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別の世界に行ったら男の娘をやるハメになったボクの話  作者: くうや
第五章 男の娘メイド・渡竜編
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第八十四話 「きりりっ!」

要談後、レオナは各国への兵の申請の関係などでまた別の会議に参加する事となり、ボクは珍客とサテンフィン王国騎士団へ足を運ぶ事になった。

と言うのも今回の大迫轟の節メリサリンド・ルゥに参戦する騎士団長と顔合わせしたいと珍客さんがワガママを言い出したからだ……。

正直レオナの様子が明らかに違ったので会議に残りたかったけれど、『甘やかしたらダメなんよ』とウメコの言葉の前にそれははばかられた。



「……全く、レオナも何を考えているんだか。おい侍女。未来の妃であるレオナ直々の頼みであるから、未来の国王たるこの僕との同伴を許してやっていると言う事を今一度知っておけわかったな?」


「―――ハイ、アリガタクゾンジマスリスリムサマ」


しかしレオナもどう言うつもりなんだろうか……。

ボクとコイツが仲良くないのもわかってるハズだし、政敵のハズだ。

リスリムと一緒にボクが騎士団へ向かうってなった時にシャンデリアおばさんが狂ったように反対してて、その様子にドン引きしたけどよくよく考えればあれは普通の反応なのかもしれない。

とりあえずその場はリスリムが上手くなだめて何とかなったけど政敵相手の傘下で戦えって事自体、この世界の人間じゃ無いボクが考えても異常な気が。

正直、レオナの人選ミスにしか思えないんだよなぁ……なんて考えながらリスリムに仕える美形従者が案内するままに進み、王国騎士団の詰所へ到着した。







「此度の大迫轟の節メリサリンド・ルゥに参戦する王国騎士団長各位と顔合わせしたい」


「こ、これはリスリム様っ!? は! 直ちにこの場へ御呼び致します!」


「待て、今日は僕個人として赴いている楽にしてくれ。そうだな、騎士団長の居るその場へ僕を案内してくれればそれで良い。皆の邪魔をしたくない」


「はっ! 畏まりました! この時間は午後の鍛練中に御座います、故に僭越ながらこの私が修練所へご案内させて頂いても宜しいでしょうか!」


「ああ、頼む」


厳格な騎士たちが居る中、彼は我が物顔で進むと騎士の一人に声をかけた。

しかし次期国王の一人がワザワザ出向いてるってのに邪魔する形にしたくないって結構矛盾してるよね? 他の騎士の人とかフルアーマー装備で膝突いて頭下げてるし……しかし彼はそんな事もお構いなしで次々に膝を突く騎士たちの間を王者の風格で進んだ。




「また徒歩か……おいペリア。何故こんな歩き続ける? どうして敷地内の転移魔法陣を使わん」


徒歩移動に不満を覚えたリスリムが苛立ちを含みそう一言。

と言っても詰所から3分程度しか歩いてない気がするんだが……。


「ああーリスリム様もお忙しかったから知らないんですねー、えっとですねー此度の渡竜が想定以上の数なんでー、その為の備品運搬に城内の転移魔法陣がそっちに使用されちゃっててー、残ってるのが緊急用位なんですよー。でー、王国所属の魔術師召喚士が合間を縫って作成中らしいですがー、魔法陣は作るのに時間かかっちゃうんでー今品切れ中らしくてー、だから歩くの疲れて来たからってーそう言われてもー頑張って歩くしかないって言うかー」


「……解った。お前は容姿と裏腹に喋りと声が品性に欠けるゆえ静かにしていてくれペリア。いつも通り真顔で後ろを付いて来るだけにしろ」


「わーかーりーまーしーたー。きりりっ!」


「……ぶフっ!」


「おい侍女、一度目は寛大な心で許してやろう。しかし二度目は知らんからな」



笑わないように堪えてたところを「きりりっ!」の台詞と動きでトドメを刺される。

だってどっかの映画俳優みたいな長身美形が間延びした口調で喋ってるだけで笑いどころなのに、「きりりっ!」と同時に、どっかの2カメ3カメに向けて顔を動かすみたいにあらぬ方向向いてキメ顔ですよ?

笑うに決まってるじゃん……。



そう言えば王国騎士と言えば今回の魔王封印の件が認められてヴィグフィスさんが王国騎士に戻ったとかって話だったな。久し振りに会えるかもしれないのか。

そんな事を思い出すとリスリムの後を続くボクは気が付けば浮き足が立っていた。








「サテンフィンおうこーく!!!」

「「「「最高!!!」」」

「次期サテンフィン王国統治者ぁー!!!」

「「「レオナ女王陛下!!!」」」

「サテンフィン王国騎士だあぁーん!!!」

「「「最強!!!」」」




「…………なんだこれは」




案内された先の運動場みたいな修練広場でリスリムがこれほどに無い程顔を引き攣らせて一言。

視界の先では筋骨隆々の男たちがパンツ一丁で玉のような汗を笑顔一杯に振り撒きながら、よくわからない発声。

ボディービルダーのポージングとも違うそのポージング……広がる筋肉アートは異様な光景のハズなんだけれども、どこか懐かしくもほっとしてしまった自分はもうダメかもしれない。



「これはリスリム様! お忙しいこの様な場所に……おい、誰かお寛ぎ戴けるように椅子を御用意しろ!」


「い、いやその心遣いだけで充分。今日は僕個人の興味で足を運んだだけ故、気遣いは無用だ第七騎士団団長ヴィグフィス・ランゼル殿よ」


軽く40人ほどは居そうな筋肉騎士を率いて相変わらずのマッスルアートを展開していた彼は旅をしていた時と相変わらずだった。

仕事が色々と忙しいって聞いてたけど、確かにこれだけの数の人を見ているのなら大変だよな……と思いつつ彼の後ろで綺麗に整列しているマッスルナイトたちをボクは一望した。



「失礼ながらリスリム様、本日はどのような御用か宜しければお聞きしても宜しいでしょうか」


「ああ、先の大迫轟の節メリサリンド・ルゥの件で個人的に騎士団長各位との顔合わせしておきたくてな。あとは色々と実力の程を自分の目で確かめたくなった」


そう答えたリスリムは赤のクロックコートを激しくはためかせると振り返り、ボクへ視線を向けては腕を組む。


「実力……ですか? ユウじゃないか。侍女志願したと聞いていたからてっきりレオナ様のお傍でお世話していると思っていたのだが」


「ど、どうもお久し振りですヴィグフィスさん……。と言うより少々お待ち下さいリスリム……様! その、急に実力をと言われましても……」


「お前あの会議であれだけの事をしておいて―――っとアレは魔王であってお前ではないのだったな。ああ、ややこしい! 兎に角だ、貴様が第五に於いてガーディアンナイツの一人として戦っているのを聞いている。その程を僕に見せろ!」



思わず地が出そうになるのを抑えながら彼に疑問をぶつければ予想外の返答が。

そして魔王と言う単語と同時にざわめく周囲。

そう言えばこの間の要談後の一件でボクが魔王封印されてるって言う話が広まってるんだった。

しかしリスリムは周囲のそんな反応など気にも留めず話を進め、ボクは見習い騎士の一人と模擬戦をする形となった。










「―――おい侍女。何だぁその体たらくは! 真面目に戦え!」


「いやあの、お言葉ですが真面目に戦ってるん……ぐはっ! はぁはぁ……。真面目にやって、るんだけど……! がはっ!」



彼の要望通り修練所で模擬剣を用いて一対一の戦いをする事になったのだけど……言うまでも無く一方的に打ちのめされる状況となった。

正直、剣を渡されて戦えと言われてもヒッキーオンラインな上、運動神経皆無の自分が何か出来る訳でも無く、サンドバックになるのはわかっていた話で……気が付けば何度も土の上を転がる有り様。



「―――おい、本当にあれが魔王なのか……? 素人もいい所だろ。剣先も下がりすぎてるし、構えもなっていないしかも弱すぎるだろ」


「騙されるなって200年前より脅威を振り撒くあの魔王だぞ。何かの目論見で戦ってないに違いない」


「そうだぞ。その姿が少女ってところが良い証拠じゃないか」



倒れてもギブアップは聞き入れてもらえず、ふらつきながら立ち上がれば耳に入ってくる外野の雑談。

よくよく聞いていればどうやらボクの中に魔王が封印されていると言う認識では無く、ボク=魔王と言った認識になっている様子。

前のノーウェンさんの一件とか思い返せばボクの中に封印されてる事実を知っても、200年前の封印が解けた事もあるから本当に大丈夫なのか? と杞憂が後を絶たないだろう。

むしろ信じて貰えないだろうなぁ……。




「―――もう良い。そこまでだ」



完全に興味が失せた顔でリスリムは止めに入る。

同時に期待を裏切られた、とも受け取れるようなそんな態度で小さく溜息を零す。



「ベリウルフを倒して見せたと言う話でいくらか期待していたのだが、どうやら見当違いだったようだな……フン」


「ベリ、ウルフ? どうしてそれを―――いててっ。始まりの海にたゆといし母よ……ってダメだ。自分に魔法効かないんじゃん……」


「おい侍女、その詠唱は上級白魔法じゃぁないか。何故知っている?」


「何故って……練習したって言うか覚えましたので」


「は? なん―――」


「おおこれはこれはリスリム様には御座いませぬか……! 大迫轟の節メリサリンド・ルゥの一件で多忙な中、その御姿にまみえるとは今日は何と好き日か」


「……サマザ大司教殿。本日は私用ながら邪魔させて頂いて居る。しかしいくらか用事は終えたのでな。後は次の作戦で参戦する騎士団長各位と顔合わせをさせてもらおうかと思っていたところだ」



リスリムとの会話に割って入ってくる枯れた声。

そちらへ顔を向ければ白生地に青と金の刺繍があしらわれたローブを身に纏い、これまたどこかのRPGにでも出てきそうな見た目の老人がニコニコと笑みを浮かべながらおぼつかない足取りでこちらに歩み寄ってきた。

掘りの深い顔と深く曲がった腰からして70歳は行ってそうで、その雰囲気は縁側でお茶をすすりながら猫を撫でてそうな……御隠居っぽい感じ。



「これはこれはまだお若いのに……活眼の貴公子と呼ばれる所以はその様な気配りにあるのですね」


「―――すまない、その二つ名は余り好きじゃあない」


「おおこれはこれはご無礼を。して、先程模擬戦を行っていたそこの子供が例の?」


「ああ。しかし聞き及んでいた物と大分違ったようでな……」


「それもそうでしょう。少々遠くより拝見させて頂いておりましたが此の者、先程の戦いで何もしておらぬ様子ではありませんか。微塵も実力を奮っていないと思われる」


老人の一言にリスリムはギョッとした様子でこちらを見やり、周囲のマッスルナイトさんたちも同じ顔で視線を向けてくる。


「お、おま!? また僕を欺いたぁな! くそ!」


いやいやいやいや。

ボクの話もヴィグフィスさんの話も全く聞かずに模擬戦を強要して来たのはキミだからね?

欺いたも何も無いから人聞きの悪い……。



「まぁまぁ。宜しければ僭越ながらこの老木が、お相手しましょうか?」


縁側御隠居おじいちゃんはニコニコと変わらない調子でそんな事を口にする。

この人は急に何を言い出すのかと思っていれば背を這う悪寒。

それは目の前のおじいちゃんが向けた笑顔に入り混じる…………



確かな敵意だった。

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