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別の世界に行ったら男の娘をやるハメになったボクの話  作者: くうや
第五章 男の娘メイド・渡竜編
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第八十九話 「―――随分とお優しいじゃねェか」

「レオナ様の幼い頃よりその様な対象で見ている輩もいくらか心当たりはあるが……しかし何故お前がそれを知っている?」


「理性ぶっ飛ばして飼殺すにゃ便利なシロモノだろ? ソッチ系の奴隷相手にゃ特によォ……」


「……そうだったなお前は―――すまん」



キサラギの言葉に察したルシードは詫びた形で瞑目すると軽く首を横に振り、第五の地に於いてキサラギが性奴隷として扱われ、魔法魔術が効かない事を理由に様々な薬を用いられた過去を語っていた事を思い出す。

しかし目の前の妖精はそんな素振りの彼にいくらか不快を示し、小さく舌を打つ。



「……ンな事ァ今どうでも良い。それよりもあんな場所でケディフェリスを付けてきたって事ァ大迫轟の節メリサリンド・ルゥを機にレオナを陥れようとしてるヤツが居るってこった。

あンなモンをキメられたら薬で増長された快楽が忘れられなくて選帝なんて話じゃなくなんぞ」


「確かにそうだが童女趣味の王族貴族を上げ始めるとキリが無い。 

今回の大迫轟の節メリサリンド・ルゥに介入している中にも数名いるが、後ろ盾として助力している血筋の中にも同じ趣の者が多く居る。そしてそれを特定しようにも時間が無さすぎる……」


「とりあえず今回の会議に参加してた王族貴族関係で一番心当たりのあるヤツを教えろ」


「……待て、そうと決まった訳でもあるまい。事を急過ぎに見えるぞ?」


「じゃァおめーは薬でラリったレオナ見てから動く気か? あれは体内に吸収しちまったが最後、過剰な快楽が脳に刻み込まれて薬が抜けても元に戻れねェぞ」




キサラギの生々しい一言に彼は返答出来なくなる。


ケディフェリスとはイリシア大陸の南方で採取される植物の根より作られる媚薬の一つで通称・狂い水。

根より採取された樹液をろ過し、様々な調合を行って作られる代物で、その色合いから琥珀の蜜とも呼ばれ、独特のしつこい甘い香りを放つ。

この香りを誤魔化す為にファーミと言う香水が合わせて好まれ、二つの香りが混じると柑橘系のような爽やかな香りに化ける。故にファーミは騙し水と呼ばれている。


ケディフェリスの使用方法としては内膜に近い部分に塗布し、その一帯の感度を飛躍的に上げ、快感を得ると言う物。

そしてそこより体内に吸収されたケディフェリスはエンドルフィンの数十倍を超える効果などをもらたし、性行為に於いての快感をこれ以上無い程まで引き上げる性質を併せ持つ。

故に王族貴族がこの薬を用い、幼い少年少女を手籠めにすると言う話が昔から多い。

唯一の救いとして、魔術などで体内のケディフェリスを排出する方法などがあるが、強い快楽を覚えてしまった肉体は再びそれを求めてしまう為に狂い水の名を持つ。

その様な危険性を持つ為、現在のイリシア大陸ではケディフェリスの精製は禁止されているが、キサラギたちの居た世界に於ける麻薬と同じように裏の世界ではその流通は未だに続くのが現状であった。


そして昔よりその実情を知るルシードはその様な事態に陥ったレオナを思い浮かべると小さく唇を噛み、眉根を顰める。




「――――――私の知っている人物で今回参加している者の中でと言えば―――ネクライ・ハーン・スペリアス。セディ家と同じく北方を納めていた血筋の一つだが昔に問題を起こした事のある前科持ちだ。

次にマシュバリア・ノーデン・パーヴ。名前の通りヌネス様と繋がりがある人物だが色々な悪癖の関係から他の血筋より毛嫌いされている。しかし兄弟達の実績が高い為に見合わぬ権威を多く持つ。

最後にギフィー・ルゥ・サーザリウム。名にある通りレオナ様と血の繋がりを持ち、その昔に界客を管理していたと言われている家だ。そして奴隷へ対して偏った趣向を行う悪癖を持つ者が多く、未だにそれが続いているとの話だ」


「オイオイ……控えめに聞いてもヤベーのばっかじゃねェかよ」


ルシードの説明の前にげんなりと頭をうな垂れて彼女は大きく首を横に振る。

今の話を聞く限りでは全員が全員、レオナへ対し狂い水を擦り付けた人間としては十分すぎる内容で誰も彼もが疑わしい。

そして眼帯の彼も同じように溜息交じりに頭へ手を宛てては暫く黙り、ふと顔を上げる。



「いや待て、そうなると……パーヴ様は除外されるな」


「どう言うこった?」


「あの方はまず自分の館から出る事を嫌い、今回の会議へ参加しているのも従者一人のハズ。悪癖持ちで見境が無いと有名ではあるが、それ以前にレオナ様と直接の面識が薄い」


「となると残りの二人が怪しいのか」


「ああ。だがそうなるとサーザリウム様も候補としては怪しくなる。仮にもルゥ家の名を継ぐ以上、レオナ様を陥れるような事をするとは思えん。選帝によってリスリム様が選ばれてしまえば自身が権威の多くを失いかねない上、自分の立場だけでは無く今後まで危険に晒してまでその様な事をするとは少々考えにくい……」



落ち着きを取り戻した様子で淡々と整理を付けながら消去法で彼は話を進める。

そうなればそこから残るのは一人の人間であるが―――


「って事はネクライとか言うヤツが怪しいって事か? だが聞いた感じだと他のヤツよりインパクトうっすいっつーか」


「前科持ちだと話したと思うが、その時に付いた呼び名が幼碧エメラルド趣味のスペリアス」


「エメラルド……?」


「スペリアス様はブロンドに緑眼の少女を好んでな。従者も全てブロンドに緑眼の少女ばかりだ。

―――そしてその切っ掛けとなった事件の被害者はリスリム様の妹君だったのだ」


「え……マテよ、仮にも血縁の人間攫うか普通……」



語られる話に困惑を隠せずキサラギは思わず言葉に詰まらせる。

その様な事をすれば身内からどれだけの仕打ちを受けるか等、普通ならばそんな考えを抱いたとしても実行には移せない……。

だがそれは元の世界での話であってここは別世界。自分の常識は通用しない、と彼女は頭を切り替える。


「故にリスリム様はレオナ様を妃に迎えると公言されているのだと私は思っている」


「ってェのは?」


「妹のサーリャ様が攫われたのが10年前、リスリム様がレオナ様を妃に迎えると言い出したのが9年前」


「10年前ってェ事はァ……」


「――――――魔障活性化事件の際の混乱に乗じて攫われた」



彼はマニュアルを読み上げるような感情が籠っていない声色でそう告げる。

しかしその言葉を受けたキサラギは逆にその冷たさの中に深い感情が込められる事を察し、小さく歯を鳴らしては黙る。

自分の思惑とは違う形で被害があったとしても、突き詰めれば自分たちに原因がある。

しかしその様な原因を作ったのは言うまでも無く、過去にキサラギたち含む界客を不当な扱いをしたこの世界の人間。

故にルシードからその様な冷淡を含んだ言葉を向けられ、過去から抱えるどす黒い感情が漏れ出すが彼女は抑える。

それをここでコイツに向ければ自分らを貶めたヤツらと根底が一緒だ、と。




「……しかしあの事件が無くとも何かしらの切っ掛けがあればサーリャ様は攫われていただろう。たまたま時期が利用されたに過ぎない」


「―――随分とお優しいじゃねェか」


「事実として述べたまでだ。思考を向けるべきはそこでは無い」


「確かに、な」



互いに頭を切り替えるべく、そう口にすると瞑目するとルシードは思案する様子で口元に手を宛がいながら一つ唸る。


「しかし今上げた人間以外が実行に移す可能性も捨てきれない事を考えるとどうした物か。作戦の際、私もレオナ様のお傍に居る事にはなるが四六時中と言う訳でも無い」


「その話だけどよ、ウチらが傍にいるのはどうだ?」


そう告げるキサラギの顔は最初からそう答えるつもりであったと言わんばかりの表情を見せるが、想定していなかった話にルシードは言葉に戸惑う。

そして疑念の色を滲ませた目で見やりながら一拍を置く。


「―――有難い案ではあるが……何故そこまで魔王のお前がする?」


「レオナに何かあればユー坊の立場もどうなるかわからねェ。そうなればウチらもどうなるかわからねェし、元の世界に戻る為の第九もどんな事になるかもわかんねェからな。てめーの為さ」


己の為、と彼女は言い切る。

しかしルシードは果たしてそうなのか? と疑念が晴れず思案するがこれまでの魔王の行動を思い返し、返答に迷う。第五に於いてわざわざ会話を交わそうとした事と、悠と言う存在が居るにしても過去にあったような害を周囲に振り撒く事を一切していない点。

とは言え、信用に足る程かと問えば到底そうとは答えられない。


が、ケディフェリスの件を信じた時点でそれが覆っている事に彼は気付くと、内に籠った感情と言う熱をゆっくり息と共に吐き出す。



「仮にお傍にお前が居るとしてどうするつもりだ? 流石にその妖精の姿でも怪しまれる。ニーアが視れば即座にバレるだろう」


「それなら―――この状態ならどうだ」


そう答えると同時にキサラギはその小さな身体をピョンっと元気良く跳ねさせると、背から生える翅を広げ、自分を包む。

するとそれは球体となり、ピンポン玉程の水晶のような物へと変わる。

それは悠が時々胸元に下げているペンダントとなり、部屋を照らすランプの灯を受けて淡く光る。


「なるほど。それならばAlpの流出が遮断されて解り辛い。……貴様、最初から全てそのつもりだったな?」


「さァーな。ただ要談の時にあんだけやらかして、ユー坊も気張ってんのにウチらはなァーんもしねェって流石になァ? 人間やめたような状態だけどよォ、中身まで人間捨てたくねェだけだ」


玉から妖精の姿へと戻ると彼女は鼻を鳴らしてそう言い放つ。

そんな素振りを見せるキサラギを前にルシードはいくらか頬を緩め、細めていた目も鋭さを和らげる。

それはいくらか諦めにも似た様子で、彼は意識すまいとしながら強く意識していた事に気が付き、再び小さく笑う。




「わかったそれで行こう。疑念は然程も消えはしていないが……責任は私が持とう」


「まァ、何もねーならそれに越したこたァねェんだがな」



悪態を付くような口振りでそう言い合うと互いに顔を合わせ、小さく笑い合うと二人は合意の視線を交わした。

マシュバリアさんはマシュバリア・ノーデン・レムリスでしたがリスリムと名前が似てたのでパーヴに変えました。

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