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第六十八話 「ウチらと同じだね」

「あぁ……もうやだお婿にいけない」


先程のひと騒動が終わるとレオナたちは食事の時間となり、ボクらは休憩室へ戻るとそのまま自分は定位置へ座るとそのままテーブルの上に突っ伏した。


あんな大勢の前で痴態を晒し、恥ずかしさやらいろんな物が入り混じりうまく思考が働かない。

昔にコミケ会場でリタカノコスのままひっこけてスカートがおもっきりめくれて下着丸出しになった時に向けられた視線と同じ物を向けられ、嫌な思い出がいくらかフラッシュバック。

同性だってのに「ラッキースケベに遭遇したぜ!」と言わんばかりの爛々とした瞳プラスいやらしい笑み。

他の王族貴族に混じってリスリムのヤツまでそんな視線でこっちガン見してたし……もうやだまじむり。



「おーよしよし。お姉さんがちょっときわどい下着あげちゃったせいで災難だったねごめんよぉ。ちなみに貰い手が無いならお姉さんって予約待ちが居るから安心しなよぉー?」


「リアさん、近すぎませんか……てか、その、えと……胸が。リアさん、胸が……」


「んー? 落ち着くでしょ。よーしよしよし」



彼女は隣に座っては、ボクの頭を撫でながらどっかの動物王国の主みたいな口調をしながら密着してくる。

身じろぎしながら抵抗するも虚しく、ぬいぐるみを横から抱き締めるようにしたまま撫でられ抵抗するのをあきらめたボクはなすがままに。

そして押し付けられるその感触にいくらか戸惑う。

何と言うかリアさん、胸大きすぎな気が……ってかローズさんよりあるような? 服を着てるからわかりずらいけど直に触れると改めてわかる―――って何を考えてるんだボクは。



「そう言えばリーダーはどうしてそんなに距離取ってるの? 戻ってきてからずっとそんな調子だけどさ」


「確かに言われてみれば。どうしたのリーダー。何かちょっと変?」


「え!? いや、そのまぁ……逆に聞くがお前たちはどうしてそんな平然としていられるんだ」


ボクらが腰掛ける場所よりいくらか離れた所でノーウェンさんが上擦った声で返す。

リアさんの言う通り彼女は距離を取って棒立ちし、気のせいか強張った表情。確かに言われてみれば休憩室に戻る前から様子が変だったな。


「平然? 何かあったっけ?」


「リアがわかんないんじゃウチがわかる訳ないじゃん」


「―――先程のヌネス様の話じゃ、ユウの中に魔王が秘められているんだろ。どうしてお前たちは平気なんだ……?」


その一言にカーレンさんとリアさんは小さく「……あ」っと呟き、しばらく固まった。

同時にボクを逃がすまいとしていた腕は解かれ、リアさんはこちらをマジマジと見つめては鼻をちょんちょんと突っついてくる。


「大丈夫じゃないの?」


「…………は?」


ハムスターにちょっかいを出すような手付きで触れてくる彼女はあっけらかんとそんな言葉を吐き、その一言にノーウェンさんとカーレンさんはぽかんと口を開ける。


「だってフツーに考えて何か問題があるならまずレオナ様の侍女になれる訳無いし、レニア女王陛下だってその事をおわかりになってる訳でしょ?」


「そ、そりゃそうだが……」


「それにヌネス様は『魔王を秘める子』って言ってたけど、ユーちゃんが魔王とは言っていないし」


彼女の言葉にノーウェンさんは言葉を詰まらせ、小さく唸る。

あの場に居た王族貴族もそうだったけれど『魔王』と言う単語だけで過剰に反応されるのがほとんどだ。

逆に言えばリアさんとカーレンさんは反応が薄い印象を受けるけれど……この空気はどうしたものか。


「とは言ってもだな、私は不安を覚える。お前だってそうのハズだろ」


いくらか何かの感情を入り交えてノーウェンさんはリアさんに向けると一瞬場が凍り付く。

多分触れちゃいけない何かに関する言葉を発したのだろうケド……自分が事の発端でもあるのでどうするべきか考えるが答えが今一つ見つからず、静かに見守る。



「そりゃそーだけど……でもさ、ヌネス様のお言葉一つしかウチらは聞いて無い。あとユーちゃんからちゃんと話聞いたっけ? 本人からロクに話を聞きもせずにそう言う風に不信を向けるって、仕事仲間としてどーなのさ、リーダー」


「……それはそうだが、逆にお前は考え無しに結論を出し過ぎに見えるぞ?」


「リーダーみたく私情を交えて一方的な判断するよりマシだと思いまーす」



「はいはーい。ノーウェンも悪いけどリアもアツくなりだしてるからそこまでー!」


テーブルの上に上半身を寝そべらせて会話に割り込んでカーレンさんはヒートアップしそうな2人を止める。恐る恐る互いを見やれば一触即発でもしそうな形相で見つめ合い、彼女らの視線の間には目に見えぬ火花が激しく散っているよう。


カーレンさんの気の抜けた動きを前に少し頭が冷えたのか2人は大きく息を吐き、暫く沈黙が続く。

思わず目が合ったノーウェンさんは気まずそうに目をそらし、同時にリアさんがまた身を寄せてきた。



「ユウちゃんさー、もし聞いて大丈夫ならどう言う状況なのか聞いても良ーい?」


氷の上に寝転がったアザラシみたいにテーブルに横たわったままのカーレンさんが背で這いながら間延びした口調でそんな質問をしてくる。

どんな状況か……と言ってもどう答えたものか。

一応話をしてはダメだと言う口止めはされてないし、あの場であんな風にバラされたって事は話をしても支障が無いって事だろうけども―――


『巫女が言ってた通りに俺らの一部を肉体に封印したでいいんじゃねーか? アイツのネームバリューがどんなもんか知らねーけど、クロカって名前を出せば大分違うと思うぜ』


迷っていると久々に聞く声がそんなアドバイスをくれた。

そう言えばそう言う形でレニア女王陛下とかには話を進めてたんだっけかなんて今更呑気に思い出す。

しかし最近反応無かったのにびっくりしたよ。なんて思いながら首元にあるレインボージェムストーンにそっと触れ、いくらか安堵した自分は一呼吸してから口を開く。



「―――最初から説明すると長くなるので簡単に話すと、ボクの中には魔王の一部が封印されている状態です。そう言う事もあって、出来るだけレオナ……様の傍にいると言うか、そんな感じです」


短くそう述べると一同は固まる。

思った程の反応が無く、何かマズイ言葉を口にしたっけ? なんて思わず少々困惑。




「封印って大丈夫……なのか?」


静寂を破ってノーウェンさんが恐る恐るそう向けてきた。

彼女が魔王の事でどんな思いをしたかわからないけど、反応からして過去に何かあったのだろうってくらいは察せた。


「クロカさんの、時詠の巫女さんのお墨付きなので一応は問題無いと思います。その辺りレニア女王陛下もご存知ですし、大丈夫かと」



その言葉に彼女は「はぁああ……」と深い溜息を吐き、崩れるようにテーブルの上に突っ伏す。

緊張の糸が切れ、溶けたみたいに脱力しては暫く唸り声を上げた。

いつもはシャンとした彼女がこんな風になっているのを始めて見るボクは戸惑うものの、他の2人はいくらか慣れた感じで見守る。

リアさんはおもむろに手を伸ばし、軽くボクの頭に触れてくるが何も言わず視線は彼女に向いたまま。


そしてノーウェンさんはいくらか落ち着くと身を起こし、こちらに顔を向けてくる。


「ユウ、すまなかった。色々と感情的になりすぎたよ」


「い、いえ……」


「ほーんとリーダーは話も聞かずに酷いよねー。ねーユーちゃん?」


「お前が言うなお前が」


我が物顔で答える彼女に対しノーウェンさんは苦笑を浮かべ、その会話を前にカーレンさんがうねうねしながら仰向けでアハハと笑う。


「しっかしユーちゃんも凄いねぇ。魔王を自分に封印してるとか怖かったりしないの? 巫女様のお墨付きなら大丈夫だろうけどさー、下手したら大変な事になってたんじゃないかって思うんだけどさ……」


テーブルと椅子の間隔を空けて作ったスペースへボクを無理矢理持ってくると、ポニテの彼女はぬいぐるみを抱えるように後ろから抱き付いてくる。

そしてボクの頭の上に顔を乗せてぐりぐりと顎を当ててはいたずらしてくる。


「必死だったからそれどころじゃ無かったと言うか。クロカさんがコントロールの仕方も教えてくれたので不安はあまりないです」



「……ユーちゃんは強いね」


「だがユウはどうしてそこまで出来るんだ? いくらレオナ様に想いを寄せてると言っても流石に」


前にも向けられた事のある疑問に対し思わず苦笑を浮かべ、その時に答えた内容を今一度口にする。


「理由を付けるならレオナ様に2回助けられたから、ですかね。それに好きな相手が危険に晒されてるのみたら勝手に身体が動いたって言うか……大事な人が居なくなるのはもう嫌ですから」



暗い内容になってしまったのを軽くアハハと笑って誤魔化しながら自分はそう答える。

こう言う話になるとどうしても話が重い方向になってしまうのはどうしたものかなんて思ってるとボクを抱きかかえる腕はギュッと力が籠る。


「そう言えばユーちゃんって界客だから一人っきりでこっちの世界に来てるんだっけ。元の世界にも帰れないし、当然家族とも離ればなれで……寂しい思いしてるんだね」


「か、家族はもう居ないのでそこまでは」


「そうだったのか。そんな事も知らずに自分は……本当にすまないユウ」


「え、いや! 死んじゃったのは3年も前ですし、最近はそんなに寂しいとは思った事ないので気にしないで……下さい」


身を起こして椅子に腰かけたノーウェンさんが険しい表情で今一度頭を下げてくる。

何と言うか家族が死んじゃった話をしてこんな雰囲気になった時、いまだにどう対処すればいいかわからない。かと言って誤魔化す訳にもいかないし……。


「あれだねー。ユーちゃんもウチらと同じだね」


「……同じ?」


「あたしたちも15年前に実の親とか家族無くしてたりするからさ、同じだなって」


「私は10年前に魔障の活性化で家族を亡くした口だ」


ノーウェンさんは薄く笑って見せるケド、その瞳の奥には悲哀と一緒に陰りが見える。

魔障の霧によって人間へ及ぶ影響がどんなものかはボクはまだ知らない。しかしAlpの中にある悪意を考えればどれだけの害を及ぼすかは何となく想像ができ、その被害は酷い物なのだろう。


「とは言ってもウチらは幸せな方。親が執事バトラーだったり侍女メイドだったりしたお陰で、両親を失ってもラキナ家に拾われて寝床と温かいご飯と安全があったし」


「確かにそうだが、そうやって割り切れないのもいるんだよリア」


少し強い口調でノーウェンさんはそう向け、リアさんはそれに対して無言で返す。

そのやり取りをパッツンヘアーの彼女は見やってはまたかと言った顔を浮かべるとテーブルの上から身を下ろしておもむろに懐中時計を取り出し、「ふんむ」と唸る。



「そーろそろいい時間だと思うんだけど、どうだろ?」


手にした懐中時計をプラプラさせながらカーレンさんはそう口にする。

休憩室に戻り何だかんだで1時間近く経っていた様子でもう夜の9時過ぎだ。

レオナたちの食事も流石に一段落ついたであろう時間で、この後彼女を入浴に案内してなどの仕事が待っている。

重苦しくなってしまった空気の中、2人は軽く吐息を口にすると互いに軽く視線を交わす。



「そうだな。そろそろ行くとするか。じゃあいつも通り浴場までのご案内はリアとユウで。入浴のお世話は私とカーレン。カーレンは仲働きトゥイーニーから4名ほど連れてきてくれ」



「了ー解」


「はいわかりました」


「しょうちしたーっす」



リーダーの指示を前に各々返事をすると仕事へ頭を切り替えて休憩所を後にする。

重い話をした直後なので互いにぎこちない雰囲気になってしまうかと思ってたけれど、そんな心配を余所にみんなはいつも通りに仕事をこなした。


どうしたら良かったのかな……なんて考えては見るものの、彼女たちの中にある問題をボクがどうこう出来るすべを持っている訳でも無く、いくらか事実を知っている側からすると魔障の霧の原因である魔王ことトシキたちが全部悪いとも言えない。

何とも煮え切らない感情を鎮めながら仕事をしていると王族貴族の前で恥ずかしい思いをした事はいくらかどうでもよくなり、落ち着いた自分はもう一つの問題に思考が向く。


―――渡竜と大迫轟の節メリサリンド・ルゥ



仕事中にリアさんに聞いた話ではイリシア大陸の外の大陸より毎年霧が薄れるこの時期辺りになるとドラゴンが渡ってきて、どう言う訳かサテンフィン王国とかを襲ってくると言う位しかわからなかった。


彼女曰くいつもと違うのは本来なら8月に来るものが今年は5月に来るって話で、魔王のせいでそうなってるんじゃないかってリアさんは思ったらしい。そしてノーウェンさんの様子がいくらかおかしくなったのはそう言う事が重なってだろうって話だった。


とは言ってもトシキは知らないって言ってた内容だし、全く関係が無いんだよなぁなんて思いつつドラゴン討伐の強制クエストがある事を思い出してると就寝前のレオナに声をかけられ、ボクは夜遅く彼女の寝室に招かれた。










「えと、急にどうしたのレオねぇ?」


これまたシースルーでミニなベビードール姿の彼女を前にボクは視線をまともに向けれず、たじろぎながらも何とかそう言葉にする。

うっすらピンクのシルク製の布は貼り付いた部分から仄かに透け、当然白の下着もきちんと透けるもんですからどうしたものかと視線を上に逃がせば、無防備な胸が小さな突起を見せて透けていると言う状態でまともに見る事も出来ない。

そんなボクを余所に彼女は無言でベッドの上に腰かけるとまだしっとりとしたブロンドを揺らしながらポンポンと自分の隣を叩き、「ん」なんて言ってくる。


―――座れと仰いますか。



久々にこんな時間2人きりになるのもあって緊張のせいでいくらか距離を空けて自分は腰かける。



「……ユウ、遠い」


口を尖らせてそう呟くと彼女はくっ付くかくっ付かないかくらいの距離まで詰め寄ると、風呂上がりの匂いと一緒におなじみのリンゴと紅茶を混ぜたような甘い香りがふわりとボクの鼻をくすぐる。

その馴染みのある香りにほっとすると同時に動悸が掻き鳴らされ、ベビードール姿に意識してしまっている自分の衝動が更に暴れる。



「ご、ごめん……ちょっと緊張しちゃって」


「そんな緊張する事なんて―――」


ボクの態度にやっと何かを察したらしく、彼女は自分の胸と股間をいくらか隠す。

先程まで当たり前に振る舞っていた彼女はその香るリンゴと同じくらいに真っ赤に頬を染めては、身を縮込ませながらチラチラこっちを見やる。その仕草がまた可愛らしく、狙ってやってるんじゃないかなんて思っちゃうほどで。


「ずっとユウは女の子と思ってたし、今も女の子の格好してるから仕方ないじゃない」


「うん……な、なんかゴメン」


「べ、別にユウが悪い訳じゃなくて、その」



赤茶のメイド服の自分を一瞥してはそんな一言。


そして互いに過剰に意識しまくってるせいで会話が詰まる。

えーっと何で自分今一緒に居るんだっけ? 

久々のゼロ距離レオナを前に脳内がオーバーヒートを起こして思考停止。

それによって発生した熱が全身を駆け巡ると喉がカラカラになり、舌が上顎に貼り付きだす始末で緊張からの固唾も飲めない緊急事態。



「そうじゃなくて! そう言う事じゃなくて!」


「ひゃ、ひゃい!?」


舌が剥がれたかと思うと「バリッ」だなんて紙が破けたみたいな音が口の中で響く。

ボクは慌てて口内を濡らす為に舌を噛んで唾液の分泌を促す。




「そうじゃなくてね……ユウとちょっと2人きりになりたいなって思ったから、うん。最近お話も出来てなかったし、寂しかったから」


その言葉を前にボクもだよなんて言うのが普通なのだろうけど、自分にはそんな事は言えなかった。

と言うのも、彼女が口にした言葉は本心だとは思ったと同時に―――



「何か、あったの?」



レオナが何か問題を抱えている事にその一言で気付いてしまった。

随分間が空いて申し訳ありませぬ。

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