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桜の君は

作者: soro

その桜は、この広大な公園の中でもひと際大きく

立派で、美しかった。


「今日もお疲れ様ぁぁ~~!!」


その下では、気を囲むように大勢の人たちが

酒を酌み交わし、美味しい料理に舌鼓を打っていた。


「あの、よろしければどうぞ」


顔を真っ赤にした男がフト顔を上げると、手に持っていた

空の紙コップにドクドクと淡い黄色と白い泡のビールが

注がれていた。


「これはど、、」


注ぎ手の顔を見た瞬間、男は酔いも一気にさめたかの様に

目の前の見たこともない若い女性に心を奪われていた。

その女性は二十歳前後だろうか、淡い黒髪で来ている服は

桜色の着物だった。髪はさらさらと綺麗で、静かに吹く春の夜風に

ゆらゆらとススキのように揺れていた。


「あんたぁみたいなぁ人うちの会社にいたっけか?」


「えぇ、今宵だけの新人ですから」


「濃いだけ??」


「フフ、、さぁ、どうぞ」


男は、その美しい女性から目を離さず注がれたビールを

飲み干したが、すぐにまた注がれ、飲み干すというのを繰り返している

うちに景色はグルグルと回りだし、あきれ顔の同僚に

たたき起こされる頃には、あたりはほんのりと明るくなっていた。

あたりを見渡したがあの女性の姿もなく、不思議なことに、

男が同僚に何度も尋ねたが、そんな女はいなかったと、一人でニヤニヤしながら

自分でビールを注いで飲んでいたじゃないかと、怒鳴られてしまった。

しかし、次の日の休みの日に、男はガンガンと鐘を鳴らす頭を

さすりながらあの桜の木の下に来て、風に散っていく桜を

ため息交じりに見上げた。

すると、桜を見上げていたのはその男だけではなく、周りを見てみると

桜を囲むように10人ぐらいの年齢もバラバラの男たちが

皆、同じ様に桜を見上げ物もいにふけりながら時折、深いため息を

漏らしていたのだ。


「ねぇ、あのおじさんたち何してるの??それに、、」


遠くから不思議そうにその光景をみていた幼い少年が

手をつないでいる祖母に尋ねると、祖母はフンと鼻を鳴らし


「ありゃ、爺様もやっておったわ。女がどうとか、、まったく

 この時期になるとああした輩がおるんじゃ」


「へぇ~おじいちゃんも」


「フン、どうせ酒の飲みすぎて頭がおかしくなったんだよ。

 まったく、ろくに働きもしないで酒だけはいっちょ前に飲みおるから」


祖母はぶつくさと小言をいいながら、軽蔑するような目で

桜の木に群がる男たちを睨むと、強引に孫の手を引いて

歩き出した。


「バイバイ」


男の子は、無邪気な笑顔で桜の手を振りながらそう言うと

祖母に連れられ姿が見えなくなった、桜の木の上の一番太い

幹にはあの若い女性がゆったりと腰かけており、男の子の

姿が見えなくなると手を下げ、視線を下へと向けた。

未だに男たちは桜を見上げ、あの時の記憶に思いをはせている


「フフ、、」


若い女性はスッと腰を浮かせると、桜の木に溶け込むように

消えてなくなり、あとに残された桜の花びらが、見上げる男たちを

慰めるように、ヒラヒラリと舞い散り落ちていった、、。


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