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第五十話 「ちゃんと付いてんじゃん?」

「ばーかばーか」


「バーカバーカ」



「…………」



「ユウのばーかばーか。あほー」


「オイみんな見てみろよォー!ココにアホウがいるぜェえええ!?」



人が黙ってるのを良い事にヒートアップする声2つ。



「ああぁああ! そうですよどーせバカですよアホですよ文句あるんですかッッ!!」



かれこれ10分近く続く罵倒に対して、耐え兼ねたボクはついに声を上げてしまう。


白色の閉鎖空間に木霊するボクの声。

早い話が、閉じ込められた。




ボクはトシキたちをAlpの奔流から一瞬でも引き離す事だけを考えていたせいで、その後の事を丸っきり考えていなかったのだ。

そう言えばレオナもその心配してたのに、大丈夫!とか格好付けちゃったんだっけ……。


聖封印術の中は魔法少女リタカノの格好をしたボクと、体長5mはあると思われる熊と狼混ぜたみたいな黒い魔王と2人?きり。

見回す視界の先は四方八方360度全て白色。

ボクはとりあえず三角座りした膝の上に顎を乗せると小さく溜息を吐く。



「……んで、真面目にどうするかねぇ」


魔王ことトシキはその巨体を横にする。

その体勢は休日のお父さんのようにゴロンと横になり、頬杖を付きながらくつろぎモードMAX。



「そー言やァよ、ウメコのヤツァどこ行ったんだ?」


「あ、ウメコさんならきーちゃんの中に移動してるって言うか入ってると言うか」


「……きーちゃん?」


「アニメのキャラだよ。魔法少女リタカノと一緒に居るキーリエって言うキャラで、通称きーちゃん」


「はァーん? アニメのキャラねェ……」


興味無さそうな声を出すと、魔王の巨体は一気に縮んで160cm程度の身長をした女性、キサラギさんの姿になる。

ヘアースタイルはソバージュがかかったロングに茶髪。

茶髪と言っても生え際が黒く、俗に言うプリン頭などと呼ばれる色をしている。

頭以外は上から下まで黒系一色のOL姿の彼女はツカツカとヒールを鳴らせてボクの目の前に来ると、指をちょいちょいと動かして立てと言ってくる。


「あ、あの……何か」


恐る恐る立ち上がったボクは思わずスカートを少し握り締めながら見下ろす彼女の顔を見上げた。

キサラギさんは不思議そうに首を傾げながら腕を組み、マジマジとこちらを見つめる。

まぁ確かにこんなフリフリでピンクと黒の甘ロリ調の服を真面目な戦いで着てたってので、首傾げたくなるのはわかるけどさ。


「いやァな。Alpで色々出来るのはわかってたケド、こう言う使い方もあんだなァって思ってよォ? 

あんさ、お前って男だよな?」


「え、えと……はい。男です」


そう答えると140cmのボクに目線を合わせる形に膝を折る彼女。

そしてひょいっとキサラギさんは漫画の1ページをめくるような当たり前の手付きで、


「あァ、なんだ。こっちはそんままなんだなァー」


「……ふぇ?」


スカートをつまみ上げてはその中をまじまじ見るとキサラギさんは鼻で笑う。

唐突の事にボクは気の抜けた声が零れるだけで何をされてるのかわからない。


「ちゃんと付いてんじゃん?」


不自然に盛り上がった一部を彼女は赤ちゃんのほっぺへ触るみたいに人の男の象徴リトルキャッスルをプニプニとつっつく。

暫くしてからその触られる感触にビクンと身体が反応し、慌てて手を払いのける。


「や、やえろぉおおおおっ!」


思わず上げた声はテンパったせいで口にした言葉は噛みまくり。

キサラギさんはそんなボクをみてゲラゲラ笑い、慌てて距離を取ったボクはスカートを押さえながらへたり込むようにその場に座ると紅潮を隠すように背を丸めた。


『……魔法少女と言う存在であるハズのリタきゅんが実は男の娘で、お○ん○ん付き……。

何だこのダークナイトメアの思想のように業の深きジャンルは!

しかしこれはこれで……尊い』


脳内に響くエコーのかかったござるさんの意味深ボイス。

この人は途中から居なくなったと思ったけどちゃんと居たんだね。てか見てたのか今の。



「さっきまで命懸けの戦いしてたのに、良いの? こんなで」


「お前が言うか?」


「……あ、あう」


またトシキに入れ替わったらしく、目の前には目付きの悪い紺のブレザー姿の高校生が胡坐をかいて座っていた。

あれだけレオナを殺すとか物騒な事を言っていたのに何だかなぁ……。



「あ、あのさトシキ」


「あん? 何だよ」


「トシキは本気でレオナたちを殺すつもりだったの?」


ボクはふと思い浮かんだ疑問を投げる。

そんな問いに対してトシキは気怠そうに


「当たり前だろ。そのつもりだったぜ。

つっても一番の目的はAlpの中に溶け込んだ界客そとびとを出来るだけ還す事だったし、予想よりも還せたんでいくらかどうでも良くなったっちゃぁ、良くなったなー」


また仰向けに寝転がるとやる気のない口調でそう答えた。

何と言うか、トシキもウソが下手と言うか……悪いヤツに成り切れないんだなと今の言葉で思った。

彼の中で憎しみや恨みは確かにあるのだろう。


でも今の言葉が示す通りに、それを晴らすよりも自分の中にあるAlpの中の界客を元の世界に還すのが一番の目的。

もしレオナたちに対して強い殺意を持っていて、界客を還すだけを目的としていたなら絶対にボクを利用したハズ。

にも関わらず、彼はボクも気付かない所でElfの力を回収すると言う形だけに留めている。

そして本当の殺意を抱いていたなら邪魔されれば更に歯止めが効かなくなるし、そう簡単にどうでも良くならない。

言ってしまうとそれに至るまでの詰めが色々と甘いし、彼の言葉は矛盾だらけなんだ。



「トシキも不器用だね」


「……うっせーよバーカ」


「そっちもバカじゃん」


「出られなくなったお前の方がバカだよバーカバーカ」


お前は小学生かよと突っ込みたくなるようなバカの連呼をボクへ向けてくる。

そのやり取りはなんとなく昔姉さんとしていたやり取りを思い出させ、ボクは思わず笑ってしまう。



「トシキはこれからどうするの? また200年とか封印されるの?」


「バカ言うなよ。そうならねぇ為にこうやってレオナから奪ったElfを持ってんだろ。

時期を見てまた外に出たら俺ら全員が元の世界に還れる方法を探すのさ。

時間はかかるだろうし大変だろうが、しゃーねぇわな」


「元の世界に戻る方法ってまたこうやって戦うつもり?

それに戻ってたとして、みんな死んでるんじゃなかったっけ……どう言う原理かはしらないけれど、死んだからこの世界に来てるんでしょ?」


「それしか方法がねぇならやるしかねぇだろ。

仮に元の世界に戻って死人だろうと、この世界で消えて行くよりマシだろ」


彼と話していて、一貫して変わっていないのは死んでいたとしても元の世界に戻りたい。

ある意味、ボクと真逆なんだなと改めてその言葉で思う。



「―――あの、もし良かったらだけどボクも手伝うよ。

こんな事をして還るとか間違ってると思うし、他に方法があるハズだよ」


「あんなーお前。

今より色々と発展してた200年前ですらそう言う研究がまだ途中だったんだぞ?

その研究を一番してたこのアズを含む魔法国が既に無いのにどうやって探すんだよ」


「日本で言ったら200年前って江戸後期だよね……それで考えたら方法が無いってピンと来ないよ。

絶対何か方法があるって」


「お前なぁ? この世界が魔力に依存してるせいと、界客技術に頼り切ってるせいでどんだけ色々な物が遅れてるかしらねぇな?

……つーか、その前にどうやってここ出んだよ。それ以前の問題ってのを忘れてっだろ」



その言葉に「あっ」と呆けた口を開けて情けないボクの声により会話が終了する。

何か方法ないかな―なんて考えながらふと、ポッケの中に入ってる物を思い出す。




「―――そうだ、転移魔法があるじゃないか!」


「そんな面倒な事しなくても、あいよ」


彼が見やる先に視線を向けると白一色の背景に波紋が広がり、その中心は穴が開いたように円を描く。

トシキへ顔を向けると彼はバツ悪そうな様子で目線を逸らしていた。


「これって……」


「レオナのElfで封印術に歪みを作ったんだよ。破壊した訳じゃねぇから安心しろ」


「何でわざわざこんな―――」


「お前が外に出てくれないと俺らも困るんだよ。イ・ロ・イ・ロ、とな?」


意味深な言葉を口にしながら白い炎を手にしながら片目だけ開けてトシキはこっちを見つめる。

ボクが戻ればまたレオナと一緒に居る事になると思う。

そうすればトシキはまたボクを経由してElfを回収ができ、自分たちが元の世界に戻る方法に使う事も可能で、また戦いになった時に有利に立ち回る事が出来るだろう。


ただし本気で彼がそう考えているならの話で、仮に本気だったならば今この場の会話でもっとうまくやるハズ。



「わかったよ。さっき言ってた別の方法をちゃんと探す。……ありがとうトシキ」



彼はボクの言葉に鼻で笑って返すと「せいぜい頑張れよー」なんて言いながら背を向けて手をひらつかせる。

そんな彼を横目に歪む風景に足を伸ばし、その中へボクは飛び込んだ。













「……ずーいぶんとまァ、お優しいじゃねェか?」


「そう言うキサラギさんこそ、止めなかったんすね」


何も無い白一色の風景を映し出す仄暗い一室の中で交わされる会話。

トシキは胡坐をかき、ぼーっとその白色を眺めながら物思いに更けるよう。

その横に腕を組みながらキサラギは並ぶと首を傾げ、自分に向けての不満を顔に出す。


「なーんでかねェ。さっきまであんだけ湧いてた憎しみとかがこう、一気に引くとな。

消えちゃいねェ。消えちゃいねェけどよ……」


何とも歯切れの悪いと言わんばかりの顔で彼女はソバージュのかかった髪を強く搔く。

表現する言葉はある。

しかしその一言ではどうしても言い表せず、仮に表現出来たとしてもその瞬間に色々と否定する事になってしまうのでは、などの思いが邪魔をして続きを言えない。



「言いたい事はわかるわ。多分俺も、似たような感じだし」


その一言にキサラギはいつも通りに鼻を鳴らしては目を細める。

小馬鹿にした素振りだが、同時に「おめェもかよ」と言った物を含んで。

そして小さく、




「それをぶっけられたら誰でも良いお前らと……か、耳が痛いねェ」


苦虫を噛んだ顔でぼそりと零す。

その言葉に彼は何も返さず、ただ瞑目する。

気を使って黙っている訳でもなく、彼もまた同じ気持ち故に黙る。


暫くして2人の乾いた笑いが小さく響く。

それは互いに胸の中に引っ掛かっていた物が同じだったと言う安堵から。

そしてそんな感情に対し、気恥ずかしさを覚えていた事から。



「まぁ、あのクソガキもあんだけナマ言ってくれたんだ。期待せずに待ってみるかァ」


「そーっすねぇ。他のやつらも予定より大分還せたし、時間はあるからゆっくり待ちますかねー」



戦いが始まる前の鬼気迫った空気はどこかに消え、休日に草っぱらにでも寝転がってのどかに過ごすかのように笑い合う2人。

そして白色の風景を見ながらトシキとキサラギは何か懐かしむように、思いに更ける。

そんな彼ははたと真顔になる。





「あ、ウメコの事、すっかり忘れてたわ」


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