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第五十八話 「カンペキじゃーない?」

「―――ユウ? 何か様子変だけど、大丈夫?」


先程、クロカさんから向けられた言葉がずっと頭の中で反響していたボクはいつの間には呆けていたみたいで、それを見兼ねたレオナが心配そうに覗き込んでは小首を傾げてくる。


「う、うん。ちょっと考え事してただけだから」


無防備に近付いてくる彼女を前にボクは今朝の事がフラッシュバックされていくらか後退り。

彼女を認識したらしたで変なところをピックアップで再生する自分の脳。どうしてこうもリビドーに反応するのかと小さく溜息を付きながら周囲を見回す。


「それじゃみんな気を付けてねーまたねー。なんて見送ろうと思ったけど、ちょぉっとこのままじゃダメねー。うん!」


これからボクらはサテンフィン王国へ帰る事になり、ある一室に案内された。

そしていざ転移するって直前でクロカさんがこんな事言ってくるものだからレオナを含む一同はぎょっとした顔で困惑を見せる。

転移魔法陣を描いた白色の一室で全身対比色の彼女は背を向けたまま唸ったかと思うと、くるんと身をこちらに向けて「ふぬ」と一声。


戸惑うみんなをお構いなしにクロカさんは気まぐれ猫のよう首を軽く傾げ、手をこまねいて、


「ゆーう、ちょいカムカム」


「は、はい!? 何でしょう」


上擦りながらボクは即座に声を上げる。

数時間前に彼女から伝えられた話でいくらか悩んでいたのもあって、抵抗を覚えながら歩み寄る。


先程、クラックを起こして界客を還したところで新たな界客が流れ込んで来ると言う話を知った。

そしてその話が本当なら今回、レオナと魔王が戦ってクラックが生じて界客の魂が還った事によりまた同じだけの界客の魂がこちらの世界へ流れ込むだろう。

そうなった時に自分はどうするべきなのか何をすべきなのか……そう言う事は今は無視してトシキたちを元の世界へ送り帰す事だけを考えるべきなのか? などとずっと悩んでいた。

と、そんなグルグルと一人で頭を抱えているボクの顔をクロカさんは覗き込むと鼻をつついてくる。



「悠、さっき私がした話でかなーり迷ってるっしょ?」


「え、いや……その……は、はい。ちょっと、悩んでます」


「だーよねぇ。Alpがだいぶブレッブレだもん」



眉を八の字に曲げながら彼女はふふっと笑う。

予想だにしなかった話を向けられてボクは言葉に詰まり、どう言う意味なのか解らず首を傾げた。

すると彼女は膝を折り視線を合わせるとボクの胸元へ右手をあててくる。


「さっき話した中でAlpは衝動を宿してる物って言ったと思うけど、早い話が感情に左右されるの。で、今の悠はAlpを持ってるけど何かしらの感情で抑えつけてるだけの状態ってのは気付いてる?」


「抑えつけてる……?」


「うん。悠はAlpを強く感じた時に自分の中にある強い負の感情を吐き出したんじゃない? 死にかけた時と、魔王と対峙した時に」


「―――あ……」



そう言われて思い出す。

死にかけた時に強く抱いたのは『奪われる前に奪ってやる』と言う意思。

それは『自分の大事な物や人を守る』では無く、『やられる前にやる』と言う危険な考えで、突き詰めれば破壊を伴う衝動に繋がるものだ。

そして2回目は魔王の中に入った時でAlpの中の界客たちが抱く憎悪に対して、ボクは心の中へ塞ぎ込んでた後悔と自分に対しての殺意を吐き出した。

これもまた自分自身に対して強く抱いた、『殺意』と言う衝動そのもの。

クロカさんには魔王と戦った時の話をしていないのに、彼女はそれを見透かした視線でじっとこちらを見つめる。


「Alpはマイナスの感情に左右されやすいから、ネガってる悠の感情にすーぐ反応しちゃうの。良くも悪くもね。っと言う事でぇ―――このおねーさんがAlpのコントロールの仕方を教えちゃいまっしょう! そうすればAlpが表面に出てこなくなるし、悠の感情でAlpが暴走するのもかなり抑えられるしー、トラブルは大分抑えられるわよ?」


「え、コントロール……?」


「うん。漏れてるって自分じゃわかりにくいからねぇー。悠も魔王のAlpそんなにダダ漏れさせたまんまサテンフィン王国に行ったら大変な事になるわよ。って事だからレオナー、少し時間借りるよー」


「は、はい! 問題ありません!」


突然話を振られたレオナは上擦った声で咄嗟に返事。他の面子も問題無いと言った様子でただ頷いて見せる。

大変な事って何だろうと思いつつ見やった先でルシードさんと目が合ったボクはふと、彼と同じように魔力が見える人が居た場合にどう思われる? と過る……そう考えれば彼女の言う通り、表にAlpが出っぱなしのボクはトラブルの元になるのは言うまでもない。



「それじゃま、そんなに構えないでリラックスして私の言う通りにイメージしてみて」


「は、はい……」


「じゃ、目を軽く閉じてぇ……背筋は伸ばして顎を少し引いて。そうそう。んで、おしりと男の子のそれが付いてる間辺りから頭のてっぺんまで一本の棒が貫かれてるイメージしてみてぇ、呼吸を私に合わせて。口から息を吸って……はい、口からゆーっくり吐いてぇえー……」


「すぅ……ふぅうう…………」


「そうそう、じゃあ呼吸に合わせて身体を貫いてる棒を通じて力が下から上に回りながら立ち上るイメージをしてみよー。回転はぁ……多分この感じだと逆時計回りかなー?」



彼女の言葉に従いボクは呼吸をしながらイメージを始める。

瞑目しながら息を吸い、ゆっくり吐いて彼女が指示してくるイメージを思い描く。

気のせいか先程まで落ち着かなかった感情が段々と落ち着く感じで、さっきまでぐちゃぐちゃだった頭の中がいくらかスッキリしていく―――。

そして言われるままにボクは言葉の通りに呼吸をして、イメージしてを繰り返し続けた……。






「よっし、もう良いよー。お疲れ様」


クロカさんの言葉を合図にボクはゆっくり目を開く。

ものの10分程度だったけど指先から足の先まで血管が疼くように脈を打った感覚が残り、全身は熱いのに胸を辺りを中心にスッと風が吹き抜けて行くかみたいに涼しさを感じる。



「うまく行ったみたいねー。これを1日1回必ずやるよーに。ちゃんと出来てるか不安になったらレオナかローズに聞けば良いから」


彼女は立ち上がると息を整えるボクを見つめ、少し顔を寄せてにっこり微笑みウィンクしながらボクの胸元にあるビー玉のようなペンダントトップにチョンチョンと触れる。 

同時に小さく『やっべ!』なんて聞き覚えのある声が聞こえた気がしたけどきっと気のせいだろう、うん。


「―――で、一応コントロールは可能になったケド、サテンフィン王国に戻れば面倒事は避けられないでしょーし、悠の中の魔王の事はどうしてもバレると思うわ」


「え……じゃあ今やったコントロールって何の意味が」


「自制出来る出来ないはまた別、これはユウの為の事でこれから話す内容はレオナの為よ。

レオナ、貴女は魔王を封印する際に魔王を分割化して界客そとびとの悠へ移した事によって封印が成功した事にしなさいな」


「分割化……? それじゃユウが魔王だって事で問題になりませんか?」


「確かにねー。界客の身に魔王が封印されていると言う事実は国に絡む貴族にとっては一番面倒でしょう。でも言い方を変えれば魔王を支配下に置いていると言う見方も出来るのよ。これはElfの力を以って魔王をただ封印しているのと訳が違うわ」


とは言っても魔王はレオナのElfを持ってるからいつでも封印は解ける訳だけど……なんて思い出す。

確かに今は大人しくしているし、抑え付けてる状態ではないから前の封印が解ける15年前とは状況がかなり違うとは思う。

でも中に居るトシキたちの気紛れで今の状況は簡単に覆る事もあり得るので、クロカさんの言っている事も何とも言い難いけれど―――しかしそんな事を言う訳にもいかず、ボクは考えた事を胸の内に仕舞い込んだ。



「で、悠の身に魔王の一部が封印されたと言う形にすれば貴族連中もこの子の待遇を粗雑に出来ない。そこへ私のお墨付き、ヌーちゃんの所有権譲渡って言う許可付きってなれば尚更ね? 更には封印をしたレオナが安全の為に自分の元へ置くと言う名目を口にすれば……カンペキじゃーない?」



これからの事を考えてなかったボクは彼女の提案の前にハッとする。

トシキたちを元の世界へ還すと言う前にボク自身の事がこれからどうすると言う話が決まっていなかった事を今更ながら思い出し、そこまで考えてくれていたクロカさんに感謝をする。


そんな彼女はボクを見やるとフフンとドヤ顔を浮かべながら腰に手をあてて胸を張る。

―――仮面の彼が居たらまたピンポイントなネタを口にして吹っ飛んでたのかななんて思いながらそのなだらかな曲線をつい見てしまい、すぐにそっちに考えが向く自分へ叱咤。



「確かにそれなら問題無いな。多少の差異があっても当事者でない限りその真偽を口に出来る者もおらん」


「……良かった。貴方がそう言ってくれるなら助かるわね、ルシード」


珍しく口を開いたルシードさんを前にクロカさんは意外と言った表情を浮かべ、その言葉に安堵を見せる。

そう言えばルシードさんとクロカさんってここに来て殆ど話をしているところを見ていない……あと気のせいか彼女へ対しての態度がトゲを含んでいるような違和感を覚えるの考え過ぎだろうか? などと思っている内に話が纏まり、ボクは魔王の一部を宿した界客と言う事になった。

魔王本体と同じく封印するべきではないかと言う話に付いては、時詠ときよみの巫女よりそれを止められたと言ったこじつけでゴリ押す方向に……。大丈夫なのかな? なんて不安を覚えたけど、みんなはそれで納得していた。



そんなこんなでクロカさんの話も終わり、ボクらはサテンフィン王国へ向かう事に。

ボク以外の皆は帰ると言った方が正しいのかな。なんて思いながらクロカさんが用意した白線で描かれた魔法陣の上へ移動する。

彼女は魔法陣の外からボクらを見ながら少し物悲しそうな瞳を一瞬見せると、腕を組んでフン! と鼻息を鳴らす。


「何度も何度も、ずーっと無理かなって諦めてたけど……期待してっからねー?」


彼女は期待を込めた言葉と一緒ににっかりと笑顔を向けてくる。

何に対しての言葉なのか、誰に向けてなのかとみながそう思った瞬間に転移の光が辺りを包み、クロカさんの姿がぼやける。

そして一面を覆う白色は周りの景色を掻き消し一色に染める―――。






目蓋越しに射し込んできていた白色が失せ、眩しさのあまりに閉じた目を開くと銀色の鎧を身に纏い、同じ色をした槍を手にした騎士たちが左右に立ち並ぶ。

赤い絨毯は長く長く延び、その脇を街路樹のように等間隔で騎士が佇み粛然とした面持ちでこちらへ視線を向ける。


「……お帰りなさい、レオナ」


金と白のドレスに身を纏ったブロンドヘアーの碧眼の女性は真紅の上をゆっくり歩きながらこちらへ……いや、レオナに声をかける。

隣のレオナは彼女と同じ色の瞳をいくらか細めては複雑そうな表情を浮かべ、言葉を発そうと唇が動いては息がままならず言葉が口から出ないと言った様子で口を紡ぎ、固唾を飲む。

その音は静かに響き、目の前の女性は柔らかく微笑むと一歩前へ。


それに対しレオナは一瞬身を強張らせて見せるがその女性はカツリ、カツリとメトロノームが一糸乱れずテンポを刻むかのようにその足音を鳴らし、て歩く。

威圧を含んだその足音がどんどんが近付いて―――と思えば、ボクたちの5m手前で音が止まる。



「―――連れて行って」


その言葉と同時に整列していた白銀が横に整列し、こちらへ足を向けて波のように寄せて来たかと思うとボクの視界は影に覆われた。







ガシャン!


大きな金属音が狭い石造りの一室の中で響いたかと思うと反響音がくわんくわんと左右を行き来する。

その中をカシャンカシャンと金属製の足具が石畳とあたって甲高い音を鳴らしながら遠ざかっていく。


見渡せば5畳半程度の仄暗い石で出来た一室。

中には藁か何かで出来た布団とは言い難いナニカ……。

それ以外には他に何も無く、全面鼠色の石で出来たその場所は保冷所のようにひんやりとした空気が漂い、冷気は足元を這うように纏わりつくとゆっくりボクの熱を奪う。


そんな薄暗い部屋を照らす明かりは、正面から差し込む。

目の前にあるそれはTVとかでしか見た事が無い、鉄格子。


「クロカさん、どこがカンペキなんですか……」


溜息と共にボクの口から零れる乾いた笑い声は仄暗い牢屋の中で虚しく響いた。

ここから先の話で世界観とか色々説明が話の中に入る予定です。

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