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山田さんは告らせたい!   作者: 香蕉みるく
1/12

四月 新学期

オリジナル短編シリーズ

『山田さんは告らせたい!』です。


毎月1日に短時間でサクッと読める短編をアップしていきます!


山田さんや山崎くんたちのどこにでもありそうなささやかな青春物語をお楽しみください!


   ●四月 新学期


今年の春休みも短いようで長かった。なんて感覚も三回目にもなればすっかり慣れてしまった。

ましてや今回の休みはバイトバイトバイトのバイト尽くしでお金と引き換えに大切な青春の一ページを失ってしまったような気がしてならない。

けど、それで悩むのも昨日までの話。

 だって、今日は――。

「おはよ! 山崎!」

 去年とは違う教室にこれまた去年とは違うクラスメイトの顔ぶれを見れば自ずと今日からまた新たな一年が始まることを実感する。

「ね、山崎ってば!」

「んん……」

 窓から見える景色は変わったけれど、三年間変わらなかった景色もある。

 つんつん、とすぐ目の前にある真っ黒な丘を突いてみるも反応が薄い。

「また同じクラスだったね! これで三年連続」

「ん……山田さん? あ、また山田さんなんだ」

 机に突っ伏していた山崎は明らかに眠そうな欠伸を漏らしながら振り返った。

 彼のことだから現実逃避からか春休み最終日をぎりぎりまで堪能していたのだろう。その証拠に目の下にはくっきりと隈が控えている。

「えーまたって何? 不満なの?」

 私的には隈なんかよりもそっちの方が気になってしまう。

 別に怒っているわけじゃない。これが普段の何気ない日常の一ページなのだ。

「ごめんごめん。良かったよ。山田さんがまた後ろで」

「ホントかな? じゃあ私が後ろで良かった理由を五文字で説明して」

「え、ご、五文字? 何それ?」

「いいから、いいから! 私を喜ばせれたら購買のジュース!」

「奢ってくれるんだね? 乗った!」

 つくづく勝負事が好きなのも三年間クラスメイトをしていれば当然知っている。

 眠たげだった瞳にはわずかに生気が灯り、かと思えば真剣な眼差しで指折り数えて短文作りに取り掛かってしまう。

「ま、いっか」

 大事なのは会話を続けることじゃない。顔を合わせるきっかけなんだってあれから三年目を迎えた私はもう知っているから。

「ね、山崎まだ?」

「ん……もうちょっと」

 このやり取りもこれで何度目だっただろうか。

 クラス発表、始業式、担任発表からのホームルームまで終わってしまい新学期一日目はこのままお開きになる。

 それでも山崎はたった五文字を捻り出すのに真剣で、出題した私の方が先に諦めを覚え初めてしまう。

「山崎? もうギブアップでいいんじゃない?」

 そろそろバイトの時間がちらついてくる頃合いだ。

 私のそんな事情を知ってか知らずか百数十円のジュース一本にあくまで真剣な山崎は自分の指を何度か閉じては開いてを繰り返すとしぶしぶと言った様子で頷いた。

「また明日!」

「え……? ま、た、あ、し、た……五文字だ」

 結局、私が予想していた答えとは全然違ったけれど、

「はい、ジュース」

「あれ? 何で⁉」

 明日になればまた山崎と会える。

 今はこれが精一杯に嬉しい言葉なんだって思えた。

「じゃあね山崎! また明日!」


                                    ( 四月 終 )

 


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