第七十九話 「シャンデリアおばさん」
「ごめんなさいユウ、急な呼び出ししちゃって……」
要談の間へ足を運ぶと既に人がいくらか集まっており、その中を掻き分けて案内された先へ向かうとレオナが焦りを含んだ小声で囁いてきた。
中学の体育館位ある広間の中心に中抜きされた大きな円卓が一つ。
そのテーブルををいくつもの椅子が並び、大きな旗の下に色の違う椅子が一つあり、そこへレニア女王陛下が腰を降ろして……いるかと思えば水晶球みたいな物が席に置かれ空席だった。
「大迫轟の節の事で何かあったの?」
「みたい。私もまだ詳しくは知らされていなくて……とりあえず今回のは要談って言うより緊急会議に近いかも。多分そのまま要談の内容に話が行くのもあってユウに声がかかったって感じだと思う」
何となく予想してた内容通りでもあり、いくらか状況を受け止める準備が出来る。
レオナに言われるまま旗のある席を向い合せにした椅子へ腰かけ、軽く辺りを見渡せば身なりの良い小太りの老人や化粧のキツイ貴婦人がチラチラとこちらを見やっているのが視界に入り、その端に覚えのある真っ赤なフロックコートとブロンド。
スルーしようとしても激しい色遣いのそれは意識せずにはいられず顔を向ければ高慢を形にしたような彼の姿。
リスリムはボクに気が付くと鼻を鳴らすような動きを見せ、すぐにそっぽを向く。
……前の要談の時にも居たし、立場を考えればこの場に居ない方が不自然か。
それから新たに何人もの貴族や王族関係と思われる人たちが間に入ると椅子に腰かける。
ざっと見て30人近くの人間が一つの部屋に集まっているせいもあってか、甘い匂い、清涼を含んだ匂いや香水の匂いなどが入り混じって鼻の奥に不快感がわだかまる。
『チッ。胸クソ悪ィもん使ってるのがいんなァ……』
数日振りに聞いた女性の声は苛立ちを含んだ口調を一つ吐いたかと思うとすぐ静かになった。
ボクは匂いを意識しないように口呼吸で息を整えて見渡せば席のほぼが埋まり、気が付けば先程までのざわめきは静まり返って、正面の席に腰かけていた老人の一人が厳格な表情で辺りを見回すとゆっくり口を開いた。
「まずこのような形でお呼びした事をお詫び申し上げる。して、ラキナ・ルゥ・レニア女王陛下に替わり三芒剣の末席を汚しております私、ゼルート・パーディンズ・ノーデンディリスがこの会議の進行を務めさせて頂きます」
淡々とそう述べると軽く会釈をして見せる。
えーっとパーディンズ……ってリスリムのフルネームに入ってたような? しかもノーデンディリスってヌネスさんの名前に入ってた覚えが。
しかし名前と思われる部分は最初に来てるし、どうなってんの?
「……王族の血筋のある家系は旗名と呼ばれる名前を持つから苗字が2つになるの。王族、或いは王族に強く関係している家系は名が後ろに来るの。そしてあの方は三大国家が統括する国際聯合の三芒剣に一席を置く人よ」
ボクが覚えた違和感を隣の彼女が察してくれて小さくアドバイスをくれる。
なるほど。
ラキナ・ルゥ・レオナ。王族に関係してるから名前が最後。
ヌネス・テヌカルリッジ・ノーデンディリス。彼は確か貴族だから名前が最初に。
今まで意識していなかったけれど、名前にも意味があったんだなと今更ながら知る。
「ゼル、その様な形式張った物は良い。急に妾を呼び付けたのださっさと話を進めよ。ただでさえ湯治を邪魔されて気が立っておるのだ。わかるであろう?」
老人の言葉に割って入る右斜め向かいに座る年端のいくらか行った女性は流し目でこちらを見ては不機嫌に鼻を鳴らす。視線は生ゴミを見て不快を露わにした感じで、横に座るリスリムも一瞬こちらへ目を向けた。
よく見れば強い色が好きな彼と同じように身に着けるアクセサリーがこれでもかと言わんばかりに強い光を放って自己主張する。ピアス、ネックレス、指輪、ブレスレット……。どれもこれもが凝ったデザインを施した上にオモチャかと思うほどの大きくカラフルな宝石をいくつも付け、脳内で「シャンデリアおばさん」なんて単語がふと浮かび、不謹慎にも噴き出しそうになってボクは必死に抑えた。
「解りました。では僭越ながら本題に入らせて頂きます。聡明な方々は既にお気付きやも知れませぬが、内容は前回の要談後に上がっておりました渡竜の到達日時についてに御座います」
その一言に周りの王族貴族たちがいくらか動揺を見せ、何があったのだと小さく零す。
「予定では10日程で北方上陸すると思われておりましたが2日後……明後日には北方へ上陸すると思われるとの観測が出ました。このままの速度ですとサテンフィン王国の北西に位置するセヴィア山脈へその2日後には到着する見込みに御座います」
「馬鹿ないくらなんでも早すぎる! 観測間違いではないのか!?」
「時詠の巫女様に観測頂いた結果に御座います」
「なん……と……」
時詠の単語一つでみな愕然と肩を落とし、いくらか騒がしかった場は一瞬にして静まり返る。
正直この世界の地理はまだキチンと覚えきれていないけど、10日後に到着予定だったハズが2日後ってのは尋常じゃない。しかも渡ってくる数が本来なら20程度のハズが100近い物になっていると聞くからにおかしな事態もあいまって周りの反応は仕方がないのかもしれない。
「―――フン、状況は解った。で、ゼル卿よ。魔術防壁はいくら仕掛ける事が出来ている? 海上は無理でも海岸、或いは山脈前の平原に即席でも防壁は張れたんだろう?」
そんな動揺が色濃い中でリスリムは一切動じる気配も見せず、将棋でも打ってるかのように顎に手を宛てながら疑問を投げかける。
「は。竜がこの国を目指す際に通過すると思われるナブ海岸、セーズ平原、オディカル平原に10ずつ魔法晶設置を用いて展開しており、現在はセヴィア山脈を中心に40程の防壁を作っている最中に御座います」
「現状設置出来ているのは30程……まぁ短期間に配置出来ている方だな。前年と比べ数が多い故、どれだけ効果が望めるか期待も薄いが多少は足止めにはなるか。問題は兵の展開をどのようにするかと、配置をどう割り振るかだな」
良い大人たちが老人の言葉に狼狽える中でリスリムは状況を噛み砕きながら思案の表情を見せる。
高慢で傲慢で自己中でムカつく奴だなんて思ってたけど、サテンフィン王国を真に導く未来の国王と自称するだけに冷静さはいくらかあるようだ。
「ま、魔王が先陣で戦えば良いであろう!! その為にこの場に居るのであろうっ!?」
癇癪にも似た挙動を見せる痩せた男が一人、上擦った声を上げながら立ち上がりこちらへ大きく指を指す。
その一言に同意を宿した視線はボクに向いてはみなは餌を催促する雛鳥のように一斉に口を開く。
「そうだ、過去に第五外大陸を滅ぼしただけの力を見せたのならばこやつが竜を倒せば良い!」
「今までは滅ぼすべき対象であったが、使える物は使うべきだ」
「確かに前回の要談に上がっていた魔王を抑制出来ているかを見極めるには悪くない。第九へ移る前にその辺りを加味してそれが良いな。どれ程の力が扱えるのか見極めなければ」
「霧が薄れた関係で前年より多く渡竜してくる点を考えると魔王……いや、Alpが竜を退ける手になるかもしれん」
「ま、待って下さい。確かに参加すると言う話はしましたがその様に話を進められても……!」
先程まで情けない表情で沈黙を見せていたのが嘘みたいにベラベラと好き勝手に語り始める中年や老人たち。
そのやり取りに焦りを強く示しながらレオナが声を上げると、視線はボクから彼女へと移り、
「レオナ様、お言葉ですがこれからの事を踏まえますと一番良い機会でしょう? 第九を行う前に貴女様がきちんと魔王の手綱を取れているかどうか、示す絶好の場です。どうしてそのように慌てられるのでしょうか?」
「そうですよ。魔王は200年前、そして15年前にも猛威を振るった存在。言ってしまえばレオナ様も魔王のせいで色々と大変な思いをされている筈です。どうしてその様に心苦しそうにされる必要があるのですか?」
「か、彼は……ユウはそんなんじゃ……」
「ユウ? 魔王に名前があったとは存じませんでした。身なりは人そのものですが大丈夫ですか? 私にはレオナ様が大分私情を含まれていらっしゃるように映るのですが」
先程まで静かだった面子は水を得た魚のようにベラベラと饒舌に言葉を吐く。
仮にここで魔王と呼んでるボクがキレて暴れたらどうする気だ? と内で熱を持つ敵概を抑えながら周りを軽く見まわして納得。
よくよく見れば目の前の球体はElfで作られた物体で、意識を集中すると腰掛ける人物の中にElf持ちが何人かいるのがわかった。
それは等間隔で席に座り、図にすると六角形を模ってその一端に球体、その真向かいにボクの席がある。
恐らく、何かあったとしても抑え付ける事が出来るようなっている。
そして万が一があったら困るのでレニア女王陛下が参加していない……と言う訳か。と色々と理解する。
ボクは隣で小さく手を震わせる彼女の姿に耐え兼ね、口を開こうとし―――たが、
息が詰まるように声は言葉にならず、ただの空気となって口を抜けて行った。
「どう……しようユウ」
彼女は掻き消えるような声を自分へ向ける。
周りの視線は責め立てる……と言うより幼気な少女を寄ってたかって嬲り楽しむ下品な物となっており、誰一人としてそれを止める事は無く、反論出来ないのを良い事に次々に続ける。
晒し者のように弄ばれ震えるレオナの言葉に対し、自分はゆっくり顔を向けて今一度口を開く。
「―――知らねェよ。甘えてんじゃねェ」
すみません話書かずに艦これアーケードとかやってました……っ!




