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第三十九話 「そうじゃない」

いくらか短めです。

『だーかーらー! これ以上魔力使うなって! 死にてぇのかよ!』


「五月蠅い! 自分を魔王って名乗った上に、レオナたちを殺すって言ったヤツの言葉を信じれる訳無いだろ!」





ラッドを使い、魔力で膜を張って全速力で空を飛ぶ。

そして先程からやたら五月蠅く話しかける魔王へボクは苛立ちの余り、怒声を向ける。


『そらそーだろうよ! アイツは俺らに取っちゃ敵だぞ!? しかも俺らが戻る為には仕方ねぇんだよ!

―――っておま、マジやめろって! 言ってる傍から加速とかナニソレ重ねがけとか出来んの? 聞いて無ぇんだケドォ!!』


視界の先に見える村と地図に表記されてる村の名前を確認してラッドを重ねがけして加速する。

あの屋敷を離れてから一つ目の村……地図通りならイズキと言う村。この後2つの村を目印に飛び、3つ目の村を南下した先の山に第五外大陸へ繋がる転移施設を目指す。

約1時間近くあの屋敷に居た。

レオナたちがすぐにペンタグラムへ向かっていないとしても、もう出発している可能性が高い。そうなると残り2時間近くで魔王との戦いになるハズ……。

時間が無い。


「もっと……もっともっともっともっと!

銀の車輪ラッド)ッッ! 銀の車輪!

銀の車輪、銀の車輪、銀の車輪、銀の車輪、銀の車輪ッッ!」


『ば、だから使うなって! 俺が抑えてっから魔抗病フォールの進行が止まってるだけだつっただろ! それ以上魔力を使ったら、崩壊の加速が上回って抑えられ――』


「黙ってよ。……何で敵なのにそんな事をするのさ。何でそんなお節介をするのさ。」


これ以上ない程に加速し、景色がただの線となり風切りの音も轟音と化す中、問いに対して魔王の声が止まる。


魔王がこの世界で死んだ界客そとびとと言う話を聞いた。

数百年前より続く残虐な扱いを受け、その中で死んだ界客そとびとの集まりだとも聞いた。

この世界の繁栄の為に呼び出され、それの為だけに界客そとびとは利用されていたとも聞いた。

ボクが同じ界客そとびとで繋がりがたまたま出来たので、コイツがお節介で関わっていたと言う話も聞いた。



「だったら何でレオナたちを殺すなんて言えるんだよ……!」


腹の底から煮え滾るように湧く、憎しみにも似たその感情と、歯痒さとも似たそれを込めてそう零す。


『だから敵だって―――』


「そうじゃない」


違うんだ。

敵だとか何とかじゃない。

もっと別の事なんだ。

さっき君は界客そとびとは何もかも奪われたとボクに話しをした。

少なからず居場所があった奴も貴族共がそれを奪ったと言った。



「だったら何で君はボクから大事な人たちを、居場所を奪おうとするんだよ!

同じじゃないか……さっき言ってた自分たちの居場所を、命を奪ったこの世界の人間と! 一緒じゃないか!」


『そ、それはよ……』


「何が違うのさ、一緒じゃな―――ぐ、ごほっ!」


唐突の吐き気に口元を抑えるが込み上げた物を我慢出来ずに溢れ出す。

同時に全身に激痛と脱力感。

ボクはそのまま失速し、何も無い平原の上へと投げ出される。


『おい! だから言ってんじゃねぇか!』


「うる……さい。関係、ない……だろ」


喋る事を遮るようにまた溢れ出す血。

目の前でいくらかの溜まりを作り、ボクの顔がいくらか映る。

目を血走らせ、酷く歪んだ顔。

ボクは何がおかしいのかハッと笑い飛ばすと、這っては身を起こそうと試みるが腕にうまく力が入らない。


「くそ……まだ、何もして無いんだよ。まだ何も」


何とか身を起こし、顔を上げる。

すると邪魔をするように黒い霧が辺りを覆い始め、ボクは忌々しく顔を歪める。


『お前は死ねば、否応無しにリンクが出来た俺たちと同化するだろうよ……』


「………ジャマ、だな。冷酷なる戦乙女サンクリズル


ボクの声に応え現れる白鎧に身を纏った銀髪の彼女。

その白銀の色を放つ身は闇色の霧と相反し、眩く光り輝く。

あどけない少女の顔をしたヴァルキュリアは、その冷淡な瞳で辺りを一瞥すると首を傾げる。

今日は獲物が居ないじゃないですか、と言わんばかりに。


「霧が邪魔なんだ、消して」


その言葉に彼女は槍を振るう。

ボクはまた口の中に上がってきた赤い嘔吐物をおもむろに吐き出し、彼女が槍の一撃で吹き飛ばした先をラッドで進む。

……そしてバランスを失い倒れ込み、また起き上がる。

顔を上げれば吹き飛ばしたはずの霧がまた集まりだし、不快感が全身を掻き毟る。

こいつまで邪魔をするのか?と、ボクは霧を前に苛立ちを覚える。



『どうせこれからも付き合いがあるんなら、いくらか仲良くなれたら良いかと思ってたんだけどよ』


「―――サン、クリズル。……消して。全部」


フラフラと夢遊病のようにふらつきながら前へ進む。

泥にまみれ、血にまみれ、彼女に貰ったピンクと黒のドレスはその濁った色が入り混じって赤黒ドレスに仕立て上げられていた。


ラッドを唱えて飛ぶと言う事もいつの間にか忘れ、何度も何度も現れる黒い霧を銀髪の彼女を呼び、噴き飛ばし………………その繰り返し。


『じゃあな、ユウ』


そして倒れては、吐き、立ち上がり、歩き、彼女を呼び、吐いて、歩き、倒れ………………


体中を引き裂く痛み、吐いても消えない吐き気、頭を叩く五月蠅い頭痛。

気が付けば目の前は土と自分の吐いた血の色でいっぱいだった。

わずかに残る力を振り絞って顔を横に向けると、地面と……黒いもや。


「ジャマ…………………………だなぁ」


気が付けばずっと煩かった魔王の声は聞こえなくなっていた。やっと諦めたらしい。

ああ、レオナを助けなきゃいけないのに、うまく体が動いてくれない…しかも凄く、眠い。

嫌だ、寝たくない。

死ぬのは怖くない。嫌なんだよ。もう、誰かが死ぬのは


何も出来ずに、何もせずに、誰かを失うのは

もう………


いや、なんだ。







「ゆう……ゆう」


誰かが名を呼びながら揺り動かす。


「ユウ、ユウ……」


その声は見知った誰かをと言うより、おもむろに、ただ触れて、名を呼ぶような。


「ゆう、ユウ」


答えが返って来なくても構わず、ただひたすらに触れ、名を口にする。

そうあるべきだから。

それをすべきだから。

けれど何故なのかは思い出せない。

だから考えずに触れ、名を口にする。


それが答えその物だと疑わずに。

それが既にもう、動かないただの骸だったとしても。

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