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第四十三話 「禁断の果実を実らせた樹」

「で、良かったのか? アカツキが造った半端な物とは言え、貴重な1体だったのだろう?」


茶を口に運ぶとスーツ姿の青年はそう尋ねる。

ガラスのテラスにある白の円卓と椅子。

彼はその椅子の一つに腰を降ろし、同じく椅子へ掛ける馴染みの黒髪の16歳程の少女を見やる。


「そうは言っても事実上は失敗作だから問題なっし。

アズもラーもElf一切無しでAlpのみ持っちゃってたし、対でワンセットなのを考えたら欠陥品だから。

結局成功したのはアブンとエルのみだからねぇ。まぁもう1対欲しかったのはぁ当時のワガママだから仕方ないのよ、うん」


「……で、黒華くろかはどうして第一王女にアズライルを同伴させたんだ? Elfエルフの指導役として彼女が携わっていた流れからと言うのは理解出来るが、今動かして何かあった場合は勿体ないんじゃ?」


「大丈夫よー? あの子の感情に反応して、Alpの力を解放するのは間違いなく魔王と対峙した時。だから事前に下準備はちゃぁーんとしてまーす。

結局AlpもElfも意思を宿した力の塊だし、コントロールに限界があるのは私がイチバン理解もしてるしね。那雪なゆきってば心配性すぎるのよ」


ふん! と鼻を鳴らして「抜かりは無し!」と言わんばかりのドヤ顔を黒華は浮かべ、無い胸を大きく張って見せる。

小さな事を自慢する子供を前にしたような顔を浮かべて那雪は軽く笑う。

彼も聞きたい事を一通り聞き終わったようで、茶の注がれたカップに手を伸ばし口へ運ぶ。

燦々とした陽を浴びて淡緑を見せるテラスの緑たちを見て、感慨に更けるように彼は眺める。

不思議な葉の形をした植物たち。

しかしそれらに混じり、いくらか馴染みのある木が一緒に並ぶ。

桜、松、チューリップ……統一性は無いが、それは確かにもう一つの世界、悠が居た世界の木々や植物だった。


「そう言えば薔薇はこの世界に無いんだったね」


「……結構前に種とか薔薇の木その物が回収されたけど、環境に合わなくて全滅だったわ。元の世界でも薔薇は難しいのよ。この世界に似たような物でディレスって花はあるけど……今度植えよっか?」


そんな他愛無い会話を続けながら2人は談笑を始める。

少女は10代らしい笑みを浮かべ、青年は20代前半らしい素振りであどけなさがまだ残る顔で会話に返す。

互いに茶を口にしながら、時々昔話の思い出に更け、また語る。

そうやっていくらかの時間が過ぎてから、青年が一つ尋ねる。


「そう言えばさっき言ってた下準備ってヤツは、何をしたんだ?」


ふいに思い出され、おもむろに黒華へそれを向ける。

彼女はその問いにきょとんとした顔で受け取ると、唇に指をあてて悪戯に笑うと、テラスの一角に指差して答える。


「……アレと同じかな?」


そう言った先にはテラスの中にある10m近くはある巨大な水盆。

その中にいくらか根を張り、水上へ幹を伸ばして青々しい葉を見せる一つの樹が。

樹の見た目はマングローブととても似ていて、それを見やる彼は首を傾げる。


「あの樹はね、水の底にある淀んだ水とかを浄化するの。それと同じようなモノをあの子には刻んでる」


「浄化……か。しかしAlpをAlpで浄化ってどうなんだ? 原理的に難しそうだが。Elfを用いてるならともかくとして」


「厳密に言うと浄化じゃないけれどね。Alpの細分化……要するに魔力へ還元するろ過器みたいな物ー。

術その物にそう言う性質があるならエネルギーはElf必要ないし?

まぁ問題点とすれば、アレが発動しちゃうと魔王は完全消滅してただの魔力になっちゃうから勿体ないんだけどねぇー」


黒華はそう説明すると口を尖らせながら自前の長髪をくるくると指に巻き付けては遊ぶ。

その返答に対して那雪は少々戸惑いながら口を開く。


「―――それは樹と言うにしては機能が逸脱し過ぎてないか……? Alpを浄化だなんて、魔障の霧に適用すれば良いじゃないか」


「ヤダよー。そんな事をしたってこの世界の連中がヒャッハーって喜ぶだけじゃーん? 馬鹿らしいわ。それにちゃんと樹よ。

私たちの世界で、大昔から伝わる奥義を秘めた物で、神が造った2つの樹の内の1つ」


彼女は一拍置いて、あどけないその顔でこれ以上ない程に怪しく笑うとその名を口にする。


「太古にアダムとイヴが食べ損ねた、禁断の果実を実らせた樹……生命の樹、セフィロト・ツリーよ」











『ぃいいいいい!? はひ、うひひ、ふふひひいぃ!?

な、なぁあんでセフィロトの樹が!? どうしてここで出てくる訳ええええっっ!?』


目の前に広がる光景に魔王体の中の意識の1つ、ウメコが笑いながら上擦った声を上げる。

頭上で瞬く何十mもある巨大なその長方形型で水晶のような形をした陣。

10個の円と22本の小径で模られた古くから伝わる、錬金術や宗教に置いて奥義の1つのセフィロトの樹。


それを発動したローズは手を構えたまま詠唱を続ける。

その動きは自動的で、表情からは人間味と言う物は全て失せ、まるで操られたマリオネットのように口を動かす。


『―――王冠を頂きとし、知恵を得た彼の者は理解を経て、慈悲を知る。いつしかそれらは峻厳を宿し、この三世に在る全てに美が宿る事を悟らん……』


「ロ、ローズ? ローズ!? 何喋ってるのローズ!」


『それらは彼へ勝利を示す標となり、栄光を約束せん。掲げる剣はその者が造る全ての基礎となり、王国は生まれる。そしていつしか知識を知り、剣は鍵と成りその真意へと至る門を開くであろう。』


レオナは唐突の光景に理解が追い付かず声を上げる。

ローズが展開した魔法陣を前に彼女は戸惑っていた。

魔王は古くから伝わる書物などではElf以外の魔力は全て無効化にすると言われている。

それは先程、魔王と戦闘した際にもはっきりしていた事でルシードの魔法魔術、ローズの魔法魔術全て一切効果が見られなかった。

にも関わらず今ローズが放つ魔術と思われる物は魔王を拘束し、先程まであれほど自分たちを苦しめていた元凶はなすがままとなっている。

そしてレオナが一番不安を覚えているのは聞いた事の無い言語を口にし、見た事も無い魔法陣を展開しており、更にはローズは感情を無くしたように呪文を羅列するだけの存在となっている。


「ルシード! ローズが言ってる言葉わかる!? 何を言ってるの!?」


「も、申し訳ありませんレオナ様。ローズが何の言語を発しているのか自分にもさっぱりで……」


不安を向けられたルシードも同じく困惑した表情で大きく首を横に振る。

何百年も生きた魔族の彼でも知らない言葉、魔法陣…。

想定していた物とは大きく違う状況下となり、どうするべきか判断に迷う。

ローズが展開している物がどのような効果を持つ魔術かも皆目見当が付かない。

仮に止めたとしてどのような反動が引き起こされるかわからない以上、下手に動けなかった……。




『おい何だアレ!! あの魔族の女、Alp使ってるってどう言う事ァ!? しかも身体がうまく動きやがらねェ……ウメコ何かわかったなら早く言いな!!』


『ちょ、ちょっとアキラさん待ってってば! 魔王体じゃないのにAlp持ってるとか、急に元の世界の物が出てきたりとか、あたしもめっちゃ困惑してるんよぉ』


『うげぇ……あの、力が持って行かれてると言うか浄化されてるような感覚あんだけど、ガチで俺らやべーんじゃねぇのコレ? さっきは悠にいくらか魔力持ってかれるし、色々詰みなんじゃねーっすかね?』


『うわぁああああこれ、ヤバイやつでござるよ! アニメやらゲームやらで散々出てきてるガチでやばいヤツでござる! 生命の樹と言えば宇宙の法則やらを内包した神の真意ではござらんかぁあああああ!!』


『うっせぇええええクソメガネ! ござるは引っ込んでろ!!!』


『ぱぶろんっ!?』



予想外の展開に中に居る人格たち4人は魔王体の中でぎゃーぎゃー騒ぎ立てる。

自分たちが居た世界とは異なるこの世界でまさかこのような事態に陥るとは予想していなかった……いや、そのような想定はいくらかあった。

しかしここまで完璧で、しかも対魔王用に使われるとは考えていなかったのだ。

魔法陣によりどんどん力を奪われ、魔王の巨体は地面の上にうつ伏せ、這いながら顔を上げ、ローズへ視線を向ける。


『おい! あの女まだ詠唱してっぞ! アイツ殺せばどうにかなんじゃねぇのか!?』


『ど、どうだろう。あの感じ、意識逝っちゃってるみたいに見えるし、殺したら最悪止められなくなっちゃうかもよぉ? 使われてるのがAlpならベクトル決めてしまった時点で行使されるし……殺しても最悪暴走しましたーみたいなぁ事、なんないかなぁ……?』


『チッ! めんどくせぇな。あのクソアマ、何が記憶が無いだ! Alp持ちでこんな切り札持ってやがるとか、バリバリここの関係者で対策してたって証拠じゃねぇかクソが!』


『……う、うーん? あれ。どう言う事これ』


『あん? どうした』


魔王体の視線を通してローズを見ているウメコが訝しげな声を上げては黙る。

早く打開策を見付けなければ危険な中、彼女は黙る。

そしてローズが動かす口をじっと見つめ、彼女は顔をしかめた。

ウメコは抱いた疑念を確かめるべく、今は意思が消えてしまった界客たちの技術や知識を集め、ローズの顔に意識を集中し、読唇術を試みる。



『―――蛇の甘言によりその真意に触れ、門は応え世界は開かれん。彼の者は識り得た物より火を手に、太陽の如く照らして月が示す道を行く。その先に在る大きな水面は星を写す。彼の者は得た知識より釣り針を作りて魚を獲り、それを喰らい、その欲の一つを満たさん……』


『あ? 何言ってんだウメコ、何の呪文だ』


『あ、あのローズって人、魔族なのにウチらの……日本語喋ってるんよ! どう言う事だってのコレ!』


『は、はァ!?』


この世界に来た界客そとびとはどう言う訳かこの世界の言語を当たり前に喋り、文字も全て読める。

それは界客が魔力の塊で出来ている事に起因し、人が放つ微弱な魔力を感知しその中に含まれてる意思を読み取る。

文字に関しても同じ事で、現代にある活版印刷術のような技術が発展していない為、この世界では絵や文字は全て人の手で描かれた物しかない。

そして人の手を使わずにそのような物を行おうとした場合、魔法や魔術を行使する為に必然的に意思を込めた魔力が宿る。

界客はその魔力を読み取ってしまう為、文字もこの世界の物であれば全て読めてしまうと言う仕組みだ。

ゆえにこの世界で、界客の言葉を口にする者が居たとしても、同じ界客であるハズ…しかし、間違いなくローズはこの世界の人間。

生きている年数や髪の色などがそれを物語っている。



『Alp持ちでウチらと同じ言葉、まさか界客? にしてはおかしいだろ、アイツ魔族だぞ!』


『えーと、えーと……仮に日本語で喋ってるとして何故だろ、何故だろ……考えろ、考えるんよあたし!』


キサラギの言葉を余所に頭を抱えてブツブツと独り言を言い始めるウメコは蹲る。

空に浮かぶ魔法陣の円は一個ずつ、規則性を持って一つまた一つと色が灯り、今6つ目の円が黄色に輝く。


そして2人のやり取りに痺れを切らしたトシキは頭を強くガリガリ搔くと、吐息を一つ。


『レオナのElf使って上の魔法陣を壊そう。あの女が使ってる力がAlpなら効果があるはずだ』



静かに彼は提案した。

その言葉に一同は固まり、キサラギは激昂を表にトシキの胸座を掴んで顔元に近付ける。




『テメェ意味わかって言ってんだろうな、あァ? Elfなんてあのガキが居なけりゃ手に入らなかった。そしてコレはウチらが還る為の最後の切り札だっておめぇもわかって言って――』


『ここで消えちまったらそれすらも無理だって話だろ、まずは!』


その一言にキサラギは押し黙る。

彼の言う通りここで消えてしまえば目的以前の話……。

それを理解した上でトシキは止むを得ずその意見を口にした。


『あの人の……アカツキさんの為にも、俺たちはまだ消える訳にはいかねえだろ』


彼女はその名前を言われると胸座を掴んでいた手を離し、トシキを軽く突き飛ばすと背を向ける……小さく、好きにしろと答えて。

その言葉に返すように手のひらに白色の炎を宿し、空に浮かぶ水晶型の魔法陣へそれを向ける。

彼はゆっくり目を閉じると辺りは白く包まれ、影絵のような彼らは白に呑まれる。

そして7つ目の円が緑色に輝くと同時に、白炎は大きな柱となって魔法陣を撃ち抜かれた―――。

詠唱は適当ですのでお許し下さい。


詠唱に関しては一応セフィラの力の下降(炎の剣)からパスを経由した力の上昇(叡智の蛇)です。

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