第九十五話 「今度は短すぎるよ!」
「はん! ……愛の告白とは随分な仲のようで。と言う事はこの戦い、クーチャンとやらが関わっているんだな?」
「んーん! 違うよー。これはミャーたちがクーちゃんを自由にするためにやってるの♪ クーちゃんには内緒でやったんだけどー喜んでくれるかな? 喜んでくれると思うー?」
ミャーは誕生日にサプライズを贈る算段を喜んでもらえるか想像して騒ぐ乙女のように一人笑顔を見せる。
そしてリスリムは重なる最悪の事態を前に思考を働かせるが、気が触れたかのように薄く笑みが浮かび―――。
「はっ! 詰まる所はそう言う事か」
彼はいつもの調子で笑い飛ばすと空を飛ぶ大竜を一睨みし、不敵に笑って見せる。
それはするべき事が明瞭としたと言った顔付きで、不利な状況下であるにも関わらず瞳に諦めの色は無い。
「……リスリム様! 第六、第七騎士団到着致しました!」
「遅くなって申し訳ありません。サマザ大司教様より我々が先に行くようにとのご指示の元、遅ればせながら到着致しました」
リスリムの前へ鎧を身に付けたヴィグフィスともう一名の騎士が跪き、頭を下げる。
振り返れば新たな兵士がこの場に到着し、リスリムの後方にはズラリと騎士たちが立ち並ぶ。
「構わん。騎士なら口より剣で全て示すが良い」
彼はそう一言告げると腰の剣を抜き、大竜に向かって掲げて大きく息を吸い込む。
「我が名はセディンカーマリアル・パーディンズ・リスリム!! 人に害成す悪竜を撃ち滅ぼす名と知れ!!」
大気を震わせる程の大声で彼は名を口にする。
それはこの場に居る兵たちの中にある不安や恐怖を吹き飛ばさんとする程の物で、奮起させんとした声。
声を前に騎士たちは今一度、手にした剣を握り直しては頭上にある絶望の影を睨む。
「……うるさいなー。そんなおっきな声で言わなくても聞こえるってばぁー。クーちゃん来るまで待ってよーって思ってたケド、そぉんなに遊びたいなら、遊んであげるー♪」
ミャーは耳を押さえながら不機嫌そうに返すとリスリムたちを見やってはそう呟く。
そして集まった約300の騎士の塊を眺めては舌なめずりをして、口元を濡らす。
「悪いが、それは無理な話だ……! 栄光を剣に!」
リスリムの掛け声と共に両軍の鬨の声が辺りを震わせ、竜と騎士の全面衝突が始まった―――。
「これ、あとこれとかどうリア?」
「え、えぇ~……流石に生地が薄すぎるって言うか……肌が出すぎじゃないですかね先生」
「ダメかぁ。じゃあコレ!」
「今度は短すぎるよ!」
15時前、人が賑わう城下町の洋服店で少女二人が服を選んでは大はしゃぎしている。
私服の彼女たちは服を合わせてはダメ出しをし、あれでもないこれでもないと唸り続け。
最初は店員が付きっきりで一緒に服選びをしていたのだが、カーレンのリクエストが余りにも面倒過ぎる為、いつの間にか居なくなっていた。
「てかさカーレン、こんだけ買ってるし、もういらない気がするんだけど?」
服合せに疲れたのかリアは下ろした髪をかき上げながら足元近くを一瞥。
そこには30cm程もある紙袋が5つもあり、その内の4つは別の店で買った洋服が入っている。
「確かにそうだけどさー攻めた服も欲しく無い? いつもと違う自分を見せるのも大事!」
それを身に付けるリアより興奮した様子でカーレンは「ふんす!」と鼻を鳴らしてそう言い切る。
しかし当の本人はそう言われても反応は薄く、視線を逸らしながら……
「よくよく考えたらさ、仕事でしか顔合わせてないのにどうやってこれ全部見せるの?」
その一言で熱弁していたカーレンは真顔となる。
そして彼女は右手で顔を覆い、ふるふると震えだし、
「デートに誘うとかあるでしょお! アンタ今まで騎士団の人と何度かデート行ってるんだからそれくらい―――」
「……ないもん。デートなんてした事ないもん」
「え、ちょっと待って。
かれこれ5回近く王国騎士の人とのデートのお膳立て、ウチしてあげたよね? ね?」
血相を変えたカーレンの詰問にツイっと顔を逸らして彼女は汗を一筋流しながら黙る。
「嘘でしょぉ……? あぁ、それでデートの後だって言うのに様子が変になって、興味ないとか今まで言い出してたの!?」
「う、うん」
「はぁーそう言う事か。でもなんで?
相手を気になりだしたって言い出したのリアだし、わざわざ何度か顔合わせにも行ってたじゃない」
カーレンは溜息を吐くと手にしていた服を整えると商品棚に戻す。
そして返答を待つ間、手持無沙汰になり別の服を手に取ると自分に合わせたりしてその間を埋める。
「その、こう……全員が全員、あたしを見る時に一部しか見なくて。ええっと、体と言うか……」
「あーねぇ。リアは胸大きいもんねそりゃ見るよ」
「ちょ、直球すぎ!」
「あははは。冗談だってば冗談」
リアの初心な反応にカーレンはケラケラ笑うと荷物を抱え、店を出ようとリアに伝えると店を後にする。
「でもさーそんな事気にするクセにユーちゃんには胸押し付けまくってない?」
「アレは良いのよ……別に」
拗ねた調子で口を尖らせてリアはそう返す。
他の異性には胸だけを見られるのが嫌だと言うのに、悠へ対しては胸を使ったからかいと言う過剰なアプローチをしており、矛盾しかない行動である。
「そうは言ってもユーちゃんも男の子なんだからさー、あんま良くないと思うんだよねぇー」
「ユ、ユーちゃんはそんな事無いし! 多分!」
紅潮して根拠無き反論をする彼女を見てカーレンはクスクスと笑い、その足で行きつけのカフェへ行こうと提案するとリアは拗ねながらも賛同する。
そして紙袋をしっかり抱え、歩く最中で彼女はふと声を上げる。
「あれ。あんなトコに人が飛んでるー? 今日って何か催し物でもあったっけ?」
歩きながら少し空を見上げたカーレンがそんな事を呟き、リアも釣られて向ける視線の先を見やるが―――
「……誰も居なくない?」
「いやあそこだよあそこ。白いローブっぽい……アレ?」
リアの言葉に彼女へ顔を向けて空を見上げ、誰も居ない空を見てカーレンは首を傾げた。
確かに見たんだけどな。とブツブツ言いながら軽く目を擦り、パッツン頭の彼女はおよそ女の子がするような顔じゃない表情で睨む。
城下町では基本的に魔法魔術の使用が禁じられている。
仮に魔法魔術を使う場合は国の許可が必須であり、万が一個人で使用した場合は防衛の為のみ許される。
故に城下町で魔法を使う者がいるとすれば基本的に商業や飲食業の者か派手な魔法を使って広告を目的とした人間位だ。
「もしかしたら劇の宣伝やってたのかもね。来週、光を渡る巫女と竜の詩が始まるからそれのじゃない?」
「かな? まぁいっかぁ」
ふむ、とカーレンは考えるのをやめると荷物を抱え直し、鼻歌混じりに足を進めて通りの脇にあるカフェへ向かう。
店へ入ると「いつもの2つー」と店員へ声をかけ、通りに面した席へ二人は向かい合わせで腰かけるとすぐに二つのお茶が用意され、それを口に運んでリアとカーレンは喉を潤し、ほっと一息を付く。
そしてその数分後、店員が手にするシルバートレイ一杯の巨大なパンケーキが2人の前に置かれ、彼女たちは大喜びしながらそれを口に運び、舌鼓を打って楽しんだ。
「―――――――おおっと危ない、いけない。
自分とした事がですね、不可視の月白を忘れていました。
さて、閼伽の方も騎士たちと始めたようですし、一度あちらへ報告に行かなければですね?」
城下町の100m上空辺りで白色のローブに身を包むその者は顎に指を宛てながらそう呟く。
その姿は城下町の人間に映っていないようで見上げる者は居ても誰も何も言わない。
そして人影は道行く人々をうっとりと眺めては身を捩る。
「嗚呼、嗚呼……愉しみですよ待遠しですよ?
これからこの皿の上で、素敵な素敵な叫喚が作られるのが……!」
その者はその悦びに耐え兼ね、右指に歯を立てて血を流すとそれを舐め、弓形の月のように口元を歪め嗤った。




