第三十話 「子供かっ!」「子供だもん!!」
かなり短い上に半端で申し訳ない。
「聖なる光、みんなを照らす希望の光!」
陽の光を集めたような発光と共に響き渡る少女の声。
遅れてチリン、と静けさの中で冴えた鈴の音。
「それは未来を照らす勇気と!愛の輝き!それを曇らせる悪ーい人たちは、この魔法少女☆リタカノが許さないんだから、ね!」
眩い光は人の形へと変わり、現れる黒とピンクのドレスに身を包まれた女の子。
ドレスの縁をあしらう金の刺繍、胸元と腰を強調する大きなリボン。
そして腰元にまで及ぶスカートに入るスリットの下からは純白のフリルが可愛らしく顔を見せ、彼女の動きに合わせて揺れる。
その純白と一緒に踊るロングヘアーは太陽の明るさを秘めたような眩いレモンイエロー。
柔らかなウェーブを描く髪は、彼女が決めポーズと共に傾げた小顔に合わせて
ふんわりとなびく。
「また現れたな魔法少女リタカノ!このブラックナイトメア一の幹部・デュランが相手してくれよう!」
彼女は魔法少女リタカノ。
希望の精霊・キーリエの加護を受けて魔法少女となり、人々の希望を力に悪の組織と日々戦っている。
悪の組織、ブラックナイトメアは不条理な世界の価値観、差別、不平等全てを破壊し、魔法による統一を図って幸せをもたらすと言う目的を掲げてはこの世界を脅かす存在。
時には人々を襲い、強引に目的を果たそうとしたり自分たちの目的の為には手段を択ばない。
リタカノは自分が大好きな街の人たちの為に自分の正体を隠して一人戦う。
何があっても諦めず
どんなピンチでも退かず
彼女の正体はただの中学一年生の女の子。
それまでは普通に学校に行き、学友とそれとなく仲良くやっていた時々食べるスィーツが一番の楽しみな少女だった。
だがその平穏も希望の精霊キーリエから力を授かり、一転する。
そして戸惑いながら戦う内に彼女は気付く。
今まであった平穏がどれだけ幸せだったかと。
そしてブラックナイトメアが掲げる理想は彼女にとってその幸せを壊す存在であり、与えられる幸せは間違いだと知る。
「何故だ…何故お前は私たちの邪魔をするのだリタカノよ!私たちの望む世界が実現すればそこには苦痛も無く、ただの幸せがあるのだぞ!」
ブラックナイトメアの幹部・デュランはその赤いマントをひるがえし問答する。
人であるならば安心と安定を望む。
それの為に戦う自分たちに刃向うリタカノが理解出来ないからだ。
希望と掲げるならば、根底を見れば自分たちと同じなハズ、にも関わらず邪魔をする彼女が理解出来なかった。
「……そこにプリンシェのプリンはありますか…」
「へ?」
「そこにまんぷく堂のクリーム大福とか、カスタードガーデンのシュークリームとか、なよなよのキャラメルケーキとかあるんですか!その世界ではそう言う好きな物が食べ放題出来るんですか!!」
「ず、随分と甘いものばっかりだな。しかもカスタード系ばっかり…」
「あるんですかっ!?」
「ある訳ないだろ!みな平等でそのような不純を手にせずとも幸福を得られる、それを目指すのが我々ブラックナイトメアだ!」
「―――あったら少し心が揺らいじゃったケド、出来ないなら断固許せません!セイクリッドアロー!」
ぼそりと呟かれた言葉に首を傾げるデュランを余所に、鈍器な十字架を振り回して光り輝く一撃を彼女は放つ。
その攻撃をまともに受けてもみくちゃになりながら吹き飛ばされ、デュランは地面に叩き付けられる。
「ぐ、ぬぬ…貴様だって勉強したくないだろう。学校だって行きたくない日だってあるだろう!お菓子を作ってる人たちはもっと大変なんだぞ!そんな大変な思う人たちが沢山いるのにお前はそんなワガママを望むのか!」
「だってオイシイ物があった方がゼッタイゼッタイ、幸せだもん!」
「子供かっ!」
「子供だもん!!」
くだらないと言えるその内容。
しかし彼女にとって小さな幸せ、当たり前な日常の中で起こる嫌な事の先にあるものが本当の幸せだと心で理解していた。
だからこそブラックナイトメアが掲げる幸せと言う物が間違いであり、その先にある幸せと言う物が本当の意味での幸せでは無いと否定する。
彼らが求め続けるのは幸せでは無く、逃げ先だとそう気付いていた。
その為に自分たちの幸せを、他の人たちの幸せを脅かす事を許せなかった。
幸せを守ろうとする少女と、幸せを創ろうとするモノたち。
だから守るために彼女は一人戦う。
どんなに辛くとも
どれだけ苦しくとも
自分が好きな人たちがいると言う幸せの為に。




