十月 ハロウィン
オリジナル短編シリーズ
『山田さんは告らせたい!』の第七話です!
毎月1日に短時間でサクッと読めるお話をアップしていきます!
山田さんや山崎くんたちのどこにでもありそうなささやかな青春物語をお楽しみください!
「うーん。やっと終わったぁ!」
「終わったね。お疲れさま」
終業のチャイムが鳴ったのを合図に一つ前の席に座る山崎が一際大きく背筋を伸ばす。これで二学期の中間試験も全科目が終わったわけだからその気持ちはよくわかる。
「やっほー。二人ともテストどうだった?」
「あ、カナ。私はまぁまぁってところかな」
店長の計らいでバイトの量も少しだけ減ったし。その分をテスト勉強に当てられたのは大きかったと思う。
けど、
「あ、あれ? 山崎どうした? 窓の外なんて見て」
「俺もあの自由な鳥になりたい」
「山崎? ちょっと山田、何かあったの?」
「あはははは……」
実のところ私は知ってる。
今やっていた数学は主要五科目の中でも特に山崎が苦手にしていること。制限時間の半分以上を残して既に手を止めて窓の外を眺める回数が増えていたこと。最終的に答案用紙を全部埋める努力はしていたみたいだけど、あの表情を見る限り結果は芳しくないのだろう。
「よーっす、山崎! どうだった?」
「タケルこそどうだったの? 見る度に鉛筆転がしてたけど?」
「見られてたのか!」
「まったくあれほど一緒に勉強会やってたのに何を勉強してたんだろうね?」
「俺はもっぱらの文系男子なんだよ!」
「そんなこと言って英語のときも鉛筆転がしてたじゃん」
「ちょ、カナちゃんどこまで監視してんだよ」
うちのクラスが誇る仲良しカップルは今日も平常運転だ。
その仲良しカップルのタケル君が逃れようと話題を逸らす。
「ま、まぁテストなんて嫌でも来週には返ってくるんだしさ。今は楽しいことを考えようぜ!」
「楽しいことって?」
ふと、我に返って不思議そうに訊き返した私にタケル君は含みのある笑みを作ってみせる。
「今日このあとカラオケ行こうぜって話! ね!」
「そゆこと。なんでも駅前のカラオケ、期間限定でハロウィンイベントやってるんだって」
「ふふん。しかも今の期間限定でセブンストーリーズのグッズがもらえるらし――」
「本当に!」
「食いつき早っ⁉」
確かセブンストーリーズってこないだ一緒に買いに行ったゲームだっけ。あれからしばし山崎との会話で話題にはなっているけれど、いまいち私にはわからない領域。ハロウィンと何か関連があるのかな。
「しかも……」
特典の話に盛り上がっているメンズとは別に、カナがそっと顔を寄せ、
「カップルでの来店でハロウィン特製のプリンアラモードがなんとタダ!」
「うそ⁉」
あのカラオケ屋さんって他に比べて豊富なデザートメニューとそのクオリティが売りだけど、結構割高で手が出せなかったのに……それが。
「タダ……」
「決まりだね」
「まぁ別に今日は何も予定なかったし。私はいいよ」
それに山崎とカラオケって初めてだし。
「じゃ、混む前に行くよ! 善は急げってね!」
「おう! 特典がなくなる前に急ごう!」
お気楽な男子二人に連れられるようにカナと私もその後に続く。
「山田、あくまで今日は山崎とカップルだからね!」
「う、うん」
改めて言われると余計緊張する。
そんな私の心を知ってか知らずか、
「ま、傍から見れば普段から二人ともカップルにしか見えないんだけどね」
まるで笑い話のように茶化すカナを前に、
「が、頑張ります……」
全身の体温が上がりっぱなしの私はそう小さく答えるのが精一杯なのだった。
( 十月 終 )