第六十五話 「思ったより腹黒ッ!」
「……仮にそうだとして、どうしてそんな回りくどい方法なんだろう? 15年前に魔王の封印が解けて隠蔽がされた事で国から信用を失ったって形で強引に事を進めれたハズなのに」
次から次に沸く疑問の中で一番不可解な一つを口にした。
魔王の封印が解け、少なからず被害も出ていたのを考えれば国民からも信用を失っていた可能性がある。
それらを掲げて動けばもっと早く、しかも円滑にリスリムの家系が王位に就く事が出来たんじゃないかとボクは考えてしまう。
じゃあそれをしなかったと言う事は当時ではラキナ家とリスリムの血筋が入れ替わるにはまだ早い何かがあったのかもしれない―――などと考え込んでいると自分に向く視線に気が付き、ボクは顔を上げた。
「あの……どうかしました?」
「い、いや。リタきゅんが思いのほか冷静で少し驚いただけにござるよ」
「冷静では無いですよ。ただ現状だと全部が全部敵にしか思えないので整理付けようとしてるだけです。感情的に判断すると良い事無いですから……。
仮にレーディンズ家を含む血筋がそう言う目論見を持っているとしてもリスリムってヤツがそれを目的として動いてるか怪しいし、他に同じような王族が居る可能性だって高い……。他にも各国の状況も不鮮明ですしまだ情報が足りないと思うんです」
ゴロウさんの話は確かに的を得ていると思うし実際そうな可能性が高い。
だけどそれを念頭に置いて感情的になってしまうと他に色々と気付けなくなってしまう。
早い話が決め付けになってしまい、万が一それが表に出た時も色々と問題になりかねない……。
「た、確かにその通りでござるな。憶測のつもりがいつの間にか決め付けているような口ぶりになってしまっていたでござるよ……すまないでござるよ」
「い、いえ! ボクだとそこまで考えが及ばなかったと思うので。ゴロウさんも凄いんですね。やっぱ大人の人って感じがしました」
「そ、そそそそそんな事あるかも無いかもにござるぉお!?」
「―――落ち着けや変態ゴザメガ」
「じゃぶろ!?」
キサラギさんは眼にも止まらぬ速度の裏拳で振り、ゴロウさんの顔面へクリティカルヒットかます。
彼の身体は小石のように軽々と宙に舞って……首から落ちた。
普通の人ならヤバイよね? などと思うボクを余所に彼女は何事も無かった調子で話を続ける。
「しっかしアレだな、おめェ中身14だっけかァ? にしちゃ落ち着きすぎだろ。ウチが14の頃なんてなァんにも考えないでバカばーっかやってたもんだっつーのに。
……ところでよォユー坊に聞きてェ事があんだが良いか?」
「―――えと、聞きたい事ですか? はい何でしょう」
顔を傾けて鋭い目を更に細める彼女の視線に気圧されて固唾を一つ飲んでボクは構える。
「おめェウチらのAlp引っ張ったにしちゃ中のAlp多過ぎやしねーか? どっから引っ張った?」
「…………え?」
「え? じゃねェよ。まさかそんだけ抱え込んでおいて無自覚とか言わねェよな……?」
「すいません……全然わかんないです」
はァん!? と大声を出すと彼女は取り乱し、正座していたボクは思わず足を崩して後退る。
そこへ割って入ったトシキによっていくらか彼女は落ち着きを取り戻し、今度は彼が改めて質問の続きを切り出してきた。
「キサラギさん落ち着こーな? ……ユウ、お前変な夢とか寝てて誰かの声がやたら聞こえたりって現象はねーか?」
「そう言うホラーは今のところ体験した事無いよ……」
「てー事は勝手にここまでAlpが増えた? にしちゃぁ流石に限度があんだろ」
「ごめんトシキ、どう言う事なのか簡潔に教えて」
「ああわりぃ。はえー話がお前の内包Alpは俺ら超えてんのよ。最初は錯覚かなーとか思ってたんだが先日お前のペンダントの中で細かく調べたらそのレベルぶっ飛んでたって話さ」
HAHAHAHAHAHAHA! とか爆笑しながら自分の膝をバシバシ叩き腹を抱える。
いや、それ笑い事じゃないよね?
気が付かなかった自分にも問題があるけど、そんなに笑えるポイントどこにも無いと思うんだ。
「トシきゅんそれ笑い事じゃないと思うんよ? ほれ萌えっ子が泣きだしそうな顔になってるし、その辺りでやめてあげるんよ」
「あーわっりぃ。思わずツボに入っちまったわあっぶねーあぶねー。話を戻すとお前が元々持ってるAlpと俺らから奪ったAlpだけじゃ説明つかない量にまで膨れ上がってんだよ。―――多分俺らの5倍近くはあるぜ?」
「5倍って……それボク大丈夫なの!? トシキたちみたいに暴走ってなるんじゃ」
「俺もそう思ったんだけどなーどう言う訳かAlpが乱れてる感じが全然ねーんだわ。しかも探ろうと接触すりゃ拒絶されて触れもしねぇ」
ブレザーの彼は両手を上げては肩をすくめてアメリカンな仕草をして見せて鼻息を一つ鳴らす。
拒絶されるってどう言う事だろうか……と考えてもわかる訳も無く唸るしか出来ない。
そしてハッとする。
もしかしてクロカさんは気付いてたからボクにAlpのコントロール方法を教えたのかもしれない、と。
そう思い返すとおちゃらけた人だったけど色々と凄い人だったんだななんて改めて実感する。
「まぁAlpに関しちゃ巫女の言ってたコントロールである程度どうにかなるだろうし、最悪ヤバそうになったらすぐに俺らに言えよ。」
「わかったよ。ありがとうトシキ」
「お互い様だから気にすんな。……しっかしあれだなぁ。ここまで問題山積みだと、ユウがやる事多くてマジやべーな」
「そうだね。でもどうしたら良いかわからないより全然マシかな。こうやって話してどうするべきか見えて来たし、お陰で不安もいくらか紛れたよ」
「……すげーな。俺だったらマジ投げるぞこんなん。明らかに映画とかドラマ顔負けな泥沼ん中に突っ込む案件じゃねーか」
「―――トシきゅんトシきゅん、キミがそれ言っちゃうのは色々どーかとウチは思うんよ」
ウメコの言葉の前にボクは苦笑してみせる。
確かに色々と面倒が……今まで以上の厄介事が待ち受けているだろう。
「でもそれならそれで、ボクにやれる事があると思うから」
「何か考えがあんのか?」
「うまく行くかわかんないけど……貴族と王族は変わった趣味が多いんでしょ? ならこう言う類が好みの人も少なくないだろうし、そうじゃないとしても全世界共通で子供ってだけで大人は大体警戒が緩いんだ。いくらか警戒してたとしてもね」
ボクはそう言葉にすると正座の足を崩し、横座りの状態になりスカートを少しつまんではあどけなく笑って見せる。
ウメコは「うほっ」なんて声を上げながら前のめりにボクを見やり、トシキは目のやり場に困った素振りで顔を逸らしながら頬を搔く。
その後ろで猫目を光らせ興味無さそうな素振りにしながらちゃっかり視線を向けるキサラギさん……。
「あーもしかしてメイドやるっつったのもそう言う狙い含めてか。なるほどなぁ……てかお前、思ったより腹黒ッ! マジ見た目に騙されるわこえーよ!」
「アイツ相手にあそこまでした時、答えが出てたんだろうねきっと。―――腹黒い自覚は無かったんだけど今は自分でもそう思うよ……。あはは……」
自分の言葉に苦笑を浮かべながら頬を搔く。
何も無いのなら自分を武器にするしか方法が無いし、幸か不幸かボクは他者の心情を読み取るのがいくらか得意なとこがある。人の弱い部分とか醜い部分に繋がる事に特化してるケド、これもきっと武器になってくれると思う。そう、身体を張って、無理をしてでも……何かを演じてでも手を伸ばすしかないんだ―――。
「演じる……か」
「ん? どうしたし」
「演じてでも何かしなきゃいけないって思ったらそんな事を言われたなぁってちょっと思い出しちゃったんだ」
そう口にして思い出す仮面の彼の言葉―――
『……幸いにして今の貴方様は居場所を得た。
ならばその為に演じ続けなさい……迷わず、疑わず、ひたすらに。
自分ですらそうであると信じる程に。
そうすればそれはいつしか自分自身となり、本当の意味での居場所となるでしょう』
あの時はボクが増長しないように警告してくれた言葉だと解釈していたけど、今思い返すとまた別の意味にも取れる。
目的の為に自分の地盤を形作る為の手段を解いてくれた言葉のように。
そんな事を思いながら右掌へ視線を向け、ゆっくり握り込む。
迷いは無く、その思いは身体を張って演じた時に決まっていたんだ。
それを確かめるように、揺らがないようにあえて口にする。
「ボクは……目的の為に男の娘を演じるよ。そしてレオナを王にして、トシキたちをクラック以外で返せる方法を探す」
男の娘ってとこで何とも間抜けな一言だけども今のボクの気持ちはこの言葉に尽きる。
気恥ずかしさを我慢しながら顔を上げれば3人は真剣な眼差しをこちらに向け、ただ黙り……キサラギさんが小さく笑う。
「ハッ! ちったァマシな面構えになったじゃねェかよ。こりゃ今まで以上にウチらも協力しねーとな」
「え、えと、今もかなり協力してもらってる気がするんですが」
その発言で一同は笑いだし、ボクも釣られて笑う。
そんなで話し合いは談笑に変わり、いくらかの時間が過ぎて戻る時間となりボクは戻る事にした。
深い眠りから目覚めるように重い目蓋を開き、椅子の上で傾いていた身体を起こして軽く頭を振ると同時に寝相が変だったせいで首が痛む。
「……今度からジェムの中に行く時はベッドの上にするか」
ペンダントに触れながらそんな独り言をボヤいては大きく伸びをする。
これからの目的が明確に決まったと同時に必要な物も見え、またレオナに色々と頼まなきゃいけないななんて考えをまとめているとノックが室内に響き渡る。
それに対して返事をすると「失礼します」と聞き覚えの声が聞こえるとドアが開き……銀髪ショートに赤目の女性。
開けたドアの先には今日も燕尾にスカートと言う変な格好の彼女とローズさんの姿。
「ユウ君久し振り! 大丈夫だった? 色々大変だったでしょ……ごめんね」
ボクを見るや否や駆け寄っては飛び付くように抱き付いて頬ずりしながらローズさんによる熱い抱擁。
彼女の豊かな実りに圧迫されて息が詰まり、自分は絶え絶えに声を上げる。
「とり、あえず……だ、いじょうぶ、でした……っ! てかロー、ズさんっ! 息が出来……な」
揉みくちゃに撫でまわされる中で必死の抵抗が通じたようでやっと解放される。
―――何と言うか、女性の胸って大きいとほんと凶器だな。人殺せちゃうよコレ。
なんて言葉を過らせながら乱れた髪と服装を正して彼女に向き直るとボクに突き刺さる視線。
そちらへ顔を向けると先程の銀髪少女がジト目で見つめていたかと思うとこちらに来て無言で手にしていた物を突き付けてくる。
「あのこれって……」
「見てお分かりになられないんですか? ご自分でレオナ様に仰られたのでしょう。その為のメイド服に御座いますわ」
質問を遮り、そう冷たく返されボクは押し黙る。
性格きっついなぁ。なんて心の中で呟いては受け取った物を見ると黒の長めのワンピースのような物と白のエプロン、黒の靴に靴下……と必要な物が用意されていた。
「では行きましょうか、ユウ様」
「えと、行くって……」
「仕事ですよ。この世界では『時は財宝よりも重い』と言いますわ。時間は貴重なのですよ、お解りいただけますか?」
「えーもうユウ君行っちゃうのー? もう少しゆっくりしよーよー。 良いでしょニーアぁ?」
「―――ローズもやる事があるでしょう? 夜になれば暇が出来るのですから我儘言わないで下さい……では」
一瞥もくれずに足早に先を進む彼女の後ろを慌てて着いて行くボクは寂しげに手を振るローズさんを尻目に部屋を後にした。
「んで、どんな感じなんだよトシ坊」
「んー? てーんでダメ、2割も進んでねーよ」
仄暗い空間の中でブレザー姿の少年は胡坐をかき、瞑目したままそう答える。
その隣へいくらかの距離を開けてソバージュの彼女はどかりと座り込むと同じく胡坐をかいて鼻から息を付く。それはため息とも似たもので、何かを落ち着ける素振り。
「ところでアイツにはリンクの話で細かい事言わなかったんだなァ。良いのか? 後になって一気に繋がりが活性化したらまずいだろ」
「つっても自覚が無いとこに説明しても不安煽るだけだしさ。とりあえずは俺らにリンクは繋いでおいたからそれで様子見にすっかなと」
「……なら問題ねェか」
その言葉に納得したのかキサラギはそれ以上聞く事をやめた。
トシキは気怠そうな態度で会話を終えると再び何かに集中し、ゆっくり呼吸を始める。
……と、それにちょっかい出すように猫背の影がトシキの近くに寄ってきて、
「進捗どうですか、なんよー」
「……進捗ダメですわ」
瞑目したまま苦笑いしてトシキはそう答える。
猫背の彼女はまじかぁーと声を上げるとうつ伏せに倒れ込み、暇を持て余した子供のようにゴロゴロ転がる。
そう返した彼は今一度集中し、手をゆっくり伸ばすと手の中にビー玉サイズの白い球が浮かび上がる。
そして白い球の中にもう一つ虹色を放つ玉が泡のように浮かび、シャボン玉のように表面を揺らめかせながらゆっくり回り出す。
「お、お? ……今日は良い感じじゃね? 良いぞ良いぞー。こんまま―――」
閉じていた目蓋をゆっくり開き、半眼でそれを見つめながら彼はそうぼやく。
そして緩やかに息を吐き、彼は神経を集中させ……
「トシキ殿、進捗どうでござるか?」
パチン。
その一言によりシャボン玉が弾けた音が辺りに響き、一同は小さく「あっ」などと乾いた声を漏らす。
暫くの沈黙が続くといつもは飄々とした彼が俯きながら小刻みに肩を震わせ、
「進捗……進捗全然ダメですよってかおめーらが進捗妨害してるんだっつーのぉおおおおおおおおおおおお!!」
マジ泣きしながら薄暗いその場所で大声を出した。




