第六十四話 「そのメガネごと顔面クラッシュフィーバー」
説明&考察回!
2016/6/24 日課を描写し忘れていたので追加。
「メイド……をしたい? ユウは食客なんだからそんな事をしなくても―――」
「これからの事で必要なんだ。……と言うか何て言えば良いんだろう」
伝えたい事がうまく言えずに頭を強く搔いてボクは「んーっと」と唸る。
8時の朝食の後、僅かだけ時間があったレオナに興奮冷めやらずな調子で話しかけたクセにちゃんと言葉に出来ずに今に至り、何とも情けない極み。
『―――ったく、早い話が仕事をするって嫌でも知らなきゃいけない環境下に自分ブチ込んで、この世界に於いててめェが必要なモノを得なきゃいけない状況下にしようって話だろォ?
そんでメイドって立場でレオナの身近に居れるって部分を残しつつ、傍で敵味方の見極めをする。
こう言う事じゃねーのか? 少し落ち着けやユー坊』
溜め息交じりにキサラギさんがボクの言わんとしてる事を述べてくる。
その言葉でそうそれ! と脳内で声を上げるとボクは改めてレオナに向き直る
「えと、今のボクはこの世界での常識とか色々を知らない。かと言ってそれをレオナとかにローズさんに教えてもらってばっかりじゃきっと身に付かない。そして食客って立場から逸れないように身近に居れるってのを考えてメイドさんって形で働かせて欲しいなって話なんだ」
「……そう言う事なのね。でもそうするとユウは嫌な思いするかも……知れないよ?」
「いいよ。それでもしなきゃいけない事なんだ」
立ち止まってる暇は無い。
何かで聞いた言葉が頭を過っては今の自分の心情を現わす一言だな、なんて思いながら真っ直ぐ視線を向ける。レオナはいくらか迷った後「わかった」と言い残し、その場を後にした。
ボクは仮の自室として与えられた客室の一つに戻ると椅子の上に腰かけて大きく息を吐く。
レオナは魔王封印の一件で色々とやる事とかがあるらしく、昼近くまで戻って来ない。
それまで時間があるので時間を潰すかなんて顔を上げ、
―――知らない天井だー。なんて呟きながら背もたれに身を預けながら軽く辺りを見回す。
そう言えばクロカさんに教わったAlpのコントロールをやらなきゃ。
毎朝する日課の一つとなっているそれを椅子に座りながらボクは始める。
時間としては10分足らずのモノで、あっという間にそれを終えると自分の中でクエストクリアのスタンプを一個押す。
またすぐにやる事が無くなったボクは再び部屋の中を見つめる。
ベッド、テーブル、棚、鏡台……部屋にある家具や寝具は元の世界で見た物とは明らかに違う高級な造りだけどで、いくらかその西洋風と言う元の世界の影を持った品々を横目に眺めては前の世界の面影を思い出すけど、それを忘れるように目を閉じた。
「…………トシキ、聞こえる?」
『おう、居んぞー。てかいつもここに居っけどな』
時間がいくらかあるなら今の内に済ませておこうと考えたボクは彼に声をかけた。
返事と同時に意識が吸い込まれると先程と風景は一変して仄暗い広場に。
TVかPCの明かりだけに照らされたような薄暗い場所でトシキを始め、残りの3人はいつもの調子で地べたに座り込んでいた。
トシキは土手に腰を降ろして川を眺める学生みたいな素振りでこちらに顔を向けると陽気に手を上げ、よう。なんて声をかけてきた。
「お前の方から声かけるとか珍しいじゃねぇか。どうしたし」
「昨日レオナが言ってたレーディンズ家関係の事で少し。良かったらトシキの封印が解けた時の話とか、もし知ってるならレーディンズ家についての事を聞きたいんだ」
「あー……その辺の事も話してなかったんだっけな。時間もあるし色々話しますかねぇ」
いつもの調子で飄々とした素振りで彼はそう答えると胡坐に座り直し腕肘を突いて長話の姿勢になった。
トシキ曰く、封印が解けた原因は自分たちが起こした事では無く、どうしてそうなったか一切わからないって話だった。
表向きとしては国王が引き起こした物って話になっているけど、彼の話では魔王の封印が解ける瞬間どうしてか『Alpが持って行かれる感覚』があったらしい。
そして謎の爆発と共に封印が解け、同時に界客の魂が一気に流れ込んでそれによってトシキたちは暴走し、自我を保つ為に200年前と同じく衝動の強いAlpを霧として放出し逃走した……。
その後、第五外大陸に身を潜めながら色々と様子を探ろうとしたけどもAlpから作り出した魔物と魔族では派手に動けず情報収集がうまく行かず、辛うじて入手出来たのが『魔王討伐の為にホワイトプリンセスを作ろうとしている事』と『そのホワイトプリンセスは国王の娘』の2つとそれに至るまでの顛末を知り、力を解放して居場所をバラし行動に出る。
これが今より10年前の話で魔障活性化事件とも言われているらしく、ヴィグフィスさんの話でも微妙に聞き覚えがあった。これによって奥さんとお子さんに影響が出て、対処が遅れてしまったせいで後遺症が出たとか言っていた記憶がある
このような行動に出たのはクラックを任意で起こして魂を帰せるチャンスと思ったらしく、内包していた界客の魂のいくらかが暴走によって消滅の状況下になっていた事もありそんな選択をしたとの事。
何でもAlpの中にある意識は時間が経てば経つ程にその奔流で意識が摩耗されて自我を完全に失うのだとか。そして意識と言う依り代を失った時、別の存在になる。
―――それが霧から生まれたと言われる魔物や魔族の正体。
界客としての衝動が強く残った形で生まれる為にこの世界の人間やElfを持つホワイトプリンセスを狙うと言った特性を持ち、魔障の霧はAlpが持つ性質が働いて同じ場所に残留しようとしてしまうらしい。
その為、人が住むイリシア大陸を覆う霧を始め、あちこちにある霧は薄れても移動をほとんどせず消えないのはそう言う理由なのだとか……。
判りやすい例えがAlpを持ったクロカさんだった。彼女は数百年と言う年月を生きているにもかかわらず、見た目は十代のままだ。それはAlpの中にある過去に固執する特質によるものらしく、当時の状態を維持しようとするんだとか。
故に時間が経っても当時の姿に全てを留め、病気にもかからず怪我もしない、魔力を供給し続ければ半永久的に生き続ける存在に……トシキたちが数百年存在出来ているのも似たような原理らしく、これはルシードさんのような魔族と似た仕組みらしい。
その為に霧はその特質を機能した形で同じ場所に残留し、人間の身に悪影響を及ぼす性質を持ったまま大陸を囲い、未だに世界を脅かす驚異の一つになっているらしい。
「―――こうやって聞いてるとやっぱり15年前の封印が解けた話とレオナが魔王討伐に行かなきゃいけなくなった話が繋がってる気がする」
「だろうなぁ……その後ろにあのお坊ちゃんの血筋、レーディンズ家。そして国の介入と助力一切無しで魔王討伐しろと無理難題吹っかけた三大国家が絡んでる。しかもどう言う訳かレオナの血筋、ラキナ家を王位から引きずり落とそうって魂胆が見え見えなんだよなぁー」
「引きずり落したいってのはわかるとして、三大国家まで躍起になってそんな事をして得られるメリットって何だろ……? この国に何かあるのかな」
「メリットねぇ。ココは日本で言えば北海道とかみてーなとこだぞ。今は春過ぎだからそーでもねぇけどよ、発展が進んでないこの世界じゃ冬となりゃ極寒の地になるし、かなり住み辛い環境だぜ。何かの拠点にするにしてもまじビミョーだし……」
「まァ一個心当たりがあるとすりゃァ……また異世界召喚を起こそうとしてるんじゃねェか? 15年前集まった魂の中に召喚されて肉体を得る事無くAlp化したっぽいヤツが何人かいた覚えがあんだよ。あの事件が起こるまでチョコチョコやってた可能性もあんだろ」
「……でもそれじゃ封印が解けた理由とレオナが魔王討伐の為に育てられた話が繋がらない気がするんだけど」
一同唸りながら各々思った事を口にしてはあーじゃないこーじゃないと憶測をぶつけ合う。
ボク、トシキ、キサラギさんは囲むように座ってはまとまらない考えをまとめる為にガシガシと頭を掻いてはまた唸り。
そんな中、遠巻きに会話を見ていた中年おじさんのゴロウさんがこちらの輪に寄ってきた。
「いや、キサラギ殿の言う通りに召喚を狙った可能性があるかもしれないでござるよ」
「はん? オメェ、ワタシを舐めてんのか? そのメガネごと顔面クラッシュフィーバーすんぞ。オォン?」
「ちょ、それはマジ勘弁願いたいでござる。するにしても話だけでも聞いて欲しいのでござるよ」
自分の意見に賛同してくれた人に対して罵倒するキサラギさん。
……この人はゴロウさんが嫌いなんだろうか? なんて思いながら彼が続ける話に耳を傾ける。
「まず15年前の封印が解ける少し前に覚えたAlpを持って行かれる感覚。これはみなも気が付いた事の一つ。次に先程キサラギ殿が言っていた肉体を得る事が出来ずにそのままAlp化した魂。……これら二つに覚えが無いでござるか?」
「ええっと……それってどう言うこ―――」
聞き返そうとしてボクの視線の先の2人は何かに気が付いた顔で呆然としたかと思えば、眉根をひそめ大きく顔を歪めた。
「ああぁマジかよ! ざっけんなよクッソ、クッソクソクソクソ! 200年前と同じじゃねェか……Alpの抽出、魂がAlp化した存在! あれ自体がそう言う事かよ!? どうしてこんな簡単な事に今まで気が付かなかったんだァ!?」
「それは仕方ないでござるよ。平常と思っていてもAlpの衝動に強く影響され、仲間を帰す事だけを考えて冷静を失っていた某たちが本当の意味で正常に戻れたのはリタきゅんと出会ってからでござるし……」
「す、すいません。ますます訳が分からないんですが」
「憶測でござるが15年前、魔王体よりAlpを抽出し200年前と同じような大規模な召喚を行おうとして失敗したのではないかと某は考えているでござる。
それにより結界が崩壊。その影響によってクラックが発生し、大量の界客がこの世界に流れ込んで来たでござる。しかしそれらは肉体を得る事が出来ずにAlp化。
それは大きな流れになって某たちが封印されている200年の間に死んだ多くの界客の魂を巻き込む奔流となると魔王に吸収され、その力に耐え切れず我々は暴走してしまった……。
そして召喚をサテンフィン王国の前国王が独断で行った物だったとしたら、隠蔽を目論む理由になるのではなかろうか」
ゴロウさんの説明でいくらか疑問が晴れ、気が付けば無言で頷く。
確かに話の中で隠蔽に至る動機が一番わからなかったんだけど今の話なら納得が行く。
―――しかしそれでもレオナがそこまで絡む理由がよくわからない、と過ると同時にゴロウさんは話を続けた。
「次に第一王女が魔王討伐に仕立て上げられた理由でござるが、魔王の封印が解けた事が理由では無く召喚を独断で行った事に対して責任を追及する為にだったのではなかろうか。
そして介入と助力無しと言う条件は魔王の封印が解けた事に関して他国は関係していませんとのアピール……」
「確かにゴロウちゃんの言ってる事は的を得てる気がするんよ。三大国家が執拗に『英雄』って言葉を並べ立ててたのもそれを考えたら辻褄が合うんよ」
「っつー事は単独でこの国が召喚を目論んでたって話だがァ、召喚の情報を流したヤツがいるかもしくはそそのかしたのが居るって言いてェ訳かゴザル?」
「―――キサラギ殿は見覚えがあるのでござろう? 200年前に時詠の巫女を。ならば何らかの形で召喚の技術が知れ、その技術をディーリス国が持っていると考えるのが自然に思えるのでござる。
そしてそれがサテンフィン王国へ何らかの形で伝わり……15年前の顛末に。
更にレオナ殿の事でござるが、封印出来れば万々歳。出来なければ出来なかったで各国が抱えるElf持ちやホワイトプリンセスを使って魔王を封印し、今度は三大国家ぐるみで異世界召喚を目論んでいた……としたらどうでござろう?」
界客には人としての権利が無く、物として扱われている。
そして人間であっても国に所有されていると言う環境に居るので国には逆らえ無いハズ……。
そうなるとクロカさんが昔携わった召喚の技術を国から求められ、それを教えた可能性は否定が出来ない。彼の話でクロカさんの事が出てきてそんな事になっていてほしくないと情けなくも俯いてしまう。
「で、その三大国家の内のディーリスとトーキツと繋がりが強い血筋がレーディンズ家。
魔王討伐に失敗しサテンフィン王国が無くなったとしても彼らが実権を握っていたでござろうし、成功しても選帝と言うモノが待ち構えている。一個一個繋げて行くと余りに用意周到過ぎではござらんか?」
確かに言われる通り、何もかもが今のサテンフィン王国にとっての不利でレーディンズ家を含む三大国家の益に思える内容ばかり。
ゴロウさんの辻褄の合った話を前に誰も何も口に出来ず、黙る。
「それじゃレオナは……」
「酷い言い方ではござるが、国を瓦解させる為に国から引き離され育てられた姫君……ではなかろうか」




