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別の世界に行ったら男の娘をやるハメになったボクの話  作者: くうや
第六章 男の娘メイド・竜戦編
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第九十二話 「甘さの中に」

部屋に響くノックに思わず自分は身構える。

またニーアさんかな? なんて思うけど彼女はノックしたと同時に入ってくるから違う。

もしかしてルシードさんがトシキを送りに来てくれたのかな? 

そんな事を思いながらはーいと返事してドアを開ける。




「あ、すみません! お忙しいところ!」


扉を開くと同時にふわりと椿の花に似た香りが鼻をくすぐる。

匂いを辿り、向けた視線の先には黒のワンピースの上に白の大きなエプロン、白のカチューシャを身に着けたボクと同い年くらいの見慣れない女の子が白い花を抱えて立っていた。


「……あれ、キミって仲働きトゥイーニーの子?」


「はい! まだこちらにいらっしゃると伺いまして……その、これをお渡しするようにご主人様より仰せ遣いまして!」


彼女はホームルームで発表するかみたいな口調と動きで視線を泳がせながらそう言い終わると、抱えている白い花をボクに向ける。


「これ、ボクに……?」


「はい! 此度、レオナ様の為にご奮闘されていらっしゃるあなた様にご主人様が甚く感銘致しまして、その気持ちにと! 出立を前のあたな様に是非と!」


「そ、そうなんだ。ありがとう。もし良かったらそのキミの御主人の名前を聞いても良いかな?」


ボクは渡された花を受け取り、それを抱えると花の送り主の事を尋ねる。

レオナの件でボクの事は良く思われていないと考えてたけど、そうじゃない人も居るんだな。

そんな事を思うと今までどこか張り詰めていた物が少しラクになる。


そして同時に疑問が過る。



「あえ、そう言えば何で出立ってしってるんだ……? それに今日ってやくしょくいがいは……きんむないんら―――」


ふと思い出したニーアさんの言葉を反復するが呂律が回らなくなり、突然足に力が入らなくなる。

そして眠気にも似た物が意識を奪い、ボクはその場で倒れ込むと視界の先には受け取った花が散らばると、甘い甘い香りが纏わり付く。



「本日は我が主、ネクライ・ハーン・スペリアス様の命により、あなた様をお迎えにあがりました!」


その言葉を聞き終る前にボクの意識はしつこく香る甘さの中に深く落ちた……。














「今更になって怖気付いて逃げだしたのだろう。はん! とんだ期待外れだな!」


―――昼の14時過ぎ、とある一室にてニーアより時間になっても悠がどこにも居ないと言う報告を受けたリスリムは自身の髪と同じ色をした鎧を鳴らしながらそう言い放つ。


「まぁ良い。現状の指揮権はボクにある。侍女の事は下準備に時間がかかって後から合流すると下には伝える! お前はポンコツ侍女メイドをさっさと見つけて引き摺ってでも連れて来い!」


「は。承知致しました」


銀髪の彼女はその言葉に深々と頭を下げると足早にその場を後にする。

そして自分と従者のみになった一室で玉座に腰かけたような威厳を見せる彼は小さく鼻を鳴らしてはわだかまりをいくらか吐き出す。


「にしてもー、まさか直前になって逃げだすなんてー思いもしなかったーって言いますかー、逃げ出せると思ってる辺り滑稽と言いますかー」


間延びした口調のイケメン従者の言葉にリスリムは何も答えない。

そして瞑目しながら椅子の背もたれに身を預け、キシリと音を立てて黙る。


「―――ペリア、お前はニーアを手伝ってこい」


「あーれー? お傍離れてもーだいじょーぶなんですかー? あーぶなくないですかー?」


「何かあればお前はすぐに駆けつけてこられるだろ。僕にはどうもアイツが逃げ出したとは思えない」


「…………わーかりましたー。ウチの主様はー高慢傲慢驕慢に見せかけてー、ほーんとおやさしーからー、従者の自分はいっつもそーんな我儘に付き合わされてー、大変とても面倒で泣きそーでーす」


「作戦中お前は城内待機でどうせやる事無いんだ。無駄口叩いて僕の機嫌を損ねる前にさっさと行け」


「はぁーい」



主人の言葉に面倒事が起きていると悟ったペリアは毒を吐きながらも了承し、トボトボと歩いて部屋を出る。そんな彼を見送るとリスリムは腕を組み、鎧を纏った二の腕の上で指をカツ、カツと鳴らす。

そして眉根をよせ、唇を噛む。


「―――杞憂で済めば良いが」


深く溜息を吐くと彼はそう不安を零した。

薄く開ける碧眼は何かを思い出すような、思い返すようなそんな色を浮かべながら……。



















「レオナ様の方へ連絡は?」


「とりあえずまだしていないわ。レオナ様とレニア様は既に指令室へお入り頂いてるから、この事を伝えれば他の王族に話が流れて最悪面倒になり兼ねないとリスリム様の指示よ。で、貴方は魔王封印体が行きそうな場所に心当たり無いの?」


「無いな。城内に関して言えばお前の方が詳しいだろ」


悠の自室の中でニーアとルシードは鋭い物言いで言葉を交わす。

部屋の中は特別変わった事は無く、強いて言えばベッドの上にルシードが貸した本が三冊置いてあった事と、ニーアが渡したメモが開いた状態でテーブルの上にあったくらいだ。


「―――あまり考えたくはないのだけれど、封印の間へ向かって自由になろうとしてるとか?」


「……それこそ愚問だ。アイツは場所を知らない。しかも無暗に近付けば即座に捕縛結界が幾重にも発動する」


「確かにそうね。そうなるとやはり逃げ出したとしか……転移魔法陣を使って、とか」


彼女が向ける疑念の視線に彼は深く溜息を吐く。

ニーアは転移魔法陣を個人で持つルシードを疑っており、悠との関係もあってその疑いは一層だった。

そして交わす会話の中で垣間見える疑念を問答として吐き出され、彼は思わず溜息を吐いたのだ。


「……どうも疑っているようだが、レオナ様の信用に関わる事をすると思うか?」


「本当に護るべきモノを棄てた貴方ならやりそう、と思っただけ」


「―――それはお前の感情論だニーア。私の過去と今の話は関係無いと思うが」


「それもそうね。ごめんなさい気が立ってて関係ない事を言ってしまったわ」



冷静な物言いの二人だが言葉の端々に内にある物が滲む。

銀髪の二人はその赤眼を細めると視線を逸らし黙る。



「あのぉーノックしたんですけどぉー、お話声がしたのでー勝手に開けちゃいましたー。えーっとお取り込み中かなとは思ったんですけどー、リスリム様に言われてきたんでー、責任は自分じゃなくてリスリム様にあると思うのでー」


「……あら、貧乏人の伸びきったシャツみたいな口調の残念従者ペリアじゃない。急にどうしたのかしら」


「リスリム様に手伝ってこーいって言われましてー手伝いに来ましたよー。きりっ!」



会話に気を取られて居た二人へかけられる間延びした言葉。

視線を向ければ顔立ちと身なりは芸術品のような男性が一人……しかし声と喋りは残念なペリアが開いたドアの前で立っていた。


「手伝うも何も見当が付く場所は全部探したわ。あと探すとしたら……心当たりはあるけれど望みは薄いわね。最悪逃げ出したかもしれないし―――」


彼女はそう言いながら眼帯の彼を一瞥するがルシード黙って何も答えない。


「えっとーそれは違うかもですよー。って言うのはーウチの主様はそうじゃないかもーと仰られていましてー」


「じゃあ何かしら、フラっと散歩にでも行ってるって話?」


「あー、そんな可能性もあるんですねー確かにありえるー、その発想は無かったー」


深刻な会話の中でペースを掻き乱す彼の喋りを前にニーアは皮肉を向けたにもかかわらず、そのような返答をされて眉根をひそめる。

そんな彼を相手に出来ない事を最初から悟っているルシードは腕を組むと小さく首を振る。


―――リスリム様もお気持ちは有り難いがもう少し人選と言う物を考えて欲しい。

誰にも聞こえないように彼は口の中でそう呟くと、残念従者と毒舌従者が交わすやり取りを余所に辺りを見渡しては部屋の中をいくらか歩く。

そして先程から気になっていた事を確かめるように、今一度ベッドを見る。


そこには彼が貸した本がベッドの上に置かれたまま。そしてもう一点、テーブルの上に開いて置かれたメモ。


「……アイツの性格からして、やはり不自然だな」


辺りを見渡した彼の中で過ったのは誰か部屋に来たのではないか? と言う考えだった。

そんな考えと共にドアへ視線を向けたルシードは僅かに違和感を覚える。


「なんだ、これは……?」


まだ言い合う二人の従者の間を抜け、開き切ったドアに近寄る。

覚えた不自然を確かめるべくドアの下段蝶番と柱側の扉枠を見やり、覗き込むと―――


「花弁……?」


城内の通路で花が飾られている為、花びらが落ちているなど別段珍しい物では無かった。

しかし、この一室は仮にも食客用として用意されている部屋であり、言ってしまえば要人の為の部屋。

しかもこの近くには花は飾られていない。

悠はメイドとして部屋を離れている為、よくわかっていないがあくまでも彼は食客と言う立場。

故に彼の部屋とその周辺も別のメイドたちによる入念な清掃などが行われており、この様な場所に花びらが落ちている事に違和感を覚える。



「あら、魔王封印体の部屋と言えども食客様専用の部屋にゴミがあるなんて……清掃ダストキーパーにはきつく言っておかなきゃいけないわね」


ルシードが手に取った白い花弁を見やりながらニーアははぁっと呆れた物言いでそう呟く。


「あのぉーそれ見せてもらっても良いですか?」


長身の彼は膝を抱えるように屈むとルシードの持つ花びらをじっと凝視して暫く黙る。

先程まで調子が狂う口調で話していた彼とは思えない表情で、真剣に見つめる。


「あぁ、だからー主様はー……。いやだなーこれー」


「何、どうしたのよ」


意味深な言葉を小さく零すペリアへニーアが静かにそう尋ねる。

いつもは真剣な話など右から左に流す調子でしか話さない彼がこのように喋った事に彼女は不安を覚え、いくらか苛立ちを含んだ言葉を向ける。


「この花びらはーポピアと呼ばれる花の物でー、香りに強い睡眠作用があるんですよー」


その言葉にルシードとニーアは察し、言葉に詰まった。

そしてペリアは整った顔を少し歪め、忌々しそうに言葉を続ける。


「10年前にも見覚えがあるー、いやーな花ですねー……」

どうでも良い話だけどポピー(芥子)から取ってます。

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