を過ごしていた。
一週間ほど過ぎて1000回は回ったかな ? と軽い気持ちで動画の再生回数を見てみると
100万回を超え、更に数字は上昇していた。
その日のビールは最高だった。
おしまい。
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『ゲームキャラのツルペタエルフ幼女となった主人公は異世界で生きていけるのか?〜無課金プレイヤーが送るエルフ幼女の異世界生活』
と、いった小説を投稿しています。
良ければご覧ください。




