表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/134

第六十話 「あ、すいません……」

結構長めです。

鼠色の武骨な石造りの階段を上がり、同じ色の地下通路を抜けると白色の通路へ出る。

窓から差し込む陽を受けて真っ白な色を放つ通路を前に光を直視したような錯覚を覚え、ボクは思わず目を細める。数日間、あんな薄暗い場所に居たのだから仕方ないかなどと思いつつ案内されるまま甲冑に身を纏う兵士さんたちの後を付いて行く。

通路は石か何かの作りの上に白色の塗装か何かを施したような造りで、廊下の上は黄色と赤の花があしらわれた絨毯が続く。

窓から差し込む日差しが絨毯の色鮮やかさを際立たせ、仄暗い地下にずっといたボクは視界に入ってくる様々な色を前に今までにない程に安堵する。

元の世界でもそうだったけど、薄暗い密室にずっと居るといつの間にか気が滅入るんだよなぁなんて思い返しながら視線を動かす。

時折窓から見える外は手入れされた庭園のようで、一面緑一色。その中にいくつかの植木があり、それを楽しみながらお茶をする為のテーブルと椅子が設けられている。

今日みたいな天気が良い日に日向ぼっこでもしながらお茶でも飲むんだろうかなんて思いながら眺めてるとふとクロカさんを思い出し、女性ってああ言うオシャレなところでお喋りするの好きだよーなんて考えが浮かぶ。

いくらかキョロキョロしているにも関わらず、ボクの横に居る兵士さんはそれに対して何か言う訳でも無く厳格な面構えに口を一文字にして黙々と足を進める。


「……さぁ、その上に乗るんだ」


案内された先は牢屋と同じくらいの広さの一室の中央には大きな魔法陣が描かれている。ボクはそれを目にした瞬間、それが転移魔法陣だとすぐに理解する。


言われるままにその上へ乗ろうとして不安を覚え、一歩手前で踏み止まる。

―――3日もお風呂入ってないけど、大丈夫かな?

そう思ったボクは右袖を鼻に近付けてスンスンと体臭チェック。服はクロカさんのとこで着替えた赤のシックなドレスのまんまで、とりあえず目立った汚れは無いようだから大丈夫だろう。しかし自分の体臭ってわかり辛いんだよねぇ……何て考えてたら兵士の人から背をグイっと押される。


「あ、すいません……乗ります」


魔法陣へ両足を乗せるとコインを入れて選曲をした音ゲー筐体のように眩く鮮やかに光り出す。

瞬間、光が視界を覆うと未だに慣れない浮遊感が全身を覆い、思わずまた身体が強張り眩しさの前に目を強く閉じる。

けどその不快な浮遊体験はすぐに終わり、目蓋を強く差す光も一緒に治まると同時にドクドクと心臓が高鳴り始めた。

まだ目を閉じているにもかかわらず、周囲の空気が先程とは別物。

澄んだ空気でありながら重く圧し掛かると言うか、薄氷の上で一人立たされているような緊張感が全身にピリピリ走る。





「楽にしなさい……界客そとびとの子よ」


柔らかさを含む鈴の音のようなその一声を前にボクは恐る恐る目を開く。

一度聞いた声を前に多少なりの安堵を覚えたのと……レオナの声とどことなく似た声を前に少し安心して顔を上げる。

開けた視界の5m先には階段2段程度の段差があり、円状の巨大な真っ赤な絨毯が敷かれその上に3人の人影。その真ん中には金装飾があしらわれた玉座に腰かける白と金のドレスを身に纏った20代後半に見える女性の姿があり、その脇には上半身は燕尾で下はゴシック風のロングスカートと言った風変わりな格好をした銀髪ショートの女性が2人だけ。気配を探っても周りには兵士らしい人も見当たらず、ボクを含めて恐らく4人しかこの場に居ない。


目の前の彼女は胸下辺りまでのブロンドのロングは緩やかにカーブを描きながら玉座の金に引けを取らない眩さを見せ、瞳の緑はそれらを彩る宝石のエメラルドのように煌びやかに光を零す。

雪白色の顔にある鮮やかな薄紅の唇はまるで雪の上に落ちた桜の花びらみたいに綺麗で、瞳の色と対比して一層際立つ。レオナも20過ぎたらあんな感じですごく綺麗になるんだろうな……なんて事が思わず浮かぶ。

そんな彼女は慈しむように頬を綻ばせると見惚れるボクを見つめ、困った様子で小首を傾げる。



「魔王を秘めた子供と聞いていたのですが随分と印象が違いますね。名を聞いてもよろしいかしら」


「え、えっと……新城、悠と言います」


「―――ニイシロ、ユウですか。ではこれからあなたにいくつか質問をします。正直に答えなさい」


「は、はい」


柔らかなゆったりとした口調だけども、その一言一言の中には見た目とは裏腹に何とも言えないプレッシャーを秘めていた。それもそうだ。

玉座に座っているのだから、現状サテンフィン王国と言う国を治めているのはこの人で今この場で一番の権力を持つ存在。

そう自覚した瞬間、嫌な汗がじわりと噴き出し始める……。

下手な事を馬鹿正直に言って、何かあったらどうしようか? など色々な困惑が渦巻く。

と、同時に頭の中でトシキの声が響く。


『……やめとけ。嘘を付くな、誤魔化しもしない方が良い。仮にその場は凌げてもバレた時にお前と言う人間の信用が無くなる。俺らの封印が解けた後に国王が取った自分勝手な行動で、何があってどうなったかってぇーのはお前は知ってるハズだ』


その一言でハッとする。

15年前、魔王の封印が解けた際に元国王、レオナのお父さんはそれを隠した。しかし数年後に隠蔽が明るみに出て処刑された。そしてその信用回復の為にレオナは魔王討伐と言う無理難題を背負うハメになった。彼の言葉で事の顛末を思い出したボクは保身と言う名の嘘や誤魔化しをしようとする考えをやめる。



「あなたはどこから来たのですか? そしてどの様にしてこの世界へ?」


「生まれた国は日本で生まれは埼玉の本庄です。この世界に来た方法はわかりません……死んだと思ったのにこの世界で目を覚ましました」


「あなたは魔王をその身に宿しているとの話ですが今のあなたは誰ですか?」


「ボ、ボクはボクです。新城悠です」


「どうしてあなたはその身に魔王を宿す事になったのですか?」


「魔王を封印する為にこうするしか手段が無かったからです」


淡々とした質疑応答の繰り返し。

それは国語の授業で教師が生徒へ物語の感想を一人一人に尋ねて行くみたいな、そんな感じのやり取りだ。

白石造りの広い謁見の間でボクと彼女の声が小さく何度も反響してはゆっくり掻き消える。

部屋の中に等間隔で白柱が並ぶだけで無駄な物がほとんどない、絨毯と玉座だけが色を持つ無機質さを覚える一室で続けられる質問と回答。


そして受け答えをしながら何とも言えない感覚を覚える……それは大人がよく用いる手段、数多の中に本心を紛れ込ませて自分が一番知り得たい内容を引き出しやすくする会話を彷彿とさせる。

確かに今のやり取りは彼女の中で必要な情報の一つだろうけど、こちらが話しやすいように言いやすいようにと誘導している印象を受ける。



「では、どうして自らを危険に晒してまで魔王を身に宿したのですか?」


先程までと変わらない口調で、変わらない表情で、変わらない調子で彼女はそう尋ねる。

―――けれど先程までと一つ大きく違う。それは動機を聞いてきた事だ。


「あなたはもしかすれば死んでいたかもしれません。どうしてそこまで、したのですか?」


先程と何も変わらない。

けれど言葉の中に感じる物は、ルシードさんが見せた雰囲気と似ている。警戒、敵愾とも似た物と、いくらかの畏怖と憎悪。

彼女としてはボクが……と言うより中に居る魔王が何かの目論見を持ち、このような形になったのではないかと疑いがあるのだろう。

15年前に魔王がもたらした物を考えれば自ずとわかるけれど、それとはまた別の違和感を覚えつつボクは口を開く。



「彼女も同じく、命を懸けて2回も助けてくれたからです」


「あの子が……?」


「ボクがこの世界に来てすぐ、ルシードさんたちに助けられて駐屯地に居た時に魔族が攻めてきて、その時レオナに助けられました」


その言葉を前に彼女はほんのわずかに眉根を寄せ、目を細める。

何か確かめているのか、理解出来ないのか。しかしそんな彼女に構わずそのまま続ける。


「そして2回目はボクが魔抗病フォールを発症した時に逃がしてくれました。それが理由です」


「ですがあなたはそうやって拾った命を投げ出す理由には思えないのはわたくしの考えすぎでしょうか? 付き合いの長い見知った相手ならば理解も出来ます……しかし」



確かに普通で考えれば助けてもらった命をわざわざ棒に振ってまで何かをしようとするのは頭のおかしい人間のやる事だろう。でもボクの場合は自分の生に対しての執着が薄かった事と―――


「……嫌だったんです。自分の関わった人が理不尽で死ぬのは。自分が何も出来ずに誰かがいなくなるのは」



その一言を前に彼女は黙ると静かに目を閉じ、小さく何かを呟いている。

今の言葉を思い返しながら口に出し、考えを整理して何かを確認しているかのような、そんな印象を受ける。


「では一つ尋ねましょう」


彼女はふぅっと吐息を一つ零し、薄紅の口元を緩めて今一度ボクを見やる。

言葉の後にいくらかの沈黙が続き、心して答えなさいと言ったその雰囲気を前に固唾を飲み込んだ。



「あなたは、この国の為に全てをかける覚悟はありますか……?」



予想外の質問を前に一瞬思考が止まる。

この国の為に全てを……かける? どう言う事だ、と頭の中でその言葉がゴロゴロとただ転がるとボクの所有権がレオナにある事を思い出す。そしてレオナのお母さんは女王で、この国を治めている。

故にこの国の為に尽くす意思があるかどうかを問いかけて来たのだ。

なら口にするべき言葉は……と本心ではない事を舌の上に乗せて吐き出そうとし、寸でのところで思い留まる。

さっきトシキは『嘘を付くな、誤魔化しもしない方が良い』と言った―――



「すいません、そう言う覚悟は一切ありません」


短くそう答えると彼女の脇に佇む銀髪の2人は僅かに顔をしかめ、こちらへ視線を送るその赤い目を細める。しかし中央で玉座に腰かける彼女は逆に穏やかな表情を浮かべ、先程まで張り詰めていた物がいくらか解かれたような微笑を見せた。



「面白い子ですね。あの子を始めとして、ガーディアンナイツの者たちもあなたに対する処遇を魔王として扱わないで欲しい、と言っていたのも幾らか頷けます」


どうやらボクが牢屋の中に居る間、レオナや他の人たちも色々と掛け合ってくれていたのだと彼女の言葉で気付く。しかし今の言葉でどうして納得が出来たのだろう? 明らかに不敬にしか取れない発言をしたのに……。



「では尋ね方を変えましょうか。あなたはあの子の、レオナの為に命をかけれますか?」



その言葉でドクリ、と鼓動が叩き鳴らされた。

目の前の彼女は陽だまりのような笑みを見せてこちらへ優しく視線を送る。

問いかけは先程と何も変わらない調子だと言うのに、どうした事かレオナの名を聞いた途端に鼓動と熱が全身を走り回り、思考が荒れる。

彼女の脇に立つ銀髪の2人の視線はますます鋭さを増し、ボクは畏縮しながら口を開く。


「わかり、ません。―――けど、自分に出来る事をすると思います。あと、ローズさんとルシードさんとヴィグフィスさんに対しても同じです」


「ふふっ……ふふふ」


ボクが意を決して発言し終えたと同時に彼女は肩を小さく震わせながら笑い声を零す。

彼女は少女のようにほんのり頬を紅潮させ、エメラルドカラーの瞳は堪え笑いしているせいでか涙でいくらか潤んでキラキラ光る。隣に立つ2人の女性も突然の事に困惑の表情でいくらか身を屈めて小さく何かを問いかけるが、玉座に腰かける彼女は手を軽く動かして大丈夫と言ったジェスチャーをして見せる。



「ご、ごめんなさいね。レオナにも似たような事を尋ねたのだけれども、同じような返答をした事を思い出してしまってつい可笑しくなってしまいました。……それにわからないと言いながらあなたたちは以前に自分の身を投げ出してまで助けようとしたのでしょう。ならそこで答えが出ているのではと言ってしまうのはわたくしの間違いでしょうか?」



胸を撫で下ろす仕草を見せて一息付いた彼女はそうボクへ向けた。

確かに言われる通り自分は前にレオナを必死になって助けようとした。でも結果的に救えた話で、その為の力とかは自分自身が元から持っていた物じゃないってのもあって命をかけたと言われてもピンと来ない。ただ運が良かっただけで、偶然だったと言う言葉が羅列される。


そして自らの努力で力を得ているレオナが命をかけたと言う話と天秤にかけた時、自分の中では彼女がしてくれた事の方が大きくて秤に乗せるのすら間違っていると否定の首を振る。

しかし第3者視点から見るその状況は違うようで、ボクもレオナと同じだけ命をかけたように見えるらしく、それを同等の物として見比べる彼女の視線を前に言葉が詰まる。



「そんなところまであの子と似ているのですね……胸を張りなさい界客の子よ。それに至るまで様々な物があったとしても結果が全てを物語っています。一度ならば誰にでもあるかもしれません。しかし、二度もそれを成し得たのなら自分を否定してはいけません。それによって助けられた者が居るのですから」


「は、はい……」


「にしてもあなたは見た目の幼さとは裏腹にしっかりした受け答えをするのですね。同じ界客の者と言うのにクロとは随分印象が違います」



考えを見透かされた言葉を向けられ、何も返せず軽い返事しか出来ない。

しかしクロカさんを比較に出されてもあの人は界客の中でもちょっと特殊と言うか……はっちゃけ過ぎな分類だと思うんだけど? なんて言葉が零れそうになり、慌てて喉元で通行止めする。



「ところで……界客の子よ」


そう改めて声をかけてきた彼女はその凛とした顔をいくらか上下させ視線を動かすと、ボクの頭から爪先までをマジマジと見つめてくる。それは何かを確かめるかのような……と言うか通販で注文した品がカタログに載っていた物がどうも違うと、何度も見比べるかのようなそんな素振りに似た挙動。

そしてそんな視線と素振りに慣れている自分は彼女が抱く疑問の種を理解し、乾いた笑みを零しながら右指で軽く頬を搔いて気を紛らわせ向けられるであろう言葉を待つ。



「あの子やクロたちの話では男の子と聞いていたのですが……格好もそうですがあなたはどう見ても女の子ですよね? もしかして魔王を封印した事で何かしらの影響が―――」


「えと、ボク……男です」


「……あら! レオナを護衛する為にあの子の服を着て女装している事は知り得ていたのですが驚きました。一人称に違和感は覚えてはしたものの、声色も年頃の少女と変わらない物ですから今の今までその事を思い出せずにいたのですよ」


興味を前面に出した表情でいくらか前のめりになりながら今一度視線を上下させて目を輝かせる玉座の彼女。燕尾とゴシック風のチグハグの彼女たちも同じく興味を浮かべた眼でこちらをチラチラ見やり、その視線に耐えかねた自分はスカートをいくらか握り締めて顔を伏せる。



「……そうですね。あの子の我儘を許す代わりに、あなたには約束事をして貰いましょうか」



悪戯心を宿したような瞳をこちらへ向け、陽の光を受け黄金に光る綿のような髪を揺らして彼女は意味深な笑みを見せる。

レオナの事を出された手前、尚更ボクはこれから述べられる内容は断る事が難しいだろう。

玉座に座る女神のような彼女はその美しい見た目とは裏腹に、そんな妖しい思惑を秘めた表情で薄紅の唇をゆっくり動かす。


「これからあの子と一緒に居る間は今まで同様に女装をし、少女として振る舞いなさい。仮に止むを得ずの理由で性別が知れる事があっても、周りの者たちがあなたを男の子と周知したとしても女装し続ける事」


「あの、それは……今まで通りって事で良いんですか?」


「今までそう振る舞っていたならその限りで構いません。しかしこれからは今まで以上に大変になるとだけは、言っておきましょう。そしてわたくしが今述べた事以外はレオナが許す限りとし、それら全てを由しとするならば、これからあなたはラキナの血筋が迎え入れる食客としましょう」


しょっきゃく? と聞き覚えの無い単語を前に小首を傾げていると小声で『マジかよ……』なんて言葉が囁かれる。トシキの説明によると才能のある人を客として遇して養う代わりに、その主人を助けると言うWinWinの関係で、その客と言うのが食客と呼ばれるものらしく剣客とかの元になった物だと教えてもらう。

しかしレオナの護衛をすると言う話は元からある訳で、何がどう変わったのかイマイチ理解が及ばず悩んでいると『とりあえず今の言葉は物から客と言う、人間としての扱いに変わってんだ』と言われやっと意味が解る。


「わかりました。その約束事を受け入れます」


「今ここで誓った場合、変える事は出来ませんが良いですか?」


「はい」


「―――宜しい。ではラキナとルゥの性に誓ってここに誓約を契ります」


短くそう返した彼女は羊皮紙のような物を銀髪の女性から受け取るとその上に手を翳す。

するとそこを中心に淡く輝き、発光は紙全体を覆うとゆっくり静まる。

彼女はその羊皮紙を眺め、確認を終えると立ち上がりこちらへゆっくりと歩み寄り、それをボクに手渡しながら緑の宝石色した瞳で見つめる。

手渡された誓約書には先程言っていた内容が記され、魔法か魔術かわからないけれどそれに近しい物を用いた物だと理解する。

しかし誓約と言う物が魔力を介した物なら界客であるボクに効果があるのだろうか? と疑問を覚えると『それはちょっとちげーな。確かにノンクレイム特性っつーもんがあっけど全部が全部無効化っつー便利なもんじゃねぇ。……まぁその辺りは後で話すわ』とこれまた予想外の言葉が返される。


「安心しなさい。これはクロの、時詠の巫女による特製の誓約書です。あの人はあなたが了承するのを見越して予め用意していたみたいです……本当準備が良いと言うべきなのか何と言うべきなのか」


愚痴にも似た言葉を零すとそっとボクの頭へ触れ、眉を八の字に曲げて困り顔を見せながら頬を綻ばせて見せる。

その撫で方は子犬を愛でるような手付きに似ていて、返す手の動きにぎこちなさを覚える。

恐る恐る触れる為に生まれるぎこちなさと言うより、撫で馴れていないと言ったようなそんな触れ方。

触れると同時に漂う独特の香りは昔、嗅いだ事のあるアロマのジャスミンとも似た匂いで懐かしさが鼻をくすぐる。


「あの子を、宜しくお願いしますね……」


今一度確かめるかのように彼女は笑みを浮かべながらこちらを見つめる。

それに対して小さく、ハイ。と答えたボクは誓約書の内容を思い返し、まとめた事を心の中で復唱する。

―――ボクは好きな子の為にこれからも男の娘をし続ける事になった。


そんな風に心の中で整理を付けた同時に『……尊いでござる』なんてどっかの賢者の言葉が頭の中で呟かれたけど、あえて何も聞こえていないフリをした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ