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第三話

 あたしはいつの間にか私を分けて考えるようになった。


 はじめのうち、あたしは私にならなければと頑張ってたんだけど、すぐにほころびが出る。一時期は体調にい影響が出るほど追い詰められていたりもした。


 なのでそれは、自然なことだったのかもしれない。


 普段は私で、暮らすことにした。切り替えることはほぼなかったけれど、そのおかげであたしは私の殻で大事に保護されてきたのだ。


 学生時代の友人ですら、あたしの存在を知ってる人はいない。ちゃんと話したことがあるのはオルドノヴァ帝くらいだ。


 なので、日本語でしゃべったときにあたしが出てきたのは実は自分でも予想外だった。


 あんなに自然にあたしが出てくるとは思わなかったのだ。



◇◆◇



 イーヴァトゥース王国。


 それは、帝国の南の海域にある火山諸島国家である。


 そして、帝国にとって重要な戦略物資である、魔石、法石の産出国だ。


 しかし、魔法時代黎明期に圧倒的力を持っていた帝国に征服され、数十年後独立するも、未だに帝国の軍事的庇護下にあり、不平等貿易条約を結ばされている。


 所謂、属国。衛星国家の一つである。


 近年は、魔獣の家畜化や、新しい特産物を開発し、国力を伸ばしてきているが、その裏にはカティーア姫がかかわっていると噂されている。(彼女が順平と分かった今は、彼が「転生現代チートだヒャッハー」した結果なんだろうと予想がつく。あいつは昔から調子に乗りやすい性格だったもの)


 その先代である、ルドラース三世は親帝国派として有名だった。頻繁に帝国に遊覧に来ていたほどである。何度か見かけたことがあるが、全身に宝石を付けた派手な外見だけが印象深い。まあ、そんなこんなが一部の国民の怒りを買っていたのだ。


 そんな中、先王は襲撃され、弑された。


 当然、国内の反政府勢力の操作が行われたが、手掛かりはなし。


 王国議会は、国家として元首不在では混乱がひどくなるばかりと、ルドラース三世の一人娘であるカティーア姫を、カティーア一世として女王の座に持ち上げた。


 議会の連中にとって大きな誤算だったのは、傀儡として持ち上げたはずのカティーア女王が思いのほか優秀だったことだろう。彼女はすでに、議会の中に優秀な手と目を持っており、あっという間に議会を掌握。事態を収拾してしまった。(まぁ、そのありえない手腕のおかげでオルドノヴァ帝に疑われることになるのだけれど……)


 そんな議会の最後の抵抗が、古い慣例を持ち出した「結婚していない者は王位に就くことは出来ない」だった。これをオルドノヴァ帝は後押しして、その婚約者候補に私をねじ込んだというわけだ。


「ルドラース王の覚えが特によかったわけでは無いんだけどね。でも、親帝国派が殺されて真相が闇のなかってんじゃ帝国の威信にかかわるのよ。属国には、いずれ独り立ちしてもらう予定だけど、それは今じゃないし、こんな形で行われるものであっちゃダメなの」


 とは、母の言い分である。


 そして、昨日殺気をぶつけてきた青年。フルックリン・パット・サンガツ。


 サンガツ家の三男坊で、現在18歳。サンガツ家は代々国の財務を担ってきた家であり、彼も例にもれず税務官として父親のもとで修業中。


 サンガツ家は、根っからの女王派。先ほど言った、女王の目と手の一つだ。


「つまり……」


「単にロリコンの変態主様が女王陛下に来たづくことが許せなかったのではないかと、あと女王派としては帝国の人間が、王室に入るのはいただけないというのもありましょう」


「フェズ、君は優秀なんだけど……誤解があるようだから言っておくが、私は断じてロリコンではない」


 むしろ、あたしは嫌悪してるし、撲滅すればいいと思ってる。


「そうなのですか? 昨日の茶会一発で絆されて帰ってきたので「あぁやっぱり」と思ったのですが」


「フェズっ!」


 横に控えていたガリマが、さすがに止めに入る。まぁ、あれはそういうのとは違うのだけど、いまいち言い訳が思いつかない。面倒くさいので勘違いされたままでもいいかもしれないな。


「失礼いたしました」


 深々と頭を下げるフェズは蜘蛛の亜人だ。潜入工作、諜報活動に優れていて、実に重宝している。主に対しての毒舌を除けばだが……。


「しかし、あながちは外れてはいないと思います。フルックリン氏は派閥の中でも特に女王に心酔していますから。昨日も、自分の仕事をほっぽり出して、女王への使いの任を自ら志願したとか」


「其れこそロリコンじゃないのか?」


「はたから見ているとそうですが……、あれはどうも、女王を神かなんかだと勘違いしているのではないかと思われます」


「転生によるブーストを、神の奇跡ととらえてしまっているのか……」


 さもありなん、私も昔は神童と言われたものだ。前世はそれほど優秀じゃなかったので二十歳になった今は、ただの人であるが。


「テンセイ……ですか?」


「こちらのことだ、なんでもない」


 今のところ、転生についての情報を他に漏らすつもりはない。なんだかんだ言ったところで、今生を精一杯生きるしかないのだから。


 それにしても、前世でも嫌味なくらい頭が良かったけど、派手に動きすぎだよ順平……。それが何をもたらすか考えてわかんないはずはないんだけどなぁ。


「今後の方針はどうなさいますか?」


「と言っても、やれることは少ない。婚約式典まで3週間の間に解決しなきゃいけないとなると、少々強引に行くことも考えなければな」


 いっそのこと、フルックリン君に突撃するか? いや、それはもうちょっと追い詰められてからかな?


「主様、お客様がお見えでございます」


 そんな風に考えているとノックの音が二回鳴り、扉をあげてメイドのミームがそう告げた。ちなみに彼女は犬の亜人で、他と比べて初めての人がなれるのも早いので、主にお客様の対応などを行ってもらっている。


 しかし、いまはもう夜半過ぎだこんな時間に来るなんて非常識な客を持つほど、私はまだこの土地に馴染んではいないはずだが……。


「こんな時間に? どなただい?」


「女王様の護衛の方だと名乗っておりますが……」


 あの、女戦士の人か?


 女性なのに明らかに自分より体格がよかった、筋骨隆々の彼女のことを思い出す。たぶん腕相撲とかしたら負けるだろう。


「いいよ、応接室にお通しして。うちから持ってきた香茶があったでしょ? あれをお出ししてくれるかい?」


「承知いたしました、主様」


 ペコリと、一礼して戻っていくミームを見送る。


「どういうことだと思う?」


「背後関係が見えません。好意的に受け取るなら夜這いではないでしょうか?」


「そうだったら、最悪だなぁ」


 相手には悪いけどアレに襲われるのは勘弁願いたい。力ずくで来られたら絶対かなわないもん。一番最悪なのは無理やりだろうが立つもんは立っちゃうであろうことだ。あの心と体の乖離現象には、いまだになれることはない。


「まじめな話、会ってみないとわからないか……悪いけどキッカを起こしてきてもらえるかい?」


「承知いたしました」


 同じく一礼して去っていくガリマ。


 さて、どんな話を持ってきたのか……。




◇◆◇




「亜人はべらして悦に入ってるの変態ってのは本当なんだねぇ」


 部屋に入るなり挨拶もなしに罵倒された。キッカが前に出そうになるのを片手で制して落ち着かせる。


「仮にも女王の護衛ともあろう方が、礼儀がなっていないのではないかね?」


「悪いね、あたいは、こういう性分なのさ、女王もこれでいいって言ってくれてるし、気にしないでくれ」


 ちょっと、どんな教育してんのよ順平!


 心の中で文句を言ってから彼女の向かいに座る。見ると、香茶が手つかずのままだった。


「遠慮しないで、飲んでいただいて結構ですよ? 帝都近くによい茶畑がありまして、ちょっと自慢の一品なのです」


「葉っぱが良くても犬が入れたんじゃ臭くて飲めやしないよ。毛も浮いてるんじゃないのかい?」


 うちのミームがそんなへまするかい! それにうちの子たちは臭くなんてありません。ちゃんと毎日お風呂に入ってもらってるんだから!


 ……だめだ、順平との会話で、一度タガが緩んだからか、ちょっと油断するとあたしが出てきてしまう。気を引き締めないと。


「そうですか、では下げさせていただきますね」


「ふんっ……」


 カップを下げるミームを見ようともせず私をにらむ彼女。


「そういえば、名前をまだ聞いていませんでした。なんとおっしゃるのですか?」


「ソリア……家名なんて立派なもんはないよ」


「では、ソリアさん。本日はどのようなご用件で?」


「大した事じゃないよ。……ちょっとあんたに、抱いてもらおうと思ってね」


 ……ガリマ最悪の予想は見事に的中した。


「……あの、よく聞こえなかったのですが……」


「何度も言わせるなんて、いい趣味だね。あたいは抱かれに来たんだよ。あんたに」


 聞き間違いで会ってほしかったがどうやら間違いはなさそうだ。なんだってそんな……。


「で? どうなんだい? あたいを抱くのかい? 抱かないのかい?」


「失礼ながら、私は愛した女性しか抱かないと、心に決めておりますので……」


「なぁんだい。やっぱり玉無しかい? それとも噂みたいに亜人にしか興奮できない変態ってことかい。いや、その亜人をバカにされてもへらへらしてんだ。やっぱり玉無しだねぇ!」


 私のセリフに被せる様にまくしたてるソリア。


「昨日の茶会の時からなんかなよなよした奴だとは思ってたんだよ。あんたみたいのはやっぱり女王にふさわしくないね! 荷物まとめてとっとと帰んな!」


 まぁ、確かに、あの時の私は全力であたしだったからなぁ、傍から見るとオネェにしか見えないのも仕方ない。


 それにしても……。


 相手が挑発していると分かった以上、これ以上怒る理由はない。それは、相手の思惑に乗るってことだ。


 それよりも、この絵を描いた相手が気になる。これは所謂自爆テロだ。己の地位と名誉を爆薬にしての特攻。それで、抱くと言っても抱かないと言っても角が立つこの場面を作り出すなんて。目の前の単純そうな女性が一人で考えたとはとても思えない。


 かといって、単純なだけにかたくなそうな女性だ。裏を探ろうにものぞかせてもくれないだろう。


 …………はぁ、こういうのは私の役目じゃ本来なかったんだけどな。


「いいでしょう。でも、男らしさを確認したいというのであれば、もっと良い方法がありますよ」


「へぇ、何だってんだい?」


「私と仕合いましょう」


 この手の手合いは肉体言語に限る。軍で学んだことだ。


 案の定、それを聞いたソリアの口角が狂暴そうに吊り上がった。


「へぇ……あたいも随分低く見られたもんだね? 女だからって嘗めてたら痛い目見るよ?」


 いえ、あなたのその筋肉を見て低く見れる男がいたらみてみたいもんです。


「そうではありません。でも、少なくともベッドの上よりは満足していただける可能性が高いかと存じますよ?」


「ベッドでの剣捌きにゃ自信がないってかい! いいよ。で? いつやるんだい?」


「今この場で……と言ってもいいのですが、せっかくですので、人を集めて大々的にやりましょう。私もこの機会に皆様に顔を覚えていただかなくては」


「わかった、場所はこっちで用意する。大恥かかせてやるから、覚悟しときな!」


 そういって、彼女は公開に立ち上がると、ズシンズシンと擬音がしそうな足取りで帰っていった。


 さて、これでいろいろ引っかかってくれると嬉しいだけれどね……。


れ、恋愛要素が一つもない……。

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