第三十一話 「ボクへ触れてくる。」
※微グロ?あります。
つい先程までボクはレオナに魔法少女リタカノの話をずっとしていた。
彼女は久々に聞く話に眠い目を擦りながら頑張って起きていたけれど、限界が来たらしくいつの間にか寝息を立てていた。
ボクは彼女が風邪を引かないように布団をかけ直すと、同じく横になるがいつまで経っても眠気が来ない。
「んっ……うん…」
本日もやってきましたレオナお嬢様によるだいしゅきホールドのお時間。
しかし最近はネグリジェではなく、元の世界であったようなパジャマに身を包んで寝ているのでボクのリビドーを刺激する被害は著しく減った。
とは言っても相変わらずノーブラなので抱き付いてくると柔らかい物がダイレクトアタックしてくる訳だが、とりあえずまだ何とか、うん。
隣のレオナに興奮してしまって睡魔が来ないのか?もしくは明日の事で緊張して眠れないのかなとか考えるけどそんな感じではない。
じゃあ疲れてないから眠気が来ないのか?と思ったけどそう言う訳でもない。
今日も何だかんだで色々あったからかなり疲れている。
そうやって思い悩んで眠気が来ないと言うか、気がかりな事を思い出す。
「多分あれ、ジンチュウって……読むんだよね」
あの石壁にあった漢字を思い出す。
『人誅』
聞いた事の無い言葉だけど、天誅って天に変わって成敗だっけ?
昔に見た時代劇で聞いた覚えがある。
それの『天』が『人』って事だから人に変わって成敗…?
何か違うな。
んーと天誅が天に変わって罰を下すで天罰って意味だよね。んで人誅は人罰として、人の手で自ら裁く?
待て、単体で考えるからおかしいのかもしれない。
あそこに書いてあったペンタグラムにて待つ。
ペンタグラムって五芒星で、漫画とかゲームでよく見かけた。
黒魔術とかと切っても切れない関係で、場合によっては悪魔の契約の時とかにも出てきてた気がする。
もし繋がってるとすれば…人が知らないような、もしくは非人道な事を何かしてて…それに対して人誅。
ローズさんのあの感じからして、昔に何かあってそれによって酷い目にあった人が無念を晴らす為に裁こうとしているって意味か?
そう考えると大分しっくり来るな。
でも何で魔王が…?
しかも何で人誅だけを…日本語…で?
―――そんな事を考えている内にボクは眠りに付いた。
『一つ、それは遥昔に竜と、魔と、精によって創られん。
二つ、光と闇を司りしその力は新たな力とならん。
三つ、一つ目と二つ目を交えたその強大なその術を人が創りだす。
四つ、三つ目の力は更なる高みを目指し、至高の四つ目と成らん。
五つ、新たな門を開き、この世界に叡智と繁栄をもたらさん。
それらは位を与えられ、この地を示す名の一つと成りて。』
「あら、ユウ君起きるのが早いのね。よく眠れた?」
今までの癖なのかあまり眠れなかったのかよくわからないが、ボクは陽が昇り始めるくらいの時間に目を覚ました。
よく眠れたのかと聞かれれば、まだ眠いので多分足りていないのだけど、レオナが起きる前に着替えを済ませないと男とバレたらと言う心配がある。
その為、どうしてもこの時間に起きないと不安なのだ。
「眠れたような眠れて無いような…ふぁっ…。多分まだ寝足りてないですね。でも2度寝するとレオナが先に起きちゃうのでダメですね。ハイ」
とりあえずドレスに着替えを済ませたものの、髪の手入れなどと考えが回らない。
欠伸をしながらローズさんたちが囲む焚火の前に座って、火の光と熱で目を覚まそうとするとマグカップが渡される。
「ユウ君の好きなレンティオのお茶よ。目覚ましのお茶が好きってユウ君も大変ね」
「ありがとうございます。これ飲むとスッキリするんですよね。寝る前に飲むと眠気がどっかに行っちゃう感じもしますけど…」
「そりゃそうよ。だって普通は徹夜する人が飲むお茶だもの。寝る前に飲んじゃえば眠れなくなるのはトーゼンよ」
今になって知る衝撃の事実。
そして思い出す。ルシードさんに貰ってこれを飲んだ日に一晩中眠る事が出来なかった。
ボクはネグリジェ姿のノーブラレオナにだいしゅきホールドされ続け、冴えた意識の中で己の中で暴れるリビドーと数時間戦い続けた。
多分だけどボクの世界であったレッドなんちゃらって言うエナジードリンクみたいな効果があるんだなコレ…。
「ルシードさん、出来れば前もってそう言うモノだって教えて欲しかったです…」
「ん?……あ。す、すまない。失念していた」
少し恨み言のようにそう口にするとルシードさんはバツが悪そうにそう返す。
まぁ悪気があってそうした訳じゃないのはわかっているので別に良いんだけれど、あの日の苦痛と言うか葛藤はほんとヤバかった。
なのでちょっと文句言うくらい良いよねと、ルシードさんに少し意地悪を。
「あれ、そう言えばヴィグフィスさんはまだ寝てるんですか?」
「ヤツならそこに居るぞ。朝の運動中だ」
ルシードさんが親指でクイっとやる先を見やると、崩れた岩の上で片手倒立をしてそのまま動かない筋肉さんの姿が…。
まだ昇り切らない陽の光を受けて星のように輝く彼の身体を伝う玉の汗。
それはパンツ一つの何も飾る事をしない肉体を最大限に魅せる天然の宝石。
時折不規則に身体の曲線を伝っては、汗は流星のように煌めきを放ち、彼の逞しい肉体の凹凸を更に強調するダイヤモンドのようだ…それはこの世界に今の瞬間にしか存在しない、活ける芸術と言っても過言では―――。
「……ユウよ」
「は、はい!?」
「寝惚けた頭であまりアイツを見ない方が良い。お前、目が逝きかけているぞ」
ルシードさんの声で我に返り、意識が変な方向に飛んでいた事を自覚する。
危ない危ない…ヴィグフィスさんの汗を見て何がダイヤモンドだ何が芸術だ。
汗は汗だろ、筋肉さんは筋肉さんで変態以外何物でもない、何考えてるんだボクは。
頭にこびりついたマッスルな雑念を頭を振って、脳内から追い出す。
そしてまだそれなりに熱いお茶を流し込んで目を覚ます。
「ふぅ…。そう言えば昨日壁に書かれてた場所に行くのは何時頃にするんですか?明日とは書いてありましたが、時間の指定は無かった感じですけど」
お茶のお陰でいくらか頭がすっきりしたボクはルシードさんへ顔を向けた。
魔王の魂胆はわからないけれど、場所を指定してくるクセにどっか抜けてるようと言うかズボラな印象を受けた。
まぁもしかしたらワザとかもしれないけれどね。
「9時ごろに出立して昼前に指定の場所へ向かう予定だ。時間指定が無いのを良い事にのんびりして魔王に機嫌を損ねられても困るしな。しかしお前……」
彼は焚火に薪をくべ、目を細めるとその先を続けるのをやめる。
放り投げられた薪は、パキンと火の中で弾けて火の粉を散らし、熱風に乗って火の粉はふわりと漂っては消える。
ルシードさんは火を見つめ、また薪を一つくべる。
その薪は中に残った僅かな水分を弾けさせ、パキパキンと甲高い音を立てては線香花火のような火花を咲かせた。
「お前は、怖くないのか?ユウ」
何かを確かめるかのようにその言葉を投げかけてくる。
彼はそう口にした後、「私が聞けた義理ではないのだがな」と付け加えては苦笑を漏らす。
「うーん…怖いですけど、前ほどは怖くないです」
正直これから魔王と戦うとわかっているけどボクには実感が無かった。
この世界に来てまだ10日経つか経たないかくらい。
色々と国絡みの状況とか聞いているけどその殆どに実感が無く、ボクは自分の置かれた状況をこなす事に手一杯でいつの間にか恐怖と言う恐怖は、前に比べるとかなり薄れていた。
失礼な言い方になってしまうけど、自分の事で手一杯なんだ。
あとはこの第五外大陸に来て、ヴィグフィスさんやローズさん、そしてルシードさんの実力を見た。
確かに何回か危ない場面はあったけれど、誰一人として怪我と言う怪我を負っていない。
そして誰もが何かしらの余裕をいつも持って戦闘していた。
後半の方はボクが殆どやっちゃってたけれど、恐らくボクが居なくても、彼らは被害を出さずにここまで辿り着いただろうと見ててわかる。
そう言う事も相まって、ボクの中にあった不安や恐怖は次第にどっか行ってしまい、楽観視してるような感覚になってしまっているのだろうななどと、改めて思う。
「それにみんなが居るし、それもあって怖くなくなったと言うか。最初はこんな少人数じゃ絶対無理だって、不安でしたけど」
「そうか…今更だが、お前を駐屯地なり村なり預ける事も考えられたのだがこのような形で無理強いをして悪かった」
そう口にするとボクにルシードさんはボクへ頭を下げる。
言っている意味は分かるけど、あの状況下でボクをどこかに預けるって言うのは大変だった事を理解している身としては、何故今になって謝られるのかわからなかった。
村に預けるとしても駐屯地から麓の村まで徒歩で半日以上かかると聞いていた。
魔王討伐が目的なのに関係ないボクの為に下手に動いて何かあった場合、取り返しが付かないくらいわかる。
そして駐屯地に預けると言っても、問題となっているサテンフィン王国の人間が三大国家の抱える駐屯地へ預かってくれなんて頼んだら、どんな軋轢の元になるかわかったもんじゃない。
確かに死の踊狂の提案した内容は突拍子もない物だったとは思う。しかしあの場では一番、事を荒立てずに穏便に済ませる方法を彼は提案し、ルシードさんたちは無理をして、それを受け入れてくれたとボクは思う。
「ルシード、ユウ君が困ってるみたいだから、そのくらいにしておいたら?」
やり取りを見兼ねたローズさんが会話に入ってきてくれる。
どうすれば良いか困惑していたので、助かったとボクは心の中で胸を撫で下ろした。
ルシードさんは生真面目な人だから時々どう対応したら良いのかわからなくなるんだよね…。
「すまんな。どうも今更になって思い返してしまってな…」
「い、いえ。どちらかって言うとボクがお礼言う立場ですルシードさん。よくわからないボクの面倒を見てくれて…」
「あら、今度はユウ君がルシードと同じような事を言い出すのかしら。んもう…」
「お互いその事で言い出すときっとキリが無いし、ボクは助けられたのでルシードさんたちがしてくれてる事が、最善だって思ってます。だからルシードさんももそんな風に考え過ぎないで欲しいと言うか…」
「そうだぞルシード!仲間に気を遣いすぎるのは逆に失礼だ。お前はすぐ考え過ぎる。お前の一番悪い癖だ!」
いつの間にかボクの横でヴィグフィスさんが腕を組んで仁王立ちしていた。
朝のストレッチがやっと終わったらしく、ちょっと汗臭い…。
「フッ。ここはお前に言われるとは心外だなと答えるべきところなのか迷うな…」
「オレに対する軽口をいくらかユウに向けるように出来れば、お前の固い頭もいくらかマシになるぞ?」
フンと鼻を鳴らしながら珍しくルシードさんへ反撃を見せるヴィグフィスさん。
その2人のやり取りに堪えきれなくなったローズさんは、お腹を抱えて「ヴィグフィスがルシードにまともな説教してる」と大笑い始める。
気が付くと彼女の笑い声が移り、ボクらも大笑いしていた。
「んー…ユウ、おはよ…」
「レオねぇ、おはよう。よく寝れた?」
「うんー……」
7時頃を回ったのでボクは寝所へ顔を覗かせると、体を起こして眠い目を擦る彼女がベッドの上でぼーっとしていた。
挨拶を交わす声も寝起きのせいですごく低く、擦れている。
パジャマもいくらか着崩れていて、首元のボタンが外れてしまっていくらか肩が露出している。
ボクはそれを直視しないように目線を逸らし、寝起きで乱れてる彼女の髪を梳かす為のブラシを手に取った。
「ご飯の用意も出来てるから、髪の毛軽く綺麗にしたら着替えちゃ――っくしゅ!」
喋ってる最中に突然のクシャミ。
堪えようとしたけど、唐突の鼻の奥の不快感を抑える事出来ずに噴出。
「早く治そうと思ってるけどナカナカ…レオねぇに移ったら大変なのに」
「私は病壁の魔法があるから平気よ。ユウは魔法が効かないから、どっかから風邪貰っちゃったんだねきっと。……あ!も、もしかして寝てる時に私、お布団持ってっちゃったり…する?」
「ううん、レオねぇはそんなに寝相は悪くないよ。まぁ、ちょっとくっ付いたりする事が多いとはおも…ふぁ……………っくしゅん!」
会話の途中に2発目。
どんだけ失礼な事かってのは自覚があるが、またもや抑えられなかった。
とりあえず彼女に移ったらマズいと思ってたけど、魔法で病気は防いだりある程度治せるって言ってたっけか。
ボクの場合は界客のせいでそれが効かないけど。
まぁでもレオナに移らないならいくらかマシだな。
「またあとでローズさんにお薬貰ってくるよ。みんな待ってるから、とりあえずレオねぇ用意しちゃ…お?」
ぐわん。と視界の端が白ばみ、ぶれる。
そのせいで少し足元がおぼつかなくなり、身体が揺れる。
「ユウ…?ほんと大丈夫?」
彼女の声に意識を引き戻され、軽く頭を振る。
まずい、この感覚は気が付かない内に熱も出てきた?
この後、魔王の元に向かうって言うのにかなりヤバイ。
「うん、ちょっとフラっとしただ―――くしゅ!」
また堪えきれずに鼻の奥を刺激する不快感がくしゃみとなってお構いなしに出てしまう。
そして鼻の下を伝う、くすぐったさ。
鼻水の感覚だ。
ボクは彼女に鼻水垂らしてるところなんて見られたくないと言う羞恥心が働き、慌てて鼻を抑えて隠す。
「や、やだな…鼻水まで出てきちゃった」
苦笑を浮かべて少し後退りするボクを彼女は困惑の色を浮かべて見つめると、脅えた目を向ける。
「ユウ、違うそれ……鼻血」
ボトボト。
テントの中の敷かれたオレンジ色の絨毯の上に、赤い模様が不細工に出来上がる。
抑える手に伝わる粘り気。
気が付くと同時に鼻の奥を刺激する、一番嫌いな匂い。
それは喉元まで纏わりつき、ボクはむせ返す。
「げほっ!こほ!……やだな、鼻血が喉にきちゃ…げほごほっ!」
その匂いは喉を強く刺激し、咳が止まらなくなる。同時にズキズキと痛み出す頭。
その痛みと一緒に、身体に纏わりつく血の匂いと、熱。
『――――何だよ、この世界まで「―――」を殺すのかよ…ふざけるなよ!……だったら、だったらこんな世界も、元の世界も俺は…!』
ドクドクと脈に合わせて送り込まれる激痛。
それは魔法を使いすぎた時に走った頭痛と同じ痛み。
『――――その鳥は神の鳥と呼ばれ、繁栄をもたらす』
血流と共に痛みが走り回り、ボクは堪らず膝を突いて堪らずうずくまる。
「ユウ!?ユウ、しっかり…ローズ!ルシード、ヴィグフィス!誰か!ユウが!!」
激しく咳き込み、それと共に噴き出す血は絨毯の上であっという間に溜まりを作る。
『――――良かった、前と同じ3人だよ!やったねー!んひひー』
レオナの叫ぶ声がノイズのように聞こえ始め、ボクを揺らす彼女の手の温もりがすごく冷えた物に感じる。
『――――嗚呼、誰か…お父様、お母様…アレフ……誰か、助けて…………。わたくしには、自ら命を絶つ勇気すらもう、無いのです…』
気が付くとボクは自分の吐いた血の上へ倒れ込む。
そして頭の中を走り回る幾つもの擦過音を含んだ声に意識を飲まれ、気を失う。
海の底へ落ち、光が次第に消えて、息も出来なくなるような。
そんな冷たさに抱かれるようにして沈んでいく。
その深く暗い意識の底へ沈むボクに届く声。
『悠、やっと会えタね。お姉ちゃん、ダよ…』
覚えのない声が
覚えのない顔が
知らない声が
知らない顔が
見知った口で
見知った顔で
馴れ馴れしい喋りで
馴れ馴れしい表情で
懐かしさをその身で現わしながら、ボクへ触れてくる。
自分を姉と名乗って…黒い影たちが。
ここからシリアス&微グロ展開入ります。




