その7 天下一○○に転生した奴選手権 開幕編
やぁみんな! 俺の名前は片桐ハジメ、乙女座生まれの29歳!
つい先日、自宅前でふざけて反復横跳びをやってたら車に轢かれてそのまま死んでしまったぜ!
「じゃあ何で今喋ってるのか?」だって? ありのままに話すなら異世界転生ってやつだ。
昇天した俺の魂は何かの縁か、数多の時空と世界線を越えて全く別の場所に辿り着いたらしい。
ヒャッホウ! これってもうハーレムルートは約束されたようなモンだよな!? そりゃこんなテンションにもなるっての!! 応ィゑ!!
―――その頃の俺はそう思っていた。
◇
「第一回ッ! 天下一○○に転生した奴選手けーん!!」
「タイム……ターイム!!」
何も無い空間で俺は一人の少女を妨害しに掛かった。
「どうかしましたか片桐さん?」
今いる場所についてはもう大体の察しがついている。きっとここは天国で、目の前の金髪少女はチート能力をくれる女神様なのだろう。これだけならば俺は一切の不安を抱くことはない。
そう、本当にそれだけで良かったのに!
「いやどうもこうも! 何すかその企画!?」
「何って、転生する勇者を決めるトーナメントですけど?」
「ツッコミどころが多過ぎてキャパ足りませんって! この状況見てくださいよ!」
現在の状況は以下の通りである。
《①体は石で出来ている。》
まずこれが意味不明だ。俺がこの空間に連れてこられて最初に感じた違和感。それは手足の感覚はおろか痒覚すら失っていたことである。視界は開けているものの動くことすら叶わないのだ。
そして気付いた。俺が小さな石材として無の空間に転がっていることに。
「まさかこの姿で転生しろってことですか?」
「あくまで仮止めですからね? あ、それから私のことは輪廻束ねし大樹神とお呼びください」
じゃあ心置きなく呼ばせてもらおうか。ユグドラシル様……さてはアンタ疲れてるな!?
「クーリングオフとか出来ます?」
「えーいいじゃないですか。だって『高位神族の王の居城の石材』ですよ? SSRレート確定です」
「いやそれ石材オブ石材なのでは?」
「そう怒らないでくださいよ? この前転生させた人なんて聖剣とかスライムとかでやり繰りしてるんですから」
俺は思った。差別化戦略って何だろう?
《②人口密度》
多い。そもそも勇者候補が多過ぎるのだ。
先程俺が言った「無の空間」というのは語弊がある。本来ならここは上下の概念しかない無限の聖域なのだろう。しかし現在はあまりの人数の所為で地平線のようなものが見える有様だ。
加えてもれなく全員がまともな人間ではない。俺並みに悲惨な姿の奴も余裕でいる。ウヨウヨいる。
「ユグドラシル様? あの人なんかも無生物ですね?」
「あぁそうですね。あの辺とかは右から順に、魔法の水晶玉、古代文明の冷蔵庫、あと100円クーポンですね」
「………………うわぁ」
これは悲惨が過ぎるだろうよ。いよいよこの女神様のSAN値を疑う頃合いかもしれない。
すると俺の不安を察してかユグドラシルは頻りに辺りを見渡して言った、
「あっ、ホラ! あの人とかはちゃんと人間ですよ?」
いや『ちゃんと』って何!? とは敢えて言わない。
ユグドラシルが指差した方には顔が土色の男がいた。
「あの人は……?」
「『周りの人間に全ての型のインフルエンザを移す人』だったかと!」
よく考えて思った。ここほぼ人間いねぇ!!?
《③そもそも何故トーナメント?》
これが一番気になっていた、いわば核心だ。どうしても救うべき世界があるなら大人数、何ならここにいる全勇者候補を送り込めばいい話である。いや石材とかクーポンはいらねぇけど。
何故こんな姿で、何故戦う必要があるのか?
「お答えしましょう!!」
「いや心読まないでくださいよ!!」
「これは失敬。えーお集まりの皆さん、はじめまして!! 私はユグドラシル、事象に根を張る神性です!」
『この流れからオープニングをリスタートさせるか普通?』とはもう思わなかった。
ユグドラシルは手慣れたように話を進める。
「これより皆さんにはトーナメント方式で最後の一人になるまで争ってもらいます! 無論残った方を勇者として転生させる所存です」
途端に飛び交うフザケルナーの雨嵐。少なくともアンフェア極まりない現状に納得する者はいない。
「どうか静粛に。何もこのまま死ぬわけではありません。それに私が真に見たいのは皆さんの機転の良さ―――
―――如何なる理不尽にも立ち向かう精神なのです!」
なるほど、とはならなかった。しかし神様の気まぐれ、その真意が聞けた今俺は是が非でも勝たねばならない気がする。
あんな死に方をしてしまった以上俺が良くしていけるのは来世しかない。
こうして俺(石材)の挑戦が幕を開けた。
最近になってようやくこまめに執筆出来るようになりました。それでも投稿ペースは変わりません(-_-;)
◇今日の主役的なヤツ◇
片桐ハジメ
死因が反復横跳びによる交通事故。悲惨。ラノベ好きだった為か転生の女神ユグドラシルに勇者候補としてサルベージされる。現状はよくツッコミをいれる石材。やっぱり悲惨。
「マンネリ回避すりゃぁいいってもんじゃないよな?」