第七十七話 「じゃあいつも通り、全力で」
久しぶりのネトゲスキル。
「戦い方か……」
彼はそう口にすると悩んだ様子で口元に手を宛てた。
「教えるのは良いが私もやる事がある。仮に教えるとしても今日のような遅い時間になるぞ」
そう言えばルシードさんはやる事があるんだった。今だって無理を言って付き合ってもらっている事を忘れていた事に気が付く。
「す、すみません! 色々肝心な事忘れてました……無理言ってごめんなさい」
「それは気にするな。と言うのも私は完全な後衛な戦い方が主なのだが、お前は発動の早さからして後衛では無い。そこに加えて機動力もある。習うならヴィグフィスの方が……」
「ヴィグフィスさんですか?」
「あくまでも参考になりそうなのはと言う例えさ。それに―――」
彼は言葉を続けるか少し迷って見せてはボクを指差してその先を口にする。
「戦い方と言うのは教えられて学ぶものでは無い。学校に行っていたと言う点から仕方がないのかもしれんが、『頼めば簡単に何でも教えて貰える』と言う甘えがある以上強くはなれんぞ」
唐突に向けられた言葉にグサリと包丁でも突き立てた音が全身を走る。
いやそう言ったってとかだってとかしょうがないじゃないかと傷口から噴き出すが、いやそうじゃない。
―――ボクはルシードさんはお願いすれば教えてくれるとどこか思ってた。それを指摘されたのが辛くて言い訳を並べようとしてしまった事を自覚する。
育った環境のせいと言ってしまえばそうだけども、この世界に来てそればかりをしていてはダメだと動いていたハズなのに気が付けばまたやってしまっていた自己嫌悪にいくらか陥る。
「ごめん……なさい」
「そこで謝られるとこちらもこれ以上言えないではないか」
「……え?」
「私より実力が上の者が自分の実力を否定した顔をしていたので少し皮肉を言いたくなっただけさ。まぁ何かあれば聞いてくると良いとは言ったが、何でも聞いていては身になりにくいと思うぞ」
いたずらに彼は笑って見せてはボクの額をデコピンしてくる。
図星を突かれたのもあり、いくらか呆然としているとルシードさんは背を向けていくらか進む。
「まぁ今日はここまでにしておこうか。何か知りたい事があれば部屋の本を好きに読むと良い。それで調べたり考えてもわからぬようだったらその時、改めて私に聞いてくると良い」
振り返らずそう口にすると焼き払われた平原を背に彼は帰りの魔法陣を展開する。
その魔法で起きた風と夜風が辺りの焦げた匂いをさらい、その風に混じるようにしてボクらはその場を後にした。
「ドラゴンは2つの種類に分かれる。人へ変身する力を持つ竜を守竜と呼び、変身する事の無い原初の姿のままの竜を原竜と呼ぶ。竜の体表は硬くも軟度に優れた鱗に覆われ、数百年を経た原竜の個体はリントリムアの木のように魔法魔術を受け付けない。主に炎、雷、風を操り、長命の竜ほどその扱いに長ける……か。魔法を受け付けないって界客みたいだ」
あの日からボクは仕事が終わればルシードさんの部屋に入り浸った。
彼が用事で部屋に居なくてもお邪魔して、遅くまで本を読み更ける。
元々漫画や小説が好きだったりしたお陰か本を読む事に何の抵抗も無く、気が付けば知識を得る為と言うより知る事が楽しくて夢中になっていた。
「これもメモっておくかぁ……ぬ。この文字難しいな。昔の文字ってゴチャゴチャしてるの多いから苦手なんだよねぇ」
そして本を読みながらもう一つの事を始めた。
それはこの世界の文字の練習でイリシア大陸で使われている共通文字と簡略文字やこの大陸外の国で使われていたセプト文字などを覚える事。
イリシア大陸の文字はアルファベットにすごく似てて覚えやすく、簡略文字も一つの文字に漢字のように複数の意味合いを持っていたりと覚えやすいので思ったよりスムーズに文字を大分マスター出来た。
お陰で何とか挨拶くらいの文章は書けるようになり、今は昔の文字を覚えつつイリシア文字の完全マスターを目指している。
「今日も随分遅くまで籠っているな。仕事は大丈夫なのか?」
「ルシードさんお疲れ様です。仕事の方はレオナが戻ってくる明日の昼過ぎになるので、起きれさえすれば大丈夫です」
「そうか。まぁあまり無理をせん程度にな」
召喚関係の仕事があるルシードさんは大体23時過ぎに部屋へ戻ってくる。
どう言う事をしているかとか詳細に関しては言えない事が結構あるようで、彼が何をしているかはほとんど知らない。まぁ国絡みの事でもあるし、今は深く聞く事はしていない。
それよりボクは他の問題を優先する事にしている。
それは竜に関する情報収集、戦闘の際にどう立ち回るか、そしてこの世界に於ける文字の習得。
「……よし、じゃあそろそろトレーニング行きます」
「もうそんな時間か。付き合おう」
あともう一つ、この間の平原で1時間程度の模擬戦を大体この時間に行っている。
「終焉の炎、神を呑む獣……」
この間の平原で召喚スキル名2つを唱える。
モンスターと言うモンスターはこの前のベリウルフ以来殆どいないので自分で戦う環境を作る事にした。
それは自分で喚んだ召喚獣と戦うと言う方法。
「主よ……何なりとご命令を」
「クルルルルルル」
炎の巨人のフヴェズルングは跪き、氷の体毛を揺らす白狼はどっかの大型犬のように俯せては鼻を鳴らす。とは言ってもどちらも優に2mを超える大きさなのでボクからしたら岩を目の前に見上げてるみたいな状態。しかしソドソやってる時は召喚獣ってこんな風に喋ったり鳴いたりしなかった気がするんだけど……まぁ良いか。
「じゃあいつも通り、全力で」
そう言って模擬戦を行う際に使う剣を渡す。
界客であるボクは魔法が通じない。なのでElfの祝福を受けた祭事に使われる剣……の失敗作を用いてそれなりにダメージが入るようにしている。
フヴェズルングは剣を受け取ると片手で軽くそれを握り、フェンリルは口に咥えると何度か首を振って位置を合わせる。
人はどうしても痛みが無いと覚えが悪い為にこう言う方法を取っている。
そしてルシードさんは巻き添えを受けないように30mほど離れた辺りで空中から、詠唱を開始。
「―――暗雲と荒波を這う蛇よ、来たれ。マギディア」
夜空を白色が染めたかと思った瞬間、ズガァアアン! と鼓膜を震わせる爆音が模擬戦開始を報せる。
闇夜と混じりくすむ砂埃を前に集中すると遠くから聞こえる獣の遠吠え……これはフェンリルの声だ。
同時に周囲の温度が一気に下がり、急激に冷えた地面はその表面をシュガーパウダーを振りかけたみたいに白化粧を纏う。これってエレメンタラースキルの大地を破砕せし無色の杖だけどボクは取った覚えが無い。
「ちょ、何で未習得スキル使ってくるんだよおかしいでしょ!」
「フゥウウウッハア! 主よ隙だらけにありますな!」
「くっ!?」
埃と霧に入り混じり、火の巨人が高笑いしながら上空より容赦ない剣戟をお見舞いしてくる。
間一髪で避けたかと思えば自動追尾するミサイルのように剣先でこちらを追いかけては空を切り、ボクは避けの一手に集中せざる得なくなると……
「グルァアアウッ!」
「―――ッ。ですよ……ね! 霹靂の弓!!」
「ハッハァ! 苦し紛れすぎますな主よ! 厳冬の白霜」
「ぐっ!?」
フヴェズルングの猛撃に気を取られている隙を狙ってフェンリルの乱入。
身を捻り避けながら魔法を放つも、巨人はその電撃を剣で散らすと氷系の中級魔術スキルをお見舞いしてくる。避けようと反応するが先程フェンリルが発動した一定時間凍結効果を範囲にもたらすスキルのせいで動きが遅れ、一撃は左肩へクリーンヒット。
……てかちょっと待って、何でキミも氷系使えるんだよ仕様じゃ扱えるのは炎系限定だろ!
「とりあえず距離を取って……銀の車輪!」
「逃がしませぬぞ銀の車輪!」
フハハと嬉しそうに笑いながら同じく速度強化をかけておっかけてくる赤いマッチョさん。
タッグを組んでるフェンリルにも効果があるようで一緒に凄いスピードで逃げるボクを一人と一匹は追い回してくる。
それはどっかのロボアニメの戦闘シーンかのようにブースターをふかしながら宇宙を縦横無尽に飛び回っては火花を散らす光景に似ており、視界がグルグル切り替わるせいで3D酔いのような吐き気が自分を襲う。
そしてそんな隙を彼らが見逃すはずも無く……
「戦いの最中に上の空とはいけませんな! じぃいつにいけませんぞ主殿ぉおおおお!」
「ウヲォオオオオオンッ!!」
もうキミ誰だよ。
そんな突っ込みも束の間、嬉々と目を輝かせながら剣を大きく振り被る彼の笑顔を最後にボクの意識は途切れた。
「……起きたか。具合はどうだ?」
重い目蓋を開ければ隣で腰掛けるルシードさん。
気怠さが残る頭を動かせば柔らかい毛の感触……視界を動かせば大きな白尻尾が何度かパタパタと草むらの上をはたいていた。
「頭がボーっとしてるくらいですね。すぐ戻ると思います」
ゆっくり体を起こせば身体を貸して枕になっていたフェンリルが腕の下に鼻先を突っ込んで擦り寄ってくる。フヴェズルングの姿は見当たらない。昨日模擬戦が終わるとすぐに消えたって言ってたし、今日も消えたのだろう。
まぁそう言う話はさて置き……
「またボロ負けだったなぁ。自律系だからって流石に今日のはおかしいでしょ。何で仕様外スキルとか未修得スキルバンバン使ってくるんだよ」
溜息を零しながら頭をうな垂れてしまう。
どこが悪かったのかとか反省をしようにも予想外の展開が多すぎて愚痴が漏れる。
「あれだな。ユウは一定の距離を取ってから戦おうと言う意識に捉われ過ぎて接近の対処が疎かになっている」
「確かに……と言ってもそれこそどうしたら良いかわかんないんですよね。武器でーって言われても自分じゃ剣なんて握るので精一杯ですし。今までその辺りをスキルでゴリ押してたのが顕著に出ちゃってますよね……あ、そう言えば」
「どうかしたか?」
武器と言う単語を口にして気が付く。
リタカノに変身した際にちゃんと一緒にあった十字架と言う名の鈍器。
あれがちゃんと具現化されるならソドソで集めてたアイテムとか装備も呼び出して使えるんじゃ?
「えっと、ネトゲで使ってた装備をこっちでも使えるんじゃないかって思いまして。でもどうやってアイテム欄開くんだろ」
思い付いて早くも頓挫。
ゲーム内だとショートカットキー押したり、メニューからアイテム欄や保管庫を開けたんだけどもこの世界にそんなモノは無い。
スキルや召喚、リタカノの変身などを考えればきっと使えるハズなんだけども……スキルにしろ変身にしろスキル名や変身する為のセリフを口にすればそれがキーとなって発動する。
しかしアイテム欄や保管庫を開く為にはそんな事を口にする仕様は無い。
どうしたものかと一人唸っているとフェンリルが心配そうに身を寄せては慰めてくる。
「んーアイテム欄とかの手前って確か……選択肢があって、OPENとCLOSEの文字が出るんだっけ」
そんな事を零しているとフォン、と小さな音と共に現れるマゼンダカラーのウィンドウが2つ。
視界の端を照らす光に釣られて顔を上げれば、30cm前方で斜め角度に現れた選択肢は薄っすらと光っては呼吸するようにその色を変化させる。
「ユウ、それは……魔法か?」
「い、いえ。これはアイテムとか装備を入れてる場所を開くかやめるかの選択肢ですね」
彼の質問に答えながら馴染みのある光へ手を伸ばす。
多分無理かもしれないなといくらか諦めを考えた瞬間に望んだものが現れ、昂ぶる気持ちを必死に抑える。
先程の気怠さも忘れ、花へ優しく触れるかみたいに左側にあるOPENウィンドウに指が乗ると同時に
自分の視界と意識は夜より黒いところへ暗転した。
【大地を破砕せし無色の杖】
北欧神話におけるフェンリルの別名の一つ。
破壊の杖を意味する。
属性 :氷
タイプ :設置系状態異常魔術
詠唱時間:基本詠唱10秒
ジョブLv、ベースLvによって詠唱時間、硬直時間短縮
消費MP:基本消費MP150 ジョブLv1毎に消費MP+3
効果範囲:画面全域
攻撃倍率:MAXLv10
モンスター、他プレイヤーに30秒毎にMAXHPの1.5%ダメージ
範囲凍結効果
スキルLv2毎にダメージ0.5%追加
攻撃対象:モンスター、ギルドメンバーPTメンバーを含む他プレイヤー
クールタイムあり
習得可能職業・トリックスター
【厳冬の白霜】
ルーン文字における雹や破壊を伴う変革、大凶などを意味するハガルと
トゲや棘、障害などを意味するソーンとの複合。
属性 :氷
タイプ :魔法
詠唱時間:基本詠唱3秒
ジョブLv、ベースLvによって詠唱時間、硬直時間短縮
消費MP:基本消費MP18 ジョブLv1毎に消費MP+3 ジョブLv10時、消費MP40
効果範囲:単体
攻撃倍率:MAXLv10 魔法攻撃力95%
スキルLv2毎に攻撃回数3増加 最大攻撃回数16回
攻撃対象:モンスター
クールタイムあり
習得可能職業・ハイウィザード
【神を呑む獣】
北欧神話におけるオーディンを呑み込んだとされる狼の姿をした巨大な怪物。
地を揺らすものを意味する。
属性 :氷
タイプ :自律型召喚 他召喚スキルと重複召喚可能
詠唱時間:基本詠唱180秒 スキルLv1毎に詠唱時間10%カット
スキルLv5の詠唱60%カット
消費MP:450
攻撃範囲:画面全域
召喚効果:召喚者を含むPTに凍結無効、
氷系スキルにより受けるダメージを15%カット効果。
雷系スキルにより受けるダメージ15%増加。
攻撃倍率:MAXレベル5 魔法攻撃力1850% スキルレベル1毎に+120%
攻撃方法:プレイヤーの習得している氷属性魔法を使用。
旋律の一、旋律のしらべを習得している場合、
その効果を全て受けた魔法を使用。
効果時間:毎秒MP40消費 基本持続時間10秒 スキルレベル1毎に+5秒
攻撃対象:モンスター
クールタイム600秒
習得可能職業・トリックスター




