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第二十九話 「白緑と白銀の影は」


「っくしゅー!!」


「…ユウ、本格的に風邪引いちゃった?」


寝所のテント内で寝間着に着替えてる最中に思わずくしゃみを放ってしまう。

四六時中ちょくちょくとクシャミが出る上に昨日から喉もイガイガする。

レオナの言う通りに風邪が本格化してきてしまったのか…魔王との決戦も目の前だと言うのに、なんとも恥ずかしい話だ。

隣では着替えを済ませたレオナがパジャマ姿でゴロンと横になったまま、心配の声をかけてくる。


ルシードさんの話だと術などを使って周辺を調べた結果、魔物と魔族の反応が一切無かったらしく、居城近くに入念な結界を張ってそこで休む事になった。

メッセージの件もあるので不意打ちって可能性も大分少ないとか何とか…まぁそんな訳で決戦前だけど「余り張り詰めても疲れが抜けないからゆったりしてて?」とのローズさんのお言葉に甘えさせてもらってます。




「一応厚着したり、ローズさんから貰った薬飲んだりしたんだけど収まんないんだよね。魔王との戦いもすぐなのに困りものだよ…ごめんね、心配させちゃって」


「ううん。ユウは第五外大陸に来てからずっと頑張ってたし…そんな状態なのに戦ってくれてごめんね。本当なら私も戦うべきなのに」


「良いんだよレオナ。切り札は最後の最後で、ドドーンと派手に決めちゃうもんなんだからサ?」



ボクはニコっと笑ってはウィンクをして人差し指を立てる。

そんな素振りを前に彼女は口元を緩めてクスリと零す。


「それ、魔法少女リタカノちゃんの台詞だよね?」


「うん。レオねぇ覚えてくれてたんだ」


「当たり前じゃない!ユウがお話してくれたものはちゃーんと覚えてますから」


右手を胸にあててはフフンとドヤ顔で威張るレオナ。

大きく胸を張る仕草に発育途中の彼女の膨らみが強調される。

いつもはただの女の子にしか見えないけど、時々見せるこう言う動きは妙にお嬢様っぽい…。

可愛らしい顔に、ブロンドのロングで西洋人形みたいな綺麗な女の子だけど、ハツラツとしたその性格からお姫様ってイメージからかけ離れてるしなぁ。

これでツンだったらモロお嬢様っぽかったんだけどなと思うけど、もしレオナがツンデレお嬢様だったらボクはどうなってたかわからないか。

そう考えたらツンデレじゃなくて良かった。


またそんな2次元絡めたくだらない事を考えてるボクの顔を、彼女が首を傾げながら覗き込んでくる。


「レ、レオねぇはよくボクが話したの覚えてるなぁって感心してた」


「…ふぅーん」


訝しげに眼を細めてはじーっとボクを見る。

顔をずいっと近付けてはお互いの息がかかる距離、ボクは頬を染めては苦笑しながら思わず少し身を引く。


「私、何も聞いてなかったんだけどなー?何でかなー?」


ブフっと顔を逸らしてむせ込む。

変な想像をしてたのを誤魔化そうとしたのがモロバレだった様子。


「え、えへ!」


「かわいこぶっても誤魔化されませーん!」


ぷくっと頬を膨らませて彼女はジト目でじぃっと怒りを露わにする。

今まで通用していた姉さん直伝・ぶりっ子スキルも多用しすぎて、早くも効果が薄れてしまったか…。

ボクは観念するとただゴメンナサイと平に謝る。下手に言い訳したり取り繕うとすれば、余計にこじれる事を姉弟ケンカでよく知っているのだ。


「ユウもウソが下手だよねー。すぐ顔に出ちゃうし、わかりやすい」


「…ウソが苦手なだけです」


「じゃーあ、ユウにはバツを受けて貰いましょう!」


指を向けては口元をムっとさせてそんな事を言い放ってくる。

その素振りはどっかの学級委員長かのようで、メガネでも似合いそうな感じ。


「バ、バツ…?」


「そう!バツとしてぇ、ユウは私にリタカノちゃんのお話をしなきゃいけないの!」


身構えていたボクへ向けられる予想外の言葉。

思っていた物と違い拍子抜けしたせいで、反応に困ってそのまま固まってしまう。


「最近お話無理だったし、今日は良いでしょ?ね?」


「う、うん。わかったよ」


少し猫背気味に申し訳なさそうな素振りをしながら、上目遣いで小首を傾けた。

それは子猫が甘え声でエサをねだる素振りにも似た仕草。



「……レオねぇってこんなおねだりな仕草する人だったっけ」


その魔性の子猫から視線を逸らしつつ、ぽそりと言ってしまう。

それに対し、ふふっと可愛らしい声。


「何言ってるの、ユウがいつもやって見せてたのをマネしただけよ?えへ!」


ほっぺに人差し指をあてては首を傾げるて、いたずらに笑う。

彼女の整った可愛らしい顔と綺麗なブロンドがその可愛らしさを余計に強調してて、誰だよこんな危険なモノを教え込んだヤツはなんて言葉が、自分の頭の中で叫んでる。

「えへ!」なんて言葉を吐く女はロクなのが居ないと言う姉の言葉が打ち砕かれた瞬間であった…。

彼女のおねだりに負けたボクは、彼女と一緒にベッドの上に転がると魔法少女リタカノの話をゆっくり語り始めた。











「……ここに居たのか、ローズ」


仄暗い瓦礫の中で空を見上げるように仰ぐ女性。

僅かな星光を受けたライトグリーンの髪は、白緑と輪郭を作っては静かになびく。


「どうも腑に落ちなくて、ね」


振り返る事もせずにローズはそう答えると瞑目する。

銀髪の彼は静かに横へ並ぶと同じくその先にある崩れかけの石壁に顔を向けた。


「とは言ってもお前自身は当時の事は覚えていないのだろう?」


「ええ、けれど断片的には残ってるのよ。そしてペンタグラムへの道順もその内の一つ。でもそれを覚えていたのは偶然…それに―――」


彼女はそのまま言葉を続けようとして戸惑う。

断片的に残る記憶は、失われた記憶の中で残っているそれはまるで…と。だが過るそれ以上を自分で遮った。

ここでそれを言えばルシードに要らぬ心配をかける。そう思ってしまったからだ。

そしてそれを悟られないように別の言葉を続ける。


「それに、あの場所には…レオナもいずれ知らなければならない事実がある。魔王の思惑はわからないけれどある意味、良い機会だったのかもしれないわね。

魔王を倒した後は特に、国に携わる以上はそれと向き合わなければいけない」


悲哀を込め、今一度目の前の文字を見つめる。

そんな表情を横にルシードも眼帯の無い左目で、文字を見やった。

彼の瞳もまた、何かを秘めた…遠い昔を懐かしむかのような、そして哀惜を秘めたかのような光を見せて視線を向ける。


「事実を知ったら、きっとユウにも嫌われちゃうかも知れないけれどね」


「その為に倒すのだろう、魔王を」


「…ええ」


短くそう答えると再び沈黙が広がる。

黒い濃霧が雲のように張っては、空で瞬く星を滲ませる。

そのほのかな光を受けて白緑と白銀の影は静かに空を仰ぐ。

それはこれからの事に無事を祈るような、そんな形で――。

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