第五十一話 「界客のしょう、しょ、しょうー?」
「ぶぇえええええええっ!!
怖かったんよっ!! 心細かったんよっ!! もうダメかと思ったんよっ!
う、うぇええええええええええええんっ」
聖封印術を抜けて地に足をつけた瞬間、ボクを迎えたのは大泣きするきーちゃんことウメコだった。
状況が飲み込めず、胸に飛び込んできた1/8フィギュアサイズの彼女を撫でながらボクは視線を向ける。
そこには困惑顔のレオナと、目を覚ましたヴィグフィスさん、ローズさん、ルシードさん。
魔王も無事に封印出来てハッピーエンドの筈なのに場の空気が重苦しい。
大団円とはちょっと言い難いその雰囲気。
と言うのもヴィグフィスさんは剣を構え、ルシードさんは手に術符を構え……何故か2人とも臨戦態勢。
その2人を鎮めようとレオナとローズさんが阻む形で間に入っているんだけど、何があったのだろうか。
「邪魔をしないでいただきたいレオナ様! 今ここでこやつを倒せば全て丸く収まるのでしょう!
今こそこの剣の錆にしてくれよう、魔王よ!」
大剣をこちらに向け、ギロリと強くこっち、と言うか小さなウメコを睨む。
どうやら2人はウメコを魔王の本体だと思ってここで倒そうって考えなのか……。
さてどうした物かと色々考えるけど、暴走したヴィグフィスさんはまず聞く耳持たないだろうし、ルシードさんもこんなだし。
ローズさんも本調子じゃないようで止める動きは弱々しく、顔色もかなり悪い。
その分レオナが頑張って間に割り込んでるけど、感情的な男2人の前に足元が震えてる。
胸でハムスターみたいにプルプル震える彼女を落ち着かせるように今一度静かに撫で、ボクは静かに口を開く。
「ヴィグフィスさん、ルシードさん。今ここで彼女を打っても魔王は滅びません。
それどころか中に居る本体が本気で暴れ出して、この世界全部が魔障の霧に包まれますよ」
いくらか脚色した内容を口にしてみる。
でも実際の所、今回ウメコが自我を保ってなかったら魔王は暴走化してたのは確かだし、嘘では無い。
胸元の小人が「そうなん!?」とか驚きの声を上げてるけどスルー。
「なっ……!? と、言うよりその声、お前ユウなの、か?」
「ユウ……? どう言う事だ。見た目も全然違う上に何だその、Alpは」
ピンクと黒の甘ロリなリタカノ姿のボクを見て2人は顔をしかめる。
そう言えば声は地声のままだったんだっけ。
そんな事を考えながら彼らへ視線を向けると更にその警戒を強めた表情を見せていた。
これはとりあえず元に戻って安心させようと思ったのも束の間、
「……どうやって変身解くんだっけ? アニメでも特別何か言ってた訳でもないし―――」
そう呟いた瞬間、淡い光がボクを包んだと思うと一気に変身が解ける。
レモンイエローのゆるふわヘアーは栗毛色のミディアムボブに。
ピンクと黒のリタカノコスはレオナが着ていた水色のドレスに。
「あ、ユウに戻った」
その一言と同時にレオナはぱぁっと明るい笑顔をボクに向け、駆け寄る。
何が起こったのかわからないヴィグフィスさんとルシードさんは困惑顔。
「そう言えばウメコ、トシキのとこに戻るのどうしよっか……」
「んっとー、萌えっ子が通った切れ目から戻れば問題ない思うんよぉ」
グスグスと鼻を鳴らしながらボクを見上げながら彼女はそう答える。
あまりこの場に残してても2人の神経を逆撫でしかねないとボクは考え、ウメコにはトシキたちのとこへ戻ってと声をかけた。
「むー色々散々だったけど助かったんよ萌えっ子よ。そんじゃぁまたねぇー」
彼女はそう答えると目を閉じた。
その瞬間、きーちゃんの背中に生えている半透明の羽は身体を包むように閉じて合わさると一つの球体になる。
まさかここまでアニメの設定まんまとは。なんて思わずボクは呟く。
そのソフトボールサイズの半透明の玉は淡色を帯びるとビー玉サイズに小さくなり、ペンダントトップへとなってボクの首元にぶら下がる。
「い、一体何がどうなって―――」
「いやーどうもラキナ・ルゥ・レオナ様を含む御一行のみなっさま!
この戦いで失ったものは多いでしょう……しかーししっかぁあし!
それは! 英雄と駆け上がる為! 世界を救う為の必要な代償だったのです!
泣いてはいけません! 悲しんではいけません! 落ち込んでもいけません!
犠牲になった方々はきっとこう言うはずです。
「自分たちの分も、平和になったこの世界で精一杯生きてくれ。」と!
ですから俯いてはいけません! 今こそ顔をあげ、自分の為に戦った仲間たちを胸に力一杯生きて行くので―――
あっれ……皆様御存命ィい!?」
ヴィグフィスさんの言葉を遮る喧しい声。
アクロバティックな登場をしたかと思えばオーバーアクションでよくわからない動きをしまくり、キンキンと甲高い声で勝手に語りを始めたかと思えば、上擦った声で困惑を見せるどくろ仮面の黒ローブ姿の道化師。
突然現れた彼にボクを含む一同は呆然とする。
「生きていて悪いか」
辛辣にそう吐くルシードさん。
仮面の人は彼を横目に彼は幽霊でも見るような挙動で近寄る。
そして首を傾げながら彼はショーウィンドウの中を眺めて吟味する主婦のようにウロウロと。
レオナをマジマジと見て、ローズさん、ルシードさんをマジマジと見て。
そしてヴィグフィスさんを見つめ、納得の行くドレスを見つけたかのように満足そうに頷き、
「いやはや、この筋肉彫刻……ここまで匠を凝らした一品、是が非にもワタクシめのプライベートルームに飾りたい次第で―――」
「いつからオレは彫刻品になったのだ…… 死の踊狂よ」
物欲しそうな顔で手を伸ばしては、その手を力一杯に叩き落とされるピエロこと死の踊狂。
彼は相変わらず騒がしい声とワザとらしい動きで、ローブの端をマントのようにバッサバサとはためかせ、おどけながら場を掻き乱す。
「これは! 何たる奇跡でしょう! これは我が主、ヌネス・テヌカルリッジ・ノーデンディリス様も予想だにしなかった結果! 素晴らしい、実に素晴らしい結果!
そう思いませんか!? 界客の……? 界客のしょう、しょ、しょうー?」
首をカクカクと動かしてゼンマイが切れかかった人形のように動いては、急にオーバーアクションしながら厨二ポーズを取ったと思えばボクの前へ……。
そして顎に手を宛て、首を左右に揺らして何かお悩みのポーズ。
何かデジャブ、と思った瞬間、
「―――少年!! ワタクシめとした事がまたもや間違う所でした、やはり付いていらっしゃった!!
しかも御召し物は純白、何たる事でしょうか!!」
「ひぎゃぁああああああああッッ!!!」
思いっきりスカートをめくられ、ボクは絶叫する。
まためくられた……今日で2回目なんだけど。
しかもこの人にめくられたの合計2回目なんだけど。
この世界に来てスカートをめくられた回数通算3回で、その約6割がこの人です。
慌ててスカートを押さえた先に居る一同は硬直。
レオナは赤面しながら直視して、ボクと目が合うとマッハで目を逸らす。
いくら見た目が女の子と言っても局部は男なままな訳で、言うまでも無く違和感が強調される。
「あ、あの……死の踊狂。流石にそれはユウくんが可哀相だと思うの。だからその、やめてあげて?」
おずおずとレオナがそう口にすると彼はポンっと手を鳴らし、白々しく
「これはワタクシめとした事が!」なんておどけて見せる。
そう言えばレオナにはボクが女装してるのバレてたんだっけ、何て思い出してると彼女からデコチューされた事を思い出してしまい、恥ずかしくなったボクは目を逸らしてしまう。
そんなこんなで慌ただしい彼のお陰で数分も経たない内に剣呑だった雰囲気は無くなり、ヴィグフィスさんもいつの間にか剣を鞘へ戻していた。
しかしその中で一人、変わらず敵愾心にも似た視線をこちらへ向ける……アレフさん。
傍らに立つローズさんは先程から喋りはしないけど、何かあってもすぐ動けるようにと言った様子で心配そうに時々彼とボクを見やる。
「これはこれは、ルシード・コールソン様。
まだ憎き怨敵宿敵! が目の前にでもいらっしゃる様な御顔で御仲間のニイシロユウ様を御睨みになって……如何なされたのですか?」
ルシードさんとボクの間に割って入ると手を振りながら身体を傾け、眼帯の彼へおどける。
死の踊狂の言葉にルシードさんも強張ったものが僅かに解け、困惑を含んだ表情に。
「―――別にそのようなつもりでは無い。
私はただ、今ユウの中にあるAlpが魔王ではないかと警戒しているだけだ」
ボクから目を逸らし、低い声でそう答える。
この世界の人に取って、魔王と言う存在は忌諱の対象か憎悪の対象。
それは魔障の霧と言う人間にのみ害を及ぼす物を生み出したのと、200年前に国を滅ぼしたりしたのが原因なのだろう……。
そう言えばルシードさんは魔力の残量が見えたりするとか前に言ってたし、魔力に関わる物に詳しいようだからボクがAlpを持っている事にすぐ気が付いて、一際警戒をしているんだな。
「あぁー、そのような事で御悩みなんですか?」
肩をすくめて軽いノリで道化師はそう答える。
ルシードさんを含む一同はその軽々しい反応にいくらか眉をひそめる。
いや、ローズさんだけは相変わらず何とも言えない表情のままだ。
「ニイシロユウ様、貴方様はもしや死にかけませんでしたか?
それはもう、これは死んだ! 絶対無理だ! と言わんばかりに」
「え、えーと……ですね。途中から曖昧ですけれど、瀕死だったと思います」
「ですよねぇー。はぁフンフン。ほぉーナルホドナルホドこれはこれはー?」
歩み寄ると互いの息がかかる程の距離まで顔を近付け、うんうんと何か納得の声を出す仮面さん。
覗き穴からチラチラ見える瞳は細められ、僅かに差し込む光を受けて薄く光る。
前にこのように色々見られて、その後に雷魔法の剣で貫かれた事もあるから軽く怖いな。
「大丈夫ですよ皆様方。どう言う経緯か解りかねますが魔王のAlpが内包されていますが間違い無く、ニイシロユウ様に御座います。問題無いでしょう」
「―――根拠は?」
銀髪の彼は短くそう問う。
その言葉に対して死の踊狂は腕を軽く組み、右手を頬にやっては仮面をコツコツ、と2回ほど鳴らす。
「これに様々な細工が施されておりまして。その一つに魔力感知なる物が御座います。
して、これを御作りになられたのはこの世界にいらっしゃる界客の御一人」
先程の喧しい声色では無く、粛然とした声で。
そして一拍を置くと一同へ顔を向けて続ける。
「彼女はニイシロユウ様と同じ界客にて、数百年御生きになられている方。
故に黒艶の魔女とも呼ばれ、その叡智より全てを視られる存在……時詠の巫女に御座います」
久々に彼を出すとイロイロ暴走して抑えるのが大変。




