第五十六話 「海のもずくで済むと思うなよぉおおおお!」
ちょい長めです
「そんじゃ結果はこれに書いておいたからねー! カードの意味とかもちょろっと書いておいたからわかりやすいと思うよん」
そう言ってクロカさんからボクら2人はタロットの結果が書かれた手紙を渡された。
ご丁寧にもピンクの便箋に入り、口を可愛らしい花のシールで綴じた物。
ボクは丁寧に封を開けて結果を見てみる。
そして占いの結果の一言目が……
「貴方はこれからたらしの可能性があります。努々気を付けましょう」
ぱーどぅん?
これって恋占いだったんじゃないんですか。何故一言目にこんなとんでもない忠告が……しかもレター用紙にデカデカと大きな文字でって、これが占いの結果ならとんだ詐欺師じゃ。
と言うか好きな人の事を思い浮かべながらカード引いてって言われたからレオナの事を思いながら引いたのに何でたらし?理解が追い付かないボクは他にも手紙が入っている事に気付き、そちらも見る事に。
するとそこにはボクが引いたカードの意味などが細かく記されていた。
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THE WORLD (ざ・わーるど)
正位置は完成、達成、調和、完璧、実現など。
恋愛ごとにおいては成就、結婚、運命の出会い、一目惚れ、幸福感などを含みます。
貴方が選んだカードの1枚目であり、選んだ4枚の中では現在を示すため今の貴方は想いを寄せる人に対して気持ちを伝えたと言う意味も含んでいます。
そしてこれからの事に関しても全ての障害や困難を貴方が自らの意思で乗り越え、望む物を得るでしょうと意味も含んでいます。
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ACE of WANDS (えーす・おぶ・わんど)
正位置は開始、スタート、事の始まり、第一歩、発見、出発など。
恋愛ごとにおいては気持ちの焦り、気持ちの揺らぎなどを含みます。
しかしこれは貴方が選んだ本来のカードでは無く、貴方から見た左側にあったカードで過去を意味します。
なので貴方は自身の過去に対しての後ろめたさや劣等感などから、彼女と付き合う中で焦りを覚えるかもしれません。
あと余談ですが、このカードはエネルギッシュや生命力の意味も持ち、棒と言う事で場合によっては男の人のおちん○ちん(きゃー!)なども意味しますので覚えておいてね! ※あとで説明するからー。
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THREE of COINS (すりー・おぶ・こいんず)
正位置は才能、技術、特技、魅力、開花、名声、経験などの意味を持ちます。
恋愛ごとでは
話し合いの結果うまく進む、両立できる恋愛、良い方向へ努力する恋愛などを含みます。
そしてこれも選んだカードのくっついてきちゃったカードで、右側にあったカードで未来を指しています。
なので一緒になれるまで、成就するまでに時間が必要とか結果が出るまで時間がかかるかも? って意味だったりする可能性も。
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THE HERMIT (ざ・はーみっと)
正位置は真実、核心、答え、解決、思慮、忠告、崩壊などなど。
逆位置は閉鎖性、ひとりで考え過ぎ、現状のままではうまく行かない、頑固などなど。
恋愛においては孤独、ひとりで苦しんでいる、気持ちから目をそむける、相手に対して疑心暗鬼などを含みます。
そして今回、現在の位置にあったTHE WORLDの下に隠れていたのでこれから起こる可能性の高い、物事や貴方の中に秘められたと言う意味を含め、3枚のカードを連ねた形で見るべしと私のカードが言っています。
本来なら真下に隠れてるなんてナカナカありえない事だからねー。
そしてカードの向きは横正位置。
左を上にして過去から現在、未来と物事が流れる中でこのTHE HERMITと言うカードが貴方の裏側で深く関わるでしょうと示しています。
なのでまとめて見ると、貴方の中でずっと抱え込んでいる何かは今の貴方にとって始まりであり、いまだにそれを独りで抱え込んでいる。そしてその気持ちは彼女を思う気持ちにいつしか陰りを持ってしまう。でも貴方はその壁や障害を乗り越え、自分の望む物をきっと成就させるでしょう……なんて読めます。
要するにお互い好きってのがわかって付き合い始めるけど、悠がウジウジしちゃってナカナカ前に踏み出せず、お互いウダウダやっちゃうみたいな?
多分そんなじゃないかなー。
そして!
ここからは私のインスピでの言葉なのでスルーでも良いけど、結構当たるから自己責任で見て下さいねー?』
ところどころ、溶けた猫みたいなイラストが入りながらの説明で、文字は見るからに女子高生特有の丸文字で可愛らしい物なんだけれども、内容はそれに反してキチンとしており凄くアンバランス。
占いの書かれた紙を読むボクを終始ニヤけ顔で眺める黒髪の占い師をよそ目に、続きを読もうとするとレオナから声をかけられた。
「あの……ご、ごめんなさい。巫女様の書いてる文字が私には読めなくて」
「「あ」」
八の字に眉を曲げたレオナの声でボクと占い師は間抜けな声が漏れる……そう、手紙に書かれた文字は日本語。ボクらの世界の文字で書かれた物でレオナが読めるハズも無く。
てかクロカさん何やってんだよなんて口にしそうになるけども、考えればボクも言われるまで気が付かなかったんだから何も言える訳も無かった。
「じゃあ寝る前にでも悠に読んでもらったら良いんじゃないかしら?」
「ユウはこの文字読めるの?」
「読めるけど……そうするとボクも手紙の内容読む事なるけど、それじゃ書いてもらった意味も無くなるんじゃ」
「わ、忘れてた」
手紙を両手で持ち、レオナは決め兼ねる。
占いと言えど、さっきのボクの結果を見る限り具体的に細かい事を書いてる可能性が高いし、時詠の巫女と言う有名な人が書いた物なんだから尚更そうなるよね。
この世界に於いての占いと言う物がどんな位置にあるのかはわからないけど、ボクの世界でも結果は他人に見せびらかすような事は恥ずかしかった、おみくじでもそうだったし。
クロカさんはその様子をチラ見するとタロットを綺麗に纏め、小さな唇を尖らせながらこう答える。
「当たるも八卦、当たらぬも八卦よ。占いなんて当たっても当たってもそんなマジに考えるもんじゃないしー、あくまでこうなるかもって話であって深刻に考え過ぎかにゃー?」
「……にゃ、にゃー?」
突然のおかしくなる語尾を復唱してるとそんなボクを余所に彼女は頭に手を乗せて猫の真似をしてくる。
「うらにゃいってぇのはー、あくまでこれから起こる可能性の高い物を予想するだけにゃの。手で例えれば過去は腕、現在は手のひら、未来は伸びる指。いくつもある未来と言う指のにゃかで目に付く物を一つ予想するだけにゃのさー。よーするに悪い結果は当たらにゃくて良かったね、良い事は当たって良かったにゃで良いの! にゃ!」
「あの、宜しいでしょうかクロカ……」
にゃにゃ語尾で喋りながら左右に身体を揺らしては可愛らしい声を出す彼女を呼び止める声の主は、仮面の上から手で顔を覆いフルフルと首を横に振る。
「好い加減、良い歳なんですからその様にネコミミっぽく手を頭に当てながら「にゃにゃにゃ!」何て物は見ているコッチがとても痛々しいのでおやめになられた方がよろしいか―――でじきゃらっと!?」
「おう現役永遠JK17歳の私を前によく言ったわね。良いわ……海のもずくで済むと思うなよぉおおおお!」
現役で永遠って色々矛盾していませんか? あとそれを言うなら海のもくずではなかろうか?などと思いながら静観を決め込もうと思っていたけど、顔面に一撃を喰らって伸びる死の踊狂へ対し、容赦ない追撃をかましそうな高校数百生さんをボクは慌てて羽交い絞めで止める。
考えたらこの人もボクと同じように力を持ってるんだから暴れたらどうなったものかわかったもんじゃない。
他に助けをと思ったけど、他の一同は荒ぶる彼女がどのような事をするのかと言った、興味を宿した爛々とした瞳でじっと見ていた気がしたが……勘違いだと思いたい。
「あ、あの! クロカさんは充分可愛いと思うんで死の踊狂さんの言葉は真に受けない方が良いと思います!」
ピタリ。
ボクが無我夢中で発した言葉でクロカさんは動きを止める。
暫くの沈黙の後、彼女の首が錆び付いた人形のように横を向き、そのままいくらか身体を横に向けて背後のボクを見つめる。
「ほ、ほんと? 悠ったらこんな何百年も生きちゃったうちみたいなの相手にレオナと同じくらいキュンキュンきちゃう? 萌え萌えしちゃう?」
「いや、それはその……流石に」
「うわぁああああーん! 悠のウソツキ! その場しのぎの言葉で女の心にオバキルかましちゃうヒドイ子! 自分の見た目が可愛いからってお前なんて死んじゃえよバぁーカバーカ」
「い、いやだって! ボク、見た目11ですけど中身14ですよ! 女子高生って言ったら……」
顔を覆いながらおいおいと泣き真似をして見せる彼女から離れ、その一言を口にするか迷う。
正直、女子高生と言われると自分からしたら年上な訳で、目の前に居るクロカさんは見た目の年齢は雪ねぇとほぼ変わらない訳でレオナと同じようにと言われるとまた違う。
黒のロングヘアーを揺らしながら泣いて見せる彼女は時々指の隙間からこちらを見ては様子を伺うと言うなんとも意地の悪い事をしてくる。
当然、他の面子も何か助け舟を出してくれる訳でも無くただ黙っている。
レオナはまた少し拗ねたように口元がへの字になっている……クロカさんに抱き付いたのがまずかったのかなんて思うけど今はそれどころじゃない。
「えーっと、ですね。さっきのすごく可愛いとは思うんですけど、JK……と言うか女子高生と言われるとボクにとったら年上なんです。お姉さんなんです。だからどうしてもクロカさんは綺麗なお姉さんって感じになっちゃって―――」
言葉を続けるボクは覆い被さる形で続きを遮られた。
何故また抱き付かれてるのかわからずアタフタする暇も無く彼女は一言。
「レオナ、この子ちょうだい?」
「だ、だめですッッ!!」
あの後、クロカさんがよくわからないワガママを言い出し、ローズさんがなだめて何とか落ち着いた。
それから色々話した後、今日は彼女の家に泊めてもらう事になり、寝床の準備が出来るまで庭で夜空を見ながら時間を潰す事に。ローズさんとルシードさんとヴィグフィスさんは死の踊狂と一緒に伝達魔法を使って各国への報告へ向かった。
1時間ほどで戻るって話で、とりあえずレオナはボクと一緒に残る事に。
そして3人なったので軽く家の中を案内してもらったのだけど、凄かった。
広さは言うまでも無くなんだけれど、家を象る装飾はシンプルなんだけども所々にこだわられてるデザインが凝ってると言うか、綺麗と言うか。
壁とか天井は何も無い一面白色だったりするのだけど、壁と床の境目に幾何学模様の掘りが施され、それが一定の間隔でいくつかの種類が大きさを変えながら並ぶ。
何でも色々な魔法とか魔術の細工を施しながらデザイン性にこだわったとかクロカさんは自慢していた。
建物の外観は白色の建物をベースに壁をそのまま窓のようにしたガラス張り、そして屋根の部分もガラスで作られている。
彼女の説明曰く、上から見ると家が十字架型になってるんだとか。
家の案内を終えて元のテラスに戻ったボクらは一息付く。
先程の白卓ではなく、クロカさんに誘われて大きな噴水の縁にクロカさんを挟んでボクたは並んで腰かける。
3人並ぶと彼女は口元に指をあてながらいたずらに笑い、そのまま宙を指差すとコーヒーをかき混ぜるようにクルクル、っと動かす。
ねこじゃらしを前にした猫のようにボクとレオナはその動きに釣られ視線を向ける。と、同時にテラスの中で煌々と輝いていた蛍光灯のような明かりはフッと消える。
灯っていた明かりは魔力を帯びた石を代用して作った物らしく、魔法晶と呼ばれる発光石を加工して蛍光灯のようにした物、なんて先程教えてもらった内容を思い出しながらその先に広がる空を見上げ、
「わぁ、星がすごーい。ほら、ユウ見て! 月がすっごく綺麗!」
「アラアラ、レオナさんレオナさん? そう言う時は『月が綺麗ですね』ってユウに向かって言うのが良いのですよ!」
「……ちょっとクロカさん、レオナがわからないからってそう言うの吹き込むのやめて下さい」
ガラス張りのテラスの天井に広がる夜空の星々を前にはしゃぐレオナに変な事を教えようとする彼女の邪魔をした。
月が綺麗ですね。の言葉はボクの世界では言わずと知れた告白の一節で、夏目漱石が教師時代に生徒が「I love you」を「我君を愛す」と和訳したのを聞いて、「日本人はそんな事言わない。月が綺麗ですね、とでもしておきなさい」と答えた逸話がボクの居た時代で遠回しの告白のセリフとしていくらか前に流行ってた。
「いいじゃなーい? 別にアンタら2人そこまで来たら意味合い変わんないでしょ。言うまでも無く気持ちは一緒みたいだしー? そんなに言うならユウがさっさと決めちゃいなさいよー」
「む、無茶苦茶言わないで下さいってばっ!」
「時詠の巫女様、先程の言葉はどう言う意味があるんですか?」
「んー? クロカで良いわよレオナー。貴女のお母さんも私の事をクロって呼んでたし、気軽に良いよぉー? 出来れば敬語ナシのタメくらいが良いかなー。えっとねぇ、意味はぁー……」
ガラス天井に手を伸ばしては指先をクルクルと回して答えを渋る彼女。
そんなクロカさんの横顔をボクはジト目で見つめる。
「―――ユウが後で教えてくれるわよん!」
「……なっ!?」
「じゃあ後で教えてねユウ!」
反論する間も無くレオナが嬉しそうな笑顔をボクへ向ける。
気のせいかクロカさんはボクとレオナの関係をどうにかして恋人同士にしようとしてないか? なんて考えが思い浮かぶ。
けれどそんなボクの予想と少し違った言葉を彼女は零す。
「良いじゃない良いじゃない? こんな年寄りにも一つくらい些細な楽しみを頂戴なー。通じ合う物があるならそれに越した事はないのよぉー。大抵は無理か、気付いた頃には遅い場合が……多いんだからサ」
フフッと声を出してはボクの方を向いてぱっと彼女は笑う。
台詞とは不釣り合いなその笑顔は先程の無邪気な彼女が見せていた物とはまるで別物で、どうしてかその言葉は胸を締め付ける。しかしボクはそれが何故か何てわからず、彼女に合わせて薄く苦笑して不鮮明な痛みを誤魔化すしか出来なかった。
「おやおや、これはまた皆様方で夜空を御楽しみですか?」
ボクらの邪魔をしないように粛然の声色、ボクらは顔を向けるとそこには戻ってきた皆が立っていた。
「おお、これは綺麗だな。霧のせいで暫く空も拝んでいなかったから余計にか、一段と美しい」
「確かに悪くないな」
満天の星を前にルシードさんとヴィグフィスさんが感嘆の声を上げる。
クロカさんは戻ってきた一同を一瞥すると吐息を口にしながら仰ぐ。
「今日も星が綺麗ですよ。 仕事が終わったのならたまにはどう?」
彼女のその一言に間を置いて仮面の彼が一つ歩み寄り、そのまま空を見つめる。
夜の色をしたローブを身に纏う彼は同じ色をした空を見やり、
「―――たまにはゆっくり眺めるのも悪くないですねぇ」
「でしょ」
空に広がる暗幕と同じ色をした髪と瞳の彼女はそう答えるとゆっくり微笑んだ。
昔は海の藻屑を海のもずくと勘違いしてました。




