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その5 新米魔王の第一歩!

「―――――総員、その者を処せ」


冷酷なこの口調を、この威圧感をきっと私は知っていた。

ラノベじゃないけれど私が置かれているこの世界は人気RPG『フリーウィルオンライン』に違いない。


「ギムベ・・・・・・!」


ごたごたとしたこの思考がまとまりかけたその時、私の頬を冷たい感覚が伝った。

眼前には剣、例の青年のものだった。

微かな痛みが体の奥底に染み渡っていく。

そうして私が初めて恐怖を知った時、既に第二撃は振り下ろされていた―――――――




―――そんな、いやだ



あれほど見慣れたはずの剣が怖い



―――しぬの、わたし



こんなとき魔王わたしならどうしたのだろう



―――いやだ、いやだ



これがゲームであったなら・・・・・・



―――だって―――私はまだ、本当の私リアルで、()()()()()()()()()()()()()()()()!!



突きつけられた全てを振り払いたくて、咄嗟に体が合い打つ。左手をかざす。

暗転――――目は自然と閉じていた。
















『―――スキル自動詠唱オートキャスト魔王の外套マオズヴェール】』











明転――――恐る恐る目を開ける。

私は、生きていた。手があって、足があって、心臓はまだ忙しなく動いている。


しかし異変は既に私の前に転がっていた。

あの青年が目を見開き、震えながらに硬直している。

握られた剣は未だに私の胸に向けられている。けれどその鋭利な切先はあらぬ方向――――青年の青い肌に鮮烈な赤を添えていた。

よく見るとその剣は宙に描かれた光の円によって遮られ、U字となって彼の胸板に到達していたのである。


「怯むな! かかれ!」


青年が倒れ伏す中、取り囲んでいたモンスターが一斉に殺到してくる。

絶え間ない怒号と咆哮が私を押し潰そうとしている。



けれど、そのときの私は恐怖を抱いていなかった。

諦めなんかじゃない。理解しただけ。


ここは自由と冒険の世界「フリーウィルオンライン」。

私は今まさに画面の向こう側に立ち、息をしている。



それならば――――――――今の私は何だ?




「―――スキル詠唱キャスト魔王の邂逅マオズミーツァ】」




瞬間、衝撃が走る。自分でもよく分からないけれど、それはきっと不可視の亀裂のように広がった。

揺れ動く視界の隅で小さなゲージが減少した刹那、モンスター達が前のめりに倒れているのに気付いた。


僅か数秒の出来事を目の当たりにして、ギムベルが再び口を開く。


「――――貴様、何者だ」


威圧的で重鈍な問い掛け。しかし焦りの色も垣間見える。


「私は・・・・・・」



 これは強がりなのかもしれない。

塗り固められた偶像に収まって、私という存在を証明する為の「手段」だったのかもしれない。

きっとそれは「弱さ」の具現だ。私の醜さだ。








・・・・・・だけど、

            それでもいい。

                       力を貸して。







 私は、新米の、半ば12歳の、守られがちな、アイドル的な――――――――


「・・・・・・私は、マオ。数年前、お前を攻略した()()()()だ!!」



 ようやく気付いた。今の私はゲームアバター『新米魔王☆マオたん』そのものになっていたのだ。

肩は軽いし肌も白い。ツノと露出度はちょっと気になるけど、間違いなく私は「画面の中の私」だった。



 ギムベルの殺気は最高潮に達しようとしている。

圧倒的な魔力が空気を伝い皮膚を痺れさせてくる。


「―――ただ一人に何が出来るという―――さぁ肉骨粉としてくれよう――――」


影を纏った巨人、その足元に亀裂が走る。禍々しいオーラが蒸気の如く噴出する。

この演出とエフェクトは団体戦で見たことがあった。

通常回避不能、通常防御不能、全体に対する裏魔王の固定ダメージ技!!


「―――【滅却すべき旧き万象デジィア・テラ・オルトゥフ】!!」


視界全てを覆い尽くさんばかりの熱線が放たれる。

すぐそこまで迫る白色の光がこの小さな身体を喰らおうとしている。



避けられない。そう気付いたのは人外の熱さを感じた瞬間だった。







『スキル自動詠唱オートキャスト魔王の外套マオズヴェール】』





展開される魔法陣【魔王の外套マオズヴェール】。

自動的に発動されるこのスキルの効果は単純明快な「反射」である。

それはつまり・・・・・・


「完成【反転すべき旧き万象オルタナティヴ・テラ・オルトゥフ】!!」


圧倒的な質量、光の束は魔法陣へと集束、吸収されていく。

事実上この技は避けることも減らすことも出来ない。


だからこそ良い。


「今一度、沈みなさい」


再び放たれた熱線が、一直線に影の巨人を飲み込んでいく。

張り裂けそうな、けれど今までで最も生き物らしい断末魔をあげて、裏魔王ギムベルは蒸発していった。


「まさか同じ方法で倒せるなんて、ね」



 さて、どうしたものか。

だだっ広い空間を見聞きするのは私一人。

足元には突っ伏してるモンスター達。


見たところ今の私は最新のステータスと一通りの技を使えるらしい。

優先すべきは生存。うん、死にたくないからね。

まずは連絡ツールで魔王軍みんなを呼んで・・・・・・後はそれから考えよう。なんかもう、頭痛い。



 こうして私、飯村真央は本当の新米魔王として異世界に降り立った。

憧れの世界と可愛い容姿――――何より貯め込んだ経験値がある以上は楽しませてもらおうかな。


とはいえ元の世界も気になってくる。

家のローンとか会社とか・・・・・・お姉ちゃんのこととか。


今は前を向こう。

痛いのは嫌だけど、久々に背伸びした気分になれたんだ。



「待っててね、マキ姉ちゃん」







『そんな我らが飯テロリズム!!』もよろしくお願いします! マキ姉ちゃんの方も頑張ってます!


◇今日の主役的なやつ◇


飯村真央イイムラ・マオ


 ネトゲを極めたアラサー女子。100年に1人のシスコンで超お姉ちゃん好き。特技のロリ声もあってかオタサーの域を超えたゲーマー軍団を組織してしまった。というかチート過ぎたな!


「チートはテンプレなんじゃ・・・・・・。それより今回「――――」多くない? ねえ?」



◇今日のエネミー◇


『裏魔王ギムベル』


 かつて「フリーウィルオンライン」最強格のボスキャラだったが創設直後の『魔王軍』によって攻略。後にマオが魔王と呼ばれた結果、対比して裏魔王と呼ばれるようになった。あっさりと倒されてしまったが無論ぶっ壊れ性能を誇る。いやホントですよ?



◇今日の魔法◇


魔王の外套マオズヴェール


 マオが保有する防御魔法。空間転移を応用した自己防衛システムである。周囲の攻撃に反応し、それを真逆に反射する。彼女にダメージを与えるにはこれを解除するか多方向から同時に攻撃するしかない。少なからず例外はあるようだが・・・・・・。


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