その6 短編:吾輩は――――誰だ?
吾輩は――――誰なのだろう? 名前なぞ知る由も無い。
視界に学ぶなら、吾輩はそう――――草原にいる。
人の気は無く、涼やかな風の音が残るばかりだ。
吾輩は――――何故ここにいる? 一向に思い出せないのだが。
待て、前触れも無しに記憶が飛ぶはずもない。
つまりはここから記憶が始まっている。
事の理由を覚えていないだけか? それなら外傷のひとつやふたつ、あっても不思議ではないのだが。
外傷? そういえば吾輩の姿とは如何なるものか?
手は? 見えない。
足は? 見当たらない。
顔は? 見えるはずもない。
分からない、解らない、判らない・・・・・・。
吾輩は誰なのだ? いや、そも何なのだ?
今ここで思考している「吾輩」とはこれ如何なる存在であるのか。
己を知り得てすらいないというのは、自我が無いのと同じではないか?
否、否、否それでは――――。
◇
(一時間後)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうか、一とは全、全とは即ち一を内包しているのだ!
なるほど、解った! 分かった! 判ったぞ!
宇宙とはこれ即ち万里を含んだ手元に過ぎず! ただ揺蕩う「ゆらぎ」こそ!
ともなれば簡単なことだ。
アンチテーゼに満ちた円筒形の我が至宝はいつかポメラニアンの知り得る議決権のまるで採算である!
きっとそれはイイ感じに飴色のマックスウェル&ボブのXYZ! 手札誘発しつつ口内爆☆散!
されど肘万歳! 散在しうる定理+水素ォォオオ!!!
グサッ
◇
王都より北東、とある丘陵地帯にて、
「ねぇルビア? なんか倒したんだけど、コレ何?」
「あら初見だったの勇者サマ? 教えてあげなくもないケド?」
「オネガイシマス」
「そ即答なのね!? 良くってよ?
アナタが倒したのはレグラナ大草原名物『知恵熱スライム』よ」
「『知恵熱スライム』?」
「いつも考え過ぎで発熱するから火属性判定されたエネミー、ってとこかしら」
「何そのカオス?」
「で、最期は心理を得て爆発四散するっていう生態を持つわ」
「悲し過ぎるわ」
◇
「さてと、これで火の魔石50ドロップ。誰かさんのレベル上げも充分ね?」
「この石? をどうするのさ?」
「そんなの決まってるじゃない? 次の街で売って旅費にする、冒険者の基本でしょ?」
「アハハ。慣れなくてね」
「それよりレベル確認したら?」
「そんなゲームじゃないんだから」
◇
片里悠作 LV12 男性/ヒューマン
攻撃:10 防御:5 敏捷:7 魔力:20 幸運:???
保有魔術:なし
装備:【神剣レグラナリオン】 LV999 ~詳細不明
「まさか可視れるとは・・・・・・」
「【魔水晶レンズ】、対象物を自動で解析出来るアイテムだけど――――持ってないの?」
「うん」
「・・・・・・ぷ、くふふっ・・・・・・ホラ、歩かないと置いてくわよ」
「ぐわぁ! 女子に笑われたぁ!」
こうして、二人の旅路は続くのであった。
え、次の話? 安心してください、未定ですよ!
◇今日の主役的なやつ◇
知恵熱スライム
レグラナ王国北西に生息するスライムの亜種。生まれてから数時間でこの宇宙の真理を掴み、その数秒後に爆散、勝手に素材を落とすという不遇にも程があるモンスター。ユウサが倒したのは正に爆発数秒前であり、何気に至難の業だったりする。
「即ち! このコーナーに存在しうる可能性は持たざる者故の逃避と――――(爆散)」
◇今日のアイテム◇
【魔水晶レンズ】
片眼鏡型の分析アイテム。冒険者が自らのレベル確認やモンスターの難易度考察に用いるため必須アイテムとなっている。王国がユウサに支給しなかったのは彼が異世界人ということで過大評価されていたからである。定価は約980円。