第六十六話 「多夫多妻制度バンザーイ!」
8000文字近いです長いです。
「―――と言う事で以上になります。では家政婦長、後の事はよろしくお願い致しますわ」
案内された先の一室に居た50過ぎくらいの女性へ5分程度話をして何かの書類を渡すと銀髪の彼女は短くそう告げ、足早にその場を後にした。
広い書斎の様な部屋でメイド服を抱えたままのボクとその初老手前の女性2人きり……。
彼女は綺麗な白髪を束ね、後頭部でシニョンを作って一つにまとめたヘアースタイル。顔は歳の数と厳格さを現わしたように皺がいくつも入り、服装は露出の無い茶色のロングスドレスの上に白のベストを羽織っている。身長は160ちょいくらいなんだけど姿勢の良さからか凄く背が高く見え、
「さて、それではあなたにはどこに就いて頂くと致しましょうかねぇ……。私はレニース・テレンセスと申します。あなたの名前を教えて下さい」
「ボ、ボクは新城悠って言います。レニース・テレンセスさんよろしくお願いします」
鋭い視線でボクを見やる彼女の言葉で慌てて名乗ると深々と頭を下げた。
その素振りに彼女は何かを見定めるかのように軽く腕を組んで暫く考える仕草を見せる。
「レニーで構いません。ところであなたはお辞儀の仕方がなっていませんね。女は左手を右胸にあてて腰を軽く前へ折る、男はその真逆。王族もしくは自分の主人へお辞儀をする場合女は左手を、男は右手を胸の真ん中へ手をあてて少し深めに腰を折るのです」
「ご、ごごめんなさい! こう……ですか」
「―――随分良くなりました。初めての者は背筋が丸くなるのですがあなたはキチンとしていますね。お辞儀は大切な事なので忘れないようにしなさい」
「は、はい。ありがとうございます」
「では配属前に一つ質問ですが、ニーア様の話ではあなたは界客の食客であると聞いています。その様な立場であるならこの様な場所で働く必要が無いと思うのですが、あなたの目的は何ですか?」
お年寄り特有の高さと低さを交えた独特の声で淡々と言葉が述べられ、鉄仮面の様な表情を浮かべてはブルーの瞳でボクを見つめる。感情が読み取り辛い表情のせいで自分に疑いを持っているかのように見えるけど、声の感じからして何かを探っているとかじゃなく純粋な疑問として投げかけている風だ。
「ええっと、先程のお辞儀のようにボクは知らない事が多すぎます。けどローズさんとかレオナに教えてもらうって言う恵まれた環境で覚えるのと、仕事と言う環境下で知らなければおかしいと言った中で覚えるのとでは全然違うと思って……。そして食客としての役目も果たせるようにメイドさんって形が一番だと思ってお願いをしました」
説明を終えると彼女は今一度腕を組み直し、ボクを見つめる。
その表情は年季の入った顔と言う事も相まってレニーさんの視線が何もかもを見透かしているかみたいに思えてしまって、小さく足が震えてしまう。
「仮にも第一王女たるレオナ様を呼び捨て、ですか」
「あ……す、すいませ―――」
「構いませんよ。あなたがそれだけの立場にあるのですから問題無いでしょう。もっと言ってしまえば私が膝を折らず敬称も付けずにこうやって会話をしている方が本来ならば間違っているのです」
そう口にすると彼女はほんの少し口角の端を上げ、柔らかさを含んで目を細める。
「では話を戻しまして、ここで働きつつレオナ様のお世話がいつ何時でも出来る様に配属しますとレディースにしましょうか」
「レディース? ですか」
「貴族王族の女主人の身の回りを世話する仕事で、食事の世話から入浴や就寝に至るまで様々です。これならあなたの理想に一番近いでしょう」
彼女はそう口にすると部屋の奥にある机に向かい、書類を手にしてそれに目を通しては万年筆のような物を走らせる。どうやらそのレディースと言うメイドに配属される事になったようだけど一個問題が……しかし言い辛い。かと言って伝えなければ絶対、後で問題になるしと意を決して口を開いた。
「あ、あのすいません。ボク……男、です」
その発言にハトが豆鉄砲喰らったみたいな表情でレニーさんは暫し硬直した。
顔をこちらに向けたまま書類を手に取るとそのまま自分の顔の前に持って行く動きは何かの機械を思わせる……彼女はかなり動揺している様子です。
「あぁ、私とした事が見落としていましたね。わかりました、その辺りはレオナ様にお聞きして決めて行くとしましょう。それでは隣が更衣室になっています。今の時間は誰も居ませんから着替えて準備をして下さい」
すぐに平常を取り戻したようでレニーさんは機械的な動きからいくらか人間味のある仕草に戻る。
その言葉にほっと胸を撫で下ろすと彼女の言葉に従い、着替えるべく隣の部屋へ向かった。
その後ボクはレオナ専属の侍女として扱われる事になった。
やってる事は前とあまり変わらないケド、細かい部分が色々と増えたり覚えなきゃいけなくて初日から大忙しだった。1日目は様子見ながら手伝いと言った感じで2日目になって朝6時から夜まで通しで仕事。
休憩は基本的に仕事が一段落してから取る物らしく、場合によっては休憩ほぼ無しでお世話に就く事もあるとかだった。
そんなこんなで必死になりながら言われた事とかをこなすけどテンパってるせいもあって、日にちが経ってもナカナカうまく行かず……
「ヘアセットに時間かかりすぎです。10分縮めなさい」
「着付けが終わったのなら次の仕事がわかっているのです、そこで無駄な動きをしない。他の者に迷惑をかける気ですか」
「歩くのが早すぎです。あと1歩後ろを歩く事を心掛けなさい。あと足を進める時は踵から落してはいけません、爪先もいけませんよ。硬い地面の上では音が鳴って下品です、常に足裏面を地へのせる感覚で歩を進めなさい」
「急ぐのと焦るのは違います。言われた内容は頭だけで覚えるのではなく身体でも記憶なさい」
「慣れて手が空く様になったら他の者の動きをきちんと見る事。のちのちあなたもやる事になる仕事ですから今の内に記憶と言う形でしっかり覚えなさい」
「主人の服を選ぶ際は前日と同じような雰囲気の物は避けなさい。他の方々に同じ物をまた着ていると言う印象を与えます。十二分に注意なさい」
「食器を下げる時は主人の利き手の逆より取りなさい。利き手側から受け取りますと主人がグラスへ伸ばす手を邪魔する形になってしまいます」
「謝罪の際に膝を折る場合は左を下ろしてから右と両方下ろしなさい。片膝を立てるのは男、もしくは守護に身を置く者か騎士のする形です」
「食客と言えども侍女として身を置く今は主人とそれに連なる方々には敬語を使いなさい。今のあなたは侍女です、自分の程を弁えて振る舞いなさい」
「―――づが、れだ……」
この仕事に就いて一週間が経った。
夕方、レオナは来客と要談と言う物があるって事でそれが終わるまでは休憩時間になった。
みんなで休憩所に戻るとボクは椅子に座るとそのまま力が抜ける。
朝から晩まで気を張り詰めているせいで、椅子に座ると疲れが背に押し寄せそのままテーブルに突っ伏した。
「ユーちゃんお疲れぇー。時間ある内に夕食終わらせておいた方がいいよー。リーダーは要談の終わる時間の確認に行ったから今の内にお食べ。……ほいよ!」
「ありがとうございます……」
「しかしこの子よくめげないよね。あたしだったら婦長に毎度あんな小言言われたらキーってなる自信あるわ」
「あの人の説教きっついから途中で泣き出す子も多いんだよ。ユーちゃんちっこいのによくやるよ」
目の前に置かれたスープの良い匂いでボクは重い顔を上げ、身を起こす。
身体は正直な物でどんだけ疲れても食欲は湧き、それのお陰でここ数日何とかやっていられている。
レオナのお世話係の侍女はボクを含めて4人でボク以外はみんな18歳で自分が一番年下。
リーダーと呼ばれてるノーウェンさんって人が1人、レディースとして仕事をこなすのは今この場に居るアッシュグレーにショートポニテのリアさんと、センターパッツンに白のカチューシャがアクセントのカーレンさんの2人と見習いの自分だ。
彼女たちは元々レニア女王専属の侍女だったらしいんだけど、レオナが国に戻ってきたと言う事で配属が変わったらしい。仕える人が変わってもその仕事ぶりは凄くて、流石はプロだなって一言。
ボクはいつも通り手を合わせ「いただきます」してからシチューっぽいスープを口に運ぶ。
味はポトフに似た感じで入っている食材は細切れな物からゴロゴロと大きな物がと統一性があんまりない。この時間の賄い料理は貴族や王族向けの夕飯時の忙しい時間と被っているせいで食材の切れ端を適当に掻き集めて作られた食事が出る。とは言っても食べられないような物が出る訳でも無いのでおいしくいただく。
贅沢を言えば肉がやたらとボソボソなのが気になるけど、そんな事を言える立場でも無く黙々と口に運ぶ。
「レニーさん怖いけど教えてくれる事はちゃんとしているから良い人です。それに色々言われるのは覚えが悪い自分のせいですし」
「はー。婦長の事をそんな風に評価した人初めてみたあたし。やろうとしてる所に色々言ってくる小五月蠅い人ってしか思ってなかったよ」
「わっかるー! 今だってあんなにちょくちょく顔出してさー。リーダーに任せればいいのにワザワザ現場に出てきてさー。自分は書類仕事と他の管理キチンとしろよーって思っちゃう」
「……ご、ごめんなさい自分が急に入ってきたせいで」
「あぁんユーちゃんは良いのよ! お姉さんたちにぜーんぶ任せてれば良いの! あぁ、こんな健気で可愛らしいのに男の子ってほんと信じらんない……何て罪深いの!」
「リ、リアさんご飯中ですから」
ご飯中のボクへ寄ってくると後ろから彼女は抱き付いてきて、自分は思わず焦りの声を出す。
現状、仕事仲間の彼女たちには性別をバラしている。と言うのも四六時中仕事で一緒になる以上、隠していた場合バレる可能性が高く仮にバレた場合、チームワークに亀裂が入りかねないと言う事であえて話をした。
誰かさん曰く嘘も誤魔化しは良くないって話だったので今回もその言葉に従った。ボク自身も隠しながら仕事するなんてハードを越えたアンノウンクエストはクリア出来そうになかったしね……。
「ただいま。なになに? 随分楽しそうな事をしているじゃないか。自分も混ぜてくれよ」
ドアが開くと長身で茶髪のショートボブの女性……男っぽい口調のリーダーのノーウェンさんは部屋に入るや否やその一言と同時にこちらに寄ってきて、リアさんを押し退けて腕を回してくる。
それはどっかの酔っ払いに絡まれてるかみたいな構図でいくらか諦めたボクはスプーンをテーブルの上に置いてなすがままになる。
「リーダーおかえりー。で、要人って今日はどこの方が来てるの? 魔王封印が無事に終わってこうも忙しいと式典の時が怖いんだけど」
「その式典の事で要談してるみたいだぞ。ちなみにセディンカーマリアルとマシュバリア、ギーン、レーディンズの王族が来訪なされている。まだ話が終わるまで時間があるが皆さまがお帰りの際にウチらレディースもお見送りだ。失礼がないようにな」
「うっげぇー……セディ家とか政敵じゃないですかヤダー。しかもレーディンズまで来てるとか胃がもたれそう……」
「省略をするな省略を。―――と言う訳だから特にリアとカーレンの2人は失礼が無いようにな」
「わーかってますよ。雲の上のお方に粗相をするほど命知らずじゃないですよー。ねぇユーちゃん?」
「ひゃ、ひゃい……」
3者が3者、人のほっぺやら頭を好き放題に弄り回す中、返事をするけどまともに口に出来る事も出来ずに変な声になる。―――仔犬とか仔猫が触られまくるとすぐに弱ってしまう理由が何となくわかる。ストレスぱない。
しかしセディンカーマリアル家か……って事はもしかしてあのクソ生意気なアイツが居るのか。
「リス……リム」
「うん? あの方もいらっしゃったな。と言うかユウ、様を付けろ様を」
「リスリム様いらっしゃってるの!? ああ、何であの方は政敵なんでしょうか……いえ、敵であるからこそ麗しいあのお方の全てがより一層引き立てられるのでしょうか。間違いでも良いから捧げるならあんなお方が良いなぁ」
「わっかるー! お美しい金髪に慈愛に満ちた青の瞳! そして激情と野心を強調した赤の御召し物を着こなす姿……! 他の王族貴族は私たち下の者を見る時も気持ち悪い目でしか見ないけどあのお方は真っ直ぐ見て下さる。憧れよねぇ」
「リア、お前はまーたありえもしない妄想を。まぁレオナ様とリスリム様がご結婚されてそのまま自分たちがレディースを続けていられたなら可能性はあるかもしれんがそうなったとしても早くて3年後。私たちは20過ぎ、流石に無理がある……諦めは早めに済ませておけ」
「そうなったらユーちゃんに貰ってもらうからいいよーだ。ねー?」
「あーそれならウチもウチも。イリシア大陸、多夫多妻制度バンザーイ!」
「た、たふたさい!? なんですかそ……むぐっ!」
「諦めろ。こいつはレオナ様ゾッコンだから無理だ」
彼女たちのリスリムに対する評価もさることながら予想だにしなかった単語を耳にして慌てる……がまたすぐに揉みくちゃにされて聞き返す事も出来ずあっという間に見送りの時間となった。
ノーウェンさんに案内された先は会議用の一室の前で、それは部屋の前だと言うのにとても広い。
イメージとしては文化会館とかのホール前の開けた場所と言った感じで、前にレニア女王と謁見したような造りなそこでゾロゾロと人が入り乱れる。
その数は王族と思われる人だけで10人ちょい、主人を迎えに来たと思われる従者を含めると30人近くにまで及んで軽いパーティー会場みたいになっている。
ボクらはリーダーのノーウェンさんに続いてレオナの元へ足を運ぶ。
水色のカクテルドレスのようなドレスを身に纏ったレオナはこちらに視線を向けると小さく「ご苦労様」と呟く。
各国の要人は大体が歳が行った人ばかりだったけどその中で若い顔立ちの長身が一人……赤いコートに赤のズボンで相変わらず自己主張が一際激しい彼はこちらへ顔を向けると、固まる。
「お……おま!?」
部屋から人がゾロゾロと流れ、いくらか会話の声が溢れる中で彼が上げるその一声はすぐに掻き消えたがはっきりとボクの耳には届き、あの時した事はしっかり彼の中で爪痕としてしっかり残っていると確認出来た。
そして彼は恐れを知らないのかぎこちない仕草でこちらへ歩み寄り、ボクの目の前へ来る。
ノーウェンさんが一礼するのに合わせてボクらも左手を右胸にあてて腰を折ると彼はその様子を一瞥し、ニタリと意味深に笑う。
「なんだなんだぁ? 談話の場に居ないと思えば侍女の真似事とは面白い事をしているじゃぁないか?」
長身を良い事に見下した形でこちらへ視線を向けながらムカつく笑みを向けてくる。
そして彼の右後ろには白髪のスーツ姿の少女とも少年とも言えない中性的な顔をした人が一人。
「あまり私の侍女を虐めないで下さいリスリム」
「……レオナは静かにしていてくれ。僕はコイツと話があるんだよ」
レオナが庇う言葉を押し退け、彼はふんっと鼻で笑う。
これのどこが麗しい御姿でこれのどこに慈愛が秘められてるんだ? などと腹の中で転がしながら顔を上げてニッコリ微笑み、
「本日もこうして貴方様とまみえて嬉しい限りに御座いますリスリム様。わたくしは今、レオナ様に仕える身として侍女と言う立場に身を置かせて頂いております」
「はっ! 仕える身なぁ……? 食客と言う立場に居る界客のお前が! 侍女かぁ、ハハ! こいつは面白い、なぁ! ペリアよ!」
後ろに居る人物に同意を求めるようにして一際大きな声でそう口にする。
その発言により広場を通り過ぎる何人かが足を止め、それに釣られて周りの視線がこちらに向く。
―――なるほど、そう言う事をしたいのかキミは。そう気付いたと同時に心の中でチリチリと何かが火を見せる。
リスリムの浮かべる表情を前に自分は元の世界で虐めを受けていた事を思い出す。
ボクは中1の時にいじめっ子連中に目を付けられ、小学生時代のコスプレがバレて公開処刑を受けた。
朝登校すればどこから拾ってきたのかローアングルで撮られたボクのリタカノコスのコピーが黒板に何枚も貼り出されていて、それはエスカレートして他のクラスにまで出回った。
当然それは大問題になるが貼り出した犯人がわからないと言う理由だけでベクトルが全部こちらに向き、ボクが悪いと言う理不尽な形で終わった。
そうなった事を良い事にいじめっ子連中は「こんな間違った事してるお前が悪い」と言った調子で加速し、ボクはいつしか不登校になった……。
「男のくせに、侍女の真似事とは片腹痛いぞ! 身を弁えろ?」
その一言でこちらへ向く視線が一気に増え、ボクを見やる目は嘗め回すものへと変わる。
見定めようと、興味を含んで、軽蔑を含んでとそれは様々で集団が向ける視線とはこれ以上ない辱めだ。
けれどよくよく冷静になればコミケの人混みと視線に比べたら随分可愛い物で、過去のトラウマを思い出しながらあの時どうして逃げ出してしまったんだろうなんてちょっと笑ってしまう。
「ええ、リスリム様それが如何なされましたか?」
「―――僕は身を弁えた方が自身の為だ、と忠告をしているだけだ。賢いお前ならわかるだろ?」
彼はニヤニヤと笑顔を見せるが口角がいくらかいびつで、腕を組む手にはいくらか力が籠っている。
レオナを始め、ノーウェンさんたちはやり取りに対してただ見守っている。
彼の言葉に応えるべくこちらも満面の笑みを浮かべ、レニーさんに教えてもらった作法を交えつつ、雪ねぇ直伝のぶりっ子アクションの上目使いプラス軽く握った手を胸元に持ってくる仕草を向けながら……
「はい。レオナ様を護る為にあるこの身、自分が男と言うそれらを弁えた上での侍女に御座います。わたくしは彼女をお守りする事が全てです。性別を犠牲にしてでもそれを全うするべくの選択に御座います。これはリスリム様も深くご理解して下さっていると思っていたのですが……」
彼の声に負けじとはっきりとした声で返しながら胸元の手を自然に下ろし、下腹部近くでワザと組んで見せて小首を傾げ今一度にっこりと笑顔。
彼はその動きにビクリと身体を動かすと笑顔がいびつになり、汗が頬を伝う。
―――虐めで知った事はこう言う時に退け腰になった方が負け。そして、臆した方が負け。
大衆の目の前で性別を偽って女の格好をしているボクを貶めて辱しめたかったんだろうけれど、キミのお陰でもう肚は決まっているんだ。
効きはしない、お返しするよ……。
「そ、それはお前が僕をだま……っ!」
「おおっとぉ!? これは! 何とも珍妙な、いやはやしかしやはり違和感の無い御姿が!」
リスリムの冷静さを失った声に被せてこれまた喧しい声が割って入ってきたかと思うとシュババと意味不明なポージングを取りながらローブをはためかせる人影が一つ。
王族の集いと言う時点で彼が居る事はいくらか予想出来たハズだったんだけど、リスリムの事で頭がいっぱいだったボクは予想外の人物の登場に笑顔がいびつに。
「これはこれは至極御久し振りに御座います御機嫌麗しゅう、どうもーっ!!」
相変わらずの甲高い声と共に大きくバンザイをしながら仮面の道下、死の踊狂がオーバーアクションで間に割って入ってきた。




