第五十九話 「マジ話が進まねーから! ほんと!」
『……ぶはっ! ぶわっはっはっはっはっはっはっはっは! なにこれマジ受けるんですけどコレ!』
「……トシキ、うっさい」
胸のペンダントを通じて聞こえてくる笑い声に我慢の限界を超えたボクはそう吐いてしまった。
五畳半程の薄暗い石造りの一室の中にはボク一人で、他の部屋には誰も居ないと言う物寂しい中、早くも3日が経過していた。
一日に3回、朝昼晩の食事と同時に兵士が様子を見に来る程度でそれ以外に人が来る事は無く、どうしたものかと悩みながらもクロカさんの言っていた事とレオナの状況を考えた結果、何も出来ずにずっと大人しくしている。
―――しかしこのままずっと牢屋生活になったりしたら嫌だなぁなんて昔にやったRPGを思い出しながらそんな事を考える。
『わっりぃわりぃ。いやよ、仮にも魔王封印に貢献した人間の扱いがスゲーなって思って……ぎゃははははははははっ!』
「だから爆笑しすぎでしょ……」
しかしこの魔王、人の置かれてる状況で笑い過ぎ。
バッシバシと膝を叩いてる音まで聞こえてくるし、どんだけツボってんだよ本当……。
色々な感情を交えて小さく溜息を付くと三角座りを崩して胡坐をかく。
お布団もどきの藁の上と言っても、床が石のせいでお尻が冷えちゃうので時々座り方を変えたり、角度を変えたりしている。そして隙間にスカートを挟むようにしてなるべく冷えないようにとかしてるんだけども傍から見たらはしたないと言われそう。
寝る時は湯たんぽっぽいのを貰えるからまだ良いんだけど、ほんと寒い。
本来は犯罪者を入れる場所だから良い環境にする訳も無いか……と考えた瞬間、今のボクは犯罪者扱いされてるって訳だよね? などとネガ思考が暗い部屋のせいもあって沸いてくる。
『よっと……。おーい、ユウ。おめーもこっち来いよ暇だろ?』
「確かに暇だけどこっちってどこさ―――」
答える暇も無く、ぐわんと視界が歪む。
どちらかと言うと意識が無理矢理どっかに持ってかれ、視界がブレて混じる感じ。
それは39度の熱を出して無理をした時に見えた何もかもぐちゃぐちゃな光景と似ていた。
「おお、うまく行ったようでござるな!」
「あァーん? 誰が穴拡げたと思ってんだよ。ナメた事言ってっとそのメガネバッキバキに叩きわんぞ」
「な、何か穴拡げたってとこだけチョイスしちゃうと色々アブナイんね! 危険なワードなんね! えひ、えひひゅひゅひゅひ!」
意識と視界が入り混じったのも束の間、PCの明かりだけが照らす自室のような仄暗い空間の中で聞き覚えのある声が響く。
目の前に広がる淡い光を放つスクリーンっぽい物の逆光を受けて4つの人影がこちらに顔を向けてくる。
「あれ、ここって魔王の……中?」
「あー、ちょーっとちげぇな。ここはお前が首に下げてるペンダントの中だ」
「ペンダントではないでござる! レインボージェムストーンと言う列記とした名前があるのでござる!」
「アーハイハイ、まぁそう言う訳だ。俺たちはそのレインボー……ジェ、ジェ、虹石の中にいるってワケ」
三白眼の彼はいつもの調子で手をヒラ付かせながらめんどくさがった口振りで語るとボクの方へ歩み寄る。
トシキの言葉に辺りを見回してみると、彼の言う通りに魔王の中で見た人の形をした影たちの姿は無く、自分たち以外の気配も全く感じない。
「……てかみんながジェムストーンの中に来てるって事は封印の中の魔王ってどうなってるの? 色々マズイんじゃ」
「まぁまぁそれらも含めてちょいと話をしよーぜってワケさ。これから先の事も含めてよ?」
ブレザー姿の彼はボクの目の前にドカリと大きな音を立てて胡坐をかくとどっかの漫画の主人公みたいに口の端を上げてニッカリ笑った。
「―――で、とりあえず俺らからの今後の話としてクラックを作って元の世界に還る方法は出来るだけ避ける方向で行く」
「え……急にどうして」
「時詠の巫女が言ってただろ。クラックを生じて還った分、アッチから同じ分だけ界客がこっちに流れてくるって。仮に俺らが還れたとしてもまたそんだけコッチに人が流れてくるとか後味悪くて出来っかよ」
「た、確かに」
ハンっと鼻を鳴らすトシキの後ろでまばらに座る3人も同じ気持ちのようで、無言のまま各々頷いて見せる。
そう言えばトシキとキサラギさん以外の2人、ウメコとゴロウさんは姿を見るの初めてだな、なんて考えてると話途中でそちらの2人へ視線が向いてしまう。
「おうおうおう? どうした萌えっ子よ。そー言えばこうやって顔合わせるの初めてだっけぇ。あらためヨロね萌えっ子よ!」
「某はイノガシラゴロウと申す。改めて宜しくでござるリタきゅん!」
「え、えーっと……ボクは新城悠です。ウメコにゴロウさんあらためましてよろしくです」
色々突っ込みどころが満載な部分をスルーしながら改めて自己紹介する。
人の事を萌えっ子と呼ぶウメコ。
見た感じ中学生っぽい顔だけど会話の内容からして多分ボクより1つか2つ年上の15、6辺りだろう。
目元近くまで伸びたパッツン髪と姿勢の悪さが相まってすごく身長が小さく見える。背を丸めて膝を抱える彼女の姿はとても部屋の隅が似合いそうだな……なんてちょっとした親近感。
対してゴロウさんはヒョロヒョロな身体つきのせいもあって高身長が際立つ。
正座をしてシャンと背筋を伸ばすその姿を見るとござる口調なのも違和感が無く、インテリっぽくメガネをクイっとするその仕草でレンズが意味深にキラリと光り、それはアキハバラ辺りでお目当てのフィギュアを目にしたような眼光を放つ。
顔は結構シワが入ってて、口元近く入るほうれい線を見る感じだと30後半から40手前ぐらいのようだ。
髪の毛はスポーツ刈りとまではいかないけど結構短髪。
「それにお前は巫女に期待されてるっぽいしなー。なら俺たちはお前に協力した方が確実だって考えたんだよ」
「期待と言っても……ボクはこの世界の事をまだほとんど知らないし、これからどうなるかも怪しいよ?」
「おっめェよぉ。戦いの時にゃ根性見せてAlpん中ァ突っ込んだ度胸はドコ行ったんだよ? てめェで探すっつったんなら肚ァ決めろやブッコロスぞ」
「は、はい……ごめんなさい」
「アキラさんアキラさん、後半脅迫入っちゃってるってば」
否定的な発言に対してキサラギさんから即ダメ出しをされて言葉に詰まってしまう。
自分で方法を探すと言ったくせに今置かれてる現状の事も相まって考えが悪い方向に向きやすくなってしまっているようだ。
「謙遜なのは良いけどよ、実際のとこお前は巫女のヤツから色々話を聞けたろ。クラックに関しての話は本来なら例の所有権絡みで話す事が出来ない内容だったっぽいのに、霧まで張って教えてくれたみてーだし」
「霧……?」
「あの時、周りに張られた白いモヤ。あれは魔力の方向性をアチコチに向けてジャミング効果を持たせる妨害魔法だ。そこまでして話をしたのさ、あの巫女は」
そう言われてあの時クロカさんが指を鳴らしてミスト状の物で辺りを覆った事を思い出す。
確かに霧が出たと同時に太陽の光も急に遮られて鳥の声も聞こえなかった……アレにはそう言う効果があったのか。
「それに俺たちがコレの中に居て色々見聞きしてるの最初っから気付いてたっぽいしなぁ……どう言う魂胆かまではしらねーけど、Alpのコントロールの仕方をお前に教えると同時に俺らにまでそれを教えてたしよ。そのお陰で魔王体から離れてこうやって話が出来るまでになった訳だけどなー」
「―――あとあのオンナは確実に200年前の召喚事件の当事者だ。遠巻きだがあの姿は覚えがある」
「それに気付いてキサラギ殿はよくあの時に暴れなかったでござるな……。某は驚きを隠せぬでござるよ」
「あァん? てっめェワタシを何だと思ってんだ。その趣味わりぃメガネまた粉砕すっぞこのゴザメガが!」
「あのーみなさーん? さぁっきからチョイチョイ人の話の腰を折らないで貰ってもいいですかねー。マぁジ話が進まねーから! ほんと!」
マウントポジションを取ってゴロウさんに向けて一方的なパンチングをかますキサラギさんを横にトシキがうな垂れながら声を上げる。
「今度ナメた事言ったらマジ殴っからな」などと殴っておいてそんな事を放つ彼女をウメコがなだめて何とか場が落ち着く。
……とは言っても殴られたゴロウさんは一発ノックアウトでそのままのびてるので聞こえる訳も無く。
「あーもう、順を追って話そうと思ってたのに何話したかわっかんなくなったじゃねーか! とりあえずだ! 俺たちは肉体が無いせいで今現状の情報や状況が収集出来ない。
けどユウ、お前は肉体があってAlpも持ってる上にサテンフィン王国の第一王女のレオナと繋がりがある。しかも三大国家の深い関わりのあるヌネスと巫女とも繋がりが出来た。どうなるかわからねぇってのはあるが、俺らには出来ない事を出来る環境下に今居るんだよお前は」
「肉体が無いって……魔王体をいじってどうにかとか、Alpで肉体作ったり出来ないの?」
「疑似的な身体は作れるが長持ちしねぇ。
んで人間としての肉体を作るのはこの世界に来て肉体が再生された時と話が違うからかなり難しい。
肉体が残ってる状態からの再生と違ってゼロから肉体再生の為に情報の収集、構築を行ってそこへ魂って言う俺らの自我を送り込むってのがとんでもねぇエネルギーを消費する。現状ある魔王のAlpを使って無理矢理3人分の肉体が作れれば良い方ってとこだな」
「じゃあどうにかしてトシキたちが表に……って話は現状無理って話なんだね」
「仮にそれで出たとして当然封印内の魔王体も消えちまうし、そうなっちまうと色々マズイだろ? 俺らも出来るなら事を荒立てたくねーしよ」
一気に話したい内容を口に出来た様子でふーっと息を吐いて彼は片目を閉じる。
要するに肉体をちゃんと持つ今のボクは、彼らが出来ない事を出来る状況下に居て彼らが欲しい情報を持つ人たちとも繋がりがあるから、穏便に事を進めて還る方法を探したいって話なんだ。
で、クロカさんもどう言う目的かわからないけれどボクとトシキたちが協力する事を望んでいる。
それが良い物なのか悪い物かはわからない。
けれどクラックを使わずにトシキたちを還す方法を探す以上、協力せずにその手段を見付ける事はきっと難しい。
トシキたちは200年前の情報と言えどもこの世界の事を色々知っている。それに対してボクはこの世界の事をほとんど知らない……。
そうなると彼らと協力した方が円滑に事を進めれるのは言うまでも無いが、
―――その前に一個、どうしても確認しなきゃいけない事がある。
「わかったトシキ。みんなで協力して方法を探そう……でも、一個どうしても確認、じゃないな。約束して欲しい事がある」
「おう……? 何だ改まって」
「レオナを、みんなを殺すとかそう言うのはしないって約束して欲しい」
その一言に彼は目が点になり、言葉に詰まる。
後ろで足を立てて座っているキサラギさんも、隣でちょこんと座るウメコも同じく固まって暫く沈黙が流れる。
トシキは苦笑してガシガシ頭を搔くとハハッと声を上げた。
「それはもうしねーよ。―――約束する」
「―――ミ、……きなさい。キミ……」
トシキのその言葉と同時に擦過音が重なる。
上手く聞き取れなかったボクは「今なんて?」と聞き返そうとすると意識を何かに引っ張られるかのような感覚に襲われる。
ノイズとも似たそれは一緒に視界を揺さぶり、目の前が突然ブラックアウトしたかと思うと身体を揺すられる感触と声がはっきりする。
「キミ、起きなさい! キミ!」
重い目蓋を開くと視界の先にはランプの光を受けてオレンジ色に輝く眩しい白銀の兵士が3名。
その内の1人が膝を折ってボクを起こす為に声をかけながらずっと揺すっていた。
状況がイマイチ飲み込めないまま気怠い身体を起こすと目の前の甲冑姿の兵士が目を合わせてくる。
「レニア女王陛下がお呼びだ。来なさい」
聞き覚えの無い名前だったけども「女王陛下」と言う言葉を前に誰かと言うのを嫌でもいくらか理解し、一気に目が覚めると気が付けばボクは立ち上がっていた。
ずっとここから出られないかもといくらかの不安があった中での変化。
けれどこれからのボクの処遇が約束されたとも決まった訳じゃない……などと不安が入り乱れる中、重い足を無理矢理動かして落ち着かせようとしてると「お前がうまくやっていけるようにちょくちょくアドバイスすっから安心しろ」なんて言葉が囁かれた。
「前からアドバイスずっとしてんじゃんか」なんて彼のお節介を思い返すと気が楽になる。
そしていくらか重かった足は気持ち軽くなり、今一度深呼吸をして気持ちを入れ替えると兵士たちに案内される道を進んだ。
かなり間が空いて申し訳ないです。




