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第三十五話 「何も言わないのね」


「レオナ! 今の光は…」


異変にいち早く気付いたローズはテントへ駆け込むと声を上げる。

視界の先ではベッドの上で泣き崩れるレオナの姿…。

肩を小さく振るわせ、何度も「ごめんなさい」と口にする。

そこはユウが寝かされていたハズのベッド…しかしそこにはユウの姿は無い。

ローズはゆっくり歩み寄るとベッドの上に掛け、レオナの肩へそっと触れる。


「それで…良かったのねレオナ」


「…う、ん。

うあ…うああぁあああああああっ」


その言葉にボロボロと涙を流しながらゆっくりレオナは頷く。

ローズはその答えの前に何も言わず、ただそっと頭を撫で、抱き締める。

嗚咽を漏らしていたレオナは、彼女の胸に抱かれると泣き声を上げる。

その泣きじゃくるその姿は、まるで幼い少女のようだった…。






「そうか。ユウはプリズの所へ…」


「何も言わないのね」


「あの状況では私には何も出来ん…霧の影響も無いとは言えん以上、適切な判断だったと言える」


テントの中で腰掛け、会話を交わすルシードとローズの2人。

交わされる会話はどこか淡々としており、特にルシードの声色は冷たさを秘める。

だが彼のそんな素振りは感情を出す事が苦手な故と知るローズは、静かに続けた。


「確かにユウ君もあのままじゃ無理をしていたでしょうし…プリズならあの子の病気もどうにか出来るかもしれないしね」


「ユウには恨まれるかもしれんが…仕方ない。で、レオナ様の方は?」


「レオナの方は大分落ち着いた様子だから、問題無ければいつでも大丈夫そうよ」


一拍置いて話を切り替えるとルシードを見やる。

それに対し立ち上がると確かめるように一つ頷き、瞑目。


「―――行くか」


そしてゆっくり開かれた瞳は赤く赤く。

獲物を決めた鷲のような彼の瞳からは、先程の迷いは消えていた。







「ごめんなさい。私の勝手でユウを…」


一同集まった所でレオナは静かにそう口にした。

それは先程、ユウに見せた感情的な物は一切無く、落ち着いた素振りで凛とした表情で。

レオナは転移魔法を用いてユウをここより何百kmも離れたラノアと言う土地へ送った。

そこは魔王との決戦において力及ばずだった場合、逃げる場所であった。


「謝らないで下さいレオナ様。私たちもユウをこれ以上、巻き込みたくなかった気持ちは同じです」


ルシードはみなの気持ちを代弁するかのように言葉を口にする。

ローズもヴィグフィスも黙ってただその言葉の前に頷き、レオナは小さく「ありがとう」と呟く。

彼女はまた気持ちが零れ落ちないように、胸元で重ねている小さな手には力が籠った。



それから一同は昼を過ぎた辺り…13時過ぎに居城からペンタグラムに向けて出発する。

ローズの案内により。廃城の地下へ向かいそこから一本の地下道を通る。

先頭をヴィグフィス、その後ろにローズとレオナと続き、その後ろをルシードが結界を展開しながら後方からの強襲に備える。


地下道はみながイメージしていた穴倉のような物では無く、王宮内の通路と変わらぬ大きな造り。長年放置され、日の当たらぬ地下と言う環境のせいでいくらかの苔が生い茂るがそれでも200年近くも人の手が入っていなかったとは思えない程であった。

カンテラを手に辺りを見回すヴィグフィスは歴史のある物などには疎いが、その丁寧な作りに思わず吐息を漏らした。


細かい装飾は無いものの、白色の石で通路、壁、天井を綺麗に囲い、天井の石を支える為に等間隔で石の柱が並ぶ。

地下にあるせいもあり、所々、壁から水が浸み出しているが通路と壁の面する場所に深めの掘りがあり、そこを水が流れて行く。

それは大昔からある神殿へ通じる地下道と言われても納得してしまうだろう。


地下にあった為、200年前の魔王による破壊を逃れたと言え、どこか一部なり崩壊していてもおかしくは無い。

だが崩れている場所は見当たらず、相当頑丈に作られていた事が伺える。

ルシード曰く、石は王宮に使われる頑丈でありながらいくらかの柔軟性を兼ね備えた貴重な物を使っている、そして今は失われてしまった様々な技術が使われている等と述べる。

しかしそれらを理解出来るだけの知識を持ち合わせていなかった一同は、右から左に聞き流す形になり、長々と続く話に適当な相槌を打ち、先を急いだ…。



「ん…これはなんだ?分かれ道か」


ヴィグフィスが立ち止まり、カンテラを持った手を前に出し、彼は顔をしかめる。

廃城を出て、かれこれ2時間近く歩き詰め辿り着いた場所は円状に開け、目の前には3つの道。

話通りならもう少しすれば、魔王がいるペンタグラムへ辿り着く…そんな矢先に分かれ道に差し掛かってしまった。






「大丈夫よ。真っ直ぐで問題ないわ」


後ろからローズが声をかける。

いつもの彼女の声だが、カンテラが照らす仄暗い通路のせいか、彼女の瞳がとても怪しく見えてしまったヴィグフィスは一瞬、息を呑む。


「…どうかしたの?顔色が悪いわよヴィグフィス。そうね…この辺りで一度休憩した方が良いかもしれないわ」


そう口にすると一人、辺りを見回しては哀惜を秘めたような目を細める。

記憶に無い場所、覚えが無い場所…だが、知っている場所。

永遠に完成する事の無い、ピースの欠けたパズルのような記憶。

だが、ここに来てからピースが埋まらないハズの空白へ一瞬だけ、何かが当てはまっては消える。


過去を持たない…過去の記憶を失ってしまった彼女はそれに手を伸ばすが、今の自分の物では無いソレには触れられず淡く消えて行く。

結果としてその時の心情や思い出などは指の間をすり抜け、こう言う場所がある、このような物があると言った過去のみが手の中に残る。


「ローズ…大丈夫?」


彼女の事を心配するレオナは小さくそう声をかける。

らしくもなく感傷に浸ってしまったと胸の内でローズは呟くといつものように微笑む。


「覚えが無いのに知っている…と言う事にちょっと馴れなくてね。自分がその場に来たり、その記憶に深く触れる状況下にならなければ、思い出されないって今更ながら本当、不便」


振り返り、そっと頭を撫でて答える。

今まで何度も体感した事だった。

覚えの無い文字、覚えの無い知識、覚えの無い風景。

しかし知っている。


記憶喪失の人間が何故か言葉や自分の名前だけは覚えている。

その経過などは全て記憶に無いのに、知っていると言う結果だけは記憶として残っている。


彼女の場合はその他に風景や場所、その時の映像だけが断片的に残っていると言う稀なケースの持ち主であった。

だがそれも思い出すにはそれらに関わる事か物などを見たり、聞いたりしなければ思い出せない。

誰かに聞かれ、目次を引いて本のページをめくり、その一文を見て理解するような…そんな感覚。

仮に思い出したとしても、他人の思い出話を聞いて知ったような感覚。

そして彼女としては思い出されても、その時の感情も何もかもが無い以上、ただの知識どまりだった。


200年前、ディーリス国に彼女は回収され色々と調べられるが、そうなってしまったのは魔王の瘴気にあてられた影響のせいだと言う話で纏められ、それ以上は追及される事はなかった。


「しかし地下にこれだけの物を作るとは…本当200年前の物とは思えんな。オレは歴史に疎いからよく知らんのだが、この国は相当な技術力を持った大国だったのだろうな」


「そうね。国が消滅したのと後のラフォン大戦のせいで当時の資料はほとんど残っていないけれど、ここは第五外大陸の名が示す通りに魔法、魔術、召喚を用いて発展を成した大国の一つよ」


関心を示すヴィグフィスに軽く説明をするローズ。

脇の方ではルシードが結界を張りつつ、いくらかの警戒をするが彼の眼には魔力が感知されない。

強襲の可能性も懸念していたのだが、そのような物も一切無く、ここに来るまでも罠一つ無かった。

先日までの魔物と魔族による度重なる襲撃と考えてるとどうしても不自然に想え、彼は訝しげに顔を伏せる。


「ローズよ、これから向かうペンタグラムとはどのような場所か、わかるか?」


「…かなり広い場所よ。地下に造られた円状のコロシアムのような所で、召喚を行っていたとこね」


「そうか。休憩の中悪いが、今一度作戦会議をしておこうか」



割り入る形で彼はそう口にするとみなに合わせて彼は腰を降ろし、胡坐をかく。


「今一度周囲を調べてみたが、魔物魔族による襲撃の可能性は薄い。…そうなると指定されたペンタグラムにおいて、魔王が集めた魔物と魔族を含めた数による戦いの可能性がある」


「その場合は我々がかなり不利だな。魔物相手までならば何とかなるが、上位魔族が複数で来ればオレでも耐えられる自信は無い」


「ああ。だから戦闘に置いてそのような状態になった場合、この通路に戻る」


彼は指を立ててそう口にする。

魔王は今まで周到に兵を配置していた。そして恐らくはこちらの戦力を把握していると考える。

それに合わせて兵を集めていると考え、少数でも戦えるようにするしかない。


「恐らくその可能性は…低いわね」


ローズの言葉によってそれは遮られ、一同は顔を上げ彼女へ視線を向ける。


「さっきルシードが言っていたと思うけど、この通路は術による防壁が働いてて、知能が一定以下、そして攻撃性の強い意識や本能を持ったものは入れないようにされてるのよ。仮にこの中でそれが発生した場合は、即動けなくなる。道中に襲われなかったのはきっとその関係ね。…ごめんなさい、思い出すのが遅れてしまって」


マニュアルを読み上げるかのように彼女はそう述べる。

自分の中にある、思い出される知らない知識。

ある程度のワードを与えなければ出てこない面倒な物ではあったが、魔王が何故わざわざペンタグラムを指定したのかを何となく理解をする。

そしてルシードはその言葉で何か気付いたらしく、顎に手を宛てて、暫し黙る。


「ローズよ。そうなるとこの場所…そしてペンタグラムでは私の召喚は使えなくなるのではないか?」


「ええ、魔王はそれも視野に入れてここを指定した可能性が高いわ…」


ルシードが使役する召喚獣とはその身体を多くの魔力で構成する。

そして、対象を殲滅すると言う目的の元に召喚される物が殆どで、知能が高くない召喚獣が多い。

知能の高い召喚獣は居る事には居るのだが、呼びだす為の前提が大掛かりな物となる為、扱いが難しい。

そうなるとルシードが主戦力で扱う召喚術はこのペンタグラムでは扱えない事になる。



彼女は浮かない顔でそう答えるとルシードの目を見る事が出来ずにいくらか俯いていた。

一同はローズの特殊な形の記憶喪失に関しては理解している為、責める事はない。だが彼女の中では、もっと事前にわかっていれば、と言う苛立たしさを含んだものがいくらか滲んでいた。

そしてそれは先に進めば進むほど、それは増え、最悪もっと早く知っていればと言う後悔に繋がるのではないかと言う恐怖すらもローズの中で孕んでいた。


しかし、ルシードはその彼女の胸の内に気付きつつも疑問が芽生えた表情を見せる。


この第五外大陸はその昔、魔法、魔術、召喚による発展をしていた。

そしてその実験の際、ごく稀に界客そとびとが召喚され、その人間の知識を得て国の繁栄を築いた。

その行いは200年経った今でも各国で秘密裏に行われ、サテンフィン王国もその恩恵を受け、発展している国の一つ。

だが、ルシードが知る知識の中ではあくまでも

『大型の召喚実験を行った際、稀に界客そとびとが召喚される』と言う偶然の産物の一つ。

それはどんなに召喚場所の限定化をしようとしても、難しい物。

その例が駐屯地近くに召喚されたと思われる界客そとびとのニイシロユウ。

彼は誰かが召喚魔法を行った訳でもなく、召喚師である自分が呼びだした物でもない。


だが、召喚獣にのみ適用されるように機能しているこの施設…。

まるで、通常言われる召喚獣は不要・・・・・・と言わんばかりの機能。


「ペンタグラムは…ここは何を召喚する為に作られたモノだ?」


固唾を飲み込み、それを口にする。

先日、『事実を知ったら、きっとユウにも嫌われちゃうかも知れないけれどね』と言う言葉にそこまで深い意味を考えなかった。

しかしよく考えればレオナにも関連する事柄にも拘らず、ローズはレオナに対しての言葉を口にせず、ユウに向けての感情を述べた。

もしルシードが予想する通りならば…。




「そいつぁここが界客そとびとのみを召喚する為の施設だからだよ」



彼への質問に答える、聞き覚えの無い声。

一同が警戒し、目を向けると通路の真ん中に一つの人影…。

声からして15から17くらいの少年。

ヴィグフィスがカンテラを消そうと動くが、それに気が付いた少年は自分の脇に松明のような火を灯す。


同時にはっきりする声の主。

髪はいくらか短髪、三白眼で背は170あるかないかぐらいか。

だらしない姿勢と足運びからして、剣術や体術の心得は伺えない。

舐めきったような口調と態度は世間知らずの貴族の一人を連想させる。

そしてその服装は…どこかで見た事があるような物だが彼は思い出せない。


ルシードは必死にそれを記憶の底から漁るが、予期しなかった状況にその分析をやめる。


「アイツとのリンクが薄くなったから、みょーだなと思えばそう言う事な?まぁ良いや。アンタらおっせーから心配でついここまで来ちまってよ」


ヘラヘラと笑いながら親しげな友人にでも会ったかのように少年は喋る。

しかし一同はその挙動一つにも警戒をし、いつでも攻撃に移れるように身構える。

だがそんな様子も無視して、少年は何が嬉しいのかニタニタと笑う。


「あーあーそんな警戒すんなって。…ってかすんなって言う方がムリか。まぁいいやさっさといこーぜ」


人を舐めた態度でふんっと鼻息を一つ鳴らし、背を向けると少年は挑発するように手をヒラヒラさせながら歩き出す。


ヴィグフィスの全力の一撃を受ければ気付く事無く、この少年は死ぬだろう。

ローズの氷雪系上級魔術で体内から凍らせてしまえば、この少年は気付く事無く、氷像と化すであろう。

ルシードの爆炎系魔法を彼が歩く通路に向けて放てば、この少年は気付く事無く、炭へと化すだろう。

だが、誰一人として動けない。

それは彼が纏う、ドス黒い…魔障の前に動けない。


そんな中、少女は辺りを覆う重圧の中、一歩足を進める。


「アナタは…誰なの」


その問いかけにピタリと足を止めると彼は何も答えない。

レオナはみなを庇うようにまた一歩、前へ進む。


少年は軽く腰に左手を宛て、半身だけ振り向かせる。


「アンタらが言う魔王ってヤツさ。…レオナ」


その三白眼を細めながら、またニタリと口の端を歪めて彼は答えた。

やっとここまで来ましたー…

まだまだ戦闘にならないから長い。

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