第六十七話 「さーて今日は何色でしょ!!」
結局めくられる主人公(
「御元気でしたか御息災でしたか? 界客の少―――しょう、しょーうしょ」
手を顎に当てながら彼はカクカクと頭動かし、その台詞と挙動はいやーなデジャブ。
「おとこのっ!」
「お断りしますっ!」
音速を超えたその両手を素早くブロックしてそのままスカートを押さえながら股間をガード。
まさかの防御に死の踊狂はフラリとバランスを崩しては2、3歩たたらを踏んで小さく震える。
「こ、このワタクシめの道下が打ち破られた……ですとっ……!?」
「二度も同じ目に遭えばいくらボクでも学習しますっ!!」
そのやり取りに周りを囲む王族と従者たちは野次馬の視線を向けてくる。
先程のリスリムとの事は既に記憶から消え、今目の前で起こっているショーを楽しむかのようなそんな顔が立ち並び、ザワザワと騒がしくなる。
こんな状況で止めないもんなんだな……なんて冷や汗が伝う中、レオナやノーウェンさんに視線を向けるとレオナは少々戸惑っている様子だけど先輩たちは劇でも見てるみたいに目を爛々させてる。
「ふっ……ニイシロユウ様、このワタクシめを前に余所見をなされるとは随分と余裕の御様子」
耳障りな声の主は低い声でそう呟き、目を向ければカバディみたいな構えから足を揃え右足をゆっくり上げて両手を静かに広げる。
その構えは鶴のようなポーズで元の世界で『荒ぶる鷹のポーズ』とか言われてる物にそっくり。
そして彼は仮面越しに「コフォォオオ……」なんて呼吸法を響かせ、目の部分がハイビームみたいな発光を見せる。
何でこの人、スカートめくりでこんなガチになってるんですか……。
とても嫌な予感がするので仕方なくレオナたちから少し距離を取り、彼の近くへ足を進めた。
「さぁニイシロユウ様、四度目の正直に御座いますよぉお! ハァアアア―――」
「……やめんかこの馬鹿者が」
「あべしっ!?」
どっかの神拳を振るいそうな動きを見せていた彼の後頭部を打ちのめす鉄拳。
そのまま死の踊狂は床の上に突っ伏し、視線を上げれば恰幅の良い白髪と長い白髭が特徴的な老人の姿。彼はボクの視線に気が付くと七福神の大黒天様みたいな柔らかな笑顔を向けてくる。白を基調とした赤と金と銀の刺繍が入ったローブを纏い、木製の杖を片手に佇む老人が纏うオーラは見た目の優しさとは真逆の雰囲気を含んでおり、ボクはいくらか圧倒される。
―――そしてどうしてか喉の奥が乾き眼の奥がチリチリとする。それは恐らく彼の瞳が何もかもを知っているような、そんな色を宿しているせいか。
「すみませんヌネス様。私の侍女が……」
「はっは! どう見てもウチの馬鹿者が悪い、お気になされるな。してこの者が例の界客か」
彼はレオナの言葉を豪快に笑い飛ばすとボクへまた視線を向けてそんな言葉を口にする。
この人は死の踊狂が仕える貴族の一人。そして魔王討伐に於いてレオナを始め、ガーディアンナイツを援助しディーリス国にあったボクの所有権を無理をしてまでレオナ個人に無償で渡した人物、ヌネス・テヌカルリッジ・ノーデンディリスだ。
「男だと言うのに少女の姿で主人を守るか。はっは! まさかこの様な事になるなぞ予想だにせんかったわい。流石はクロの予言から外れた人間だけあるのう、こりゃ愉快!」
その一言に場がどよめく。
クロカさんの予言から外れたって初耳だけど、それってそんなにすごい事なのか? 何て思うのも束の間、その言葉にこちらに向く視線は驚嘆を含んでボクへ集中する。
「どうされたのですか皆様……」
清涼を含んだ鈴の音のような声が騒がしい場に響き、一瞬でしんと静まり返る。
そしてモーゼの十戒みたいに人混みが割れ、その中を一人の淑女がオーロラのようなドレスをなびかせながらこちらへ来る。
「これはレニア女王陛下、要談の後だと言うのにお騒がせして申し訳ない。ウチの従者が少々粗相をしてしまっての」
「ヌネス卿……貴方様と私の縁です、どうかお気になさらないで下さい」
「ご厚情痛み入る。感謝いたしますぞ」
「ふふっ、またそうやっておふざけになられて。おやめくださいヌネス卿」
「すまんすまん、流石にこの様に王族貴族が集う場だからな。いくらか弁えさせてもらったわい。ガラにもなくな? はーっはっはっは!」
いたずらをする子供を前にした母親のような笑みを浮かべて彼女はクスクス笑う。
彼は彼ではっは!とまた大声で笑い飛ばし、女王陛下相手だと言うのに引けを取らない存在感。
周りの野次馬たちはそのやり取りを小さな雑談交えながら眺め、コントを見ている観客みたいな顔で相変わらず見守り、さっきからみんながみんな何かある度にそれを楽しんでいるような雰囲気……。
もしかして他人事だから面白い光景なのだろうか? などといくらか当事者でもある自分は良い迷惑だななんて思いながら視線を目の前の老人へ戻す。
「さてさて、この様に賑わう前に帰ろうと思っておったのだがの……日頃興に欠けるからとこやつらめ、すぐに何でも楽しもうとする全く困ったもんじゃな―――おい、ナユキ」
「はっ。此処に」
「で、クロからの確認はどうであった?」
「―――彼女の計算ではやはり後20日程で霧を越え北方に渡竜するとの話。霧の薄霧の影響により今年は大迫轟の節が3か月も早い様子でしかも竜の数が通年の20程度ではなく、100近い数が渡ってくるとの事です……」
老人の一声と共にタキシード姿の仮面を付けた人影が跪いた形で音も無く彼の隣に現れる。
死の踊狂と同じように仮面を顔に付けているけども、その面は真っ白で模様も穴も無く、つるつるだ。彼の喋りと挙動はあのドクロ仮面さんと対照的だなと傍観してると、辺りが先程とは違ったざわつきを見せる。
「霧が薄れた事からいくらか予想はしておったが……あやつがそう断言したのなら間違いない、か」
「あぁ、魔王封印が無事に終わったと言うのに何と言う事でしょうか。20日程で渡竜となってしまいますともう海上に向けて防壁陣を敷くには遅いですし、王国手前のセヴィア山脈で迎え撃つしか……いえ、その前に100近いなんてどうすれば―――」
レニア女王陛下は先程の毅然とした態度がいくらか崩れ、顔に手をあてては口にする言葉の端々が震える。右後ろを振り返ればレオナも同じく蒼白した色を浮かべ、左を振り返れば先輩たちも小さくはを鳴らすと言う脅えよう。……視界の端にチラリと見えた赤服のアイツも同じ表情だった。
『トシキ、渡竜って何? 大迫轟の節ってわかる?』
『うんにゃわっかんね。何の事言ってるのかさっぱりだわ。竜がめっちゃ来んじゃね?』
問いかけてみるも珍しくナビトシキはむっちゃ適当な回答。どうやら彼が知らない内容だったみたい。
「はっは! ……そう悲観する事もないだろうて。なぁ、そう思うだろ界客の子供よ? いや、魔王を秘める子よ」
放たれたその言葉によって自分に向く視線が黒さを含んだモノへと変わる。
恐怖、畏怖、憎悪、嫌悪と様々な悪感情が重圧となって周りを覆う。するとレオナがボクと並び、さりげなく手を握ってきた。
「そう睨むでは無い姫君よ。今日の要談で外に知れ、式典前にはいずれ知れ渡る内容じゃ。そう気にするな? それより実際問題としてだ、この様に向く不信を拭わぬまま式典を開き全てを述べたとすればこれ以上の仕打ちを受けると言う話。それだけの物がこの国を始めとし、今も各国に根付いておる。先程の話し合いにあったようにな?」
老人は白髭に触れながら片目でボクを見やる。
どうやら式典の為の話し合いと言う物はボク……と言うより魔王の事で難色を見せた様子でそれをどうにかする為にこの人は自分に何かをさせようとしている。
魔王による影響がどれだけの物があるかって正直わからないし、知らない。
言ってしまうとボクがやった事では無い。が、魔王を帰すと言った以上は無関係じゃないしこうなる事も予想していた……。
―――ボクはその一言を口にする為にレオナが握ってくれている手を強く、握る。
「わたくしは何をすればレオナ様を含むこの国の為になりますでしょうか、ヌネス・テヌカルリッジ・ノーデンディリス様」
「ほう。おぬしはこの様に面倒事を向けられても動じんか」
「何も出来ずに歯痒い思いをする事に比べましたら、面倒なんて気持ちは微塵も御座いません」
「ふはは! 見た目の幼さに似合わず言いおるな! してその言葉に偽りも無い様子。……だそうだ、どうするレニア女王陛下よ?」
「そこまで話をお進めになられてから問われるとは本当にお人が悪いですよヌネス卿」
はぁ、と大きく溜息を付きながら苦笑を浮かべ、彼女はブロンドを煌めかせながら首を横に振って観念した表情を見せた。先程まであんなに青白くなっていた顔色は元に戻り、いくらかの余裕が戻った調子だ。
しかし周りの雰囲気は相変わらずで、それを理解していると言わんばかりにヌネスは口角を上げてイタズラ少年のように一つ笑っては人混みに顔を向けた。
「―――と、言う訳じゃ。さっき渋っておった連中はこれで多少は溜飲下がるだろうて?」
「また貴公は勝手な事を……。場を弁えずに取り決めをすれば我らもそれなりの対応をさせて貰うぞ」
「そうじゃそうじゃ。おんしはすぐにそうやって好き勝手やりおる。竜100超えなぞ前代未聞じゃ。少しは痛い目を見てもらおうか」
「よく言うわい。正式な取り決めと言って先程のように話し合ってもあーだこーだ渋る上に、気に入らんかったらとことん捻る性根は子供の頃から変わらんなマルフィス、テーヴァ。
まぁ良い、何かあっても全てはワシとこの国が負う事になるだけじゃ。はっは!」
「自分で言いだした話じゃ。当たり前じゃろうて」
明らかに不利な状況にドンドン陥って、これ以上無い険悪な視線を受けているにも関わらず老人は何がおかしいのか楽しそうにしながら目を輝かせ、軽く髭で遊ぶと片目を閉じて一言。
「しかし逆にこやつが見事撃退出来た暁にはワシとこの国が手柄独り占めじゃのぉ。なぁ? 魔王を秘める子よ」
その言葉に悪態をついていた老人2人が顔をしかめては慌てた素振りを見せるがヌネスさんは既に遅いわと言わんばかりの顔をしてこちらへ視線を向ける。
ボクに竜を倒せって言いたいんだろうけど、そんなのゲームくらいでしか知らない……何て言えるはずも無く。
「マルフィス卿、テーヴァ卿。まだそうと決まった内容にはありません―――」
「ふん! こやつが言い出したら聞かんのは儂らがよぉーくわかっておるわ。問答するだけ時間の無駄じゃ。勝手にしろ! 式典も出来んほど大恥でもかくが良いわい」
人混みの中で老人の一人が声を荒げると文句を吐き捨て、肩を怒らせながらその場を後にする。
従者と思われる人影が10名近く慌ててその姿を追い、もう一人の老人も鼻息を鳴らすとそのまま退場した。
「さて、ワシらもそろそろ退散するかのう。竜の件はまた後日要談となるじゃろうしその時にまたな」
「お陰様で……と申したい所ですが毎度毎度肝が冷えて生きた心地がしませんわ。出来ればお戯れも程々にお願いしますねヌネス卿?」
「これでも控え目に話を進めたつもりだったんじゃがなぁ? ……ほれ、踊狂、帰るぞ」
未だに老人の横でうつ伏せになって地面に叩き付けられたカエル状態の仮面さんを杖で突っついて声をかける。
その横でタキシードのっぺらマスクさんが仮面越しに小さく溜息を吐いて首を振っている。
恐らく彼も色々と大変なんだろうな……。なんて観察してると地べたのカエルさんがピクリと動く。
どうやらやっと起きたらし―――
「さーて今日は何色でしょ!!」
元気な彼の声と共に視界が自分のスカートによって遮られ、下半身を爽やかな風が吹き抜ける。
そう言えば昨日リアさんに貰ったいくらか布面積が少ないリボンが可愛らしいパンツ穿いてたんだっけ……。
現実逃避が働くボクが正気に戻った時にはこちらをガン見する王族貴族の視線。
―――自分はまたもやスカートをめくられ、今回は大勢の居る前でその純白パンツをさらした。




